2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
やっぴ~、クルクです(・▽・)ノ

コウさんが、かぼすが主役のお話を書いてくれました!(≧▽≦)
自己中なかぼすのことだから、いつか何かやらかすとは思っていましたが。
まさか・・・まさか・・・!!(; ̄□ ̄)

クルク一家に明日はあるのか!?


それでは、お楽しみくださ~い(・▽・)ノ




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ミンダルシア大陸の南方に位置する、ウィンダス連邦。

先の水晶大戦では、大きな損害を被ったが、そこに住む人々の努力と、緩やかな時間の流れが、その傷を癒し、現在はアルタナ四国の中で、最も魔法の研究が盛んな、学術都市として復興を遂げている。

そのウィンダスのある昼中・・・




「はぁはぁはぁ・・・、なんだよあのミスラ、ちょっとナンパしただけじゃないか!」

息を切らしながら、走っているのは、金髪のタルタルだ。疎らに通る通行人が、驚いたように彼を見る。そのタルタル族はウィンダスを支える五院の一つである、口の院の制服を着ていた。髪型はショートで特に整 えていない。その髪が、全力で走った所為か、うっすらと汗に濡れている。舞い落ちる桜の花びらが、ぺたりとその額に張り付いた。

「・・・撒いたかな?」

金髪のタルタルは立ち止って、後ろを振り返った。

「・・・どうやら、あきらめたみた・・」

安心したのも束の間、頭上から声が降ってきた。

「カボス。逃げられはせんぞ。諦めろ。」

「うわっ!」

カボスと呼ばれた金髪のタルタルは、本当にびっくりして、飛び上がった。

「な、なんでボクの名前を知ってるのさ!っていうか、どうして襲いかかってくるんだよ!ちょっとお茶に誘っただけだろ!」

カボスは喚いた。

桜の木の枝の上に仁王立ちに立っていたミスラ族は、カボスの前に降り立った。ミスラは肌を露出させた革の鎧と、長弓、短剣を身に付けている。

「私の名前は、スカリーM。・・・この名前の意味する所は、分かるな?」

「つ、罪狩り?」

カボスはごくりと唾を飲んだ。

罪狩りのミスラとは、ミスラ本国が懸案とする事項を解決する為に存在している組織で、犯罪の取り締まりや、抑止を行う。が、問題を解決する為に苛烈な方法を取ることも有名で、恐れられている。

「罪狩りが、ボクに何の用さ?ボクはミスラじゃないぞ。」

カボスは胸を張って言った。

スカリーMは目を細めてカボスを見た。

「近頃各所から報告が上がって来ていてな?意識不明で発見されるミスラが続出しているそうだ。彼女らに、よくよく話を聞いてみると、魔導士を名乗るタルタルの実験に協力したとの事。幸い彼女らに何事もなかったから、良かったものの・・・。心当たりがあるだろう?」

スカリーMの言葉に内心汗をかきながら、平静な表情を保ってカボスは言った。

「それは、ボクが彼女達に仕事として依頼したんだ。ちゃんと報酬も渡してるよ。」

「仕事と名を付ければ、何をして良いわけではない。兎に角この件について、何らかの裁きが下される。私と一緒に来てもらおう。」

スカリーMは一歩カボスの方に近づいた。

カボスは逆に一歩下がる。同時に後ろ手で、常に携帯している呪符を起動していた。

「悪いけど、また今度ね。次はお茶が出来るといいな。」

そう嘯くと、魔力の輝きと共に、カボスの身体は、スカリーMの前から掻き消えていた。




話を前に戻そう。

口の院の研修生であるカボスは、元から口の院に在籍していた訳ではなかった。未来の世界から、妹を助ける為に次元移動して来たカボスは、始めはバストゥーク共和国で魔符屋(呪符や護符を総称してカボスが名付けたもの)を営んでおり、彼と仲が良い?ヒュームとミスラのカップルと毎日の様にすったもんだしながら、平穏な日々を送っていた。

だが、いつしかカボスはある夢を見る様になった。それは、彼のトラウマにもなっている、親しい人間達の事故についてだった。

何故親しい人間が事故に巻き込まれると分かっているかというと、次元移動をした際、空間と共に時間をも遡ったので、今のカボスから見れば、その事故は未来に起きる出来事なのだ。

事故は2回起こる。

妹のサンラーの分と、ヒュームとミスラのカップルの分だ。

カボスの記憶だと、それぞれが起こる日時は、もっと何年も先のはずだ。だが、その事故がまるで明日起こる様な夢をみるのだ。

それも何回も。

カボスは未来の世界で口の院の研修生だった時に得た知識を使って考え抜いたが、夢と事故の因果関係を立証する事はできなかった。

しかし、カボスが次元移動をした事実と何らかの関係はある様には思えた。

そこで、一時魔符屋を休業し、現在の世界で、再び口の院で学びなおす事に決めたのだ。通常なら五院の途中編入等不可能なのだが、カボス達を 取りまとめる、一家のボス、冒険者クルクに相談すると、院長のアジドマルジドに口を聞いてくれた。なんでも以前の冒険で面識があったそうだ。こうしてカボスは再び口の院の研修生になる事が出来た。最も、始めクルクに相談した時、研修生になりたい理由としては、

「魔術の知識をもっと増やして、強力な呪符や薬品を作れる様になりたい」

という事にしておいたが。

次元移動については、未来の世界でも不確定な技術で、とても実用段階と言えたものではない。今の世界でカボスの由来が広まってしまうと、どんなパラドックスが起こるか分からないのだ。

それこそ、カボスが回避したい事故が、絶対に起こってしまう・・・という事もあるかも知れない。

だから、真実は語れない。

そんな緊張感を持って、カボスはクルクに依頼をしたのだが、その返事は、

「いいよ~。アジド院長に話してあげる。でもカボちゃん、意外と真面目だねぇ。もっと適当かと思ってた。」

という、なんとも肩透かしするような言葉だった。

ともあれ、カボスの願いは叶った訳だが、悪いクセが出て、冒頭に至った訳である。いや、日頃の行いが悪かったというべきか・・・。




「やぁれ、やれだね。」と独り言を言いながら、カボスは借りているモグハウスの中の、ソファーにどさりと腰を下ろした。

先程使った呪符で、自宅まで戻ったのだ。

モグハウスを管理する、モーグリが飲み物を運んでくる。

「何かあったクポ?・・・ まさか、またご主人様、悪い事を?」

カボスは、モーグリから飲み物の入ったマグカップをひったくり、縫いぐるみの様な、白い生き物を睨みつけた。

「悪い事ってなんだよ?悪い事って。ボクは善良な口の院の研修生だぞ?おかしな事を言うな。」

そう言って、飲み物を飲んだ。冷えたウィンダスティーだったが、走った後の喉には心地良い。

「でもクポ・・・」

「なんだよ?」

「マリ・ジャイカちゃんを薬で眠らしたりとか・・・」

「あれは、合成した薬が、効きすぎたんだ。」

「ハンナ・アルルちゃんを裸に剥いたりとか・・・」

「装備変更の呪文の実験だな。」

「ローナ・ハズトちゃんを箱詰めでサンドリアに送ったりとか・ ・・」

「本人がサンドリアに行きたいって言ったんだ。」

「他にも・・・」

カボスはさり気なく、モーグリから目を逸らして、飲み物に集中するふりをした。

・・・何というか、罪狩りのミスラに追われるのが納得の素行であった。カボス本人にも自覚はある様ではある。

「ご主人様は、どうして魔術の実験に、女の子を使うクポか?それもおかしな目で見られる原因の様な気がするクポ。」

モーグリの問いかけを、カボスは聞こえないふりをした。モーグリは溜息をついて、他の部屋に行ってしまった。

(そんなの、カワイイに決まってるからじゃないか。)

カボスは内心、そう呟いた。

無類の女好きという事だろうか。

「ま、そんな事はともかく。」

カボスは、気分を変える為に、口に出して言った。

(あの、スカリーMってヤツ、面倒だなぁ。)

考えは、そこに戻る。罪狩りのミスラは、非常に優秀なハンターの為、目を付けられた人間で、逃げ切れたものは多くない。

(でも、0って訳じゃないんだよね)

誰か強力な後ろ盾を付けて話を付けてもらうか、はたまた誰かにやった事を擦りつけるか。割とあざとい事も考えたが、妙案は浮かばない。カボスはこの件はとりあえず、置いておく事にした。次にスカリーMに出くわしたら、また逃げる事になるが。




(それよりも、やる事があったんだった)

カボスは、強力な魔法を使えるという意味では、あまり才能がある魔導士とは言えなかった 。だが、いわゆる天才肌で、魔術についての知識と理論はかなりのレベルに達していた。その知識を用いた、物品への魔力付与、即ち呪符や薬品の合成は得意である。

先日、口の院で、自分で合成した薬品を運んでいたところ、たまたま口の院を訪れていた、前院長のシャントット博士がそれを目ざとく見つけた。

シャントットはカボスを呼び止めた。

「あ~ら、子鼠ちゃん。ちょっとお待ちなさいな。」

シャントットはカボスにつかつかと近づくと、カボスが運ぶ木の箱に入った、幾つもの薬品を一つづつ確かめた。

「子鼠ちゃん。これはあなたが作ったの?」

頷くカボスに、シャントットは頬に手を当てながら言った。

「子鼠にしては、なかなか良い薬を作りますわね。・・・アジドマルジド、この子鼠に魔力回復の薬を作らせて、持ってきなさい。」

シャントットは、傍にいた口の院の現院長、アジドマルジドにそう命ずると、高笑いをしながら去って行った。

その薬が昨日完成したのだ。

カボスは早速、薬品をシャントット博士の自宅に持って行こうとしていた。

(そうだ。うまく取り入れば、後ろ盾になって貰えるかもしれないな)

カボスは都合のいい事を考えた。だが、確かにシャントット博士が後ろ盾になれば、罪狩りのミスラとて、カボスに手は出せないだろう。

なにせ、ウィンダス連邦の主席元老院議員なのである。実質的なウィンダスNo2だ。

(そうなれば、問題は全部解決だね)

カボスは、自分が作った薬品の質には、自信があった。確かに、シャントット博士御用達の調剤師という事になれば、あながちカボスの願望も間違ってはいない。罪狩りのミスラも、おいそれとはカボスに手は出せないだろう。

(良し。そうとなれば早速薬品を届けよう)

カボスはとうに中身を飲み終えたマグカップをテーブルの上に置き、ソファから立ち上がった。




モグハウスを出発したカボスは、ウィンダス港から、石の区に向かって歩き始めた。カボスのモグハウスは、口の院の近くのウィンダス港にある。行き先のシャントット邸は石の区の東側だ。

エーテルという名で呼ばれる、魔力回復薬が入った鞄を背負い、カボスはゆっくりと石の区に向かって北に歩いて行った。

ちなみに、先程罪狩りのミスラに遭遇したのは、水の区だ。呪符で瞬間移動したので、そんなに簡単には移動先を特定できないだろうが、そこは名高き「罪狩りのミスラ」である。油断はできない。口の院からの帰りともあって、制服を着ていたのもまずかった。

ともあれ今は、薬を満載した鞄を背負っているので、先程のように走って逃げる事も出来ない。罪狩りのミスラに出会わないよう、運を天に任せながら、歩いて行く他は無かった。

だが、半刻ほど歩いても、罪狩りのミスラに遭遇する事は無かった。ウィンダスはジュノ大公国等に比べても田舎である。カボスとすれ違う人は、むしろ少ないと言って良かった。やがて石の区が見えた。星の神子の御座所である天の塔が間近に見える。

