2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
やっぴ~、クルクです(・▽・)ノ

ちょっと長々しい物語が始まりますが、お時間ありましたらお付き合いください☆彡




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ジュノの港。
飛空艇乗り場で、女はずっと待っていた。
やがて、白い飛沫を上げながら着水した青い艇体が、ゆっくりと接岸する。
タラップが桟橋へかけられると、中から一組の乗客が出て来た。
クリスタルでの移動が主流になった今、飛空艇を利用する者は少ない。
だが、旅の情緒にこだわる愛好家は根強く存在し、またジュノの象徴の1つでもあるためか、飛空艇が廃止される動きは皆無である。
たった今降りてきた一組の乗客は、久しぶりの乗艇だったらしく、貸切状態だったことを話題にしていた。
一人は、ツインテールにした金髪を、肩の上で揺らしているタルタルの女。
もう一人は、茶色い髪を頭の上で1つに束ねたタルタルの男。
二人は話に夢中になっているようで、乗り場に佇んでいた女に気を止めることもなく、目の前を通り過ぎて行く。
(見つけた)
女は二人の後ろ姿を視界に留めたまま、その後を追って歩き出した。
乗り場の入り口には係員が立っているが、半分居眠りしている状態だ。
(殺るなら、今がチャンスだ)
タルタルの女は、腰の両側にバグナウ系の格闘武器を下げている。
男の方は、その身には大きな両手剣を背負っていた。
そのことは、女には何の問題でもなかった。
自分の腕に、自信があったのだ。
女は懐に手を差し入れ、忍ばしていた短剣を握ると足を速めて距離を縮め、そして地面を蹴った。
脇を駆け抜け様に、首を掻っ切るつもりだったのだ。
だがしかし、今まさに横をすり抜けようとしたその時、標的が転んだのだ。
元々背丈の低いタルタルである。
女は急に止まることも出来ず、転んだタルタルに躓いて、バランスを失いそのまま海へと落ちてしまった。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


女の名前は、モモンジーナ・スーピ。
サンドリアの下級貴族の生まれのエルヴァーンだ。
彼女は、身分の低い父親と、そんな男と恋に落ち嫁いだ母親を恨んでいた。
暮らしは貧しくカツカツで、母親はいつも食べ物と金の心配をしていた。
朝起きてから夜寝るまで、常に文句を言っている妻の元へなど、帰って来たい夫はいるだろうか。
おかげで、モモンジーナには楽しかった家族の思い出など一つもない。
母親には姉がいて、彼女は身分の高い家に嫁いでいた。
それは政略結婚だったが、若くして亡くなってしまったので、実家が受けた恩恵は少ない。
そしてスーピ家とは階級が違うために、もちろん交流などない。
母親は何かというと 「死んだら何にもならない」 と口にしていたが、その度にモモンジーナは、裕福な家に嫁いで死んでくれた方が良かったのにと、腹の中で愚痴っていた。
伯母が生んだ子供たちは、母がいないというだけで、何の不自由もなく暮らしていると思っていたからだ。

やがて王国騎士団への入団試験を受けられる年齢になり、モモンジーナは騎士団の訓練生となった。
食べる物にだけは困らないから、という理由だけだった。
子供の頃から水汲みや薪割りなどをさせられてきたために、体力には自信があった。

クリスタル大戦時であれば、女性だけで結成された部隊がいくつも存在していたが、今ではそれも稀だ。
男性がほとんどの騎士団の中で、女性がいないわけではない。
彼女たちはよく喋りよく笑い、時に拗ねたり泣いたり怒ったり、感情豊かに場を明るくしていた。
モモンジーナは、決して不愛想な質ではない。
だが、はしゃぐ少女たちと一緒になって、無邪気に振る舞うことが出来なかったのだ。
すると次第に、「暗い子」 「一緒にいてもつまらない」 と言われるようになり、いつしか1人でいることが多くなった。
容姿は悪くなかったために、モモンジーナの姿を見て振り返る者はいた。
だからと言って、優遇されたことは一度としてない。
逆に、身分が低いということで、侮辱的な言葉を耳元で囁かれたことすらあった。
いつか見返してやるという気持ちだけで、モモンジーナは剣の腕を磨いた。

「剣よりも、槍の方が合っているんじゃないか?」
騎士団の訓練場で鍛練をしている時に、そう声をかけて来たのは、ラグジー・セイシャーという王立騎士団の鎧を身に付けた男だった。
モモンジーナが1人で剣を振るっているのを、よく見かけていたと言う。
そして、「自分の使い古しだが」 と言って、モモンジーナに槍をくれたのだ。
それからラグジーは、時間があるとモモンジーナの槍の相手をしてくれていた。
やがて槍を使いこなせるようになり、ラグジーに対して仄かな想いが芽生え始めてきた頃、ラグジーは遠征でサンドリアからいなくなってしまった。
1年後、サンドリアに戻って来たラグジーには、妻がいた。
モモンジーナは、その頃もまだ見習い騎士でしかなかった。

巷には、冒険者と名乗る者たちが増えていた。
いつまで経っても見習い騎士のままのモモンジーナは、いっそ騎士団を辞めて冒険者になろうかと思案していた矢先、ラグジーの弟レイルと知り合った。
レイルはモモンジーナよりも2歳年上で、王立騎士団に所属してた。
知り合ったきっかけも、モモンジーナが女だということでからかっていた3人の騎士団員の陰湿な言動に腹が立ったレイルが、殴りかかって行ったのだ。
3対1の殴り合いのケンカに、モモンジーナは飛び込んで行った。
そこへたまたま通りかかったのが、神殿騎士団長のクリルラだった。
理由を尋かれたレイルは、3人がモモンジーナを女だという理由で貶めた言動をしていたからだと述べた。
それは事実であったため、3人は言い訳も出来ずに頭を垂れた。
理由はどうであれ、騎士団員同士のケンカは、本来であれば懲罰の対象になった。
だが、今回は厳重注意に留まったのは、5人にとっては幸いだった。
その時クリルラの後ろにいた神殿騎士団の制服を着た若い男が、レイルに 「ほどほどにしろよ」 と気軽に声をかけて笑った。
両騎士団の不仲は有名だったが、王立騎士団員であるレイルが、神殿騎士団の男とよく一緒にいるのをモモンジーナは見かけていた。
この男が後に自分の隊長になるとは、この時のモモンジーナは思いもしていなかった。
そしてモモンジーナは、レイルとはたまに顔を合わせると、挨拶をするようになっていった。

