2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
やっぴ~、クルクです(・▽・)ノ

前回は、どっちかと言ったら、決着編だったかも?
今回は、ホントに解決編、かな。
ちょっと長いかもですが、お付き合いください★


* 「 Captivity 」 1.Lost Day's(1)
* 「 Captivity 」 2.パール
* 「 Captivity 」 3.空耳
* 「 Captivity 」 4.ombre
* 「 Captivity 」 5.Lost Day's(2)
* 「 Captivity 」 6.Lost Day's(3)
* 「 Captivity 」 7.Lost Day's(4)
* 「 Captivity 」 8.Lost Day's(5)





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「ももんが」 とクルクには呼ばれているが、私の名前はモモンジーナだ。

ファノエ運河にヴォルフィが飛び込んだ翌日、私は騎士団の呼び出しを受けて、城にいた。
クルクも呼び出されていたのだが、ボスティン氷河に行ったきり、まだ帰って来てはいない。
騎士団の一室で私の調書に当たったのは、王立騎士団のラグジーさんだった。
隊長の幼馴染であり親友でもあった、レイルの兄だ。
そして、私に槍を教えてくれた人でもある。
私が驚いたのは、その場に王立騎士団長のラーアル様と、神殿騎士団長のクリルラ様が同席していたことだった。
私は三人に、昨日のギルド桟橋での出来事を、ヴォルフィが語ったことを、詳しく話したのだ。

ヴォルフィは未だ発見されてはおらず、ラーアル様はジャグナー全域とファノエ運河の捜索を続けるとおっしゃっていた。
そしてクリルラ様は、ヴォルフィが見つかったとしても爵位は剥奪され、極刑は免れないだろうとおっしゃった。

城の廊下を歩いていると、後ろから 「モモ」 と呼び止められた。
ラグジーさんだった。
「今朝早く、レイルが北から戻って来たんだ」
「レイルが?」
「次の遠征まで、しばらくサンドリアにいるみたいだ」
「会いたいな・・・」
「医務室にいると思うぞ」
「医務室!? 怪我しているの?」
「いや、タルタルの女の子を―」
「タルタル!?」
「あ、おい、モモ!」

私は挨拶さえせずに、騎士団本部の奥にある医務室へと走った。
・・・が、扉を目の前にして、足が止まってしまった。
私が与えた恐怖は、サンラーにとってどれほどのものであったろう?
私が現れたことで、パニックになりはしないだろうか?
先程の聴取で、私はサンラーのことを言ってはいない。
保身、という言葉が脳裏をかすめ、私は自嘲した。
自身の罪を認め罰を受けると言いながら、うやむやに出来るならばそうしたいと思っているのだ。
私はそっと扉を開け、その細い隙間から中を覗き確認をした。
ベッドの上に、小さな姿が座っていた。
茶色い髪を、頭の上の方で二つに結んでいる。
間違いない、サンラーだ。
安堵のため息と共に、私はその場に座り込んでしまった。
生きていてくれたか・・・。
私は、持ったままだったシグナルパールを装着した。

「どうしたの?」
すぐにうずらの応答があった。
「城に来てくれ。騎士団の医務室だ。サンラーが保護されている」
「・・・ほ、本当!? 行くわ! すぐに行くわ!」

程なくして、うずらが息を切らして走ってきた。
あまりにも慌てていたためか、城の警備兵が後から追って来ていた。
警備兵が「おい!女!」 とうずらの肩を乱暴に掴んだ。
「離しなさいよ!」
振り払おうとしたうずらの手が、警備兵の顔面に裏拳のようにヒットした。
「うぅっ・・・」
「あら、ごめんなさいね」
「このっ・・・」
左手で鼻を押さえた警備兵が、剣を抜こうとしたその右手を、「よせ!」 と言って私は咄嗟に掴んで止めた。
と、その時、医務室の扉が中から開いた。
「騒々しい。何事だ」
出てきたのは、レイルだった。
警備兵が敬礼している隙に、うずらはレイルの脇をスルリと抜け、医務室へと入って行ってしまった。
「あのタルタルの仲間だ」
私がそう言うと、レイルは私に気づいて 「モモか!」 と言った。
「遠征から戻ったと、ラグジーさんに聞いたんだ」
「そうか。俺も、ヴォルフィの事を聞いた。まさか、あのヴォルフィがな・・・」
レイルは息を吐き出した後、親指で背後の扉を差して 「今の女性と、知り合いなのか?」 と私に聞いた。
「うずらか?」
「ランコントルの、新しいオーナーだろう?」
「手は出すなよ?」
「何でだ?」
「隊長の恋人だ」
今はどうだか知らないが、と心の中で付け加える。
するとレイルは 「うっそ、マジかっ!? 」 と声を上げ、自分の声の大きさに口を押さえた。
「クソ、メイヴェルの秘密主義め! 生きてたら、からかい倒してやったのにな」
そう言って、レイルは悔しそうな顔をした。
「・・・あのタルタル、どうしたんだ?」
私が聞くと、レイルは歩き出しながら 「フェ・インで見つけたんだ」 と言った。

レイルが遠征でいたのは、ボスティン氷河だったそうだ。
定期的な見回りと、モンスターの数や種類の調査が任務だったらしい。
「フェ・イン近くを調査していた隊員から、怪しい者がいると報告を受けたんだ。何かの儀式をしているようだと言っていた」
数名の隊員を連れて現場に行ったレイルは、怪しげな魔法を繰り返しているタルタルを見たと言った。
「白い雪の上に、赤黒い魔法陣が浮かんでいた。その上に、紫色の煙のような光が揺らめいていて、奇妙な人形が浮かんでいたんだ」
「人形?」
「ああ。タルタルはその人形に魔法をかけていた。まるで呪いの儀式のようで、見ていてゾッとしちまった」
レイルが 「何をしている!?」 と声をかけると、雪の上の魔法陣は消え、タルタルが 「もうちょっとだったのに、何で邪魔すんだよ!」 と言って、地団駄を踏んで癇癪を起こしたそうだ。
そして浮いていた人形が、「失敗だ、失敗だ」 と言いながら消えたと言う。
「何をしていたのかと問いただそうと近寄ると、タルタルはフェ・インの中に逃げてしまった。もちろん我々は、後を追った」
逃げたタルタルは見つからなかったが、代わりに小部屋で倒れていたタルタルを見つけたのだと、レイルが言った。
「あのタルタルは、いったい何をしていたんだろうなぁ」
「そんなことはいい」
「そんなこと!?」
私の言葉が気に障ったようだが、私にしてみれば 「そんなこと」 だった。
「サンラーは、どこか怪我とかしていなかったか?」
「心配だったら、中に入ればよかったじゃないか。怪我は大したことはなかったが、誰かに攫われて閉じ込められていたみたいだな」
「私だ」
「え?」
「サンラーを攫って置き去りにしたのは、私なんだ」
「おいおい・・・」
私は立ち止まり、レイルを見上げた。
「事実だ」
笑いかけていたレイルはその笑みを引っ込め、周囲に目を配ると 「ちょっとこっちに来い」 と言って私を訓練所の方へと引っ張って行った。