石の区は、全体が湖と呼べる規模の水に覆われている。大きな橋が縦横に走って、天の塔や博士達の家々に通じている。

カボスは、シャントット邸の場所は把握していたので、迷わず東の道を進んだ。少しすると一軒の家が目の前に現れた。

シャントット博士は、元老院公邸に住んでいるので、家自体は中々立派な建物である。

門に呼び鈴があったので、カボスは迷わずそれを押した。どこかで、ジリリリというベルの音が響いた。

「・・・」カボスは待ったが、応答が無い。




もう一度押す。・・・応答が無い。




もう一度押す。・・・応答が無い。




もう一度・・・







「うるさいっ!」

急に耳元で大声で喚かれた。

「うわっ!」

カボスはびっくりして飛び上がった。

「何度も鳴らさなくとも、分かってますわ!今、魔法の実験で手が放せないんですの。用があるなら、鍵はかかってませんので入って来なさいな。」

耳元でもう一度喚かれ、声はぶつりと切れた。何らかの魔法的な仕掛けらしい。

「・・・ちぇ。」思わずカボスは舌打ちした。噂に違わず、シャントット博士は多忙らしい。

気をとり直して、カボスは門を開け、敷地の中に入って行った。更に玄関の扉を開けて、邸内に入る。流石に玄関の扉を開けるときは、若干気後れしたが、館の主人が良いと言っているのである。気にしない事にした。

邸内は雑多としていた。

そこかしこに魔法書や、何だか良く分からない装置が積み上げられ、広いわりには足の踏み場も無い。うっかりすると、そこらのものが崩れ落ちて来そうである。

カボスはキョロキョロしながら、邸内を進んで行った。それにしても、博士は何処にいるんだろう・・・。

「あ~ら。あなた、何の御用かしら?」

不意に後ろから声がした。

カボスはまたまたびっくりして、飛び上がった。よくよく人を驚かせるのが、好きな人らしい。いや、わざとやっている訳でもないのだろうが。

カボスは慌てて振り返った。

そこには、黒を基調とした連邦軍師制式装備を身に付けた、シャントット博士が立っていた。所謂ウィンダス連邦の軍人、軍属に支給される制服で、元老院議員としては、自宅でも気が抜けないという事だろうか。まぁ、邸内はほぼゴミ屋敷・・・いや、雑然としているのではあるが。

カボスは一礼をして、話し出した。

「ボクはカボスといいます。数日前に口の院で、魔力回復薬の作成のご依頼をいただきまして、本日お待ちしました。」

それを聞いて、シャントット博士は考える風である。

「魔力回復薬、魔力回復薬・・・何だったかしらね。ああ・・・」

シャントット博士は何か思い出した様子だったが、何処かの部屋で、「ボンッ!」という音が響いた。

「あ~ら。いけませんわ。魔法装置に魔力を供給しっ放しだったですわ。あなた、何か持って来たのだったら、そこへ置いておきなさいな。」

と一方的に喋ると、 搔き消える様に消えてしまった。シャントット博士は自宅内でも、転移魔法を使うらしい。

カボスは唖然とした。シャントット博士は、薬を注文した事も忘れてるらしい。これでは後ろ盾になってもらうどころではない。

「あ~あ。ついてないや。」カボスは独りごちた。しばらく待っても、シャントット博士は帰って来そうもない。言われた通り、薬を置いて帰ろうかと思って、背負っていた薬の入った鞄を床に下ろそうとした。だが、周囲に積まれた魔法書の山に、鞄が当たってしまい、本の山が一つ崩れてしまった。

「ホントについてないな・・・」

ぶつぶつ言いながら、カボスはとりあえず、下ろしかけの鞄を床に降ろし、本を積み直し始めた。

本を積み直し始める と、嫌でも題名が目に付く。

曰く「神獣と魔法」

曰く「精霊魔法の奥義」

曰く「ふりしぼれ!」

曰く「料理と魔力向上」

曰く「モテる女になるためには」

若干、?な本も混じっているが、どれも貴重そうな魔法書ばかりである。それが、こんな無造作に、床に積んであって良いんだろうかと思ったが、その中で一冊の魔法書がカボスの目を引いた。

題名は、「次元移動の考察と、その運用」と書いてあった。

「これは・・・」

カボスは改めて、魔法書を調べた。

分厚い装丁の魔法書で、題名は手書きである。本を開こうと思ったが、魔力で錠がかけてある。カボスは記憶を探った。この世界のシャントット博士とは、ほぼ初対面だが、 未来の世界では、両親と親しかった人物である。カボスも小さい頃から、未来の世界のシャントット邸には頻繁に出入りをしていた。その関係で、シャントット博士の個人的な情報もかなり把握している。・・・あくまで、未来の世界のシャントット博士の情報をだが。

「・・・■ ■ ■。」

考えた末に、3つの言葉を唱えると。カチャリと音がして魔力錠が外れた。

どうやら、合っていたようだ。

カボスはページを捲って行く。難解な文章が多くて完全に読み解く事は、難しかったが、何とか概要は把握できた。次第に手が震えてくる。シャントット博士は、別の世界への移動を実用化していた。それのみならず、次元移動をした後の、移動者が移動後の世界に与える影響まで、考察してある。実体験談も記載されているようだ。

正に、これこそ求めていた本だ。

カボスは本を閉じた。カボスの思考はどうやってこの本を手に入れるかにシフトしていた。

普通に貸して下さいとお願いしても、おそらく貸してはくれないだろう。無造作に床に積んではあっても、これだけの内容である。普通なら五院の禁書として、封印されていて然るべきだ。シャントット博士は自身によほど自信があるのだろう。自分が管理していれば、漏洩はないと思っているのだ。

では、他にこの本を手に入れる方法はあるのか・・・。

この本があれば、いつも頭の片隅にある、あの事故を確実に防げるかもしれないのだ。

カボスの目が妖しく光った。




数刻が 過ぎた。

暴走した魔法装置の後始末を終えたシャントットは、途中になっていたカボスとの会話を思い出し、邸内のカボスと会った場所に瞬間移動した。

「オ~ホホホ~。お待たせしましたわね。思い出しましたわ。あなた、アジドマルジドの所にいた・・・」

ここまで喋って、シャントットは、目の前にカボスがいない事に気付き、キョロキョロと周りを見渡した。

足元に鞄がぽつんと置かれているだけである。シャントットは、鞄を開けてみた。すると中には、布で丁寧に包まれた、薬瓶が10ばかり入っていた。

「これは・・・エーテルですわね。・・・中々の良品。さて、礼の1つも差し上げねばなりませんが、あの子鼠はどこに?」

シャントットはもう一度周りを見渡したが、人影はない。

シャントット博士は、声を張り上げた。

「キング!キング・オブ・ハーツ!何処にいるの!すぐ来なさい!」

すると、機械音をさせながら、一体のカーディアンが現れた。魔導人形である。タルタル族の2倍以上の体格を持っているが、器用に床に積み上げられた、本や魔法装置を避けてくる。足の代わりに取り付けられた、車輪を止めて、キング・オブ・ハーツはシャントットの前で止まった。

「ゴヨウデスカ★ゴシュジンサマ」

その独特の喋り方に被せるように、シャントットは言った。

「邸内にいた子鼠は、何処へ行ったの?」

その曖昧な言葉でも、キング・オブ・ハーツは意図を理解したようで、

「ライホウ★シタ★ジンブツ★ナラ★サンジカンマエ二★キタク★シマシタ」

と答えた。

「あら、まぁ。そんなに時間が経っていたとは。・・・礼なら、アジドマルジドに言付ければ良いかしらね。」

シャントットが肩をすくめると、キング・オブ・ハーツは続けて報告した。

「ソノサイ★ソノジンブツハ★テイナイノモノヲ★モチダシタ★ケイセキガ★アリマス」

シャントットは、片眉を上げた。

「・・・何ですって?キング、邸内の物品をスキャン。報告しなさい。」

ガ~、ピ~と動作音をさせながらキング・オブ・ハーツは答えた。

「ゲンザイノ★テイナイノ★ビヒン★ノソウスウハ・・・」

「要点だけおっしゃい!」

「カシダシヲ★シテイル★イガイノ★ビヒンデ★ショザイガ★フメイノ★モノガ★アリマス」

シャントットは、爪先でトントンと床を叩きながら言った。

「それは何?」

「マドウショデス★ダイメイハ★ジゲンイドウノコウサツト、ソノウンヨウ★デス。」

シャントットの爪先がピタリと止まった。

「何ですってぇ~。」

シャントットは驚いた。持ち出された魔導書は、危険な技術が相当数記載してあるのである。普通の人間なら読む事も出来ないが、一定レベル以上の魔導士なら使う事が出来てしまうかもしれない。そして使えば、下手をすれば次元間の扉が出来、お互い干渉した挙句滅亡という可能性もある。

それにどうやって邸外に持ち出したのだ。あれには魔法錠がかけてあったはずだ。そして魔法錠が掛かったままの状態では、キング・オブ・ハーツのセンサーにひっかかる為、邸外への持ち出しは、不可能なのである。

ということは、あの子鼠は、魔法錠を外した事になる。

(一体どうやって・・・)

シャントットは首を振った。それは子鼠を捕まえてから、聞き出せば良い事だ。

シャントットは、無意識のうちに周囲に魔力を吹き出しながら言った。周りの積み上げられた本がバラバラと散らばる。

「わたくし、ブチ切れますわよ!」

シャントットの周囲に魔力の嵐が吹き荒れた。




シャントット博士の怒りが頂点に達している時、カボスは既にウィンダス連邦にはいなかった。現在居るのはジュノ大公国である。
(いや~。流石にウィンダスにいるのはヤバいよね。シャントット博士になら直ぐに見つかってしまうんじゃないかな)
カボスは、ジュノ大公国の空中庭園である、ル・ルデの庭のウィンダス大使館の近くのベンチに座って、近くの露店で買った、ウルラガンミルクとチーズサンドイッチを頬張っていた。シャントット邸から持ち出した魔導書が、カボスの思った通りの価値があるのなら、各国の大使館に連絡が行くレベルの物であるはずだろうからだ。逆に言うなら、大使館に動きがないなら、あの魔導書は、カボスが想像したものと違うという事になる。

コクのある、ウルラガンミルクを飲みながら、カボスは手元の羊皮紙に目を通していた。それは持ち出した、次元移動の魔導書を書き写した物であった。カボス謹製の写本する為の魔法のペン、「かきうつしくん」を使って、魔導書の半分程は、数十枚の羊皮紙に書き写していた。本当は全部書き移すつもりだったが、時間が限られていたのと、魔導書の魔力の影響か、「かきうつしくん」が壊れてしまったのだ。仕方ないので、書き写しができた分だけを、鞄に入れて持って来ている。ちなみに魔導書は安全な場所に保管してある。その写しを読みながら、ウィンダス大使館の様子を窺っていたのだが、魔導書の写しの内容が衝撃的すぎて、監視の方はそぞろであった。

魔導書曰く、未来に起こるべき事件を、完全に回避するのは非常に難しいと言うのである。これは日々起こる事柄が、起こるべきして起こっている為で、これを変えようとすると 、別の形で同様の事柄が起こると言うのである。分かりやすく言うと、ギルの入った財布を落とす事が、事前に分かっていたとして、落とさないようにしたとしても、近い未来に、別の場所で財布を落とすか、または、同額を何かに使ってしまうと言うのである。つまり、自分からギルが離れるのは防ぐ事はできないと。

「時間の修復作用」と魔導書には書いてあった。これが事実ならば、カボスが防ぎたい事故は防げないという事になる。カボスは呆然として、道行く人々を眺めた。ガルガやエルヴァーン等、色々な種族の人間が歩いている。

(だけど、諦める訳にはいかないんだ)