モモンジーナの相変わらずの日々が変わったのは、レイルが所属している隊が遠征に行くことになったと知った日だった。
その頃には、モモンジーナとレイルは、会えば雑談を交わすほど親しくなっていた。
寂しくなるなと思いながら、いつものように槍の鍛錬をしていた時、レイルとよく一緒にいた神殿騎士団員の男に声をかけられたのだ。
男は、クリルラ直属の特別隊の1つを任されていると言う。
通常時には他の神殿騎士団員と変わらず、街の巡廻や警備をしているが、表沙汰に出来ない問題が起こった時には、諜報から戦闘や捕縛まで裏で処理する部隊だと聞かされた。
そして男は、自分の部隊に入らないかと、モモンジーナをスカウトしたのだ。
理由は、モモンジーナの度胸と槍の腕前だと言う。
訓練ばかりの毎日を憂鬱に感じていたモモンジーナにとって、それは願ってもいない誘いだった。
「レイルと一緒に殴り合いのケンカをする女性を、いつまでも見習いのままにしておくのは勿体ない」
そう言われて、もちろんその場で返事をしたのだ。
すぐに辞令が下り、モモンジーナは神殿騎士団の一員となった。

その特別隊は、1つの隊の人数が6人程度と少数だったが、他の隊には女性がいなかった。
そして、モモンジーナに声をかけて来た男が自分の従兄であると知ったのは、辞令を受けた時だった。
色と動物の名を組み合わせた隊名が付けられる部隊とは異なり、その小隊にはそれぞれの隊長の苗字が当てられていた。
モモンジーナが所属したのは、プリズ隊と名されていた。
隊長の名は、メイヴェル・プリズ。
そう聞いて、母親の死んだ姉の息子だと知ったのだ。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


「そう言えばさ~、梅も飛空艇から落ちたんだよね~。エルヴァーンて、海に落ちやすいのかなぁ?」
「んなわけあるか。梅さんは、船酔いして落ちたんじゃないのか?」
「この前は、グルグル階段に酔って落ちてたよね」
「打ち所が悪くなくて、よかったよなぁ」
「ほんっと、梅は危なっかしいんだよね~」
「そう思ってるのは、クルクだけだろ?」
「そうかなぁ~」
ぼんやりとしたモモンジーナの耳に、緊張感のない会話が聞こえて来た。
(クルク・・・?)
ハッと目を開けると、モモンジーナは上半身を勢いよく起こした。
目の前に、驚いた顔をしたタルタルが二人いた。
そのうちの一人、クルクと呼ばれた女のタルタルは、モモンジーナの標的だった。
「急に起きたから、ビックリしちゃった」
「大丈夫か? アンタ、海に落ちたんだぜ」
「クルクのこと、蹴っ飛ばしたよね?」
「それはクルクが転んだから、ぶつかったんだろ」
自分が置かれている状況が理解できず、モモンジーナは周りに目を向けた。
白い壁、白いカーテンが部屋を仕切るように引かれている。
何よりも、部屋に漂っている消毒のニオイが病院であるとモモンジーナに知らせていた。
そして、「目が覚めたようだね」 と言いながら姿を現したエルヴァーンの男に、見覚えがあった。
(ここは、モンブロー医院か・・・)
モンブロー医院はジュノの上層にある病院で、モンブロー医師の温厚な人柄と腕の良さで、診察を受けようとする患者が日々絶えない。
モモンジーナがベッドから出ようとすると、「そのまま」 とモンブローに止められた。
「海に落ちた時に飲み込んだ海水は吐き出させましたが、海水が多少肺に入ってしまったかもしれません。しばらく安静に」
標的を目の前にして、動けないことにモモンジーナはイラついたが、当の獲物は警戒心の全くない顔でモモンジーナを見ていた。
顔を知られてしまったことは失敗だが、これをチャンスに変えようとモモンジーナは考えた。

モンブローの診察が終わっても、2人のタルタルはその場にいた。
モモンジーナは2人に顔を向け、頭を下げた。
「あなた方が助けてくれたのか。ありがとう。私の名は、モモンジーナという」
偽名は使わなかった。
すると女のタルタルが、「クルクだよ。そんで、コッチはバル」 と言って、隣にいた男のタルタルを紹介した。
「バルファルだ。アンタ、荷物とか持ってたか?」
バルファルと名乗ったタルタルに尋ねられ、モモンジーナが真っ先に思い浮かべたのは懐に隠しておいた短剣だったが、それには触れずに首を横に振った。
「いや、財布だけだ」
「それならそこにあるぜ」
ベッドの枕元に、革の財布が置かれていた。
短剣は、海に落ちた時に失ってしまったらしい。
「モモンガは、誰か呼ぶ人いないの? いたら知らせてあげるよ」
「・・・モモンガ?」
「モモンジーナさんだろ」
「モモンガでいいじゃん、呼びやすいもん」
クルクが言ったモモンガというのは、どうやらモモンジーナのことらしい。
モモンジーナは勝手にそう呼ばせておくことにして、もう一度首を横に振った。
「それよりも、あなた方に礼がしたい」
「そんなのいいよ。オレたちは人を呼んだだけだし」
「それでは私の気が済まない」
「んー、じゃぁさ、モンブローセンセがもういいよって言ったら、一緒にゴハン食べよ? クルクたちしばらくジュノにいる予定だから」
タルタルの2人は、また明日も来ると言い残して帰って行った。

ベッドに体を横たえ、モモンジーナは目を閉じた。
当初の予定とは変わってしまったが、それがかえって良かったかもしれないと考える。
顔見知りになれば、人気のない場所に呼び出すことも出来るだろう。
何もわからないまま死なせるよりも、己の犯した罪を突きつけてやってから殺した方が、自分の気も済むだろうとモモンジーナは考えた。
それにしても、短剣をなくしてしまったことが惜しかったと舌打ちをした。
それは雑貨屋にも売っているような、安物の短剣だった。
それでも、自分が金を払って購入した物だ。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


「短剣の一本くらいは持っていた方がいいぜ」
赤い髪を逆立てさせた、ゼンという名の隊員が言った。
本名はゼリュシュマフュリフェンという舌を噛みそうな長ったらしい名前だったため、皆は略してゼンと呼んでいた。
面倒見がいい性格なのか、新入りのモモンジーナに、書類の書き方や、任務の時の心得など、必要な世話をアレコレと焼いてくれていた。
「武器は騎士団から支給されないのか?」
なるべく金を使いたくないモモンジーナが尋ねると、ゼンは肩をすくめた。
「式典の時なんかで装備するような、揃いの物は支給されることもあるけどな。でも俺らは、それぞれ手に馴染んだ武器を使ってるからなぁ」
ゼンが言うように、皆は武器も着ている装備もバラバラだった。