訓練所には数人の団員がいて、それぞれ自己鍛錬に励んでいた。
その片隅で、私はレイルに全てを打ち明けた。
何一つ、隠すことなく。
私は自分の罪を懺悔したかったのだ。
かと言って、自首するほどの覚悟もなかった。
そんな私は、ヴォルフィと何が違う?
今や友人と呼べる者は、レイルだけになってしまった。
その存在に、私はきっと甘えていたのだろう。
レイルはしばらく考えていたが、軽く息をつくと首を振った。
「俺は報告しない。あの子、何でさらわれたのか、心当たりはないって言ってたんだ」
「でも・・・」
私はサンラーに、クルクへの復讐を語ったはずだ。
レイルは、サンラーがクルクに迷惑がかからないように、そのことを黙っていたのではないかと言った。
「クルクたちがモモを訴えるっていうなら、その時に罪を償ったらいいんじゃないか? あの子が見つかったから、言えることだけどな」
レイルは 「それよりも」 と言って、顔を近づけた。
「メイヴェルが生きてるって、本当なのか?」
「顔は見ていない。でも、間違いないと思う」
「うずらさんに聞いてみよう」
そう言って行こうとするレイルを、「待て」 と私は引き止めた。
「そんなこと、ここで聞けるわけがないだろう」
「・・・それもそうだ」
「それに、うずらは言わないよ。本人に聞けってさ」
「それは、生きてると言ってるようなもんだ。よし、暇だから、調べてみるか」
「暇なの?」
「報告書を提出したら、しばらく休暇だ。モモはサンドリアにいるんだろ?」
レイルは、何かわかったら知らせると言って、私と別れた。
それから私は医務室に戻ってみたが、うずらもサンラーもいなくなっていた。

城を出た私は、ブラブラと街を歩いた。
サンラーに会い、謝罪をしなければならないと思う。
クルクとうずらは、サンラーが戻れば気にしないと言ってくれた。
いつの間にか、私はクルク達といる雰囲気が好きになっていた。
でも、サンラー本人が許してくれなければ・・・。

ボンヤリと歩いていた私は、南にある競売所近くの露店の前で 「モモさん」 と肩を叩かれ呼ばれた。
驚いて振り返ると、ぴよだった。
「ランコントルに行くんですか?」
「いや・・・。サンラーが見つかったって、聞いたか?」
「本当に? どこにいたんです?」
「フェ・インだ。たまたまやって来た王立騎士団に、保護されていたらしい」
私が伝えると、ぴよは 「よかった」 と笑顔を見せた。
それから私に 「アルベリックさんですが、元気でしたよ」 と言った。
「調べたのか?」
「ええ、会って来ました。裏取りは必要でしょう?」
「・・・昨日の今日で、ずいぶん素早いな」
「俺、クルク一家ではプロの使いっ走りですから」
そう言って、ぴよは人好きのする顔で笑った。

何となくそのまま、私はぴよと一緒にランコントルへと来てしまった。
と、裏口の扉が開き、中からクルクが飛び出してきた。
「あれ、クルたん。戻ってたんですか」
「サンちゃん見つかったんだね! クルク、ウィンダス行ってくるよ」
クルクはぴよにそう答えてから、「・・・あ、バル? サンちゃん見つかったよ! ウィンダスに戻って」 とシグナルパールで話しながら、走って行ってしまった。
「クルたんは、いつも慌ただしいなぁ」
ぴよは笑いながら見送ると、ランコントルへ入って行った。

ランコントルには、チリしかいなかった。
うずらはサンラーを送りに、ウィンダスへ行ったらしい。
「サンラーさんが無事で、本当によかったですわ。これで、一件落着ですわね」
チリが胸に手を当てて、おっとりと微笑んだ。
するとぴよが、「いやいや」 と水を差した。
「肝心なことが、まだ残っていますよ」
ぴよが言うのは、隊長のことだろう。
「でも、サンちゃんが戻ったから、モモさんはこのまま逃げちゃっても大丈夫だと思いますけどね」
「逃げはしない」
そんなことをすれば、隊長は私を許しはしないだろう。
「チリ、サンラーのモグハを教えてはもらえないか? 会って謝罪がしたいんだ」
「・・・サンラーさんは、兄様のモグハにいらっしゃいます」
「二人は、どういう関係なんだ?」
「サンラーさんは、兄様の大切な方ですの」
「具体的に言えば、梅兄はサンちゃんの父兄って感じなんじゃないですか? 過保護すぎるくらいに溺愛してますけど。実の兄は、妹が行方不明だっていうのに、ちっとも連絡取れないし」
ぴよがそう言うと 「羨ましいですわ」 とチリがため息をついた。
サンラーのことはわかったが、やはりチリのことはよくわからないままだ。
「チリさん、サンちゃんの所に、モモさんを連れて行ってあげたらどうですか?」
「でも・・・」
「モモさんは、サンちゃんに謝りに行くわけですし。たまたまそこが梅兄のモグハで、偶然梅兄がいたって、そんなのモモさんのせいじゃないですよね。もちろん、チリさんのせいでもないです」
もっともらしいことを言いながら、ぴよは笑って肩をすくめた。
「モモさんに隠していても、無駄だと思いますよ。それに今なら、うずらもクルたんもいるだろうから、何かあっても梅兄を止めてくれるだろうし」
「・・・そうですわね」
「店は俺が留守番してますよ。じきにクマも来るだろうから」
チリはぴよに頷き、私を見つめた。
「ご案内いたしますわ」


