2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
やっぴ~、クルクです(・▽・)ノ

それでは、解決編です。


* 「 Captivity 」 1.Lost Day's(1)
* 「 Captivity 」 2.パール
* 「 Captivity 」 3.空耳
* 「 Captivity 」 4.ombre
* 「 Captivity 」 5.Lost Day's(2)
* 「 Captivity 」 6.Lost Day's(3)
* 「 Captivity 」 7.Lost Day's(4)





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金髪のツインテールを跳ねさせながら目の前を走っている小さな姿に、モモンジーナは 「クルク」 と呼びかけた。
「なにー?」
走る速度を落とさず、クルクは前を向いたまま返事をした。
「聞きたいことがある」
「いーよー」
「ウメという人物について、教えて欲しい」
「あー・・・うん」
そこでクルクは足を緩め、モモンジーナを振り返った。
「梅は、クルクの倉庫番だよ。クルクがウィンダスにいた時に知り合ったんだ。うずらは、梅の紹介で知り合ったんだよ」
「・・・ウメの素性は?」
「それは、クルクからは言えないなぁ。ももんがは何となく察してるみたいだけど、それ以上が知りたかったら、本人に聞いてみて」
「そうか・・・わかった」

二人はギルド前広場に着き、ギルド桟橋への入り口へとやってきた。
「どうする? ボルビーがいたら、クルクを捕まえたよってことにする?」
クルクがそう言うと、モモンジーナは首を振った。
「仲間と騙し合いはしたくない」
「うん。じゃ、入ろ」


ギルド桟橋にはファノエ運河が流れていて、ジャグナー森林との間をバージが運行している。
ジャグナーで伐採した木をサンドリアへ運ぶために、木工ギルドが利用していた。
他にも、冒険者や行商人が、ジャグナーへ行くためにバージを利用することもあった。
モモンジーナとクルクは小さな洞穴を抜けると、寄ってくる蜂を追い払いながら、バージ乗り場の方へと進んで行った。

乗り場の前には木工ギルドの支店があり、店員とバージ乗り場の管理員とがヒマそうに雑談をしている。
ここにはいないようだといいかけた時、桟橋の左側に人影を発見した。
モモンジーナはクルクに待つように合図をすると、草を踏む音を立てながら近づいた。
ヴォルフィは一瞬身構えたが、やってきたのがモモンジーナであるとわかると、ホッと力を抜いた。
「モモ、どうしてここに?」
いつもの優しげな笑顔を見せて、ヴォルフィが尋ねた。
「・・・騎士団が、ヴォルフィを探している」
「そうらしいですね。どうやらクルクは、シャレーリ殺害の罪を僕になすりつけて、始末しようと決めたようです」
ヴォルフィはふぅとため息をつき、それからモモンジーナを見つめた。
「モモ、僕と一緒に逃げてくれませんか?」
「・・・え?」
「サンドリアにいたら、僕は殺されてしまう。僕と一緒に、来てくれませんか?」
「・・・どこへ・・・?」
「どこでもいいです。モモが行きたい所・・・」
モモンジーナは、ヴォルフィを信じたかった。
けれど、モモンジーナは自分が見たうずらの横顔を信じていた。
それと、まだ引いてはいない頬の痛み。
どういう経緯で今に至っているのかはわからないが、自分を殴ったチョコボがメイヴェル以外の誰かであるはずはないと、モモンジーナは確信していた。
ヴォルフィの言葉とクルクたちが話していたこと、そのどちらが正しいのか・・・。
モモンジーナは迷いを吹っ切るために、強く首を振った。
「モモ?」
「ヴォルフィ、本当のことを話してくれ。これ以上、仲間を疑いたくない」
「本当のこと? 疑うって、モモは僕が嘘をついているとでも? まさか、クルクたちがモモに何か吹き込んだのですか?」
モモンジーナの腕を掴もうとしたヴォルフィから、モモンジーナは一歩後ろへ身を引いた。
それを見たヴォルフィは、悲しげに微笑むと、桟橋へ向けて歩き出した。
ちょうど、バージが桟橋に停まったところだった。
「ヴォルフィ・・・どこに行くんだ?」
「僕はどこか遠くへ行きます」
ヴォルフィは手に持っていたチケットを係に手渡すと、バージに乗り込んだ。
モモンジーナは慌ててチケットを購入し、ヴォルフィの後を追ってバージへと乗った。
「僕を疑っているのに、どうしてついてくるんですか?」
「本当のことが知りたいからだ」
「僕は嘘なんかついていませんよ」
「・・・書類の保管係をしていたと言っていたな? それはヴォルフィではなく、シャレーリだろう?」
バージの運転手が、出航の鐘を鳴らした。
ゆっくりと、バージが桟橋を離れて行く。
その時、小さな影が桟橋へ向かって走り、止めようとする係員の手をかいくぐると、大きくジャンプをした。
そして、トンと身軽にバージに着地したクルクは、「竜騎士の修行しててよかったよね~」 と言うと、桟橋で声を上げている係員に 「お金は後でちゃんと払うから、ゴメンね~!」 と謝った。