通常、神殿騎士団員は、任務がない時は本部にある騎士団の控え室で経典を読んで過ごすことを義務付けられている。
だが、特別隊である彼らには、各隊にそれぞれ詰所とでも言うような小部屋が用意されていた為、皆はこちらで休息を取りつつ雑談をしていることがほとんどだった。
隊長のメイヴェルはいないことが多く、いる時はたいてい書類に向かってペンを動かしていた。
パスィリーは思慮深い男で、隊では一番の年長だったこともあり 「パスィリーが言うなら間違いない」 と、皆からの信用があった。
ゼンは声が大きく、メイヴェルにうるさいとよく言われていたが、モモンジーナとは一番気が合った。
大人しい性格のヴォルフィは黒髪で、いつもニコニコしながらみんなの話を聞いていた。
そしてシャレーリは、とにかく女の話が大好きだった。

後からモモンジーナが聞いたところによると、シャレーリはずっと前からモモンジーナのことを知っていたと言う。
シャレーリは他の隊と差をつけようと言い出し、モモンジーナをスカウトするようにと、メイヴェルに四六時中つきまとって頼んでいたのだ。
いい加減うんざりしたメイヴェルが根負けして、モモンジーナはプリズ隊の一員となるに至った。
だが、メイヴェルがモモンジーナの度胸と槍の腕前を見込んだのは事実であった。

気が短いモモンジーナは、戦闘になると真っ先に飛び出して行ってしまうため、それまで一番手だったゼンから 「俺の前に出るな!」 と毎回文句を言われた。
そして、どんな場所であろうが雑魚寝が出来たし、皆の前で平気で着替えることもあった。
「うちの紅一点には恥じらいがない」 と、ガッカリとした顔で言ったシャレーリに、モモンジーナは 「そんなものが必要か?」 と鼻で笑って返していた。
見かけはともあれ、態度や喋り方に女性を感じさせないせいか、仲間たちはモモンジーナがいても何の気を使うこともなく、どんな話も平気でしていた。
そしてモモンジーナも、それを何とも思わず聞いていたのだ。

その時もメイヴェルは控え室にはおらず、シャレーリはあの店の売り子は足首がいいだの、港で見かけた女の腰のくびれがたまらないなど、ニヤニヤしながら喋っていた。
モモンジーナは買ったばかりの安物の短剣をいじりながら聞いていたが、思い出したように口を開いた。
「そういえば昨日、猟犬横丁の辺りで隊長を見かけた。ヒュームの女と一緒だったけど・・・」
モモンジーナがそう口にすると、その場にいた仲間たちが、一斉に人差し指を口に当て 「シーッ!」 と言った。
そうしておきながら、頭を寄せ合って小声で喋り始めた。
「金髪の、キレイなコだろ?」 と真っ先に言ったのはシャレーリだ。
「私も何度か見たことがあるぞ」 とパスィリーが言うと、隣にいたヴォルフィが頷いた。
「隊長がいっつもここにいないのは、あの子に会ってるからじゃないかって、僕ら噂してるんです」
「でも隊長には、許嫁がいるからなぁ~」
ゼンが腕組みをしながらため息をついた。
「許嫁、いるの?」
訊ねたモモンジーナに、パスィリーが 「家同士のな。だが、隊長は気が進まないようだ」 と答えると、皆が一斉に頷いた。
そしてシャレーリが 「駆け落ちするなら、俺らが手助けしてやるのにな」 と言ってニヤリと笑った。
そんなシャレーリに、ヴォルフィが眉を顰めた。
「シャレーリはいっつも隊長をそそのかしてますけど、こればっかりはダメですよ! 隊長のお父上は家名が第一のお方ですから、そんなことしたら全員処刑とか言い出しかねません。それに、お相手の家だって黙ってはいないでしょうし」
ヴォルフィの言葉にゼンは頷き、「だから、この話はこの部屋以外でするんじゃないぞ?」 とモモンジーナに言った。
「あぁ~、レイルが戻って来ればなぁ。そしたらあのコとの仲を聞き出してもらえるのになぁ」
「レイルが?」
遠征に行ってしまったレイルと、隊長のメイヴェルは幼馴染の親友だと、シャレーリはモモンジーナに教えてくれた。

モモンジーナにとって、仲間たちとの雑談や訓練場で刃を交えての鍛錬は、とても楽しい時間だった。
街の巡回も、任務で出動する時の緊張も、それまでとは比べものにならないほど充実していた。
初めて出来た、気の置けない仲間たち。
年齢も近く、信頼もし合えていたとモモンジーナは思っている。
階級が全てである組織の中にいながら、彼らとの間にそれは存在していなかった。
メイヴェルのことは、従兄であるとわかった時には複雑な感情が湧きもした。
だが、そんなこだわりも、いつしか消えていたのだ。