ウィンダスの水の区にあるモグハウスの入り口で、私は足を止めた。
ここで、サンラーをさらったのだ。
あれからまだ数日だというのに、おそろしく長い時間が経ったような気がする。
チリに促され入り口を入ると、街でも見かける丸い建物が並んでいた。
木の壁に、トンガリ帽子のような屋根。
「こちらですわ」
チリに案内されてやって来たモグハウスの前で、私は自分が非常に緊張していることを自覚した。
初任務の時も、こんな感じだったと思い出す。
「そんな緊張すんなよ。大丈夫だって。俺らがついてる」
そう言ってくれたゼンの声が、頭の中に蘇った。

チリが呼び鈴を鳴らすと、「誰クポ~?」 とモーグリがドアを開けた。
「チリですわ。サンラーさんはいらっしゃる?」
「クポ! サンラーさんが帰ってきてくれて、モグは嬉しくて嬉しくて、クポクポクップ~!」
宙に浮いたままグルグルと回るモーグリを、チリは両手で掴んで止めると 「入ってもよろしいかしら?」 と尋ねた。

案内された居間には水槽が置かれ、低い棚には可愛らしい置物が並んでいた。
サンラーの好みで選ばれたのだろう。
隊長とはおおよそ似つかわしくないが、居間の奥にある噴水の水音と、その部屋の雰囲気は居心地がよかった。
その中に、大きなソファーが置かれていた。
そこに、銀髪のエルヴァーンが横たわっていた。
片手が床に落ちている。
目を閉じ眠っていたのは、間違いなく隊長であるメイヴェルだった。
チリを見ると、小さく頷いて微笑んだ。
「サンラーさんがいなくなってから、寝てらっしゃらなかったのですわ。ずっと歩き通しでサンラーさんを探してらして、お疲れでしょう」
そう言って、なんとも愛おしそうに寝顔を見下ろした。
「チリは、いったい・・・」
「・・・メイヴェルの、実の弟ですわ」
「・・・え?」
聞き違いかと思った。
チリはどこからどう見ても、女性以外に見えなかった。
それは見かけだけではなく、所作や言葉遣いも貴族の淑女のそれだった。
「しばらく、アトルガンにおりましたの。そこで・・・」
チリは目を伏せて、小さく微笑んだ。
アトルガン・・・。
そう、隊長には弟が二人いて、一人は病の治療でアトルガンに行き、そこで亡くなったと耳にしたことがあった。
名前は確か、チェリレイム。
アトルガンのことは詳しくないが、「怪しい魔術で人体改造をしている国だ」 などとシャレーリが言っていた。
つまり、そういうことなのだろうか。
「・・・ですけれど」
チリが私を見た。
「モモさんがおっしゃったように、今の私は梅の妹ですの」
私はチリに頷いた。
人は様々な事情を抱えているものだ。
私にはそれをとやかく言うつもりなどない。
チリは胸に手を当てて、ホッと息をついた。

「そういえば、サンラーさんとうずらちゃんはどこでしょう? クルクさんも来ているはずですのに」
「サンラーさんたちなら、クポ」

モーグリが奥の扉を指差した時、「あ~、サッパリしたね~」 と言うクルクの声が聞こえてきた。
そして扉が開き・・・。
タオルで髪を拭きながら、風呂上がりの三人が姿を見せた。

「あら、やだ。モモちゃん連れて来ちゃったの?」
「ごめんなさい」
「まぁ、わかっちゃってただろうし、変に詮索されるよりはいいかもね」
「うずらちゃん、モモさんは、サンラーさんに謝罪がしたいとおっしゃいましたの。それで、お連れしましたのよ」
「わかったわ。じゃ、ちょっと待ってね」
うずらはソファーへ行くと 「寝ちゃったの?」 と言いながら隊長を覗き込んだ。
そして 「梅ちゃん、梅ちゃん起きて」 と、肩を叩いた。
「お風呂入って、ちょっと目を覚まして来てよ」
「クルクたちが先に入っちゃったんだけどね~」
「レディーファーストだから、それはいいの。ほらほら、起きて!」
「バルも、お風呂入っておいでよ~。そのままじゃクサイよ」
床に置いてあった大きなピンク色のクッションの上に、バルファルは大の字になって乗っていた。
あまりにも一体化していたために、私はバルファルだと気づかなかったのだ。
クルクが体を揺すると、バルファルは 「腹減ったなぁ」 と言い、伸びをしながら起き上がった。
隊長はボーッとしたまま、うずらに押されてフラフラとした足取りで奥の扉へと消えていった。
「バル、梅がお風呂で溺れないように、よろしくね」
「おー」
欠伸をしながら、バルファルも居間から出て行った。

「さて」 と、うずらが私に向き直った。
「サンちゃんには、さっきお風呂に入りながら、ことの次第を説明したわ」
うずらはそう言ってから、ずっとうずらの後ろに隠れるようにして立っていたサンラーをソファーに座らせた。
その隣に、クルクがピョンと腰掛けた。
サンラーは俯いたまま、私を見ようとはしない。
それは当然だろう。
私はサンラーの前に立つと、目線を下げるために床に膝をついた。
「サンラー」
そう呼びかけると、サンラーは俯いたままチラリと目だけ私に向けた。
安心できるモグハウスの中にいて、信頼できる仲間に付き添われて、それでも私を見た目は怯えていた。
私は目を伏せ、そして頭を下げた。
「貴女への暴言、与えた仕打ち・・・申し訳ありませんでした」
更に、床に額が届くほど、私は頭を下げて謝った。
噴水の水音だけが、耳に流れてくる。

「いいです」
小さな声が、水音に混じって聞こえた。
「もう、いいです」
もう一度聞こえた声に顔を上げると、サンラーが少し困ったような表情をしていた。
「うずらさんとクルクさんから、お話を聞きました。わたしはとっても怖かったし、痛かったけど、でも、もういいです」
「あら、許しちゃうの? サンちゃんは一番の被害者なんだから、もっと怒ってもいいのよ?」
うずらがソファーの肘掛けに腰掛けながら、サンラーに尋ねた。
サンラーはうずらに顔を向け、首を横に振る。
それから私に向き直った。
「あなたのことはまだちょっと怖いから、すぐに仲良くは出来ないかもしれません。でも、きちんと謝ってくれた人を、いつまでも怒ったり恨んだりしちゃいけませんって、お母さんが言ってました」
「サンちゃんのお母さんは、心が広いね~。クルクだったら、一発殴らせろって言っちゃうな」
「・・・えっと、もしかしたら、お父さんが言ってたのかもしれません」
「お父さんはイイ人だねぇ~」
クルクはソファーの上に立ち上がり、サンラーの頭の上で両手を動かした。
すると、キラキラと光が輝き、ポン! と弾けた。
「タルタルさんたちは、そうやって髪を結うのですね」
チリが感心したように声を上げた。
肩に垂れていたサンラーの髪が、頭の上の方で二つに結ばれている。
私も初めてその魔法を見た。
「手が届かないからね~」
クルクは自分の髪も、同じように魔法で結いながら言った。
「クルたん、あたしにもやってみて」
「いいよ~」
クルクの魔法でうずらがツインテールになると、私たちは吹き出して笑ってしまった。