バージに乗っている客は、三人だけだった。
クルクがモモンジーナに近づき、「付いてきちゃった」 と言うと、モモンジーナは苦笑した。
だが、妙な心強さを感じてもいた。
「誰ですか?」
「・・・誰って?」
眉を寄せてクルクを見ているヴォルフィに、モモンジーナが聞き返した。
クルクはヴォルフィを見上げて、「ももんがの弟子の、クックルクーです」 と言った。
「弟子? モモンガ? モモはそう名乗っているのですか?」
「・・・・・・」
「モモ?」
クルクを見てもそれがクルクだとわからないヴォルフィに、モモンジーナは驚いていた。
「・・・クルクだ」
「あ、バラした」
「このタルタルが、クルクだよ」
「クルク?」
ヴォルフィはマジマジとクルクを見下ろしてから、顔を上げるとモモンジーナに視線を移した。
曖昧に笑い、「そうでしたね」 などと言っている。
「間近で見たのは初めてだったから、すぐにはわかりませんでした。なぜここに?」
「ももんがを守るためだよ」
「え?」
クルクの答えに、モモンジーナが驚いた。
自分を守るとは、どういうことだ?
「ボルビーは、悪いことしてそれがバレそうになったら、平気で仲間を殺しちゃうヤツだよ。そんなヤツとももんがを二人っきりになんか、させられないよね」
「僕がモモを殺すとでも?」
「そう思ってるから来たって、たった今言ったじゃん」
その時、モモンジーナが着けていたシグナルパールから、うずらの声が聞こえてきた。
『先に捕まった二人組が、ヴォルフィとの関係を認めたそうよ。二人はヴォルフィに雇われて、横領した金品の横流しをしていたらしいわ』
モモンジーナは、ギュッと目を閉じた。
深呼吸を、一つ。
目を開けて、モモンジーナはヴォルフィをまっすぐに見つめた。
「何のために、犯罪に手を染めたんだ? 神殿騎士団を辞めたら、その誇りもなくなるのか? ヴォルフィに雇われていた男たちは、全て自白したよ」
ヴォルフィは変わらずに曖昧な笑みを浮かべたまま、モモンジーナを見つめている。
「その証拠を見つけてしまったシャレーリを、お前は殺したんだな!?」
「シャレーリが、僕を神殿騎士団につき出そうとしたんです。仲間だと思っていたのに」
「悪事を庇うのが仲間じゃないだろう!?」
「でも、捕まったら、僕は死刑になってしまうって、シャレーリはわかっていたんですよ?」
ひどいでしょう? とでも言いたげな口調だ。
「金の横流しで、死刑にはならないだろう?」
眉を寄せたモモンジーナに、ヴォルフィは大きくため息を付いて 「モモはわかっているようでいて、肝心なことはわかっていないんですね」 と笑った。
その言葉が、モモンジーナをイラっとさせた。
そして同じく、クルクもイラっとしたようだ。
「お金が欲しくて、ちょっとヤバいけど美味しい話に乗せられて、バレたら捕まるのが怖くなっちゃって、ビビって逃げてるだけでしょ? ももんがのこと騙して、クルクたちのせいにしてさぁ。ただの卑怯モンじゃん。死刑でいいよ」
鼻で笑うようにクルクが言うと、ヴォルフィの表情が歪んだ。