モモンジーナが初めて任務の報告書を書いた時だった。
提出した書類を一瞥したメイヴェルに 「字が汚い」 と言われ、モモンジーナは落ち込んでいた。
字を書くことが苦手だったが、それでも精一杯丁寧に書いたつもりだったのだ。
そこへ、神殿騎士団長のクリルラが書類の束を手にしてやって来た。
ダラリと寛いでいた一同は、途端に姿勢を正して敬礼をした。
クリルラは部屋に入るなり、「メイヴェル、お前はふざけているのか!?」 と声を上げた。
皆の視線が、隊長であるメイヴェルに集まる。
そんな中、メイヴェルはいつもと変わらぬ落ち着いた態度で、「ふざけてなどおりませんが」 と答えた。
「私にはふざけているとしか思えない! 今すぐ書き直して持って来い!」
クリルラは叩きつけるように書類を置くと、靴音高く部屋を出て行った。
机の上に広がった書類を見たモモンジーナは、「なに、これ・・・」 と目を丸くしてしまった。
そこには大袈裟なほど見事なカリグラフィーが綴られていたのだ。
繊細な曲線が優美に舞い、様々な模様を織りなしている。
それはもはや、書類というよりも絵画に近い。
腹を抱えてゲラゲラと笑う仲間たちに、メイヴェルは 「クソッ、負けた」 と呟いて、ため息をつきながら書類を書き直し始めたのだ。
ポカンとしているモモンジーナに、ゼンが教えてくれた。
別の隊の隊長が、報告書に絵図をつけて提出したところ、わかりやすかったとクリルラに褒められたという。
それを聞き、「奴は字が汚いから絵で誤魔化しただけだ」 とメイヴェルが言うと、シャレーリが 「こっちも何かで対抗しよう」 と言い出したのだ。
すると、「ならば、飾り文字で書くか」 とメイヴェルが言ったのだという。
「まさか本当に書くとはな! この間っから、見回りにも行かないで書いてたのって、これか!?」
「それにしてもやりすぎだ。こんな書類、クリルラ騎士団長が受け取るわけなかろうに」
「こんなの読めませんってば。そりゃ~、ふざけてるのかって言われますよ」
「何枚あるんだ? いったい、何に情熱傾けてるんだよ。どうかしてるぜ」
言いたいことを言いながら、尚もゲラゲラ笑い続けている男たちに、メイヴェルは 「俺が書き終えるまで、お前たち帰れないからな」 と言うと、途端に笑いが消えた。
彼らは口々に文句を言い始めたが、結局メイヴェルが書き終えた書類をクリルラに提出して戻って来るまで、誰も帰りはしなかった。
当然、その後は 「隊長のおごりだ」 とゼンが言い出し、皆で獅子の泉へと行ったのだ。
モモンジーナは、この頃が一番幸せだったと思っている。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


一晩モンブロー医院で過ごし、翌朝目覚めた時には、モモンジーナはすっかりと元の体調に戻っていた。
身支度を整えていると、ミスラの子供がモモンジーナの所へとやって来た。
「伝言を頼まれたのニャ。あなたがモモンガさん?」
その名は、昨日クルクがモモンジーナをそう呼んでいた。
モモンジーナは 「そうだ」 と頷いた。
「えっと、クルクさんて人。大急ぎの用事が出来て、バルさんて人とクリスタルでどっかに行っちゃったのニャ。だから、モモンガさんはお大事にって。またね~って、言ってたニャ」
「・・・そうか・・・わかった。ありがとう」
モモンジーナが礼を言うと、ミスラの子供は手に持っていたグリーンドロップを口の中へと放り込み、「お駄賃にもらったの」 と言って笑った。

(逃げられた!)
モモンジーナはそう思った。
だがすぐに、逃げられたのは獲物にではなく時間だと思い直した。
チャンスはまだ、いくらでもある。
こうして伝言をするくらいなのだから、モモンジーナの正体に気づいたわけではないのだろう。
焦りは禁物だ。
じっくりと、機会を見極めることが必要だ。
それは気の短いモモンジーナが学んだことの一つでもある。
そうだ、時間ならたっぷりとあるのだ。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


モモンジーナの幸せな刻は、そう長くは続かなかった。
まるで雪崩に巻き込まれる悪夢のように、次々と思いもよらぬことが起こったのだ。

その緊急招集がかかったのは、プリズ隊に配属されたモモンジーナが十分に任務に慣れた頃だった。
かねてより密やかに進められていた調査で、目を付けていた人物が港の倉庫で何らかの取り引きをするという情報が入ったと、クリルラが言った。
その相手はおおよその見当がついていたが、まだ事実と呼べる証拠は一つもなく、更なる慎重な捜査が必要とされていた。
高い身分を持つ者が関わっている可能性があるために、迂闊な動きは出来なかった。
下手をすれば、逆にこちらが罪に落とされることになるかもしれないのだ。
プリズ隊の任務は、取り引き場所へ行き、誰がやって来るかを確認するというものだった。
そして可能ならば、何の受け渡しをしていたかの確認だった。
ところが、直前になって、取り引き場所が変更になったという情報が飛び込んできたのだ。
その情報を掴んできた隊員は、東ロンフォールの森にあるラングモント峠への入り口と、西ロンフォールの森の奥にある小さな建物のどちらかだと言った。
西ロンフォールにあるその建物には、出入口が一ヶ所しかなく、取り引きには不向きであるため、そちらはフェイクではないかとその隊員は意見したが、クリルラはそのどちらも囮である可能性も捨てきれないと言った。
そこで、初めに予定されていた港の倉庫と西ロンフォールの建物にはプリズ隊が二手に分かれて向かい、ラングモノト峠には別の隊が向かうことになった。

モモンジーナは、気の合うゼンと慎重派のパスィリーと3人で西ロンフォールの森にいた。
3人は建物に近づき、しばらく様子を伺うために、気配を消して濃い草陰に身を潜めていた。
ロンフォールは霧が多く、日中でも視界が悪い。
夕刻の影が伸びる頃は尚更だ。
同じ姿勢で長時間待機していることにはもう慣れたモモンジーナであったが、気が短いために待つという行為は苦手だった。
誰かがやってくる気配はなく、この場所ではなかったのだと3人が結論を出そうとしたその時、建物の中からうめき声が聞こえて来たのだ。
音を立てないように近づき、そっと中を覗いたモモンジーナが見たものは、ロープで縛られ倒れている男だった。
着ている物から、商人のようだとモモンジーナは思った。
彼女は戻ろうと、二人に合図を送った。
任務は人助けではなく、こちらの存在を知られることなく取り引きを探ることなのだ。
男のことは、王立騎士団に知らせればいい。
だが、パスィリ-が男を連れて帰ろうと手話を送って来た。
もしも取り引きに関わっている者ならば、王立騎士団に渡すわけにはいかないと思ったからだった。
パスィリーは、隊の中でも慎重すぎるほど慎重な男だった。
その彼が言うのだからと、モモンジーナとゼンは建物の中へと入って行った。