何となく和やかな雰囲気になっていた所に、「ふぅ~、サッパリした」 と、バルファルが戻ってきた。
そしてまた、あくびをしながらピンク色の大きなクッションの上にバタリと横になると、すぐに寝入ってしまった。
よほど疲れているのだろう。
その後、頭にタオルをかぶったまま、隊長がゆらりと戻ってきた。
限りなく不機嫌な顔をしている。
あまり感情を表に出さない人だけに、私を見た目つきは怖かった。
・・・と、隊長は私から視線をずらし、自分で髪を結き直しているうずらを見下ろすと、そのまま見つめている。
気づいたうずらが顔を上げた。
「・・・なに?」
「・・・具合いはもういいのか?」
「・・・いつの話をしているの?」
「・・・・・・」
「取り敢えず、示談は成立したわよ」
「・・・・・・」
「眠くて頭が働かないんでしょ? 」
「・・・・・・」
「何か言ったら?」
「・・・・・・」
それでも無言でうずらを見つめている隊長に、私は 「サンラーを保護したのは、レイルだ」 と告げた。
すると隊長は 「・・・なんだと?」 と言って、眉を寄せて私に顔を向けた。
そのまま、今度は私を凝視したきり動かない。
時折、隊長の奇行は仲間たちの話題になっていた。
今のこの様子を見たら、みんなは何と言って笑うだろう?
私はそんなことを考えていた。
「・・・・・・」
「梅ちゃん、怖いから瞬きして」
横から見ていたうずらが、隊長の腕を叩いて言った。
「兄様、お休みになられた方がよろしいわ」
「・・・話はまだ終わっていない」
「私も隊長に聞きたいことがある」
「・・・・・・」
ゼンマイが切れかけた人形のように、また止まっている隊長を見ながら、クルクが 「ももんがの話は後でいいよね?」 と言い、隊長にスリプルをかけた。
これほど見事にかかるものかと思うほど、全身の力がスッと抜けたように隊長が崩れ倒れた。
隣にいたうずらが咄嗟に支えようとしたが、支えきれるはずもない。
「キャー、兄様!」
「梅先生!」
チリとサンラーが、慌てて隊長の側へしゃがみ込んだ。
「あいたた・・・」
尻もちをついたうずらが、隊長の体の下から足を引き抜いた。
クルクはあっけなく落ちた隊長に、「クルクのヘッポコ魔法がレジられなかった!」 と感激している様子だ。
「うずらちゃん、どうしましょう」
「床で寝かせとけばいいんじゃない?」
「でも・・・」 とチリが私を見上げたが、私は 「無理だ」 と言って首を振った。
いくら私でも、意識のないエルヴァーンの男は抱き上げられない。
「床くらい平気だよ。クルクなんか、洞窟の水たまりでも寝ちゃうよ」
「クルたん、それは危険だわ」
私はうずらの言葉に頷いた。
すると、サンラーが立ち上がり、タタタッと走って行ったかと思うと、枕を抱えて戻って来た。
チリが受け取り、隊長の頭の下に滑り込ませる。
「サンちゃんとクルたんは、疲れてない? 眠くないの? 大丈夫?」
うずらが訊ねると、サンラーは 「私は平気です。騎士団の方が、とっても親切にしてくださいましたから」 と言った。
クルクは、「クルクは、いつでもどこでも寝られるよ」 と言いながら、隊長の腕を横に伸ばしている。
そして 「よっこいしょ」 などと言いながら、その腕を枕代わりにして床に横になった。
「それじゃ、お休み」
「・・・え・・・寝るのか?」
「・・・ぐぅ・・・」
もう寝ていた。

サンラーは、3人が起きた時のために食事の用意をすると言っていた。
うずらとチリが店に戻ると言うので、私も一緒に行くことにする。
帰り際、もう一度サンラーに詫びると、少しだけ笑顔を見せてくれたのだ。
「タルタルって、可愛いな」
私がそう言うと、「梅ちゃんと話が合いそうね」 とうずらがため息をついた。


ランコントルに着くと、クマも店に来ていた。
「お帰りなさい」
そう言った後、クマはぴよに何か目配せをしている。
カウンターの中にいたぴよは、木で出来た古い板を手に持っていた。
うずらが 「なに?」 と聞くと、「これ持って、騎士団に行けよ」 と言って、その板をカウンターテーブルに置いた。
それは前ランコントルの、小ぶりだが厚みがある店の看板だった。
しまってあったのを見つけたと言う。
「何なの?」
怪訝な顔をして看板に手を伸ばしたうずらが、「え!?」 と手を止めた。
よく見ると、看板は表と裏に分かれて割れていた。
まるで蓋のようになっている表面の木をずらすと、その下にはびっしりとゴールド板が敷き詰められていた。
「な、なに、これ? どうしたのよ!?」
「看板落としたら、割れて中から出て来たんだよ」
「・・・ウソでしょ? まさか本当に、金塊があったの?」
驚いているうずらに、ぴよが 「なわけないだろ」 とシレッとした顔で答えた。
「どういうことよ?」 とうずらが眉を寄せる。
「金塊があるかもしれないなんていう噂は、実際に見つかるまで噂のままだ。騎士団がいくら見つからなかったって言ったって、あるって思ってる奴らは信じない。探し尽しても出て来ないのに、それでもまだ探す。わかるだろ?」
「・・・そうね」
「なら、ありましたよ~って出してやりゃいいんだ。そしたら、それで終わり。この先、そんな噂が浮かび上がる度に狙われたんじゃ、たまんないだろ?」
「じゃぁ、これって・・・」
「俺の細工。あ、ゴールド板は本物だからな」
「だけど、見つかったってわかったら、余計に狙われるんじゃない?」
「それ以上、どこかに貯め込んでるとは思わないだろ。騎士団が散々探してるんだし」
そう言ってから、ぴよは 「こんなもん、そんな価値があるもんじゃないのになぁ」 と言いながら笑った。
照明のせいだろうか。
昼間に街を歩きながら見た笑顔と、ずいぶん違って見えた。