バージはゆっくりと、ファノエ運河を南下して行く。
晴れていれば美しい景色を楽しむことが出来るのだが、あいにくこの辺りはいつも天気が悪い。
今も遠くで雷が鳴り、ポツリポツリと雨が降っていた。
「僕の父が、先物に手を出してしまいましてね、大損してしまったんです」
灰色に霞んで見える景色を眺めながら、ヴォルフィが口を開いた。
「初めの頃は、わずかですけれど儲けていたようなんです。そんなものに手を出さなくたって、うちは裕福だったんですよ。多分父は、遊び感覚だったんだと思うんです」
日々の食事にありつけるだけで精一杯だったモモンジーナには、考えられないことだった。
「そのうち少しずつ損をするようになって、けれどまだ儲けていた分がありましたからね。そこで止めておけばよかったんです。おそらく父は、カモにされていたんでしょう。僕がその話を知った時には、もうどうしようもない程の借金が出来てしまっていたんです」
「それで、金品の横流しを?」
尋ねたモモンジーナに、ヴォルフィは首を横に振った。
「そんなことくらいで、無くなるような額ではないんですよ」
肩を竦めて見せた後、ヴォルフィはモモンジーナに背を向けた。
「借金を、丸ごと肩代わりしてくれると言ってくれた人がいたんです。その話を持ってきたのは、代理だと名乗る人でした。もちろん、タダではありません。その人は、家名ごと爵位を売れと言ってきたのです。もちろん、父は断りました」
「ふん、腐っても貴族でいたかったわけか」
「そうです。その代理人は、ならば代わりに、神殿騎士団の情報を流せと言ったのです」
「・・・え・・・それは・・・いつの話だ?」
「僕は初め、任務に差し障りのない程度の情報を渡していました。見回りの時間が変更になった、くらいのね。だけど、知りたいのはそんなことではなかったんです」
「ヴォルフィ・・・」
「港で大きな取り引きが行われることを、騎士団は知っているかと聞かれました。その時はまだ、隊長からその話は聞いていなかったので、僕は知らないと答えました」
「・・・・・・」
「神殿騎士団が動く時は、知らせるように言われたんです。それで、借金はチャラにしてくれるって、そう言ったから、だから僕は」
「お前が知らせたのか!?」
ヴォルフィの肩を掴み、振り向かせながらモモンジーナが尋ねた。
「そうです」
何者かが、騎士団の情報を裏組織に流したせいで、それまで積み上げてきた調査が無駄になったばかりではなく、仲間の命が失われたのだ。
裏組織と繋がりがあったのは、クルクではなくヴォルフィ自身だったのだ。
「貴様・・・っ」
拳を振り上げたモモンジーナに、ヴォルフィは微笑んだ。
「だって、それで元通りになるんですよ? モモだって、僕の立場ならそうしたでしょう?」
モモンジーナがヴォルフィを殴らなかったのは、クルクがモモンジーナの服の裾を引っ張ったからだった。
自分を庇ってくれた時のように、「ダメだよ」 と言って。
「何が元通りだ・・・何もかも、お前のせいで失ってしまったんだ」
拳を下ろしたモモンジーナに、ヴォルフィは悲しそうに 「殴ってくれないんですね」 と言った。
「僕はあの時、取り引きが中止になるだけだと思っていたんです。それが、取り引き場所が変わったという情報が入り、分散して向かった先で待ち伏せされて襲撃されるだなんて、僕はこれっぽっちも思ってもいなかったんです」
「そのせいで、ゼンは死んだんだっ!」
「そうです。悲しかった・・・」
「悲しい!? ならどうして、自分のせいだと名乗り出なかった? パスィリーは、お前の罪を着せられて死んだんだぞ!」
「モモは、僕が死ねばよかったと言うんですか? 酷いですね、仲間なのに」
「その仲間を裏切っておいて、よくもそんなことが言えるな! おまけに、隊長がうずらに情報を漏らしただのと、名誉を汚すようなことまで!」
「死んでしまったら、名誉なんてもう関係ないでしょう? それにうずらには、僕は恨みがあるんです」
『なんですって?』
モモンジーナの耳元で、うずらが呟く声がした。
シグナルパールから聞こえてくるヴォルフィの話を、聞いていたのだろう。
「恨みとは?」
うずらに代わり尋ねたモモンジーナに、ヴォルフィはまた微笑み、首を横に振った。
「もう、モモには関係ありません」
「どういうことだ?」
眉を寄せたモモンジーナは、いきなりクルクに足をすくわれ、後ろに横転した。

クルクは片足を軸に回転しながら、モモンジーナの足を後ろから蹴り飛ばして転ばせると、その勢いのままジャンプしてヴォルフィの手首を蹴り上げていた。
ヴォルフィの手から飛んだナイフが、ポチャリとファノエ運河へと落ちて沈む。
「クルクが守るって言ったじゃん」
着地と同時に、腰に携えていたバグナウを手にして、構えたクルクが言った。
「ヴォルフィ、お前・・・」
起き上がりながら、モモンジーナはヴォルフィを見つめた。
本当に、ヴォルフィがシャレーリを手にかけたのか、モモンジーナはずっと信じられずにいた。
信じたくはなかった。
けれども今、ヴォルフィはモモンジーナにナイフを向けたのだ。
クルクが動かなければ、刺されていただろう。