椅子1つ置かれていない、ただの四角い建物だった。
その建物の奥に、男は倒れていた。
モモンジーナが倒れていた男を抱き起そうと近づいた時、入り口の外に立っていたパスィリーが、「罠だ!」 と叫び声を上げた。
建物の外から、ガザガザと草を踏む複数の足音と、空を切る弓矢のヒュッといういくつもの音が聞こえた。
腰の剣を抜き、先に外へと飛び出したゼンの 「囲まれた!」 という声が聞こえて来た。
モモンジーナは背負っていた槍を握り、ゼンの後に続こうとした。
ところが、いきなり後ろから頭を殴打されたのだ。
視界がぶれて、足がよろめく。
振り返ると、ロープで縛られて倒れていたはずの男が、棍を手に持ち立っていたのだ。
縛られていたロープは床に落ちていた。
男は 「クリルラの狗め!」 と叫びながら、もう一度棍を振り上げた。
モモンジーナはフラつきながらも攻撃を躱し、男の腹へと槍を突き刺した。
殴られた時の衝撃で、モモンジーナの意識は朦朧としていた。
そこへ、剣を構えた男が建物の中へ入ってきた。
男はフラフラしているモモンジーナを見てニヤリと笑った。
しかし、一歩足を踏み出した姿勢のまま、前のめりに倒れたのだ。
「モモ!」 と呼ばれ顔を上げると、入り口にゼンの姿が見えた。
モモンジーナは頭から血を流し、床に膝を付いていた。
意識が遠のいていく。
その暗くなって行く視界の中で、モモンジーナは自分に向けて手を伸ばしているゼンを見た。

同じ頃、別隊もラングモント峠の入り口付近で待ち伏せに遭い、襲われていた。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


モモンジーナは、消毒薬のニオイが嫌いだった。
病院を出たモモンジーナは、体の中に溜まった消毒薬のニオイを吐き出すように、大きく深呼吸をした。
(さて、どうしようか・・・)
標的が、今はバストゥークに籍を置いていることは調べがついている。
モモンジーナがジュノの飛空艇乗り場で待っていたのは、バストゥークで飛空艇に乗るところを見つけ、クリスタルを使いジュノに先回りしていたからだ。
ならば、バストゥークで待っていれば、そのうち戻って来るだろう。
髪に付いた消毒薬のニオイを振り払うように、軽く首を振ると銀色の髪が視界を遮った。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


目を開けたモモンジーナの目の前には、憔悴しきった顔をしたメイヴェルがいた。
その隣に、目を赤くした二人の仲間が立っていた。
消毒のニオイで、そこが神殿騎士団本部にある医務室であるとモモンジーナは悟った。
「サジャーが死んだ」
ポツリと、メイヴェルが呟いた。
サジャーというのは、ラングモント峠を担当した、別隊の隊長だった。
それを聞き、モモンジーナは何が起こったのかを思い出した。
「・・・ゼンとパスィリーは?」
「・・・パスィリーは、肩に矢を受けはしたが、命に別状はない」
「・・・ゼンは?」
メイヴェルは目を伏せたまま、唇を引き結んでいる。
だが、再度尋ねれると、目を閉じ息を吐き出した後 「死んだ」 と短く告げた。
息を飲んだモモンジーナに、ヴォルフィが説明をした。
「僕らが港の倉庫に行くと、見たことない海賊崩れみたいな奴らが潜んでいるのが見えたんです。捕まえて締め上げたら、そいつらは僕らを始末するように言われて雇われた者たちだったんです」
すぐに罠だと各隊に連絡を回したが、ラングモント峠に向かったサジャーの隊と、西ロンフォールの奥へ向かったモモンジーナたち3人は、ちょうどその頃襲われていたのだ。
駆け付けたメイヴェルたちが到着すると、建物の中には倒れているモモンジーナとゼンしかいなかった。
ゼンはモモンジーナを体の下に抱くようにして倒れていたと、シャレーリが言った。
そうでなければ、針山のようになっていたのはモモンジーナも同じだっただろう。
「・・・魔法じゃ、もうどうしようもなかったんです・・・」
肩を震わせながら、ゼンはまだ息があったとヴォルフィは言った。
「モモのこと、無事かって、そう言って・・・」
「・・・うそだ・・・」
そこで、モモンジーナの意識は一旦途切れた。

モモンジーナの体には、たくさんの傷が出来ていた。
射掛けられた矢によるものだ。
殴打された時の頭の傷と、矢で出来た傷による発熱で、モモンジーナの意識は数日混沌としていた。
だがどの傷も、モモンジーナの命を奪うことは出来なかった。
ゼンの命を代償に、モモンジーナの命は守られたのだ。

モモンジーナは、ゼンのことが好きだった。
しかし、そこに恋愛感情が含まれているかと問われたら、わからないと答えただろう。
ただ、大切な存在だった。
それはゼンだけではなく、隊長を始めとするメンバー全員が、モモンジーナにとって大切な人達だった。
一発触発の言い合いをしたことも、一度や二度ではない。
だが、時に寝食を共にし、戦闘となればお互いに命を預けあってきたのだ。
その仲間たちの誰か一人でも欠けるなど、モモンジーナは考えたこともなかった。

次に意識を取り戻した時、モモンジーナのベッドの傍らにいたのはシャレーリだった。
シャレーリは、「口を開けば女の話しかしない」 と言うモモンジーナに 「他にどんないい話があるってんだい?」 とニヤニヤしながら言い返し、モモンジーナを呆れさせたことがある。
そのシャレーリが、今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。
モモンジーナが目を開けたのを見て、ほんの僅かに微笑んだが、すぐにその笑みは歪んでしまった。
そしてやっと口を開き、聞かされた言葉にモモンジーナは耳を疑った。
「パスィリー が捕まっちまった。信じられるか? あいつが密通だなんて、笑えない冗談だ」
クリルラの特別隊が動くということを、パスィリーが敵に密告したというのだ。
「バカな!」
「あぁ、バカな話だ」
「パスィリーはなんて?」
「もちろん、否定してるらしい。でも、ゼンが死んだことは、自分に責任があるって言ったらしい」
確かに、男を連れて帰ろうと言ったのは、パスィリーだった。
建物の中に入らなければ、敵の存在にもっと早く気が付いていただろうし、敵も襲っては来なかったかもしれない。
だが、パスィリーも一緒に攻撃を受けたではないかとモモンジーナが言うと、シャレーリは疲れたように首を振った。
パスィリーは騎士の泉近くで、王立騎士団の兵士に発見された。
肩に矢を受けてはいたが、まだ動くことが出来ていた。
騎士の泉から南西に進めば、そこはラテーヌ高原へと繋がっている。
パスィリーは逃げる敵を追って来たと告げたが、本当は自分も逃げるつもりだったのだろうと言われ、信じてもらえなかったのだ。
「処刑は時間の問題だろうって、噂されてる」
「そんな!」
「きっと、敵に通じてるヤツが上層にいて、圧力をかけているんだ」
「・・・隊長は!?」
「取り調べの後、謹慎くらっちまった。こっそり会いに行ったら、ボストーニュに忍び込んで、処刑の前にパスィリーを助けるって、脱走ルートを調べてたよ」
きっと、そんなことは当然だとでも言うように、いつもの淡々とした調子で言っていたのだろうとモモンジーナは想像した。
けれど、そんなことが可能だろうか? と、モモンジーナは思った。
だが、可能であろうが不可能であろうが、その時は自分も一緒にいるだろうと確信していた。