カボスは強く思った。幼い日に失った物を、また失う訳にはいかない。今ある大事な物も、失くすわけには行かない。

(何か方法があるはずなんだ。何か・・・)

その為には魔導書を読み解く時間がいる。カボスが物思いに耽っていると、不意にウィンダス大使館の動きが激しくなった。人が慌ただしく出入りを始め、時折開けられる扉からは、声高に話す大使館員の姿が見える。

(気付かれた・・・いや始まったね。)

カボスはベンチから立ち上がった。パン屑を払い、歩き出す。

(とりあえず、何処かに引きこもって、魔導書の解析だね。でも、いつ襲われるか分からないから、護衛がいる)

そう考えて、カボスは冒険者互助会の方へ向かった。




冒険者互助会の建物は、ル・ルデの庭の西側にあった。ヴァナ・ディールの世界に多数いる冒険者を統括する組織の建物としては、こじんまりとしている。カボスが先程見張っていた、ウィンダスの大使館の方が余程立派だ。カボスは、目ただない為に、飾り気のない白いローブを着ていた。その所為か、大使館からこちら、誰にも見咎められなかった。ジュノ大公国には、白いローブを着たタルタルなど、掃いて捨てるほどいたからだ。

互助会の建物の扉を開けると、人は疎らだった。受付に互助会の人間と、奥の張り紙が沢山貼られている掲示板の所に、4・5人の人影が見えるばかりだ。

カボスは、互助会に来た事は無かったが、知識だけはあったので、冒険者に正式に護衛を頼むには、受付に行って依頼を出さなければならないと知ってはいた。

だが、追われている身である。正式な依頼など出せるはずもない。そこでカボスは掲示板の所に行った。掲示板には様々な所からの依頼が貼ってある。冒険者は内容を見定めて、依頼を受ける。そこには5人の人間がいた。ガルガと2人のヒュームはパーティらしく、声高にどの依頼を受けるか話し合っていた。後2人は、エルヴァーンの男とタルタルの女で、それぞれ思案する顔つきで、貼られている用紙を見つめている。

(どっちが良いかなぁ。まあ、一緒にいて楽しいのは女の子だね。男はむさいしさ)

カボスは声をかける冒険者を選ぶのに勝手なことを考えていた。そして、金とオレンジの髪をポニーテールにしたタルタルの女に声をかけた。

「ちょっと良いかな?」

「はい?」

タルタルの女はびっくりした様子で振り返り、カボ スを見た。

「急ぎで護衛を探しているんだけど、君、雇われる気はない?」

「ああ。そうなんですか。」タルタルの女はどうしようかと迷う表情で、カボスを見つめた。

「良ければ、仕事の内容と、報酬を説明するから、お茶でも飲まないかい?」

タルタルの女は、迷っていたが、やがて肩を竦めて、

「いいですよ。」

と言った。

「それはよかった。ボクの名前はユズ。君は?」

偽名を使ったカボスに、疑う事なくタルタルの女は名乗った。

「あたしはユファファって言います。」




一方ウィンダスのとあるモグハウスでは、騒ぎが起きていた。

「せ、先生!?ど、どうしましょう?」

栗色の髪を短いツインテ ールにしたタルタルの女の子が、エルヴァーンの男性にまくし立てていた。

「落ち着け。」

エルヴァーンの男性は、実際に落ち着いた口調で言った。

「お、落ち着けって言われても、お兄ちゃんが指名手配されたんですよ!?」

この2人は、クルク一家のメンバーで、ウメとサンラーと言った。カボスの妹のサンラーが言う通り、カボスは魔術書を持ち出した数日後には、各国に指名手配されていた。罪状は、「機密文書窃盗」だ。サンラーが喚くのも無理からぬ事ではある。

「ど、どうしよう・・・」

落ち着かなげに、モグハウスの中を行ったり来たりするサンラーを横目で見たウメは、ゆっくりと立ち上がった。

帯刀し、出かける準備をするウメを見て、サンラーは、

「先生!?何処に出かけるんですか!?」

と叫んだ。

「落ち着けと言っただろう。事の次第を確かめてくる。後、クルたんにも相談しなければな。・・・ここで待っていなさい。」

「なら、私も・・・」

言いかけたサンラーだったが、ウメが目を向けると、しゅんとなった。自分が足手まといになる事を思い出したのだ。

「暫くかかる。悪いようにはならない。落ち着いて待っていなさい。」

そう言い残して、ウメは自分のモグハウスを出立した。サンラーの祈るような視線を背に受けて。




そんな妹の嘆きをよそに、カボスは精力的に魔導書の解読を進めていた。隠れ家にしているのは、ウルガラン山脈の中腹にある洞窟の1つだ 。ル・ルデの庭で飲んだ、ウルガランミルクから思いついたので、足が付きにくいだろう。既にここに篭ってから2週間が経過している。カボスは逃走に当たって、幾つかの準備をしていた。その1つが魂石と呼ばれる特殊な魔法の石の散布である。シャントット博士、いやウィンダス連邦が自分を探索する際、自分の魔力の波動を探知するシステムを使う事は、容易に想像できた。そこで魂石に自分の魔力を込めて、競売に格安で放出したのである。元々、魂石は魔術の実験用に、大量に備蓄してあった。競売に売り出された魂石は、瞬く間に多数の冒険者に買い取られ、カボスの発見を阻害した。魂石は冒険者の装備品の強化に使われるものなので、いつかは使われて無くなってしまうだろうが、まだまだ時間稼ぎはできそうだった。

「ユズさん。今戻りました。」

洞窟の入り口付近から声がした。護衛に雇った冒険者のユファファだ。結局、彼女を互助会から連れ出し、1ヶ月更新で護衛の仕事をする事を了承させた。自分は魔導士で、難解な魔導書を読み解き、論文を発表するつもりという事にしてある。その間、ライバルから妨害があるかも知れないので、護衛を頼みたいと。正式に互助会を通して依頼しないのは、そのライバルに知られたくないからだとも説明し、高額な護衛料をも提示して、迷っていたユファファを説得した。

(ウソをつくときは、本当の事と混ぜて言うのが鉄則だよね)

等と、心の中でほくそ笑むカボスは、魔導書の解析をしている奥の空間から出て、ユファファを出迎えた。

「ご苦労様。何も異常はなかったかい」

ユファファは、肩に担いでいた、雪ウサギを洞窟の床に下ろしながら、頷いた。

「魔物が数匹うろついてましたけど、こちらに近づいてくる様子はないようです。お仕事が良ければ、このウサギを捌いて夕食にしますけど、良いですか?」

ユファファは、雪の被ったマントを脱ぎながら言った。ウルガラン山脈は北方で、春になったこの時期でも、まだ雪が散らつく。洞窟の中は、即席の暖炉の様な物が組まれていて、暖かい。マントの雪も、直ぐ水滴になった。この暖炉はカボスが組み立てたものだ。

「いやー。ワルイね。護衛の仕事以外にも、家事もやらせちゃって。」

カボスの言葉に、ユファファはにこりと笑って 、

「良いですよ。高い料金を貰ってますから、これぐらいは全然。」

「ユファちゃん、いいお嫁さんになるね。」

ユファは再びにこりと笑い。

「ありがとうございます。じゃあ、仕込みを始めますね。」

と言って、キッチンの代わりにしている、石の台の所に、ウサギを持って行った。

カボスは、洞窟の自室に戻りながら、

(いやいや、あのコは拾い物だな。腕もそれなりに立つし、気も効くし、なんと言ってもカワイイよね。あのコと付き合うのもいいな)

等と、現在の追い込まれた状況にそぐわない、緩い考えに浸った。

だが、魔導書を前にすると、自然と考えが引き締まった。

(さて・・・)

問題は、「時間の修復作用」をどう回避するかである。魔導書を読み解いて、カボスは1つの仮説に達していた。

1つの強力な護符を作るのである。それは「時間の修復作用」を防ぐ為の、防御フィールドを常に展開していて、修復作用の自身への働きを無効化する。この護符を持った状態で、未来を変えるアクションを起こすのである。そうすれば未来は変えられる。ずっと護符を持っていなければならないが、身体から離れない様な効果も付与しておくと良いだろう。呪符や護符を作成するのが得意なカボスならではのアイデアと言えた。

護符を作成する為の魔力回路は比較的簡単だが、問題は護符の魔力の供給源である。時間の流れに逆らおうとするのだから、膨大な魔力が必要で、量的に言えば、互助会が設置した、拠点間移動用のクリスタルでも全然足りないだろう。

(どうしようかな)

カボスは更に考える。ぱっと思いつくだけでも、地脈を利用するとか、神獣の力を借りるとか、他にも幾つか魔力の供給源はあった。

(だけど・・・)

護符と供給源を繋ぐ方法が解らない。それは護符自体を作る技術とはまた別物で、カボスの手に余るものだった。

煮詰まった状態で時間が過ぎていく。ここから先は、もっと知識と能力がある魔導士の助けが必要である。そう、例えばアジドマルジド院長や、シャントット博士の様な、だ。だが、勿論それはできない。シャントット博士の魔導書を無断で持ち出したのだから。

宙を睨むカボスの鼻に、香ばしい香りが漂ってきた。どうやら夕飯が出来たらしい。カボスは魔導書を閉じて、洞窟内の自室を出た。

夕飯は野兎のグリルだった。スパイスの効いた香ばしい香りが洞窟内に漂っている。ユファはナイフで肉を切り分けながら、

「あ、ユズさん。呼びに行こうと思ってました。どうぞ座って下さい。」

と言った。

「美味そうだね。」

カボスは口の中に唾が沸くのを覚えながら、椅子の代わりの石に座った。

上面が比較的平らな大きい岩が、テーブルの代わりだ。

携帯用の金属製の皿に盛られた肉とパン、同じく金属製のコップに入った水が、目の前に置かれた。

「じゃあ、いただきます。」

「いただきます。」

2人は口々に言ってから、食べ始めた。

「ユファちゃん、ホント料理上手だよね。」

カボスは肉を頬張りながら言った。実際に美味しい。肉はジューシーだし、皮はパリッと焼けている。

ユファは照れくさそうに笑いながら、

「普通ですよ。しばらく冒険者の師匠のところで住み込んでたんで、その時覚えました。」

と言った。

「ああ、コウって冒険者だね。」とカボスは頷いた。

ユファと話をする都度、度々出てきた名前だ。初めは軽く相槌を打っていたが、最近はその名前を聞くと、妙な気分になる。

(これって嫉妬?・・・まさかねー)
自慢ではないが、カボスは女性に不自由した事はない。口八丁手八丁で、様々な女をモノにしてきた。その為、この感情を嫉妬と認めるのは、いささか抵抗がある。
ユファの話好きもあってか、食事の時の話題は、大抵彼女の冒険談が多い。そして話を聞いてみると、どうやらユファは、クルク一家のバルファルとも知り合いらしい。

(世間って、存外狭いんだな)

そんな考えが頭をよぎるが、カボスから見て幼稚なバルファルは、ユファに手を出してはいないだろう。

(まあ、手を出してもらっても困るんだけどさ)