手首の痛みのせいか、邪魔されたせいなのか、ヴォルフィは顔を歪めてクルクを見下ろした。
「いつもいつも、そうやって僕の邪魔ばかりするんですね」
「いつもって、いつのことさ?」
ヴォルフィを睨みつけながら聞くクルクに、ヴォルフィは 「なら教えてあげましょう」 と勿体ぶった言い方をした。
「誘拐した女性達を乗せて運ぶための船を、手配したのは僕なんですよ。それを粉々にしたのは、あなたですよ、クルク」
「ランコントルの、連続誘拐事件のこと? それなら違うよ、クルクじゃないよ。やったのは、コウさんだもん」
「それは、書類上のことでしょう。僕はあの時、確かに 『クルク一家のクルク』 と名乗ったのを聞きました」
「言ったのはうずらで、クルクじゃないよ。それで船は、コウさんが魔法でバラバラにしちゃったんだよ。ちゃんと見てなかったの?」
「おかしな格好をしたタルタル達がいましたよ」
「うん、それはクルクもやってたけど」
「おかげで、また借金が増えてしまったんですよ」
借金の肩代わりをしてもらう代償として、騎士団の情報を裏の組織へ流したヴォルフィは、今度はそのことを強請られて、同額を請求されたのだと言った。
後はもう言われるがまま、あるいは自ら犯罪に加担して行ったのだろう。
「女性たちが無事に売られたら、僕にも大金が入るはずだったんです。それなのに、当てがなくなってしまったばかりか、船まで・・・」
「ヴォルフィ・・・お前は、自分が何をやっているのか、わかっているのか?」
「わかっていいますよ。わかっているから、クルクとうずらをモモに始末してもらおうと思ったんじゃないですか。それなのに、モモまで僕の期待を裏切ってくれました」
「ももんがにクルクとうずらを殺させたら、ももんがも殺すつもりだったんでしょ!」
クルクがそう言うと、ヴォルフィは 「ええ、そうですよ」 と、微笑んだ。
モモンジーナは、声もなくヴォルフィを見つめていた。
いつからだ?
ヴォルフィは、いつからこんなヤツになってしまったのだろうか?

『モモちゃん』
シグナルパールから、うずらの声が聞こえた。
『騎士団が、ジャグナーの南桟橋で待機しているわ』
なぜ自分にそれを教えるのだろうかと、モモンジーは訝しんだ。
するとうずらは 『誰を信じて、どう動くのか、あなた次第よ』 と言って、通信を切った。
このままジャグナーに着けば、騎士団に取り囲まれて、ヴォルフィは捕まるだろう。
その前に、自分の手で?
モモンジーナは、腰の短剣に手を添えた。
その動きを見て、ヴォルフィは 「僕を殺そうというのですか? 仲間なのに」 と、悲しそうな声でモモンジーナに話しかけた。
「仲間だと言いながら、お前は私を殺そうとした。仲間だと言いながら、みんなを裏切っていた! 信じていたのに!」
「僕は今でも、隊のみんなが好きですよ。もう、モモしかいなくなってしまったけど」
モモンジーナは、わけがわからなくなってしまった。
「隊長がいて、パスィリーがいて、ゼンがいて、シャレーリがいた。そして、モモと僕がいて・・・あの頃が、一番楽しかったなぁ。モモも、そうでしょう?」
「お前が壊したんだ」
「もう、あんな日々はやって来ることはないんです。なら、もう終わってもいいじゃないですか」
ヴォルフィは、ニッコリと微笑んだ。

バージの速度が緩やかになった。
そろそろジャグナーの南桟橋に着くのだろう。
振り返ると、モモンジーナの目の前に、ジャグナーの森林が広がっていた。
その真ん中にポツリと見えるのが、桟橋だろう。
騎士団の姿は見えないが、きっと隠れているのだろうと、モモンジーナは考えていた。
「ももんが!」
クルクの叫び声に、モモンジーナはハッと視線を戻した。
その時にはヴォルフィの右腕が、後ろからモモンジーナの首に絡まり締めつけていた。
短剣を抜こうとしたモモンジーナの右手は、そのままヴォルフィの左手に掴まれてしまった。
「そこから動かないでくださいね、クルク。モモは」
ヴォルフィが言いかけている途中で、クルクは右手に握っていたバグナウを、「コンニャロメ!」 と勢いよく二人の足元目がけて投げ付けていた。
モモンジーナが咄嗟に片足を上げて避けたので、クルクが投げつけたバグナウは、後ろにいたヴォルフィの膝にヒットした。
「・・・ぅあっ・・・!!!」
ヴォルフィはモモンジーナを突き飛ばし、その場にうずくまった。
そうしている間に、バージがゆっくりと桟橋へ近づいて行く。
モモンジーナの目に、騎士団の鎧が映った。
一人や二人ではない。
一隊が待機しているようだ。
このままでは、ヴォルフィは捕まるだろう。
それは、仕方のないことだ。
それだけの罪を犯したのだから。
だけど・・・。
モモンジーナは唇を噛み、拳を握った。
「あ、騎士団だ。ボルビーのこと捕まえに来たのかな? いっぱいいるね」
そう、クルクが言ったのだ。
ヴォルフィは痛みで歪んだ顔を上げ、桟橋の向こう側へ視線を走らせた。
桟橋は、もう目と鼻の先ヘと近づいている。
ヴォルフィは蹲ったまま、モモンジーナを見上げた。
「モモ、一緒に逃げませんか?」
まだそんなことを言っているのかと、モモンジーナは 「断る」 とヴォルフィを見下ろした。
するとヴォルフィは、いつもの見慣れた優し気な表情で微笑んだ。
そして立ち上がると 「さようなら、モモ」 と言い、バージの上を足を引きずりながら走り、その身を河の上へと踊らせた。
今まさに、騎士団がバージへと雪崩れ込もうとしている時だった。
捕らえるべき対象に目の前で河に飛び込まれてしまった騎士団員たちは、途端に大騒ぎになった。
鎧を脱いで河に入る者や、ボートを河に降ろす者、河岸を走って行く者。
モモンジーナとクルクは、バージの上で河面を見つめていたが、ヴォルフィの姿はどこにも見つけることは出来なかった。