しかし、それは実行されなかった。
パスィリーは監獄の中で、自らの命を絶ったのだ。
「自分は潔白であることを名誉にかけて誓う」 と、壁に血で書かれていた。
処刑という不名誉で家を貶めることが許せなかったのだろうと、シャレーリは言った。
ヴォルフィは、ゼンが死んだ責任を感じていたのではないかとも言った。
そしてモモンジーナは、もしかしたらパスィリーは、皆が助けに来るだろうとわかっていたのかもしれないと考えた。
脱獄は重罪だ。
その罪を犯させるわけにはいかない、と。

パスィリーの死は、病死と発表された。
そして、ゼンとサジャーの死は、非番中の事故ということで処理された。
納得がいかないまま、それでもそうと口に出すことは出来なかった。

メイヴェルの謹慎が続く中、シャレーリとヴォルフィとモモンジーナに、別隊への移動命令が下された。
事実上、プリズ隊の解散だった。
モモンジーナが編入した部隊は、女であるモモンジーナをまるで腫物のように扱った。
その居心地の悪さに、以前のように控え室に行くことはなくなった。
ヒマがあれば、モモンジーナは訓練場で槍を振るっていた。
だがそうしていても、帰らぬ日々の思い出がチラついてしまうのだ。

その訃報は、突然だった。
いつものようにモモンジーナが訓練場にいると、「モモ!」 と名前を呼ばれた。
声のした方へと顔を向けると、ヴォルフィとシャレーリが走って来るのが見えた。
二人の顔を見たモモンジーナは、逃げたい気持ちに襲われた。
眉をしかめ、「なに?」 と訊ねたモモンジーナに、ヴォルフィが 「隊長が死んだって・・・」 と言って泣き出した。
「うそ!? どうして!?」
シェレーリは首を横に振ったきり、声を詰まらせて言葉が出ない。
モモンジーナは、すぐさま神殿騎士団の本部へと向かった。
が、本部は騒然としていて、何一つハッキリとしたことはわからなかった。

その日の夜、モモンジーナ達は王立騎士団のラグジーに呼び出され、メイヴェルの死の仔細を聞かされた。
メイヴェルは、許嫁のシュリーナと、弟のロディファスと一緒に、郊外にある別邸にいたと言う。
その帰り道で、オークの集団に襲われたとラグジーは言った。
モモンジーナには信じられなかった。
それは他の二人も同じだったらしく、シャレーリは 「そんなバカな」 と言い、ヴォルフィは 「オークごときに」 と呟いた。
許嫁を弟に託し、たかがオークから守るために、自ら体を張って盾になるなど、モモンジーナが知っているメイヴェルではない。
かつてパスィリーは、 「隊長には沸点がない」 と、言っていた。
任務とは関係のないおかしなことに熱中していたりすることはあっても、メイヴェルはいつも淡々飄々としていて、それは戦闘時でも変わらなかったのだ。
「いろいろあったからな。謹慎が解けたばかりで、手柄に焦っていたんじゃないかって話だ」
そう言ってラグジーは目を伏せたが、それこそありえないとモモンジーナは思った。
つい先日、モモンジーナはメイヴェルに会ったばかりだったのだ。
謹慎を解かれたメイヴェルは、教皇を警護する隊への移動を命じられたと言って、苦笑していた。
それは犯罪者を出した隊の隊長が、謹慎後に命じられるような任務ではない。
その時にモモンジーナは、なぜメイヴェルは特別隊の隊長などしていたのかと聞いたのだ。
プリズ家の嫡男であるメイヴェルであれば、もっと階級の高い役職に就けたはずである。
するとメイヴェルは、本当は神殿騎士団ではなく、王立騎士団に入りたかったのだと言った。
その理由を訊ねると、辛気臭い経典を読むのが嫌いだからだと答えていた。
そして別れ際に、「自分の道を見つけろ」 と言われたのだ。

信じようとしない3人に、ラグジーは 「遺体は今、大聖堂の安置所にある」 と教えてくれた。
もちろん3人は、すぐに向かった。
地下にある安置所に行くと、そこにはメイヴェルの弟ロディファスがいた。
厳つい顔を更に顰めているせいか、モモンジーナにはやけに老けて見えた。
一目会いたいとモモンジーナが頼んだが、ロディファスは首を横に振り無理だと言った。
遺体は損傷があまりにもひどく、布で幾重にも巻かれていると説明された。
柩の蓋はすでに封をされ、サンドリアの国章旗がかけられていた。
その上に、見慣れたメイヴェルの剣、アクリメーターが置かれていたのだ。

雨粒がジワジワと岩を浸食していくように、これは現実なのだとモモンジーナは感じるようになっていった。
いつもの控え室で、彼らと笑い合うことは、もう二度とないのだ。
出動前に隊長から 「健闘を祈る」 と声をかけられることも、「俺より先に出るんじゃねーぞ」 とゼンがニヤリと笑って見せることも、「慎重にな」 とパスィリーに肩を叩かれることも。

メイヴェルの葬儀が済んで間もなく、モモンジーナは神殿騎士団を辞めた。
サンドリアにいることが辛く、クゾッツ地方へ渡り、キャラバンなどの護衛を仕事にするようになった。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


ジュノから再びバストゥークへ戻ってきたモモンジーナは、さてどこで張っていようかと考えた。
モグハウスは鉱山区と商業区と港にあるが、クルクがどこからモグハウスに入るかなど、わかりはしない。
最近は冒険者互助会が、やたらと冒険者の便宜を図っている。
おかげで、冒険者になってから、助かることも多くなったのは事実なのだが、モモンジーナはこんな時ばかり舌打ちをするのだ。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


数日前、モモンジーナはサンドリア行きの商隊に雇われた。
それまでサンドリア方面へ行く仕事は、全て断っていた。
だが、交渉してきた男の雰囲気が、モモンジーナにゼンを思い出させた。
もういないのだとわかってはいたが、たまらなく彼らが恋しくなったのだ。
そうして戻ってみれば、サンドリアの街並みはあの頃と何も変わらず、思い出ばかりが溢れていた。
早々に去ろうと思っていたが、ヴォルフィとシャレーリに会ってからにしようと、神殿騎士団を訪ねてみたのだ。