バルファルの相手はクルクでないと困る。そうでないと自分は・・・

「ユズさん、聞いてます?」

ちょっと身を乗り出し気味に見つめられて、カボスは焦った。どうやら柄にもなく女性と会話中に自分の考えに耽ってしまったようだ。

「・・・ごめんよ。研究のことが気になって・・・」

咄嗟にごまかした。

ユファは頷き、進み具合はどうか?と聞いてきた。

「そうだね・・・」

ユファの事は気に入っているが、次元移動や時間の修復作用について語っても、分かるとは思えなかった。だがまあ、掻い摘んで話してみる事にする。

案の定、ユファは分かったような分からないような、微妙な表情をした。

「時間の修復作用を逃れる方法ですか・・・ユズさんの研究って難しいんですね。」

・・・感心されてしまった。だが、軽く尊敬のニュアンスを感じるので、気分は悪くない。

「より上位の魔導士に相談すれば良いんだけど、研究のライバルに情報が行くかも知れないので、ちょっとね・・・」

始めにユファにしたウソの説明を混ぜて、誤魔化しておく。

なるほど・・・と相槌を打ったユファだったが、思いついた様に言った。

「じゃあ、魔導に詳しい冒険者に聞いたらどうですか?」

虚を突かれた。

少しして、我に返ってカボスは言った。

「詳しい人を知ってるの?」

ユファは少し困った様子で、

「あたし、冒険者としては駆け出しだから、知り合いとかあんまりいないんですけど、コウなら・・・」

と言った。はっきりした事が言えなくて、申し訳ない様な感じだ。

その様子にほのぼのとした感情を覚えながら、しかしカボスは、

(また、コウって奴か)

と思った。だが、考え自体は悪くない。

(そうか、魔導士は連邦直属の人間だけじゃない。在野にもいたんだ)

思いつかなかった。だが院長や博士程の人材がいるかどうか・・・

「・・・そうだね。じゃあ、よかったらユファちゃんの師匠を紹介してくれないかな。」

カボスは考えた末に、そう言った。

ユファは頷き、

「いいです・・・」

と言いかけて、固まった。そしてカボスに言い直した。

「ユズさん、誰か来ます。念の為に直ぐここを出られるようにして下さい。」

そして、壁に立てかけておいた剣を手に取る。

カボスは驚いて、

「誰が・・・」

言いかけたが、 ユファは自分の唇に指を当てて、

「静かに。急いで。」

と小声で言った。

カボスには全く何の気配も感じられなかったが、ユファには分かるらしい。

カボスは慌てて、洞窟の自室に駆け込んだ。




ユファは、そうっと洞窟の入口から外の様子を探った。もう陽は沈み、月明かりを地面に積もった雪が反射している。その為、夜でも結構明るい。

ユファは辺りを見渡したが、先程感じた気配を感じ取る事は出来なかった。

(隠れてるのかな)

感じた気配は1つだけだった。だが明白に敵意を感じたので、どこかに潜んで、こちらの隙を伺っているのかもしれない。

1歩外に踏み出す。さくりと雪を踏みしめると同時に、ヒュッという音が鳴っ た。

咄嗟に横に飛び退くと、ユファがいた場所に1本の矢が突き立っていた。

「!」

ユファは抜刀し、矢の飛んできた方向に目を凝らした。だが何も見えない。

じりじりとした緊迫感の中、不意に声が聞こえた。

「そこにカボスと言うタルタルが居るだろう。カボスを出せ。」

雪で声が反射して、出処が特定出来ない。女の声の様だ。

「そんな人はここにはいない!何処にいるの?姿を現しなさい!」

現しなさい現しなさい・・・とこだまが響く中、低く笑い声が響いた。

「良いだろう。どうせお前らは逃げる事は出来ないのだからな。」

そして木立の中から現れたのは、白い防寒着を着た1人のミスラだった。

ミスラはユファに向 かって言った。

「私はスカリーM。名前の通り、罪狩りのミスラだ。ミスラ本国の指令により、カボスを捕らえに来た。大人しく縄につけ。」

「だから、そんな人は・・・」

ユファが言いかけた時、後ろにカボスがやって来た。

「ユズさん・・・」

何か言いかけるユファにカボスは畳み掛けるように言った。

「ユファちゃん。このミスラはボクのライバルが寄越した刺客に違いないよ。戦っても得は無いから、逃げる事にするよ。」

くっくっくっとスカリーMは笑った。

「相変わらず口が回ることだな。だが、逃げられはしない。」

そして指ををパチンと鳴らした。

すると虚空から3人のタルタルが姿を現した。いずれも口の院の制服を着 ている。

中央の1人が歩みでた。

「私は連邦魔戦士のロランアラン。口の院研修生のカボス。機密文書窃盗の罪で捕縛する。抵抗すれば容赦しない。」

「ち」

カボスは舌打ちした。罪狩りのミスラだけならやりようはあったのだが、相手が4人では分が悪い。




そして・・・




ユファの視線が痛かった。

ユファは静かに言った。

「騙してたんですね。」

カボスはユファと視線を合わせずに呟いた。

「まあ、事情があってね。悪かったよ。ボクは逃げるが、キミは彼らと一緒に行った方が良い。騙されたって言えば、悪い様にはならないさ。」

そして懐に手を入れた。

スカリーMと連邦魔戦士達が身構える。



取り出したのは・・・




真っ黒い何かだった。




それを頭上で2、3回振る。

連邦魔戦士ロランアランが思わず言った。

「何をやって・・・」

スカリーMの様子が変だった。カボスが振る黒い何かに視線が釘付けなのである。

カボスが黒い何かを右に振れば右、左に振れば左に、頭ごと動いている。

カボスが黒い何かを連邦魔戦士の方に放った。

それは、ミスラの大好物、サイレドンの黒焼きだった。

身構えるロランアラン達の上に、スカリーMが飛びかかった。




「………んにゃーーっ!黒焼きだぁ! いっただきぃ!!」




3人のタルタルは、スカリーMに押しつぶされ、4 人が団子状態になった。

「へ?」

思わず気の抜けた言葉が、ユファの口から漏れた。

スカリーMの挙動にびっくりしたのだ。

間髪入れず、カボスは4人と逆方向に走り出す。

だが雪の所為で、中々足がはかどらない。

立ち直ったロランアランがカボスに追いつこうとする。

そこに立ち塞がったのは、ユファだった。

斜め後ろから、ロランアランにタックルをかけると、ロランアランは雪の上に突っ伏した。そのままタルタルを踏みつけて、カボスに追いつく。

「ユズさんか、カボスさんか、どっちでも良いですけど、後で必ず説明して下さいよ!」

そしてユファは、カボスの腕を掴むと、転移の魔法を使った。

2人の身体は、紫色の光に包まれて、ウルガラン山脈から掻き消えた。




クルク一家のウメは、一家のボス、クルクのモグハウスを訪れていた。カボスが指名手配になってから、カボスが訪れそうな場所を幾つか覗いてみたが、結局見つける事はできなかったのである。もちろん連邦もカボスを探しているので、もし本人が行きつけの場所に居たら、直ぐに捕まってしまったに違いない。ウメにとって、サンドリアは鬼門だったので、そちらは同じ一家のメンバーのウズラに頼んで、何日かかけて他の3国を回った。そして今は結局、バストゥーク共和国のクルクのモグハウスにたどり着いたのである。

モグハウスのリビングには、テーブルを挟んで、3人の人間が座っている。一家のボスのクルク、クルクの幼馴染のバルファル、そしてウメであった。その中で、1人バルファルが気炎を上げている。

「大体アイツは何かやらかしそうだったんだよ!」

「一体、国際手配なんかになっちまって、どうするつもりなんだ!」

「妹のサンラーや、オレ達の立場を考えた事があんのか!」

等等、罵詈雑言の嵐だった。

やがて、叫び疲れたのか、バルファルはソファーにもたれかかり、息を吐いた。

「・・・クルク。何とか言えよ。」

クルクは、腕を組み、何かを考えているのか、考えていないのか、暫く黙っていたが、

「うーん、かぼちゃんは何か考えがあって、機密文書を盗ったと思うなぁ~。」

とぽつりと言った。

クルク達は公式な発表しか聞いていな いので、カボスが本当は魔道書を持ち去ったとは知らない。あくまで発表としては機密文書だった。

「何かって何だよ?」

バルファルは顔をしかめて言った。

「それはクルクには分からないなぅ~。女のカンってやつかな。」

「クルたんのカンは当たるからな。案外何か深い訳でもあるかもしれん。」

それまで黙っていた、ウメが口を開いた。

そして、テーブルの上にあったティーカップを指先で弾いた。

その音で気づいたのか、モグハウスの管理人のモーグリが、冷めたお茶を入れ替えていく。その場の重い雰囲気を察してか、何時もは多弁なモーグリも無言だった。

「そんな事言ったってさ、ウメさん。そもそもアイツはどこにいるんだ?」
バルファルが新しいお茶を一口飲んで言った。
「それが分からないから、指名手配されてるんだろう。」

ウメが正論を口にする。

「バル、ウメ」

クルクが、2人を呼ぶ。

「何だよ?」

「どうしたクルたん。」

2人をじっとみて、クルクは言った。

「かぼちゃん。きっと困って助けを求めてくると思うんだ。とりあえず、それを待とうと思う。」

「いいのかよ?」

バルファルは納得いかない様子で言った。

クルクはニヤリと笑い、

「勿論、かぼちゃんに会ったら、まずゲンコツだよぅ。それは確定。」

ウメはふっと笑い、

「まあ、サンラーを心配させたんだ、それくらい当然だな。」

3人はカボスか らの連絡を待つ事になった。そしてそれは決して長い間でもなかった。




「で、一体君達は何をやってるんだ?」

場所は変わって、ここはジュノ大公国、下層の冒険者コウの家であった。

結局、罪狩りのミスラと、連邦魔戦士達から逃れたカボスとユファは、ユファの師匠であるコウを頼った。

と言うか、ユファの転移の呪文の転移先が、ジュノ下層に設定されていた為、必然的にそうなったと言える。

雪まみれで、ガチガチ震えていた2人は、交代で風呂に入り、今はバスローブに包まって、温かいミルクを啜っている。

そんな2人にコウは問いかけたのだ。

カボスとユファは目を見合わせた。先に目を逸らしたのはカボスで、これはユファを騙していた罪悪感が、そうさせたのかもしれない。

「とりあえず、あたしから話すね。」

ユファは、カボスから魔道書の論文を書く間、ライバルからの妨害を防ぐ為、護衛に雇われたと語った。そして敵が来てみれば、それはウィンダス連邦が差し向けたもので、カボスは、実は窃盗の罪で、指名手配されていた。有り体に言えば、自分は騙されたのだ。

憮然とした表情で、ユファに睨みつけられたカボスは、虫も殺さぬような笑顔を見せ、

「騙していて、ごめんよ。」

と言った。

何となく気勢を削がれたユファは、少し声のトーンを落として、

「ユズさん、いえ、カボスさん。とにかく納得のいく説明を頂けませんか。あたし、怒ってるんです。」

と言った。

3人は小さく火を起こした暖炉の前の絨毯に座り込んでおり、春の盛りでも冷える夜にも平気だった。火種が崩れるゴソッと言う音が響いた。

コウも胡座をかいて、その上に肘をつきながら、

「それは僕も聞きたいね。ユファの言う通り、カボス君は連邦から機密文書窃盗の指名手配がかけられている、君をどう扱うにしても、はっきりとした説明は欲しいな。」

と言った。

カボスは曖昧な笑みを浮かべながら、コウに目を向けた。

「1つ聞いておきたいんだけど、コウさんは魔導には詳しいかな?」

コウはカボスを見て、

「魔導。魔法という事だね。一口に魔法と言っても、黒魔法、白魔法、召喚、モンスターの魔法を使う青魔法なんてのもある。どれを指してるんだい?」

と言った。ユファは横から口を挟んだ。

「もしかして、あたしに説明した、次元・・・移動?とか、時間の修復作用とかの話?」

コウはユファの言葉を聞いて、微かに目を見開いた。

「ああ、なるほど。理論に詳しいかと聞いてるのか。どうも冒険者と言うのは、実際に使う技に意識が行きがちだが・・・まあ、一通りは収めているよ。」

「ユファちゃんの言った名称についてはどう?」

コウは肩を竦めて、

「何だか、こっちが問いただされてるみたいだな。平たく言うと、未来が変えられるとか変えられないとか、そう言う議論がしたいのかい?」

「・・・」

カボスは黙った。そしてちらりとユファを見る。

コウは再び肩を竦めて、

「ユファ。カボス君は僕と2人で話がしたいらしい。少し部屋に戻っててもらえるかい。」

「えーーー。なんでよ?あたしが一番の被害者なのよ!?」

なおも喚くユファをコウは何とか宥めて、部屋に追いやった。

「やれやれ、これでいいのかな。」

再び暖炉の前に座り込んだコウは、カボスに言った。

カボスは苦笑いをして、

「ずいぶんユファちゃんに信頼されてるんだね。ボクと話す時と、全然態度が違う。」

「まあ、割と長い付き合いだからね。で、話の続きは?」

カボスは暖炉の小さい火を見ながら、ぽつりぽつりと話した始めた。

自分と妹が、未来の世界から来た事。

未来の世界で、現在の世界に次元移動してきた妹は事故で死んでしまっている事。

妹とは別に、育ての親も事故で亡くなっている事。

妹と育ての親の事故を防ぎたいが、シャントット博士の魔導書によると、防げない可能性が高い事、それが時間の修復作用と呼ばれている事。

時間の修復作用を防ぎたいが、自分の力だけでは、難しい事。

「夢を見たんだよ・・・。」

カボスは言った。

「サンラーと、ピヨりん、クマちゃんが苦しそうな顔で死んでいくんだ。ああ、妹と育ての親の事なんだけどね。居ても立っても居られなくってさ。そのちょっと後で、シャントット博士の家で、役に立ちそうな魔導書を見つけたんで・・・つい。」