騎士団はそのまま、運河を探索することになった。
モモンジーナとクルクは、二人の騎士団員に連れられて、バージでそのままサンドリアの北桟橋へと戻ることになった。
二人はバージの上で騎士団員から取り調べを受けたが、クルクもモモンジーナも、ヴォルフィ追跡の協力者という扱いをされていた。
おそらく、うずら達がそう騎士団に知らせておいたのだろうと、モモンジーナは思った。
北桟橋に着くと、騎士団員は二人に、もう一度話を聞くことになるだろうと、数日はサンドリアに留まるように告げ、報告のために城へ戻って行った。

「クルク、お前、わざとヴォルフィに騎士団のことを知らせたのか?」
二人だけになると、モモンジーナがクルクに訊ねた。
クルクはコクンと頷いた。
「なぜだ?」
「・・・ボルビーが捕まるの見たら、ももんが悲しいかなって。クルクにとったら悪い奴だけど、ももんがにしたら、それだけじゃないでしょ?」
「私は神殿騎士団に所属していたのだぞ。そんな感傷に浸って、甘いことを言ってはいられない」
「だから、クルクが言っちゃったの。ももんがが言えないから・・・。大人しく捕まるか、逃げようとするか、それでも捕まっちゃうかもしれないけど」
モモンジーナも、あの時そう思ったのだ。
捕まって当然だが、かつての仲間だ。
憎しみと愛情、正反対の感情が交互に押し寄せて来ていた。
ヴォルフィのしたことは許せないし、理解も出来ない。
だが、彼の死を望んでいるわけでもなかった。
「むぅ・・・ごめんね。クルク、余計なことしちゃったのかな」
俯いたクルクに、モモンジーナは 「いや」 と言ってから、「ありがとう」 と頭を下げた。

サンドリアの街は、街灯が灯り始めていた。
ギルド桟橋を出たモモンジーナとクルクは、その足でバー・ランコントルへ向かった。

ランコントルには看板が出ておらず、代わりに 「本日休業」 の張り紙が貼ってあった。
二人は裏口へと回り、店に入っていった。
「お帰りなさい。無事でよかったわ」
そう言って、うずらが出迎えてくれた。
うずらは、シグナルパールから聞こえてきた会話を、みんなに伝えてあると言った。
それから、「さっき、ロディファスさんが来て教えてくれたんだけど、アルベールがお店に金塊を隠していたっていう噂があったんですって」 と言った。
「金塊~!?」
クルクが目を丸くさせた。
うずらが言うには、誘拐事件の後、騎士団の者たちがランコントルへ何度も調査に入っていたそうだ。
その時は誘拐事件のことで店を調べているのかと思っていたらしいが、どうやら金塊を探していたのではないかと言う。
だが結局、それはないという結果に達していたそうだ。
しかしヴォルフィは、どこかにあるはずだと信じていたようだ。
「先に捕まった二人の男性たちは、ヴォルフィさんの命令で、近々ランコントルに火を点けることになっていたと自供したそうですわ」
足の長い小さなグラスをカウンターに並べながら、チリがそう言った。
ヴォルフィは、ありもしない金塊を求め、もう一つ罪を重ねるところだったのか。
そしてモモンジーナは、結局ヴォルフィに利用されていただけなのだ。