看板を布で包み、うずらはチリと二人で騎士団に行ってしまった。
ぴよはカウンターの中から 「何か飲みますか?」 と私に聞いた。
チリの手つきもなかなかのものだったが、ぴよも様になっていた。
そう褒めると、まんざらでもなさそうに笑った。
「バイトでバーテンに雇ってもらおうかな~。モモさん、用心棒やりません?」
「自分がやればいいだろう」
「俺はほら、実戦向きじゃないから。知ってるでしょう?」
城の前での一悶着のことを言っているのだろう。
ぴよはいとも簡単に、私に腕を捩じ上げられていた。
「確かに、あれでは用心棒は務まらないな」
私がそう言うと、ぴよは 「でしょ?」 と言って屈託なく笑った。

この男は食わせ者だ。
私はそう感じている。
人畜無害。
ぴよを表す言葉なら、そんなところだろう。
のほほんとしていて、頼りなさそうに見え、頼まれたら嫌とは言えないお人好し。
実際、そうなのだろうとも思う。
だが、それだけではないと私は感じている。
それは一瞬の目の動きだったり、何気なく口にした一言だったり、堅気ではない世界を知っているのではないかと勘ぐれてしまう。
だいたい、あのゴールド板はどこから持ってきたのだろう?

「ぴよはうずらの弟だっけ?」
私がそう聞くと、ぴよは 「そうですよ」 と頷いた。
「と言っても、出てくる時に先を越されただけですけどね」
「先を越された?」
意味がわからず首を傾げると、「双子なんです」 とぴよが言った。
「双子にしては、似ていないな」
性別の違いもあるのだろう。
「子供の頃は、そっくりでしたよ。うずらは男の子みたいだったし」
「ぴよは女の子みたいだった?」
「よく言われました」
クスクス笑っていると、クマが 「アタシ帰るね」 と言って、突然店から出て行った。
「え? えっ!? クマ!?」
ビックリしたぴよが、クマを追って出て行ってしまった。
私はフッと笑った。
ぴよが私とばかりしゃべっているので、クマがヤキモチを妬いたのだろう。
私はタルタル以上に、ミスラのことをよく知らない。
いつも揺れてる尻尾に触ってみたい気もするが、「あれは罠だ」 とよくシャレーリが言っていたのを思い出した。

一人残されてしまったが、私は店のカギを持っていないし、うずらたちが戻るまで留守番をしているしかなさそうだ。
ぴよが出していた酒のビンがカウンターに置かれていたので、もう一杯もらおうかと手を伸ばした時、裏口のドアが開いた。
誰かが戻ってきたのかと振り向くと、少し開けたドアの隙間から、レイルが顔を覗かせていた。
「あれ、モモ」
「店は今日も休みだぞ」
「らしいな。表の張り紙を見たよ。モモは何してるんだ?」
「成り行きで、留守番だ」
「ちょっと入ってもいいか?」
「・・・いいんじゃないか?」
レイルは 「お邪魔しまーす」 と呟き、カウンターの一番奥のスツールに腰を下ろした。
「メイヴェルのこと、ロディにカマをかけたんだが、アイツ引っかからねぇの」
レイルは隊長の弟のロディファスに、メイヴェルに会ったと言い、渡して欲しいものがあると封筒を差し出したのだと言う。
だがロディファスは、兄は死んだと首を振って受け取らなかったそうだ。
「単純で、真面目だけが取り柄の男なのに、俺が何を言っても態度を変えやしない。ありゃ相当言い含められてるな」
「そりゃそうだろう。死んだはずの嫡男が生きてるなんて知れたら、プリズ家の一大事だよ。隊長のためを思うなら、本当は私たちは知ろうとしない方がいいのかもしれない」
「・・・かもな。だが、俺はそうはいかねぇ」
「そうだな。知ったからには説明を聞かないと、私も納得出来そうもない」
「ん?」
「会ったよ」
「ええええ!? おい、そういうことは、先に言えよ。どこで会ったんだ?」
スツールに座った体ごと私に向き直り、掴みかからんばかりにレイルが訊ねた。
私が 「ウィンダス」 と言うと、「あいつはタルタルが好きだ」 とレイルが言った。
「うん、タルタルは可愛いな」
「・・・まぁ、確かに・・・。フェ・インで見つけたサンラーって子、礼儀正しくて可愛かったなぁ。サンドリアに戻るまで、隊員達のアイドルだったぞ」
「隊長に、そう教えてやるといいよ。サンラーの保護者は、隊長だ」
「そうなのか!? ・・・なんて言うか、どういうめぐり合わせだろうな」
レイルの言う通り、本当に、私もそう思う。

レイルが隊長に会いに行くと言うので、ウィンダスのモグハウスの場所を教えていたら、うずらとチリが帰って来た。
店に私とレイルしかいないのを見て取ると、うずらが 「ぴよは?」 と訊ねた。
「クマとどこかに行ってしまった」
「あらそ。どうせまたイチャイチャしてるんでしょ。暑苦しいったら」
憎まれ口をたたきながら、うずらがレイルを見た。
あら? というような顔をしたが、その前にチリが 「遠征からお戻りになられましたのね」 とレイルに声をかけた。
するとレイルは、いかにも紳士らしくお辞儀などして 「覚えていてくれたのですね」 と言った。
「もちろんですわ。ご無事で安心いたしました」
スススっとうずらが私の側に来て、「知り合いなの?」 と囁き声で私に聞いた。
私も小声で 「友人だ」 と答える。
「店が休みなのに、押しかけてしまって申し訳ない」
そうレイルが言うと、チリはフルフルと首を横に振った。
「いいえ。こちらこそせっかく来てくださったのに」
胸の前でモジモジと両手を組み、頬を染めているチリを眺め、私とうずらは顔を見合わせて 「なるほどね~」 と頷き合った。