カボスは乾いた笑いを浮かべた。

「そんなとこ。まあ、信じられないよね。」

コウは頬杖をついて、カボスの話をきいていたが、おもむろに言った。

「いや、信じるよ。」

カボスは、聞き違えたかと思って言った。

「信じる!?信じるって言った?なんでだよ?こんな突拍子のない話のどこが信じられるんだよ!?」

「根拠がないわけじゃないんだが。」

コウは、戸棚の所に行き、幾つかの物を持ってきた。

酒瓶とグラス2つ。後は、変わった形をした石だった。

「まあ、一杯呑みなよ。」

コウは2つのグラスにブランデーを注ぎ、カボスに1つ渡した。

「ボクは酒は呑まないよ。」

カボスは断ったが、再度促されると、グラスを受け取り、用心深く一口すすった。

芳醇で強い香りが口に広がり、飲み慣れないカボスはむせそうになったが、何とか飲み込んだ。

ぼっと身体に火が入ったような気がする。

「うへ・・・」

思わず息を吐くカボスに、コウはニヤリと笑い、

「こういう時は、酒も良いもんだよ。で、この石なんだが。」

コウは、手の平サイズの曲がった、滑らかな石を見せた。

「これは魔法の石でね。勾玉と言うんだ。イロハと言う、未来の僕の弟子が持ってきたものだ。」

カボスは初めコウの言っている事が分からなかった。だが、意味が分かると思わず叫んだ。

「ボクらの他に、時間を越えてきた人が居るのかい!?」

コウは頷いた。

「正確にはいた、だ。彼女は未来の世界に帰って行ったからね。彼女が現在に来た理由は割愛するが、僕はこの石を貰ってから、時間の流れが見える様になった。」

「時間の流れが・・・」

コウはブランデーを一口飲み、つられてカボスも一口飲んだ。

「うん。カボス君の身に纏っている、時間の流れは他の人間とは違う。だから君の話を信じると言ったんだ。」

カボスは無言でもう一口ブランデーをすすった。

「だが、君の言う事を信じるにしても、やった事は悪手だったな。なにも魔導書を持ち去る必要はなかったんだ。シャントット博士は知識欲と研究欲の塊だ。今僕にした話を、シャントット博士にすれば、間違いなく何らかの助言や手助けをしてくれただろう。その魔導書を書いたくらいだ、博士が時間と空間の第 一人者さ。」

しばらく、沈黙が辺りをつつんだ。

カボスはぽつりと言った。

「待てなかったんだ、シャントット博士はとても忙しそうだったし・・・」

「待つべきだった。」

「自分で何とかできると思ったんだ・・・」

「出来なかったろう?」

カボスは無言になった。今までの疲れと、飲み慣れない酒を飲んだせいで、今にも眠り込みそうだ。

コウはそんなカボスを見て言った。

「とりあえず、詫びを入れに行くしかない。」

「詫びを・・・」

「まず魔導書を持ち去った事を謝って、訳を話そう。」

「許してくれるかな・・・」

コウは肩を竦めたが、がくりと頭を突っ伏して、既にカボスは寝入っていた。
コウは低く喋った。
「ユファ。」

部屋の入り口から、ユファがきまり悪げに進み出て来た。

「どこから聞いてた?」

「聞くつもりじゃなかったんだけど、気になって。声が低くてよく分からなかったな。時間を越えてきたとか・・・イロハさんと関係があるの?」

ユファも先程話に出てきたイロハと言う人物を知っている様だ。

コウは首を横に振った。

「直接関係がある訳ではないよ。それより、魔導書を持ってシャントット博士に謝りに行く事になった。」

えーと叫びかけて、ユファは手で口を塞いだ。

「いやだって、指名手配されてるんでしょ?捕まっちゃうんじゃ・・・。」

「そうさせないためにも、僕が付いていく。」
「じゃああたしも・・・って、足手まといか。」
「すまんな。」

「いいけど、あたしの時といい、コウは物好きねー。」

ユファは、実家から飛び出した後、行く当てもない所をコウに拾って貰ったので、そう言った。

ユファの半分呆れた口調に、コウは肩を竦めた。

「まあ、カボス君については、共感できるところもあってね。」

「どの辺が?」

「僕も、自分の才覚を鼻にかけて無茶をやった時期があったってことさ。」

ユファはびっくりして言った。

「コウがねぇ。まあ無茶って言えば、今でも無茶だけど。」

コウはユファの肩を軽く叩くと、

「話はお終いだ。ユファも疲れたろう。寝なさい。カボス君には枕と毛布をかけてあげてくれ。」

と言った。

「は~い。」

ユファは素直に返事をすると、枕と毛布を取りに出て行った。

カボスの方を見ると、ぐっすりと眠り込んでいる。

コウは軽く欠伸をすると、

「明日は忙しくなるな、僕も寝るか。」

そう言って、コウは自室に戻っていった。



翌朝・・・



「言ったよ。」

「言ってない。」

「言ったよ。」

「言ってないったら!」




コウとカボスは、それぞれ起きてきた後、ユファが作った朝食を食べた。カボスは昨日飲み慣れない酒を飲んだ所為で、軽く頭が痛かったが、ユファの作ったスープや卵料理は美味しく、少しづつであるが、食べる事が出来た。
問題はその後、食後のお茶を飲んでいると、コウが魔導書を持ち出した事を、シャントット博士に謝りに行くと言い出したのだ。そして昨日カボスもそれに了承したと。

それで、先のやり取りになった訳である。

疲れと酔いで、昨夜のコウとのやり取りをあまり覚えていないカボスは、当然シャントット博士に謝りになど行きたくなかった。

謝りに行く事を言ったか言わないかで、言い合いになった後、無言になったカボスは、

「いい加減、諦めなよカボス君。悪い事をしたんだから、謝らなくっちゃね。」

と、ユファに諭される様に言うと、流石に言い返した。

「相応の理由があったんだよ。それとボクの事を君付けで呼ぶのは止めなよ。ボクの方が年上だろ 。」

「あなたなんて、カボス君で十分よ。コウも付いてってくれるから、いきなり捕まる事も無いと思うよ。」

ユファにこう言われ、

「ユファの言う通りだな。それにここに隠れてたって、いつかは見つかるぞ。隠れてて捕まるのと、自分で非を認めて謝りに行くのでは、全然印象が違う。」

コウにも言われると、もはや反論出来なかった。

「・・・分かったよ。行くよ。」

カボスは渋々答えた。

「じゃあ、これを食べ終えたら、早速出発だ。」

コウが言うと、カボスは尋ねた。

「いいけど、連邦兵に見つからずに、シャントット博士の家まで行けるのかい。」

「君も知っての通り、連邦は登録してある君の魔力の波動を元に索敵をし ている。これを阻害するのが1つ。後は古典的に姿隠しと音消しの魔法をかけるだけだな。」

コウが答えると、カボスは懐疑的に、

「単純な方法だなあ。どうやって魔力の波動の検知を止めるんだい?」

と尋ねた。

「昨日の夜見せた勾玉だな。持っていると、護符のような効果がある。本来の用途ではないけど、今回は気配を消す為に使おう。」

「・・・その勾玉って、色々な効果があるんだね。上質な護符みたいだ。」

カボスの言葉にコウは肩を竦めて、

「カボス君。妙な事は考えるなよ。この勾玉は、時間の修復作用を護符で防ぐっていう君のアイデアには使えない。いや使えるけど、問題は魔力源と護符との魔力のやり取りだろう。護符自体は割と簡単 に作れるはずだ。別にこの勾玉じゃなくても良い。」

と言った。カボスは苦笑して、

「分かってるよ。」

と答えた。

ユファは腕組みをして、カボスを睨みつけ、

「恩を仇で返すような真似をしたら、許さないんだからね。」

と言った。

カボスは口を尖らせ、

「いい護符だなって言っただけじゃないか。信用ないなあ。」

と返した。この返事にユファは軽くびっくりして言った。

「・・・いや。カボス君、神経太いわ。びっくりした。」

コウは茶碗を置いて、立ち上がった。

「じゃあカボス君、そろそろ行こうか。ユファ、留守よろしく。」

カボスも渋々という感じで、立ち上がった。




コウとカボスは、クリスタルワープを使って、大胆にも石の区に直接転移した。天の塔のお膝元にある場所ではあるが、存外目立たない場所にある。

勾玉を持っているせいか、カボスがウィンダス連邦に入国しても、特に気づかれる事も無かった。

石の区の転移すると、コウはカボスを天の塔に続く橋の袂に誘導し、カボスに姿隠しと音消しの魔法をかけた。カボスには、後をついてくるように言い含めてある。コウはゆっくりとシャントット邸に歩き始めた。

桜の木は既に葉桜に変わっている。朝の光の中を歩いて行くと、時折天の塔へ出仕するタルタル達とすれ違う。だが、咎められる事もなく、暫くすると、コウと姿を隠したカボスは、シャントット邸にたどり着いた。