ヴォルフィのことは、モモンジーナ自身まだ信じたくない気持ちで、どう考えたらいいのか整理がついていない状態だった。
だがモモンジーナには、ここにいる者達に、言わなければならないことがあった。
彼女らを疑い、殺意を抱き、危険に晒したのだ。
そして、未だ見つからずにいるサンラーへの仕打ち。
それは一言 「誤解だった」 と言って謝れば済むようなことではない。
このことを騎士団へ訴え出れば、モモンジーナにも然るべき罰が与えられるだろう。
そうなったとしても、受け入れるつもりでいる。
そう言って、モモンジーナは頭を下げた。
すると、「まぁ、取り敢えず座りなさいよ」 とうずらがモモンジーナの背中を叩き、カウンターに戻って行ったのだ。
頭を上げると、クルクがスツールに飛び乗っていた。

皆はしばらく無言のまま、目の前でチリが作るカクテルを見つめていた。
なかなかどうして、流れるような手捌きだ。
赤ともオレンジともつかぬ液体をグラスに注ぐと、モモンジーナとクルクの前に滑らせた。

「クルクはさぁ、サンちゃんさえ戻って来れば、あとは気にしない」
クルクはそう言ってグラスに口をつけると 「あ、美味しい」 と飲み干した。
するとうずらも、「あたしも」 と頷いた。
「あたしはホラ、この美貌だもの。愛人だとか男を虜にするだの言われたって、そんなこと一々気にしちゃいられないわ」
「虜にするなんて、誰も言ってないだろ」
ぴよがツッコミを入れると、「うるさいわね」 とうずらがおしぼりを投げつけた。
「何にせよ、サンちゃんが無事に戻らないとだよね」
クルクはそう言うと、ヒョイとスツールから飛び降りた。
「ってことで、クルクはちょいとボスティン氷河に行ってくるよ」
「ボスティン氷河?」
コクトーが尋ねると、クルクは 「うん」 と頷いた。
「さっきバルから連絡あってさ、フェ・インのどこ探してもサンちゃんいないから、ボスティン氷河も探すことにしたって言ってたの」
あの小部屋から、サンラーは出たのだろうか?
武器は何も持っていなかったはずだ。
「サンちゃんはすばしっこいし、ちっさいし、クルクよりも慎重だから、きっとこそこそ~って隠れながら移動してるのかもしれないよ。もしかしたら、すっごいラッキーで、モンスターに見つからずに、戻って来てる途中かもしれないよね」
クルクの言葉は楽観的すぎるように思えるが、モモンジーナはそうであって欲しいと願った。
するとぴよが、「ボスティン氷河か。行けないことはないけど・・・」 と呟いた。
「うん。だけど、行くだけ迷惑かけちゃいそうだよね」
クマがぴよに言った。
氷河を人探しに歩き回るには、二人のレベルでは危険なのだろう。
モモンジーナはクルクに、自分も行くと言いかけた。
だが、自分の姿を見つけたら、サンラーはきっと逃げてしまうだろうと思うと、口にすることは出来なかった。
クルクは 「みんなは待ってて」 と言い、ランコントルを出て行った。

「待ってるだけで、何の役にも立てないなんて、辛いよ」
ポツリとクマが言うと、チリが頷いた。
「私も、無事を祈ることしか出来ませんわ」
するとうずらが、「待機要員は必要よ」 と言った。
「全員が出払って、みんなが疲れて帰って来たら、誰がお疲れ様って言ってあげるのよ? それに、何かあっても全員いなかったり疲れていたら、どうにもならないわ」
「アネキは変なところで前向きだよな」
「あんたはいつも、後ろ向きだものね!」
「そんなことないだろ!」

うずらとぴよの言い合いを聞きながら、モモンジーナはカクテルグラスに口をつけた。
ずっと避けていたサンドリアに、なぜ戻って来てしまったのだろう?
モモンジーナはそう思わずにはいられなかった。
「私がサンドリアに戻りさえしなければ、ヴォルフィに会うこともなく、サンラーを攫うことにもならなかったはずだ」
「だが、このランコントルが火事になり、うずらやチリが大怪我をしていたかもしれん」
モモンジーナが後悔の念に憑りつかれそうになっていると、コクトーがそう言って言葉をかけた。
「クルクにも言ったが、人は悪い結果に左右されてしまうものだ。あの時こうしていたらと、回避できたかもしれない選択を思い、そちらを選ばなかったことを悔いてしまう。だがの、そちらを選んだとしても、同じように後悔をすることになるかもしれんのだ。考え、選んだ道を進んだのならば、反省はしても、悔いてはならんよ。この年になっても、それはとても難しいことだがの」
肯定でも否定でもない、穏やかに話す言葉を聞いていると、モモンジーナの気持ちが落ち着いてゆく。
だがそれも、サンラーが戻って来なければ、おそらく一生悔いることになるだろう。