ヴォルフィは特別隊の任務から外れ、今は神殿騎士団の本部で、書類の保管係をしていると言う。
シャレーリはどうしているかと聞いたモモンジーナに、ヴォルフィは優し気な顔を曇らせた。
「先月、死んだんです」
「え!?」
シャレーリも、メイヴェルの葬儀後に特別隊を辞め、ランペール門の警備をしていたとヴォルフィが告げた。
「何だか、少し変わってしまってね。あまり人と付き合うこともなくなっていったんです」
あの女好きだったシャレーリがと、モモンジーナは驚いた。
「でも、僕とはたまに会って話したりしていたんです。それで久しぶりに、酒でも飲もうって約束をしていたんですが、シャレーリは店に来なかったんです」
その翌日の早朝、ギルド前広場で脇腹から血を流して倒れているところを発見されたが、シャレーリはすでに絶命していた。
「犯人は捕まったのか?」
モモンジーナが尋ねると、ヴォルフィは首を振ってため息をついた。
「だけど、僕には心当たりがあるんです」
そう言って、ヴォルフィは辺りを見回すと、声を低くしてモモンジーナに告げた。
「冒険者です」


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


目の前のクリスタルが輝き、ヒュームの男とミスラが姿を現した。
二人は恋人同士のようで、腕を絡めるようにして手を繋いでいた。
「次はいつ行く?」
ミスラがそう問いかけると、ヒュームの男は 「たった今行ってきたばかりじゃないか」 と笑う。
「だってぇ~」 と甘えるようなミスラの仕草に、モモンジーナはイラついた。
二人がモグハウスへと入って行くのを見て、モモンジーナは 「気楽なものだな」 と独り言ちた。
一口に冒険者といっても、それぞれの活動は様々だ。
要は、冒険者互助会が決めた一定レベルの審査や査定を通れば、何をしていても構わないのだ。
その 「何をしていても」 には、犯罪も含まれる。
もちろん、モラルのある者ならば、悪事に手を染めるなど考えもしないだろう。
見つかれば、当然厳しい処罰がくだされるのだ。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


「冒険者の中には、依頼をされたら何だってやる、犯罪も正義もわからない輩もいるんです」
ヴォルフィはモモンジーナにそう言った。
そして、パスィリーはやはり濡れ衣を着せられたのだと告げた。
「こちらの情報を敵に流していたのは、冒険者です」
「人物の特定が出来ているのか?」
訊ねたモモンジーナに、ヴォルフィは目を見て頷いた。
「クルクという名の、タルタルの冒険者です。この冒険者は、以前にサンドリアに籍を置いていたことがあるんです。その時に王立騎士団と神殿騎士団の両団と深い繋がりが出来たようで、王家の方々とも懇意にしていたそうです」
「そんな者が、なぜ・・・?」
眉をひそめたモモンジーナに、ヴォルフィはため息をついて首を振った。
「ねぇ、モモ。僕たちはあの時、嫌っていうほど不条理を味わわされましたよね。世の中には、自分がいい思いをするなら、他人などどうなっても構わないって思う人間だっているんです」
クルクという冒険者は信頼という盾を得て、裏の組織へ情報を流しているのだと、ヴォルフィは言った。
「そこまでわかっているのなら、なぜ告発をしない!?」
「シャレーリが、証拠を手に入れたと僕に言ったんです。それを、会った時に見せてくれるはずだったのです」
「口封じをされたということか?」
「そして、証拠の品も持ち去られてしまったようです」
貴族の中にも裏の組織と通じている者たちがいて、それはたいてい私利私欲を欲しいままにしている上層部の者たちだろうとヴォルフィは言った。
「僕たちが告発をしたって、そんなもの握りつぶされて、シャレーリの二の舞になってしまいます」
「見て見ぬふりをして、泣き寝入りということか・・・」
モモンジーナは、もしもメイヴェルが生きていたらどうするだろうと考えていた。
すると、ヴォルフィ―が 「隊長の事件も、クルクが一枚噛んでいるのかもしれません」 と言い出した。
「そんな・・・どうして?」
「だって、モモだっておかしいって思ったでしょう? 隊長がオークにやられたりするはずないって」
「それは思ったけど・・・。でも、オークに襲われたのは事実だろう? 隊長の弟と許嫁がそう証言していたはずだ」
「それだって、わからないですよ」
「どういうことだ?」
「もしかしたら、隊長の弟だって、裏の組織と通じているのかもしれません。隊長は、何か知ってしまって、それで殺されてしまったのかもしれませんよ!」
「・・・しかし・・・」
モモンジーナは、気分が悪くなってきてしまった。
何もかも、あれもこれも仕組まれていたというのか?

「あの日に戻りたい・・・」
ポツリと、ヴォルフィが呟いた。
それがいつを指すのか、モモンジーナは痛いほどわかっている。
だが、もう戻れないのだ。
きっかけを作ったのがクルクという名の冒険者ならば、痛みの代償を払わせなければ、モモンジーナは気が収まらないと思った。
汚名を着せられ、自ら死を選んだパスィリーのために。
短い間だったが、居場所を作ってくれたメイヴェルのために。
危険を冒して調べてくれたシャレーリのために。
そして、命をかけて生かしてくれたゼンのために。
モモンジーナは銀色の髪をかき上げると、「私が落とし前をつけてやる」 とヴォルフィに告げたのだ。


・・・*・・・・・・*・・・・・・*・・・


淡い光を放つクリスタルから目を逸らし、モモンジーナは愛用の槍を持ち出すために、モグハウスへと足を踏み出した。
ジュノ港で見た、クルクの腰にあった格闘武器を思い出し、フッと笑う。
「指一本触れさせずに、串刺しにしてやる」
モグハウスから出て来たばかりのミスラがモモンジーナとすれ違い、ギョッとしたように立ち止まった。
「アタイのこと?」
怯えたように立ち竦んでいるミスラを無視して、モモンジーナはモグハウスへと姿を消した。




NEXT → * 「 Captivity 」 2.パール





長々しいお話、ここまで読んでいただいてありがとうです。
いきなり 「このヒト誰?」 なことになってしまいました。

んとね、クルクたちのこと、別視点で書いてみたかったの。
でも別視点で見てる人っていうのは今まで出て来てない人なわけで、そしたら当然その人のことを書かなくちゃならないわけで。
「今」 と 「過去」 を交互に進めて、最後に 「今」 に繋がるように書いてみたんだけど、そしたらこんなに長くなっちゃったw