コウは迷うことなく、呼び鈴を鳴らす。数回鳴らしても反応がない。ここでシャントット博士が不在なら、ウィンダス連邦内のモグハウスで待つつもりだった。

だが、5回目に呼び鈴を鳴らした時、反応があった。

突如、空中に声が響いた。




「うるさいっ!何度も鳴らさなくとも分かってますわ。用があるなら入ってらっしゃい。鍵は掛かっていませんわ。」




そして、ぶつっと声は切れた。

コウは肩を竦め、言った。

「相変わらずだなあ。。まあ、でも在宅で良かった。」

そして、後ろを振り返り、何もない空間に向かって、

「じゃあ、行こうか。」

と促した。

シャントット邸の中は、カボスが訪れた時と同じで、雑然としてい た。そこら中に本の山と魔法装置の山がある。そしてシャントット博士の姿も見つからない。

コウは館の奥に向かって、すたすたと進む。姿を隠したカボスもそれに従う。

やがて一室の前に辿り着いた。

開いている扉をノックして、コウはシャントット博士の書斎に入った。

シャントット博士は、巨大なデスクの後ろに陣取り、眼鏡を掛けて本を読み耽っていた。書斎の中も、やはり本と魔法装置の山が、そこらにあった。

ノックの音を聞くと、シャントット博士は本から目を上げた。そしてコウをじっと見る。

「あら、ヘッポコ君じゃありませんの。冒険者がわたくしに何の御用?」

コウは一礼をして、口を開いた。

「ご無沙汰しております。シャン トット博士。今日はお詫びに参上致しました。」

シャントットは眼鏡を頭の上にあげてコウを睨んだ。

「お詫び?あなたにはいつぞやの冒険の依頼以降会ってないはず。何を詫びてくれるのかしら?」

「持ち出された魔導書についてです。」

コウの答えにシャントットの表情が剣呑になった。

「あ~ら。無関係のはずのあなたが、何を言ってるのかしらね。・・・本命は隠れてる2人目ではなくて?」

シャントットが指をぱちんと鳴らすと、姿隠しをかけた筈の、カボスの姿が露わになった。

「・・・」

カボスは白い顔をして、無言である。

シャントットは、腕組みをして、指でトントンと自分の腕を叩いた。

「あ~ら。子鼠じゃありま せんの。どのツラ下げてここに顔を出せたのかしらね。盗人猛々しいとは、当にこの事ねぇ。」

シャントットの口調は穏やかだったが、凄まじい怒りが感じられた。抑え切れない魔力が周囲に漏れ出し、かたかたと部屋全体が振動している。

カボスは持ち出した魔導書を鞄から出し、床の上に置いた、そして自身は本の後ろにうずくまり、額を床に擦り付けた。

正式な謝罪の姿勢である。ひんがしの国では、ドゲザーと言ったか。

カボスはそのままの姿勢で口上を述べた。

「今回の件では、大変ご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。魔が差したとはいえ、大変申し訳ありませんでした。お許しいただけるのであれば、何でもする所存です。」

「・・・」

シャントットは無言である。

無言の圧力にカボスが耐えきれなくなった頃、シャントットが口を開いた。

「・・・子鼠。幾つか尋ねたい。1つは何故その魔導書だったのです?ギルに変えるのなら、適当なものが他にあったはず。もう1つは、その魔導書には魔法鍵がかかっていたでしょう。今、魔導書を見れば鍵は外れているようだけれど、どうやって外したのかしら。」

「それは・・・。」

カボスは躊躇った。果たして自分の話は信じて貰えるのか。

コウが口をはさんだ、

「カボス君、僕にした話をシャントット博士にしてくれ。シャントット博士。少し長い話なので、カボス君は身体を起こしても良いですか?」

シャントットは肩を竦めて、

「まあ、良いですわ。とっとと話なさいな。」

と言って、許した。

カボスはとつとつと話し始めた。

自分が未来から来た事。

家族と友人を事故から助ける為の方策を探していた事。

その時たまたま役に立ちそうな魔導書をシャントット邸で見つけた事。

カボスは、話し終えると、再び元の姿勢に戻った。

「・・・」

シャントットは腕組みをして、考え込んでいる。

コウが口を開いた。

「博士から見て、カボス君はどうです?」

シャントットは、コウをちらりと見て、

「身に纏っている、時間軸の流れの事を言っているの?勿論わたくしにも分かりましてよ。未来か過去か、別の時間から来たのは間違いない。大体口の院 で声をかけたのだって、半分はその所為だったんですからね。で、この子鼠が言うには、未来のわたくしと交流があって、鍵の開け方を知っていたと。」

「嘘だと思われますか?」

コウが尋ねる。シャントットは腕組みを崩さないまま、

「話の辻褄は合ってますし、なにより当人の時間軸の流れが、論より証拠。まあ、言ってる事は本当の事でしょうね。だから許せというんですの、ヘッポコ君は?」

と言った。

「やり方が間違っていたのは、重々承知です。ですが、彼の大切な人達の命がかかっていたのです。そこを考慮して、罪一等を減じては?」

コウの言葉に、シャントットはしばらく無言だったが、やがて口を開いた。

「よござんす!この件はなかっ た事にしてもよろしい。」

思わず顔を上げるカボス。

だが、シャントットの言葉は続いた。

「けれども、何のペナルティも無しという訳にはいきませんわよ?示しがつきませんから。そして、この世の理は弱肉強食。弱い者は生きてはいけない。」

シャントットはビシリとカボスに指を向けた。

「子鼠!わたくしと勝負しなさい。わたくしに見事打ち勝つことができたなら、この件の罪は問いませんわ。むしろあなたの抱えている問題を解決する手助けをしてもよろしい。」

「けれども、わたくしに負けたら・・・」

シャントットはニヤリと笑い、

「一生、魔法の実験体として、飼い殺して差し上げますわ。多分、最初の実験で、死ぬと思いますけどね。」

オーホッホッホと高笑いをした後、シャントットは不意に興味を失ったように、

「時間と場所は、3日後、バルガの舞台でよろしくて?まあ、がんばんなさいな。」

と言ったきり、眼鏡をかけ直し、再び本に目を通し始めた。

思わぬ展開に呆然とするカボスを横目に、コウはごほんと咳払いをした。

「博士。カボス君は兵士でもなければ、冒険者でもありません。戦闘経験がほとんど無いんです。それを連邦最強の魔導師である博士と、単独で闘えと言われるのですか。」

シャントットは邪魔くさげにひらひらと手を振り、面倒くさそうに、

「では、冒険者の言うところの、パーティを組んでもよろしくてよ?1パーティは6人でしたかしら?まあ、何人で来 ても、わたくしには勝てませんけどね。」

と言った。

「今の言葉に間違いはありませんね?」

コウの言葉にシャントットは本から顔を上げた。

「このわたくしに二言はありません事よ。・・・ああ、ヘッポコ君も参戦するつもりですの。それは少しは楽しめそうですわね。」

シャントットは薄く笑った。やり取りを見ていたカボスは、その笑いに鳥肌がたった。

コウは表情を変えずに、

「後、カボス君の国際指名手配を解除していただきたい。色々と準備もありますので、外を歩けないのは困ります。」

と言った。

シャントットは肩を竦めて、

「別に構わないけれど、今度逃げたりしたら、地の果てまで追い詰めて、バラバラに解体して差し上げますわよ。よろしい?」

と言って、カボスをちらりと見た。

蛇に睨まれたカエルの如く、カボスはガクガクと頷く事しかできなかった。

これで、会見は終わりだった。最後に持ち出した魔導書をシャントット博士に手渡して、コウとカボスは館を後にした。




コウとカボスは、ジュノ大公国下層のコウの自宅に帰ってきた。

途中で事情を知らない兵士がカボスを拘束しようとする事態も起こったが、シャントット博士はやる事は素早く行うようで、国際指名手配は解除されており、連邦議会に問い合わせると、解放された。

2人はリビングのソファーにどっかりと座った。ユファはお茶を持ってきたが、どうなったか知りたい様子で、一杯だった。
「どうだった?2人で帰って来れたと言うことは許してもらえたのかな?」

ユファの問いかけに、コウは一口ウィンダスティーを飲み、

「ああ。許してもらえる事になった。」

良かった とユファが言うより早く、カボスが叫んだ。

「どこがだよ!?シャントット博士と勝負して勝ったら、だよね?ボクが闘って勝てる訳無いじゃないか!?」

そして、がっくりと膝に顔を埋めた。

ユファはその様子で察したようで、

「それは・・・コウ、カボス君殺されちゃうんじゃないの?」

ユファは引きつった表情で言った。

コウはもう一口、お茶を飲んだ。

「いやいや、パーティを組んでいいという、言質を取った。まだ勝敗は分からないよ。」

「そうなんだ。って事は、コウも闘うんだよね?」

ユファの問いかけに、コウは頷いた。

「ユファも手伝ってくれ。相手は連邦最強の魔導師だ。いい経験になるよ。」

コウの言 葉に、ユファは微妙な表情で、

「なんか、経験を得る前に殺されちゃいそうだけど・・・パーティの他の3人は?」

と言った。

コウはカボスを見て、虚ろな表情のカボスに、活を入れるように言った。

「カボス君!クルクさんに連絡を取ってくれ。きっと一緒に闘ってくれるよ。」

カボスはのろのろとコウの方を見て、こくりと頷いた。




クルク、バルファル、ウメの3人がコウの自宅を訪れたのは、カボスがクルクに連絡を取ってからすぐだった。

コウとユファが出迎える。挨拶を交わした後、クルクは2人に、

「コウさん、ユファちゃん、ゴメンね~。ウチの鬼っ子が迷惑かけて~」

とすまなさそうに謝った。

コウとユファは 、

「いや~。クルクさん、僕も冒険者なので、色々巻き込まれるのには慣れてます。ユファがバルに助けてもらった事もあるし、お互い様ですよ。」

「あたしも平気ですー。」

と、それぞれ笑いながら答えた。

そのまま、バルと話し始める2人を背にクルクはつかつかと、ソファーに座り込んでいるカボスに近づいた。

ぼんやりしていたカボスは、その気配ではっとし、クルクの方を見た。

「かあさ・・・クルたん、来てくれたんだ・・・」

言い終わる前に、カボスはクルクに胸倉を掴まれていた。掴み上げられ、顎に思いっきり右拳を叩き込まれる。

空中で、身体が3回転はしただろう。壁に叩きつけられたカボスは、その一発で気を失っていた。
思わず呆然と見守る皆の視線も気にせずに、クルクは、ぱんぱんと手を払った。
「あ~。すっきりしたなぅ~。とりあえずこれでオシオキ完了。で、これからどうするの?」

初めに我に返ったのは、バルファルだった。やはり、クルクのやり方に慣れているせいだろうか。

「ちょ・・・クルク、やりすぎだぜ!カボス死んだんじゃないのか?」

ユファがカボスの元に走り寄る。

「・・・バル、大丈夫。息はあるよ。」

最初の挨拶をしただけで、黙っていたウメが口を開いた。

「今のに、サンラーの分も入れておいても良い。これくらいは当然だな。」

「・・・えと、皆さん良ければ座って下さい。ユファ、カボス君の介抱を頼むよ。」

コウの 言葉で、皆は思い思いの場所に腰を下ろした。ユファが改めて、皆にお茶を配る。

カボスは気絶しているので、コウが、かいつまんで経緯を話した。もちろん、カボスが未来から来たというくだりは、ぼかしてある。カボスが懸念した通り、多くの人間がそれを知ることで、未来に起こる出来事に何らかの影響があるかもしれないのである。最も時間の修復作用があることを考えるなら、未来は定まっていると言っても良いのだが、本当にどうなるかは誰にも分からない。何かを言った言わないで、コウは危ない橋を渡るつもりはなかった。それでも皆は興味深げに話を聞いた。

話が終わった後、皆は暫し無言だったが、バルが口を開いた。

「へぇ。サンラーとピヨとクマさんが事故に遭うっ て夢を見たからって・・・予知夢ってやつかい?でも、カボスが他人を気にするヤツだとは思わなかったな。」

カボスが未来から来た事は省いて、予知夢を見た事にして、話をしている。

「サンラーを守ろうとしたのは、評価できるな。盗みはダメだが。」

ウメが言った。ウメはカボスの妹のサンラーから聞いて、2人が未来から来た事は知っているのだが、その事については何も言わない。

クルクは腕組みをして言った。

「そうだよぅ~。ドロボウはウソつきの始まり。ダメな事はダメなんだから。」

バルファルが突っ込む。

「・・・クルク。嘘つきは泥棒の始まりだろ。逆だよ逆。」

「あれ、そうだっけ?」

「シャントット博士って強いんですよね?勝てるのかなあ。」

ユファが、恐らく皆が考えている事を発言する。

「いや、6対1なら勝てるだろ。」

バルファルが当然のように言った。

その言葉にクルクとコウは首を横に振る。

バルファルは驚いたように言った。

「え?あのオバサンって、そんなに強かったっけ。」

クルクとコウが口々に言った。

「クルク、アルタナ様の力で過去に遡って、水晶大戦に参加したんだけど、確か1人で獣人一個師団を壊滅させてたような・・・。ってバル、女性をおばさん扱いしちゃダメだなぅ~。」