その夜は、クルク達がいつ戻って来てもいいようにと、うずらはチリと店に泊まると言っていた。
コクトーは、一度ウィンダスのモグハウスに戻ると言って出て行った。
ぴよとクマの二人は、サンドリアのレンタルハウスへと帰って行った。
「モモちゃんはどうする?」
そううずらに訊ねられ、モモンジーナはここに残ると意志を伝えた。
彼女が残ると言ったのには、訳がある。
ヴォルフィの手先として捕まったのは二人だが、他にはもういないとは言い切れない。
それに、ファノエ運河に飛び込んだヴォルフィは、まだ捕まっていないのだ。
金塊が店にあると信じているのなら、また戻って来るかもしれない。
そのための護衛に、モモンジーナはここに残ろうと思ったのだ。

チリが作った食事を、三人は一つのテーブルを囲んで食べた。
ルフェ湖の塩を使った豆の料理は、港にある 『錆びた錨亭』 の味によく似ていた。
モモンジーナがそう言うと、チリは 「少しの間、バイトをしておりましたの。その時に覚えましたのよ」 と微笑んだ。
モモンジーナはスプーンで皿から豆をすくい、フッと笑いを漏らしてしまった。
「やだ、なに笑ってるのよ。やらしいわね」
「違う、思い出したことがあって、それで・・・」
「なぁに?」
うずらに訊ねられ、チリに見つめられ、モモンジーナは仕方なく話を始めた。
「特別隊にいた時のことだ」

錆びた錨亭に、シャレーリがご執心だった娘が料理人として働いていたのだ。
シャレーリはいいところを見せたかったのだろう。
仲間たちは、自分がおごるからとシャレーリに言われ、皆で食事に行ったのだ。
店の自慢は豆料理で、その娘が豆料理を作っていた。
ところが、隊長のメイヴェルは豆が嫌いだった。
料理のほとんどに手を付けず、あからさまに豆を除けていた。
その翌日、料理人の娘は店を辞めた。
それは偶然だったに過ぎない。
料理長のテリードも、一月前から決まっていたと言っていた。
けれどもシャレーリは、クビになったに違いないと豆を食べなかったメイヴェルのせいにして、それから3日間、毎朝控え室にある彼の机の上に豆を置いて、嫌がらせをしていたのだ。
子供じみたイタズラだ。

「それでどうしたの?」
「シャレーリは絡むとしつこいから、3日目に隊長が 『悪かった』 って言って、その日は獅子の泉でおごってもらったよ。もちろん、私達もね」
「ふふふ・・・。あの人、豆嫌いだものね~」
「子供の頃からですわ」
「何かトラウマでもあるのかしら?」
「さぁ? 聞いても、嫌いな物は嫌いなんだって言ってましたわ」

モモンジーナは二人を見つめた。
チリは今までの会話で、何度も 「梅」 を 「兄様」 と言っていた。
「梅」 というのは自分を殴ったチョコボで、それがメイヴェルであるとモモンジーナは思っていた。
だが、メイヴェルに妹はいないはずだった。
ぴよが 「梅兄」 と呼んでいたので、チリのそれも仲間内の呼び方なのかと思っていたのだ。
が、チリは今、「子供の頃から」 と言っていた。
自分が知らないだけで、妹もいたのだろうか? とモモンジーナは首をひねった。
もしも、チリがメイヴェルの妹なのだとしたら、モモンジーナとは従姉妹ということになる。

「チリは隊長の妹なのか?」
「えっ・・・な、なぜですの?・・・いいえ、私は・・・・・・うずらちゃ~ん・・・」
チリがオロオロしながらうずらに助けを求めると、うずらはモモンジーナを見て 「メイヴェル様に妹はいないわ」 と言った。
「だが、梅にはいるのだろう?」
モモンジーナがそう言うと、うずらは苦笑して肩をすくめた。
「あたしは何も言わないわ。知りたければ、梅ちゃんに聞くのね」
うずらは立ち上がり、空になった皿をカウンターへ運んで行った。

何となく気まずくなり、モモンジーナは皿に残っていた豆を口に頬張った。
と、チリが突然尋ねたのだ。
「モモさんは、恋人はいらっしゃるの?」
「ブッ・・・ゴホッ!」
「あら、大丈夫ですか?」
むせたモモンジーナの背中をさすりながら、チリが水の入ったグラスを手渡してくれた。
「・・・い、いきなり、何を・・・」
「あたしも聞きたーい」
カウンターから、うずらが手を上げた。