「それじゃ、俺はこれで。また寄らせてもらうよ」
レイルがそう言って出て行こうとした時、うずらが 「チリちゃんも、もう帰っていいわよ」 と言った。
「・・・え?」
「ここんとこゴタゴタしてたから、ゆっくりしてちょうだい。お疲れさま」
「え、あの、うずらちゃん・・・?」
訳が分からずにオロオロとしているチリに、レイルが 「この後、何か用事でも?」 とか言いながら、ドアを開けてチリを促し出て行った。
二人が店を出て行った後、私はうずらに 「いいのか?」 と訊ねた。
するとうずらは、「え、まずかった?」 と私に聞き返した。
「あの人、チリちゃんの待ち人だったみたいなの」
レイルに関しては、喧嘩っ早いという話はよく聞いたが、女に手が早いという噂は聞いたことがない。
だが、暇になるとよくうちの控え室に来て、シャレーリと女の話をしていたっけ。
私が「隊長の親友だよ」 と言うと、うずらは私を見上げた。
「まさか、あの人に梅ちゃんのことを言ったりしてないでしょうね?」
「え・・・」
「教えたの!?」
うずらの青い瞳が、怖いほど真剣に私を見つめている。
「でも・・・レイルは隊長の親友だし・・・」
ああ、これは言い訳だ。
その親友にさえ、隊長は知らせずにいたのだ。
私が勝手に教えていいことではなかったと気付く。
「私が軽率だった。すまなかった」
私が俯き謝ると、うずらはフッと息を吐いて私から視線を外した。
そして 「もう、誰にも言わないで。あの人にも、そう言って。お願いだから」 と言ったのだ。


翌日、目が覚めたのは昼過ぎだった。
久しぶりにゆっくりと眠った。
いささか寝すぎた感も否めないが、私は熱いシャワーを浴びてから、モグが用意してくれた食事を摂っていた。

「ご主人さまに、手紙が届いていますクポ」
モグが白い封筒を差し出した。
手にしただけで、上質の物だとわかった。
縁に、銀色の細い模様が施されてある。
封を開けて、中から取り出した便箋を開く。
封筒と同じ装飾をされた真っ白な紙に、たった一言 「墓場で待つ」 とだけ書かれていた。
差出人の名はない。
だがその美しい文字は、よく見知っているものだった。
「果し状みたいですクポ~」
「そうだな」
私は支度を整えながら、どこの墓場だろうかと考えていた。


肌に馴染んだ装備を身につけ、年季の入った槍を背に担ぎ、私はプリズ家の墓地にいた。
隊長の名が刻まれた墓石を見下ろし、いったいここには誰が眠っているのだろうかと首を傾げた。
綺麗に掃除はされているが、辺りに人のいる気配はなかった。

次に私が向かったのは、ゼンの墓だった。
ここに来るのは久しぶりだ。
騎士団を辞めて、サンドリアを出る前に来たきりか。
記憶を頼りに、並ぶ墓石の間を進んで行くと、淡いピンク色の小さな花束が目に入った。
近くへ行くと、それがレインリリーの花だとわかる。
ゼンの墓前だ。
「隊長?」
辺りを見回してみたが、誰もいない。
私はゼンに、「今度ゆっくりと来るから」 と言い、踵を返した。
すぐ近くには、パスィリーの墓があった。
そこにもやはり、レインリリーの花が供えられていた。
「パスィリー、シャレーリに隊長を引き止めておくよう言って」
私は走り出した。


シャレーリの墓は、大きな木の側にあった。
その木の前に、隊長が立っていた。
赤と黒を基調とした、アトロピアーマー。
帽子についた白い大きな羽根が、風に揺れていた。
任務時に見慣れていた姿だ。
私は乱れた呼吸を整え、そして歩き出す。
斜め後ろに立ち 「隊長」 と声をかけた。
隊長は振り向かず、シャレーリの墓を見下ろしている。

「今朝、レイルが来た。ヴォルフィが見つかったらしい」
「えっ・・・」
「ジャグナーの河岸に流れ着いていたそうだ」
「・・・それって・・・」
隊長が、小さく首を振った。
幸いにも、遺体は魚にも獣にも食われてはいなかったと言う。
「バカなやつだ」
そう言った隊長は、ひどく悲しそうだった。
私も、騙されたことや殺されそうになったことよりも、ヴォルフィがもういないのだということが寂しく、悲しかった。
あんなことがあったけれど、それでもヴォルフィは私の仲間だったのだ。

「それと、レイルに殴られた」
「あー、それは仕方ないと思う」
「まぁな」
「なぜ、と聞いてもいい?」
「そうだな・・・」
それから隊長は、足元に置いたレインリリーの花を見下ろしたまま、元許嫁と弟のロディファスが相思相愛だったことを話してくれた。
だからって、何も自分が死んだことにしなくたって、と私は思う。
二人を駆け落ちさせ、生活の援助をすることだって可能だったはずだ。
「それは考えたさ」
隊長はそう言うと、フッと自嘲気味に笑ったのだ。
そして、親が決めた好きでもない許嫁が弟と添い駆け落ちをしようが、自分には何の問題もないと言った。
だが、プリズ家の当主となった時、許嫁が弟と逃げたという事実は消せない傷となる。
「そんなくだらないプライドが自分にもあったのかと、嗤ったよ。そんな時に、あの事件だ」
「ヴォルフィのことは?」
私が尋ねると、隊長は首を振った。
「家の経済状況が傾いているという噂は耳にしたが、まさかそれほどだったとは知らなかった」
貴族社会に身を置く者にとって、家の恥を自ら口にするなど、あり得ないことだ。
そして、そんなことを他人が尋ねるなど、もってのほかだった。
「ゼンが死んだ時、あいつが一番取り乱して泣いていた。モモのことも、ずっと付きっ切りだった」
それはきっと、こんなはずではなかったという、罪悪感からだろう。
「パスィリーは、あと2日待ってくれたら助けられたんだがな」
「そんなことをしたら、隊長はお尋ね者だ」
「それでも構わなかったさ。・・・謹慎中に、親父からもう勝手なことはさせないと言われた」
「特別隊のこと?」
隊長は頷き、「よりにもよって、教皇の警護につけやがった」 と顔を顰め、だからサンドリアを出る決意をしたと言う。
「自分じゃ何も決められない。うんざりしていたし、騎士団にいる意味もわからなくなっていた。結果、モモたちを見捨てて逃げたんだ。・・・すまない」
私は驚いていた。
隊長はいつも感情を動かさず、淡々飄々としていたから、後悔や悩みなどないものだと思っていた。
この人も、あの事件で傷ついていたのだと私は知った。
「私は・・・隊長が生きていてくれて、よかった。本当に、よかった」
楽しいこと、悲しいこと、想い出を共有出来る人がいるということが、私は嬉しかった。