冒険者って、国のミッションしたり、皆から色んなこと頼まれて使いっ走りみたいなことさせられたりしてるでしょ?
でもさ、頼んだ人の反対側には、そのことをよく思ってない人だっているかもしれないよね?
いいことしたな~って思ってても、それで困ってたり泣いてる人いるかもしれない。
あと、バスのミッションみたいに、知らないうちに犯罪の片棒担がされそうになってたりとか。
本人たちは気づいてないけど、一部ではすっごーく悪口言われてたりとかしてるかもよ。
でもそれだって、思い込みかもしれないし、誰かが故意に仕組んでいたりしてるのかもしれないし、ホントに偶然なのかもしれないし・・・。
そこまで考えてたら何にも出来ないけどね、リアル世界でも同じ。
そんなことを考えながら、出来たお話です。

タイトルの Captivity は、捕らわれるとかって意味。・・・のはずw
どんな人も、何かしらに捕らわれて生きてるもんね。
Lost Day's は、そのまんま。
っていうかね、英語にしとけばカッコつくだろうっていう浅知恵ですw

だけどこれ、最後にはちゃんとまとめなくちゃならないわけだけど、そしたらその後どうなっちゃうんだろ・・・?
人間関係的にw

それから、続きをこれ書いたテンションと同じに書けるかどうか・・・。

ちなみに、モモンジーナって名前は、名前決める時にレモンジーナ飲んでたんだw
で、梅の関係者だから、モモでいっか~とwww
聞き違い大魔王のクルクが 「モモンガ」 って言いやすかったのでよかったですw

次はきっと、一家側のお話です。
では、また(・▽・)ノ





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【2016/06/05 23:59】 | * クルク一家
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おもしろかったです
コウ
クルクさん、こんばんは〜。

梅さんが、クルク一家に入るまでのお話になるんでしょうか。
モモンジーナさんの、気持ちの動きがよく分かりますね。
辛い幼少→楽しかった騎士団生活→一転してどん底→復讐
この流れが、頭に入って来やすいです。

でも、倉庫の取引を、梅さん達が、取り押さえる事を漏らしたのは誰なんだろう?
ヴォルフィさんが言う通りのクルクさんでは無いですよねー。順当に考えると、取引に関わっていた、高い身分の人が、身バレするのを怖がって、プリズ隊の人を売った・・・って言うのが、順当かなあ。
しかし、ヴォルフィさんや、モモンジーナさんとか、元プリズ隊の人は、事件を詮索してると、消されそうですよね。そこを梅さんが助けるのかなあ。
クルクさんも、濡れ衣なんてぶっ飛ばせ〜!

ともあれ、面白かったです。今までのお話と、文体も違いますね。
続きが楽しみです。気長に待ちますので、ごゆっくりどうぞ。

それでは〜。

Re: おもしろかったです
クルク
コウさん、こんばんは~(・▽・)ノ

読んでいただいて、ありがとうございます(≧▽≦)
いつも 「ぼくは」 「わたしは」 という(一人称でしたっけ?^^;)書き方ばっかりだったから、今回はちょっと書きにくかったですw
客観的に書こうと思っていたのですが、書いているうちにいつもの文体になっちゃうんですよね。
それと、「現在」パートは手直しなく進められたんですけど、「過去」パートは読み返す度に書き直していました。
で、やっぱり戦闘シーンは書けないという(^_^;)

もしも、相手が悪い奴だってこと知らないまま、クルクが密告していたんだとしたら・・・。
いや、本当はクルクは、皆をだまくらかしている悪い冒険者なのかも!?
どんでん返しとか、そういうの憧れるけど、絶対に無理なので、きっとすぐネタばらしの回が来ると思いますw

一応、一家側のお話は今までの書き方にして、モモ側からは今回の書き方にしていこうかと思っています。
難しくなったら変えちゃうかもw

感想いただけるの、ホント嬉しいです!
ありがとうございます。
ボチボチ書き進めていきますので、ヨロシクです(*´▽`*)


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この記事へのコメント
おもしろかったです
クルクさん、こんばんは〜。

梅さんが、クルク一家に入るまでのお話になるんでしょうか。
モモンジーナさんの、気持ちの動きがよく分かりますね。
辛い幼少→楽しかった騎士団生活→一転してどん底→復讐
この流れが、頭に入って来やすいです。

でも、倉庫の取引を、梅さん達が、取り押さえる事を漏らしたのは誰なんだろう?
ヴォルフィさんが言う通りのクルクさんでは無いですよねー。順当に考えると、取引に関わっていた、高い身分の人が、身バレするのを怖がって、プリズ隊の人を売った・・・って言うのが、順当かなあ。
しかし、ヴォルフィさんや、モモンジーナさんとか、元プリズ隊の人は、事件を詮索してると、消されそうですよね。そこを梅さんが助けるのかなあ。
クルクさんも、濡れ衣なんてぶっ飛ばせ〜!

ともあれ、面白かったです。今までのお話と、文体も違いますね。
続きが楽しみです。気長に待ちますので、ごゆっくりどうぞ。

それでは〜。
2016/06/06(Mon) 22:58 | URL  | コウ #-[ 編集]
Re: おもしろかったです
コウさん、こんばんは~(・▽・)ノ

読んでいただいて、ありがとうございます(≧▽≦)
いつも 「ぼくは」 「わたしは」 という(一人称でしたっけ?^^;)書き方ばっかりだったから、今回はちょっと書きにくかったですw
客観的に書こうと思っていたのですが、書いているうちにいつもの文体になっちゃうんですよね。
それと、「現在」パートは手直しなく進められたんですけど、「過去」パートは読み返す度に書き直していました。
で、やっぱり戦闘シーンは書けないという(^_^;)

もしも、相手が悪い奴だってこと知らないまま、クルクが密告していたんだとしたら・・・。
いや、本当はクルクは、皆をだまくらかしている悪い冒険者なのかも!?
どんでん返しとか、そういうの憧れるけど、絶対に無理なので、きっとすぐネタばらしの回が来ると思いますw

一応、一家側のお話は今までの書き方にして、モモ側からは今回の書き方にしていこうかと思っています。
難しくなったら変えちゃうかもw

感想いただけるの、ホント嬉しいです!
ありがとうございます。
ボチボチ書き進めていきますので、ヨロシクです(*´▽`*)
2016/06/07(Tue) 00:54 | URL  | クルク #-[ 編集]
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