女が3人集まれば姦しい。
モモンジーナには、これまで女友達と呼べるような者は、一人もいなかった。
そして、そんなものは必要ないと思っていた。
騎士団の同僚は、彼女を同性のように扱い、彼女もそれが楽だった。
それが今、うずらやチリと話をしていて、多少の戸惑いが混じりながらも、モモンジーナは楽しいと感じていた。
状況を考えれば、それは罪悪感に変わる。

その夜、ランコントルには誰も戻っては来なかった。



NEXT → * 「 Captivity 」 9.Free





読んでいただいて、ありがとうございます。
解決編・・・解決しきれませんでした(´・ω・`)
サンちゃんには、もう少し行方不明でいてもらうことになってしまいました。
早く帰っておいでよぅ(´;ω;`)

クルクね、ドラマとか見ててよく思うことがあるのです。
犯人が最後に追い詰められた時、長々と演説ぶるじゃない?

「とっとと捕まえろや(・д・)」

だってさ、そんな話は警察で聞いたらいいじゃないw
いや、それじゃドラマとして、ちっとも面白くないけどね!
やっぱり犯人は、断崖絶壁に逃げて、そこでそれまでのことを語らなくっちゃいけません(`・ω・´)
だから、マニュアル通りに進めようとしてたんだけど、チラッと 「何も最後まで聞くことねー」 とか思ったりしちゃって、バグナウ投げちゃいましたwww
ももんがに当たってたらどうするんだっていう。
そしたら、痛みでとっさにしゃがもうとするから、態勢が崩れて攻撃出来てたかな?

えーっと。
次で、事件は終結します。
それで終わろうと思ったんだけど、チョ~長くなっちゃったのね。
その後的な余韻も何もないのはアレなので、その後にオマケ編つけて、ホントに終わりにします。
もうしばらく、お付き合いください。


ランコントルの事件については、こちらを参照にしてください。
コウさんからいただいた小説♪
#6 「とりははばたけるか」







いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
ポチッと押してくれたら嬉しいな♪



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【2016/07/24 23:59】 | * クルク一家
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コメントする記事間違えましたw
コウ
すいません。

Re: コメントする記事間違えましたw
クルク
の~ぷろぐれむです★(・▽・)ノ



さくらの
クルクたん~~こんばんさま♪

あれれ~~サンちゃんは何処??

ももさんもやっと納得の行く結果に
なったようで、仲間が裏切るとか悲しいですね。
裏切られてもなお憎めないって・・・憎んだ方が楽なのにね。

サンちゃん元気ですか!梅さんと一緒に早く帰ってきてください。


うまいコメントにならないな(*T-T)



Re: さくらのさん
クルク
さくたん、こばんわ~ん(・▽・)ノ

あれ? サンちゃん? (・д・ )三( ・д・)キョロキョロ

・・・ごめんなさい、まだでした(^_^;)

「憎んだ方が楽」 って、ホントそうですよね!!
モモの世界は、それだけ狭くて深かったのかな。
大勢の中の一人なら、憎んで斬り捨てられたのかもしれないのに。
モモの楽しい思い出の中には必ずヴォルフィもいて、そして裏切られていたことを思い出すんだよね(´・ω・`)

コメント、ありがとうございます!
嬉しいです(*´▽`*)


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この記事へのコメント
コメントする記事間違えましたw
すいません。
2016/07/25(Mon) 14:10 | URL  | コウ #-[ 編集]
Re: コメントする記事間違えましたw
の~ぷろぐれむです★(・▽・)ノ
2016/07/25(Mon) 19:56 | URL  | クルク #-[ 編集]
クルクたん~~こんばんさま♪

あれれ~~サンちゃんは何処??

ももさんもやっと納得の行く結果に
なったようで、仲間が裏切るとか悲しいですね。
裏切られてもなお憎めないって・・・憎んだ方が楽なのにね。

サンちゃん元気ですか!梅さんと一緒に早く帰ってきてください。


うまいコメントにならないな(*T-T)

2016/07/25(Mon) 21:23 | URL  | さくらの #JalddpaA[ 編集]
Re: さくらのさん
さくたん、こばんわ~ん(・▽・)ノ

あれ? サンちゃん? (・д・ )三( ・д・)キョロキョロ

・・・ごめんなさい、まだでした(^_^;)

「憎んだ方が楽」 って、ホントそうですよね!!
モモの世界は、それだけ狭くて深かったのかな。
大勢の中の一人なら、憎んで斬り捨てられたのかもしれないのに。
モモの楽しい思い出の中には必ずヴォルフィもいて、そして裏切られていたことを思い出すんだよね(´・ω・`)

コメント、ありがとうございます!
嬉しいです(*´▽`*)
2016/07/25(Mon) 23:50 | URL  | クルク #-[ 編集]
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