私はずっと、気になっていたことがある。
隊長はなぜ、うずらを置いてサンドリアから出て行ったのだろう?
「ついて来いって言わなかったの?」
私には関係ないと言われると思ったが、意外にも隊長は答えてくれた。
「彼女は、サンドリアに住みたくてやって来たんだ。連れ出すわけにはいかない」
その答えに私が不服そうな顔をしたからだろうか、隊長は苦笑して 「自分に自信がなかっただけだ」 と言った。
「幸せに出来るかどうかってこと?」
「何せ、住むところも決まっていない、一文無しになるわけだからな」
「はぁ~ん、一文無しはイヤだって、フラれたのか」
私が冗談でそう言うと、隊長はプイッとそっぽを向いてしまった。

それから墓地を出て、私たちはロンフォールの森を歩いていた。
「モモはサンドリアにいるのか?」
「もうしばらくはいるつもり。少ししたら、クゾッツ方面への護衛の仕事を探すよ」
私がそう言うと、隊長は私が担いでいる槍を見た。
「まだ使ってるのか? ラグジーさんからもらったヤツだろう?」
「十分に使える」
私が槍を手に持つと、隊長が横から手を伸ばし、「それにしても」 と言って握った槍を一振りした。
と、振った槍の先が木の枝にぶつかり、ボキッと柄から折れてしまったのだ!
「あ・・・すまん」
「す、すまんじゃないだろうっ!」
「寿命だ。この際だから、買い換えろ」
「信じらんない!!」
私は、初めて槍を手にした時から使い続けていた槍をひったくるように奪い返し、無残にも真ん中から真っ二つに折れた槍を見下ろした。
「・・・ラグジーさんからもらった物だったからか?」
「それは関係ない」
「ラグジーさんからもらった槍だから、モモはその槍を手放さないんだって、シャレーリが言ってたぞ」
「もしそうだったら、殴ってたよ」
「違ってよかった」
「クソッ、余計な出費が・・・」
舌打ちすると、隊長は 「プリズ隊名物の、モモの舌打ちだ」 と言って笑った。
私は隊長を睨み、もう一度舌打ちをした。
「弁償しろ」
「仕方ない。モグハに送っておく」
私は大袈裟にため息をついたが、これが戦闘中でなくてよかったと思った。
しかも、タダで新しい槍がもらえるのだ。
おそらく、この槍よりも、もっと良い物を。

サンドリアのゲートが見えてきた辺りで、隊長はデジョンで戻ると言って足を止めた。
「隊長・・・」
「ん?」
「・・・サンラーのこと・・・」
言い淀む私に、隊長は 「サンラーが許しているのなら、終わったことだ」 と言った。
だがその後に、「俺は、一発殴ったくらいじゃ気が治まらないほど、はらわたが煮えくり返っていたがな」 と付け加えた。
「・・・スミマセンデシタ・・・」
心の底から、サンラーが無事でよかったと思った。

私はポケットにある物を思い出し、隊長に差し出した。
「シグナルパール、サンラーに返しておいてくれ」
「それは俺のだ」
「へ?」
間抜けな声を出してしまった。
サンラーから奪った物だったから、てっきりサンラーの物だとばかり思っていた。
シグナルパールは通信手段の一つでもあるが、一対一の通信であることと、その値段の高さに、別の意味を持つこともある。
「へぇ~」 と私が言うと、隊長はムッとした顔をして私を睨んだ。
受け取った隊長がそのまましまおうとするから、私が 「つけないの?」 と尋ねた時、タイミングよくシグナルパールから呼び出し音が鳴り始めた。
「・・・・・・」
「呼んでるよ」
私が握った手を指差すと、隊長はぎこちない仕草でパールを装着した。
「・・・どうした?」
その顔が、やや緊張しているように見えて、私はおかしくなった。
「・・・人違いなら変わるぞ」
隊長の目が、私に向けられた。
うずらはきっと、私がまだパールを持っていると思っていたのだろう。
私に何か用があるのかと思ったが、隊長はそのまま話を聞いている。
そして、「わかった、すぐに行く」 と言ってパールを外した。
つけていればいいのに。
「うずら?」
わかりきったことを、わざわざ聞いてみた。
隊長は頷き、「希少な酒が、ジュノで売り出されるらしい。護衛と荷物持ちをしろだと」
なるほど、それを私に依頼しようとしたわけか。
いいタイミングで返したと、私は思った。
隊長は 「やれやれ」 とため息をついているが、私はその顔を見て 「嬉しいくせに」 と言ってやった。
「うるさい」
そっぽを向いてデジョンの呪符を取り出した隊長に、私はニヤニヤしながら 「健闘を祈る」 と声をかけた。
任務に出る際、いつも隊長からかけられていた言葉だ。
移転間際、隊長は私を振り返り、「余計なお世話だ」 と舌打ちをして消えた。

サンドリアのゲートをくぐった時、警備のガードたちが、一人でクスクスと笑っていた私を怪訝な表情で見て、首を傾げていた。



NEXT → * 「 Captivity 」 10.Tomorrow





読んでいただいて、ありがとうございます★

「 Captivity 」 は、一応モモがメインのお話だったけど、過去から梅が絡んでるでしょ。
梅は昔も今も本質は変わってないけど、立場も生活も変われば、まぁ多少は変わることもあるかもだけど、自分的には変りなく同じつもりで書いてたんだけど、やっぱ違うかなぁ?
でね、梅が心情を出せるのは、モモしかいないと思ったんだ。
だから今回、今までずーっと書けなかったことを言わせてスッキリしたww

この回で完結させたかったんだけど、長くなりすぎたので、もう一話続きます。
色々と、細かいものを含めて、全部回収したいんだけど、できるかな?
今回書けなかったことは、次回です。
忘れてたり洩れてないといいんだけど・・・。
次回は大団円編、ってとこかな。
もう書き上がってて、誤字脱字のチェックしてます。



次回の最終話は、7月31日の23時59分に更新します。
宜しくお願いします(・▽・)ノ




いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
ポチッと押してくれたら嬉しいな♪









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【2016/07/28 23:59】 | * クルク一家
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さくらの
クルクたん、こんばんわです♪

サンちゃん生きてて良かったよ。
安心して今日は眠れそうです(笑)

あとフェ・インの魔法陣のタルタルとは
なんか怪しい・・・

梅さんの弟チリさんが妹に変身
むむむそっか!!

ふふふ なんだかとっても面白いね

次もあるんなんてラッキー
楽しみしてます。


Re: さくらのさん
クルク
サクたん、こばわんわ~(・▽・)ノ

サンちゃん、ご帰還です★
おかえりっ!