「シャントット博士は黒魔導師なのに、空鳴拳や連続魔を使った事があるそうだ。正に規格外の存在だね。魔法においても当代随一。連邦最強と言う が、ヴァナ・ディール最強と言い換えても差し支えないと思う。」

ちなみに空鳴拳はモンクの技、連続魔は赤魔道士の技である。

バルファルはぽかんと口を開けた。

「な、なんだよそれ?あのオバサンそんなに強かったのか?一個師団って・・・何人だよ!」

またも2人は口々に言う。

「だからおばさんって言っちゃダメだって。」

「獣人の編成は人間のそれとは異なるけど、1000人単位だろうね。」

「マジか・・・」

そう言ってバルファルは絶句した。

ユファが憂鬱そうに言った。

「ねえコウ。あたし達、本当にシャントット博士に勝てるのかなあ。」

「方法が無いでもない。」

コウの発言に皆が振り向いた。

「 ホントかよ、オッサン!」

「えぇ~。クルクも知りたいな。」

「どうやるのコウ?」

「ほう。」

と、口々に問いただした。

「カボス君が要になる。気がつくまで、ちょっと待っていようか。」

コウがそう言うと、皆は カボスが? と訝しんだが、暫くの間休憩時間となった。

カボスが目を覚ますのに、小一時間程の時間が経った。その間皆は、雑談したり、お茶やお菓子を摘んだりしていた。

その内に、う・う~んと言う声がして、カボスが目を覚ました。カボスの頭の下には枕が敷いてあり、クルクに殴られた顎には氷嚢が当ててある。

「な、何が・・・あ痛たたた・・・。」

カボスは起き上がろうとして、顎を押さえて呻いた。

「ちょっと。まだ寝てた方がいいよ。ほら氷で顎を押さえて。」

ユファが甲斐甲斐しく世話をする。

「ありがとうユファちゃん。・・・クルたんに殴られたのか。酷いよクルたん。」

カボスが恨みがましそうに言った。

クルクがカボスの前に 、仁王立ちになり、

「なんだって?ゲンコツ1つじゃ足りなかったのかなあ。」

と凄むと、カボスは、

「・・・スミマセン。」

と小さく謝った。

「カボス君、大丈夫かい?凄かったなあ。空中をぐるぐる回転したよ。」

コウが慰めとも感嘆ともつかない言葉を口にすると、カボスは、

「・・・大丈夫だよ!・・・です・・・」

と噛み付く様に言いかけて、クルクに睨まれて言い直した。

「で、オッサン。シャントット博士を倒すのにカボスが要になるってどういう事だよ。」

バルファルが話を元に戻す。

カボスもどういう事だ・・・と言う様に、コウを見た。

「それはね・・・」

コウは、シャントット博士と闘 う戦術を説明し始めた。




5人はコウの説明が終わった後、暫く無言だった。

「ふ~ん。」クルクは闘い方については、あまり興味がなさそうだ。

「それでイケるのか?でも正面切って闘っても勝てないのか・・・。」

バルファルは不審な表情を浮かべている。

「前衛を勤めればいい訳だな。やってみよう。」

ウメは無表情に、了承した。

「あたしは、作戦とか考えられないから、それで良いよ。」

ユファはこくりと頷いた。

「・・・」

カボスは無言だった。

コウはカボスを見て、

「カボス君は大丈夫かな。さっき言った呪符が作れるか作れないかで、話は全く変わってくるんだが。」

と尋ねた。

カボスは躊躇うように、視線を宙に彷徨わせ、

「やってみるよ。何枚くらいあったらいいんだい?」

と答えた。

「多ければ多いほど良いけど、最低でも300枚くらいは要るかな。」

コウの答えに、カボスはまた考え込み、

「分かった。時間がないから早速取り掛かりたいんだけど、材料とか大丈夫かな。」

と尋ねた。

「専用の用紙とインク、大量のクリスタルは準備した。他に要るものがあったら言ってくれ。」

「とりあえず、それだけあれば呪符は作れるよ。」

カボスの返事を聞いたコウは、ユファにカボスを作業場に案内するように言った。

ユファはカボスを連れて、地下室に向かった。

コウは冷めたお茶を飲み干し、
「さて、カボス君には頑張って貰うとして、クルクさん達は、自分の役割は把握されましたか?」
と言った。

「思いっきり、攻撃すればいいんだよね?。」とクルク。

「後、シャントット博士が大きい魔法を1発撃ったら、挑発だっけ。」

とバルファル。

「攻撃が当たると良いけどな。」

とウメ。

コウは3人の言葉に頷き、

「3人は前衛、ユファは回復、僕は支援と回復をします。カボス君は攻撃の最後の締めをしてもらいます。感覚的に、勝算は五分五分無い気がします。頑張りましょう。」

と言った。

「負けたら、魔法の実験体だもんねぇ。あれ?それはカボちゃんだけだっけ?」

クルクの言葉にバルファルはげんなりした様 子で言った。

「カボスだけにしてくれよ・・・カボスが原因なんだからさ。」

「どの道負けたら、サンラーが悲しむ。最善を尽くそう。」

とウメ。

それぞれ言葉は違ったが、逃げるものはいなさそうだった。

闘いの当日になるまで、皆はコウの家で過ごした。鍛錬、連携、フォーメーション。カボスはひたすら呪符の作成。3日という時間はあっと言う間に過ぎ、遂に闘いの日を迎えた。




シャントット博士との闘いの場所になる、バルガの舞台は、ヤグード族の宗教都市ギデアスの最奥に位置する、武舞台である。連邦とヤグード族は敵対関係にあるが、盟約によりある種の儀式を行う際は、利用できる事になっている。もともとその位置が、風水的にとても 意味のある場所の為、敵から一時的にでも借り受ける様な事を行っている。

そのバルガの舞台に6人は立っていた。少し離れた所に、シャントット博士が退屈そうに佇んでいる。そして、武舞台の脇には、立会人として、5院の各院長達がしつらえられた席に腰を降ろしていた。

トスカポリカ、アジドマルジド、コルモル、ルクスス、アプルル。

そうそうたるメンバーだ。ヤグード族が協定を破り、彼らを抹殺してしまえば、連邦は大ダメージを受けるだろうが、逆にヤグード族を返り討ちにしてしまうかもしれない。それほどの実力を持った魔導師達だった。

代表で、口の院のアジドマルジドが武舞台に上がる。そして口上を述べた。

「これより裁きの闘いを行うものとする。 被告は口の院元研修生カボス。彼を含むパーティが、原告シャントットを退けた場合、被告の罪は問わないものとする。判定は我ら五院の院長が行う。異議があるものは名乗り出よ。」

五院の院長達は何も言葉を発しなかった。

カボス達も黙ったままである。

シャントットだけが、

「早く始めなさいな。時間が勿体無いですわ。」

とあくび混じりに、言った。

アジドマルジドはそれを無視して、

「それでは闘いを開始せよ!」

と戦闘開始を告げて、武舞台を降りた。

クルク、バルファル、ウメの3人の前衛は身構えた。

カボス、コウ、ユファの後衛は後ろに下がる。

シャントットは彼らに向かって、ひらひらと手を振り、

「先に強化しておきなさいな。ハンデですわよ。ハンデ。」

と言った。

「そうですか。それでは遠慮なく。」

コウはそう言い、ユファに指示を出した。

「ユファ。物理防御と魔法防御。」

そして自身は、神獣の召喚を始める。

「・・・月の神獣たる、神なる獣、顕現して我らを守護せよ・・・」

神獣フェンリルが召喚され、ユファが唱えた物理防御と魔法防御の魔法が、青い光と緑の光を放ちパーティを包む中、フェンリルの守護の咆哮が響き渡る。

パーティの身体能力全般と命中・回避が上昇する。

ユファの魔法によって、物理防御と魔法防御が上昇する。

コウは続いて、風の神獣たるガルーダを召喚して、攻撃速度上昇の魔法をか ける。

最後に土の神獣のタイタンを召喚して、ダメージ軽減の魔法をかけた。

コウは杖をくるりと回して、石突きを武舞台につけた。

「お待たせいたしました。では、行きますよ?」

シャントットは手を口にあてて、高笑いをした。

「オ~ホッホッホ。フェンリルを召喚するとは小賢しい。多少は歯ごたえがありそうですわね。かかってらっしゃい!」

コウは前衛の3人に向けて叫んだ。

「クルクさん、バル、ウメさん、頼みます!」

「まかせて~。」

「おう!」

「了解だ。」

三者三様の返事と共に、シャントットに攻撃を仕掛けていく。

だが、その結果は驚くべきものだった。

シャントットは、クルクの拳をいなし、バルの両手剣はかわし、ウメの二刀流の剣は手に持った杖で受け止める。

攻撃が当たらないのである。

そのうちに、シャントットは反撃を開始した。

クルクの蹴りをかわしざま、ボディに拳を突き立てる。

バルの渾身の一撃を、バックステップでかわすと、火魔法を放つ。

ウメは、剣撃の合間に、杖の一撃を叩き込まれた。

3人は、それぞれ後方に吹き飛ばされた。

ユファが慌てて、回復魔法を順にかけていく。

バルファルは両手剣を杖にして、立ち上がった。身体からは火魔法を食らったせいで、ぶすぶすと煙を上げている。

バルファルは呆然として、

「信じらんねー。3対1だぜ?攻撃が当たりもしないなんて・・・。」

と呟いた。

「4対1だ。」

コウが光の神獣カーバンクルを召喚して、攻撃を開始した。

前衛の3人は、再びシャントットに対して、波状に攻撃を加えていく。

攻撃する頭数が増えたせいか、少なくともシャントットは反撃は出来なくなった。それどころか、何回かに一回は、攻撃が当たり始めていた。クルクの拳が顔を掠め、ウメの剣がシャントットの服を切り裂く。

「む。」

シャントットは顔をしかめた。

更に、ウメが攻撃回数増強の魔法を自らにかけ、剣撃の嵐の様な攻撃を仕掛けた。シャントットの杖が、真っ二つに切断される、だがその代償にウメは火魔法を食らって吹っ飛んだ。

その間に、クルクとバルファルの準備は整っていた。

「行 くよ!」

「おう」

掛け声と共に、ウェポンスキルと呼ばれる必殺技が発動する。

四神演舞と呼ばれる、白虎・玄武・青龍・朱雀を模した攻撃が決まっていく。

続いて、バルファルがレゾルーションと言う多段攻撃を叩き込んだ。最後の、から竹割りの際に三日月型の紋様が浮かび上がる。

光連携が決まった。シャントットの頭上に眩い光のエフェクトが浮かび上がる。

そこへ、カーバンクルを帰還させ、雷の神獣たるラムウを召喚していたコウの、雷撃の嵐の魔法が叩き込まれる。マジックバーストと呼ばれる、魔法攻撃力を倍加させる効果がかかり、シャントットの身体を雷が貫いた。