アトルガンて人体改造やってるから、性転換くらいの秘術はやってそうかな~ってw

魔法陣のタルタルも含めて、次回最終回&おまけ付きでお届けします★

ありがとうございますヽ(*´▽`*)ノ



解決編2
コウ
クルクさん、おはようございます。

事件が無事に解決して、良かったですね。サンちゃんは無事に帰ってきたし、ヴォルフィさんは・・・しょうがないか。。かぼす君がちょっと登場してたみたいですけど、サンちゃんを探しててのかなあ。ぴよさんもどんな人か分かってきましたね。確かにこのキャラ設定だと、忍者や盗賊っぽいですね!
梅さんは、いつも飄々とした感じですけど、実は結構悩んでたりするんだなあ。モモさんに心情を吐露してましたが、うずらさんじゃダメなのかな。好きな人には、格好をつけたいっていう事なんでしょうか。
次回完結との事ですが、黒幕の正体が明らかになるのかなー。宮殿で地位が高い人だと、うやむやになりそうな・・・そんな時は、クルクさん、正義の鉄拳をお願いします!

次回も楽しみにしてます。
それでは〜。

Re: 解決編2
クルク
コウさん、こんばんは~(・▽・)ノ

とりあえず、事件は解決できました★
ヴォルフィは行方不明のままという選択肢もあったんですが、終結させたかったのでこういうことになってしまいました。

かぼす・・・ふふふw
やっぱりわかりましたかw

ぴよの設定は、うっかり妄想に任せているとR指定が入りそうになるので、軌道修正しつつ進行形ですが、クルク一家の中で一番えげつないかもですw
なかなか出せずにいますが、そのうちに。

梅にとってサンドリア時代の友人って、リアルで学生時代の友人的な感じなのかな?
良いところもダメなところも知っているから、飾らず気負わず、会えば瞬間にその時に戻れちゃう・・・みたいな。
ん~・・・ちょっと違うかも?(^_^;)
でも、なんとな~くそんな感じ。
好きな人に弱いとこ見せられるのは、相手にとって自分が 『特別』 にならないと無理かなぁって思ったんですけど、特にエルヴァーンだし。
つまり、まだうずらに対して自信がないのか!?
女々しい奴め!w
モモがもっと女性らしい性格と思考だったら、ややこしいことになってたでしょうw
昼メロ的なww

次回は、特にこれと言うこともなく、「まとめてみました」 的な感じカモです(^_^;)
「解決してないじゃん!」 って言わないでね(^▽^;)

コメント、ありがとうございました(*´▽`*)
最終話、ヨロシクお願いします。

あ、「Re:ゼロから始める異世界生活」 面白いですね!
イケメンの騎士様出てきたところです。
敵か味方か、ドキドキです(≧_≦)


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この記事へのコメント
クルクたん、こんばんわです♪

サンちゃん生きてて良かったよ。
安心して今日は眠れそうです(笑)

あとフェ・インの魔法陣のタルタルとは
なんか怪しい・・・

梅さんの弟チリさんが妹に変身
むむむそっか!!

ふふふ なんだかとっても面白いね

次もあるんなんてラッキー
楽しみしてます。
2016/07/29(Fri) 21:17 | URL  | さくらの #JalddpaA[ 編集]
Re: さくらのさん
サクたん、こばわんわ~(・▽・)ノ

サンちゃん、ご帰還です★
おかえりっ!

アトルガンて人体改造やってるから、性転換くらいの秘術はやってそうかな~ってw

魔法陣のタルタルも含めて、次回最終回&おまけ付きでお届けします★

ありがとうございますヽ(*´▽`*)ノ

2016/07/30(Sat) 00:15 | URL  | クルク #-[ 編集]
解決編2
クルクさん、おはようございます。

事件が無事に解決して、良かったですね。サンちゃんは無事に帰ってきたし、ヴォルフィさんは・・・しょうがないか。。かぼす君がちょっと登場してたみたいですけど、サンちゃんを探しててのかなあ。ぴよさんもどんな人か分かってきましたね。確かにこのキャラ設定だと、忍者や盗賊っぽいですね!
梅さんは、いつも飄々とした感じですけど、実は結構悩んでたりするんだなあ。モモさんに心情を吐露してましたが、うずらさんじゃダメなのかな。好きな人には、格好をつけたいっていう事なんでしょうか。
次回完結との事ですが、黒幕の正体が明らかになるのかなー。宮殿で地位が高い人だと、うやむやになりそうな・・・そんな時は、クルクさん、正義の鉄拳をお願いします!

次回も楽しみにしてます。
それでは〜。
2016/07/30(Sat) 10:10 | URL  | コウ #-[ 編集]
Re: 解決編2
コウさん、こんばんは~(・▽・)ノ

とりあえず、事件は解決できました★
ヴォルフィは行方不明のままという選択肢もあったんですが、終結させたかったのでこういうことになってしまいました。

かぼす・・・ふふふw
やっぱりわかりましたかw

ぴよの設定は、うっかり妄想に任せているとR指定が入りそうになるので、軌道修正しつつ進行形ですが、クルク一家の中で一番えげつないかもですw
なかなか出せずにいますが、そのうちに。

梅にとってサンドリア時代の友人って、リアルで学生時代の友人的な感じなのかな?
良いところもダメなところも知っているから、飾らず気負わず、会えば瞬間にその時に戻れちゃう・・・みたいな。
ん~・・・ちょっと違うかも?(^_^;)
でも、なんとな~くそんな感じ。
好きな人に弱いとこ見せられるのは、相手にとって自分が 『特別』 にならないと無理かなぁって思ったんですけど、特にエルヴァーンだし。
つまり、まだうずらに対して自信がないのか!?
女々しい奴め!w
モモがもっと女性らしい性格と思考だったら、ややこしいことになってたでしょうw
昼メロ的なww

次回は、特にこれと言うこともなく、「まとめてみました」 的な感じカモです(^_^;)
「解決してないじゃん!」 って言わないでね(^▽^;)

コメント、ありがとうございました(*´▽`*)
最終話、ヨロシクお願いします。

あ、「Re:ゼロから始める異世界生活」 面白いですね!
イケメンの騎士様出てきたところです。
敵か味方か、ドキドキです(≧_≦)
2016/07/30(Sat) 20:17 | URL  | クルク #-[ 編集]
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