「やったか!?」

もうもうと上がる土煙の中、バルファルが状況を見極めようとする。
だが・・・
クルクとバルファルの身体を、火の魔法が包み込んだ。
「きゃっ」
「うわっ」
悲鳴が上がり、クルクとバルファルが崩れ落ちる。
煙の中から現れたのは・・・
クルク達の攻撃で、多少のダメージを喰らったものの、ぴんぴんしているシャントットの姿だった。とは言え、そのプライドは傷つけられた様で、クルク達に向かって叫んだ。
「このわたくしに傷をつけるとは、なんて真似を!・・・ぶっ殺す!」
そして、ウメに切断された杖の半分を投げ捨て、呪文の詠唱を始めた。
「ヤバい。」
コウはラムウを帰還させ、新たな召喚獣の召喚を始める。
シャントットの呪文の詠唱が終わりに近づく、前衛の3人は、ユファが回復魔法を唱え続けているが、まだ動けない。
「・・・右の龍からは炎、左の龍からは風。双頭龍の力の息吹!合体魔法ファイエアロガ!」
同時に、コウの召喚も、終了した。
「・・・全てを守護する大いなる盾、顕現せよ!機神アレキサンダー!」
クルク達の周りに炎の嵐が吹き荒れる。
しばらくの間、バルガの舞台はごうごうと炎に包まれていた。
シャントットはふわりと空に浮かび上がった。
「・・・ちょっとやり過ぎてしまいましたわね。。これでは全員ケシズミに・・・」
シャントットがぽつりと呟く。
だが炎が収まってくると・・・
その中からは、白い結界に護られた 、クルク達の姿があった。
「!?」
シャントットは驚いた。今、自分が使った魔法は、100人単位の人間を生き絶えさせる力があった筈である。それが、ほぼ無傷とは・・・
「・・・絶対防御ですわね。」
機神アレキサンダーが発現する能力で、加えられたダメージをほぼ無効化する。
「しゃらくさい。」
シャントットは次の攻撃をどうするかを思案する。そこへクルク達から声をかけられた。
「博士~。攻撃がショボいよ~。」
「まあ、モテない女は、魔法もイケてないってか。」
「本当の事を言ってやるな。可哀想じゃないか。」
クルク、バルファル、ウメのコントの様な口撃に、しばし呆然としたシャントットだったが、こめかみに青筋が浮き上がった。
「・・・死にたいようですわね・・・では、最大最強の魔法を食らわして差し上げますわよ!!」
と再度呪文の詠唱を始めた。
後方のコウは、カボスから魔力回復薬を数本貰い、ガブ飲みしていた。
薬を飲み終わって口を拭い、カボスに話しかける。
「カボス君。大体予定通りだ。次の博士の攻撃が終わったら、いよいよ出番だよ。」
カボスは白い顔で、頷いて言った。
「良いけど、博士は最大最強の魔法って言ったよね。この結界耐えられるの?」
コウは肩を竦めて、
「分からない。理論的には耐えられる。何せ神の力の顕現だからね。だけど、ヴァナ・ディール最強の魔導師のこれまた最強の魔法なんて受けた事が ないから、なんとも・・・」
と言った。
「分からないって、耐えられなかったらどうなるのさ!?」
カボスは叫ぶように言ったが、コウは冷静に答えた。
「結界が耐えられなければ、全員息絶える。お、そろそろ詠唱がおわるぞ。」
その言葉の通り、シャントットの魔法の詠唱は終わりつつあった。
「・・・全ての物質に破壊を。全ての生物に死を。吹き荒れよ魔力の嵐!」
そしてシャントットは、魔法を発動させた。


「デス」




黒球が白い結界を包み込んだ。

暫く、黒と白が拮抗していたが、やがてガラスの砕けるような音と共に、結界が砕け散った。

だが、闇魔法デスもその効果を失い、消え失せた。
「ちっ。」
シャントットは舌打ちをした。空に浮かんでいた身体が緩やかに落下する。全魔力を使い切ったのだ。

間髪入れずに、コウが叫んだ。

「クルクさん達!頼みます!」

ユファの回復魔法である程度回復していた、前衛の3人は、攻撃を再開する。だがその動きは鈍く、シャントットは全て攻撃を躱していた。

このままだと自然に、シャントットの魔力は回復してしまうだろう。

コウは振り向いて、

「カボス君。出番だ。」

カボスは頷き、背負っていた鞄を下ろして、開けた。中には呪符がぎっしり詰まっている。

コウは、最後の魔力を使って、風の神獣ガルーダを召喚した。吹き荒れる風と共に、半透明で緑色の有翼の神獣が姿を現した。

カボスはコウを見つめて、

「呪符・・・効くかな?」

と言った。

コウは頷いて、

「自分の力と技を信じるんだ。いくよ。」

と言い、ガルーダに合図を出した。

ガルーダの翼が羽ばたき、突風が巻き起こった。その風に煽られて、呪符が次々と舞い上がる。

制御された風に乗った数多くの呪符は、とぐろを巻いてシャントットの方へ向かう。それは白い龍の様だった。




格闘だけで、クルク達を退けたシャントットは、一息ついた。見るとクルク達3人は武舞台の床に倒れ伏している。回復役のユファも魔力切れの様でうずくまっている。

「今度こそ、全員ぶっ殺して差し上げますわよ。」

そこへ突風が吹いた。思ず上空を見ると、白い紙片が次々とシャントットの方へ押し寄せてくる。

数枚がべたりべたりとシャントットに張り付いた。

「なんですの!?これは!?」

剥がそうとするが中々剥がれない。ようやく破りとると、魔力吸収の呪符のようだった。その間もシャントットの身体中に呪符が張り付いてくる。

「小賢しい!」

シャントットは相手の策が読めた。数百枚の魔力吸収の呪符を貼り付ける事によって、魔力切れを起こさせ、気絶させる腹積りなのだ。

シャントットの前方。コウの後方で、カボスが呟いた。

「吸着式魔力吸収呪符陣・・・っていう感じかな。」

シャントットの右手から炎が巻き起こった。数十枚の呪符が灰になるが、シャントットはそれ以上魔法を発動させる事ができなかった。

闇魔法デスによって、消費した魔力は未だ回復していなかったのだ。そうでなければ、範囲攻撃魔法で呪符の全てを焼き払えだだろう。

おまけにこの呪符は、磁石のように魔力を発する対象に張り付き、対象の魔力を外に発散させ続けるので、さしものシャントットもたまったものではなかった。

やがて、呪符が全て張り付き、白いダルマの様になったシャントットは、魔力が0になって、気絶して武舞台の上でばたりと倒れた。

最後に武舞台で立っていたのは、カボスとコウだけだった。

やがてアジドマルジド院長が、武舞台に上がり、勝敗を宣言した。




「勝者。カボスチーム。よって被告カボスの罪はなかっ たものとする。」




初夏を思わせる日差しが、皆を照りつけていた。







【エピローグ】

吟遊詩人達が奏でる音楽と共に、何組もの男女のカップルが緩やかなダンスを踊っていた。

ここはジュノ大公国の中の空中庭園、ル・ルデの庭。

オーロラ宮殿の前の広場を借り切って、感謝祭が行われていた。冒険者互助会主催のものである。

料理や酒もふんだんに並べられ、それをも目当てに、人が多数集まっている。

毎年恒例のこの祭りには、多くの冒険者が集まる。

クルク一家や、コウやユファも感謝祭に参加していた。

バルファルはクルクと踊りながら、話しかけていた。バルファルは緊張した面持ちでクルクを踊りに誘ったものだ。

「ホント、大変な騒動だったな。」

バルファルの腕の中で、クルクがくるりと回る。

「まあ、一件落着したから良いんじゃない~。」

とクルクが答えた。




そう。事件は一応収束を見たのだ。

闘いの後、呪符を剥がされ、意識を取り戻したシャントット博士は、ぶすりと言った。

「一杯食わされましたわ。3人の前衛の挑発もアレキサンダーの絶対防御も、デスを使わせる前振りだったとは・・・ヘッポコ君が考えましたの?」

コウは頭を掻いて、言った。

「恐縮です。ですが、カボス君の呪符が無ければ、この作戦は成り立たなかったでしょう。」

続けて、

「カボス君は、有望な若手です。行いに誤りはありましたが、お許し願いませんか?」

シャントットはその言葉に、ふんと鼻を鳴らして、

「・・・確かに約束は約束。わたくしが負けた以上、罪は許します。」

と言い、カボスを横目で睨んだ。

思わず、固まるカボスを見て、

「子鼠。修行する気はありまして?」

カボスは訳も分からずに頷いた。

「よろしい。多少の根性と才能はある様です。では直弟子になる事を許します。精進しなさい。あなたの問題は、一緒に考えましょう。」

とシャントットは言い、服のホコリをぱんぱんとはたいた。

「あらあら。いいオンナが台無しですわね。」

と言って、転移魔法を使って、自宅に帰って行った。激戦を行った直後にも関わらず、平然とした様子だった。

呆然とするカボスの肩を、アジドマルジド院長がぽんぽんと叩き、

「死なない様に気を付けろよ。凄くシゴかれるぞ。」

と言った。

このやり取りを聞いて、5院の院長達に治療を受けていた、他のメンバーにも、この事件は終わったという空気が流れた。




クルク達の横では、ウメとサンラーが、踊っていた。クルクも照れくさそうだったが、サンラーはガチガチだった。何回もステップを踏み間違えて、ウメの足を踏む。

それを壁際で見ていたカボスは肩を竦めた。

(やれやれ。サンラーのヤツ、ダンスの練習くらいしとけよな。)

事件が終わったあと、サンラーには散々なじられたものだ。指名手配までされては当然ともいえるが。

そうは考えても、カボスのサンラーを見る目は暖かかった。なにしろ、事故を回避するきっかけが掴めたのだ。

なんだかんだ言っても、ヴァナ・ディール最高の魔導師の一人、シャントット博士の下でなら、何らかの解決法が見出せれるだろう。

(だけど、急がなくっちゃな。)

いつ何時、家族や友人達に死に至る事故が降りかかるかも知れないのである。この祭りが終わったら、早速研究に取り掛かるつもりだった。

目を移すと、コウとユファが踊っている。ユファの警戒心のない笑顔がコウに向けられているのを見ると、つまらなくなって、

(ちぇ)

と内心悪態をついた。

そして、手に持ったグラスから、カクテルを一口飲む。コウにブランデーを飲まされたあの夜から、少しは飲める様になった様だ。




「おい。」




不意に横合いから声をかけられた。見るとドレスアップしたミスラが立っている。そのミスラは・・・

「罪狩り!」

カボスは小さく叫んだ。そう言えばコイツの存在を忘れていた。またしてもボクを捕縛しようとするのか。

罪狩りのミスラは一呼吸おいて、

「カボス。シャントット博士の計らいで、とりあえずミスラ本国からの指令は、保留となった。でも忘れるなよ?今度同胞に手を出したら、タダではおかない。」

スカリーMのその言葉に、カボスはくすりと笑った。正にシャントット博士の仕事は完璧だ。罪狩りのミスラの件まで、手を回して貰えるとは。
カボスの笑いを勘違いしたのか、スカリーMはやや顔を赤くして、

「この間は遅れを取ったが、今度機会があれば目にもの見せてくれる!」

カボスは訝しがった。コイツは何を言ってるんだ?

「ああ・・・」

カボスは得心した。このミスラはウルガラン山脈で、サイレドンの黒焼きに飛びついた事を恥ずかしがっているのだ。

むっつりと口をつぐむスカリーMを見てカボスは、

「可愛いとこあるじゃない。どう?一曲踊らない?」

と誘った。

スカリーMは唖然としてカボスを見て、

「・・・お前、全然懲りてないな。」

と言った。







カボスはスカリーMに手を差し出して、ウィンクした。

にっこりと 笑って。







おしまい。


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♪ コウさんの小説リスト ♪


第1弾 : 「とある出逢い」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第2弾 : 「とある出逢い 2」


第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
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第4弾 : 「ねがい」


第5弾 : 「ああ、ばれんてぃおん」
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第6弾 : 「とりははばたけるか」







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【2016/05/23 23:59】 | # コウさんの小説
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