2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
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やぁ、バルファルだ。
ここんとこオレは、ウィンダスでノンビリしちまってる。
体が鈍ってきたな~って感じる前に、元に戻しておかないとな!
じゃないと、すぐにおっさんに見抜かれちまう。
おっさんっていうのはオレの剣の師匠で、うずらさんが事件に巻き込まれた時にも世話になってる、コウって名前のタルタルだよ。
それでモグハで素振りしてたんだけど、危ないから止めろってモグに言われた。
だったら爺やに相手になってもらおうと思って行ったんだけど、断られちまった。

「爺では、もう坊っちゃまの相手は務まりますまい」
「そんなことないよ」
「いいえ、爺にはわかります」

小さかった頃は、爺やに剣の持ち方から教わったんだ。
剣を上手く片手で振り回すことが出来なくて、それで両手で持つようになったのが、オレが両手剣を扱うようになった始まりなんだ。
オレがどんなに力いっぱい振り下ろしても、爺やはビクともしないで剣を受けていたんだけどな。
そっか・・・オレ、あの頃よりずっと強くなってるんだな。

「梅ならどうでしょう?」
「梅さんかぁ。・・・そうだな、どうせヒマしてるだろうし、行ってみるかな」

オレはちょっと興味が湧いてきた。
梅さんはベドーの大伽藍や、デルクフの塔の上層にも軽装で行くくらいだ。
持っていたのは粗悪な片手剣だったけど、それなりに腕は立ちそうだって思ってたんだ。
一緒に行くかって聞いたんだけど、爺やは装備品の手入れをするとか言ってた。


梅さんのモグハを訪ねたら、モグが出てきて中に通してくれた。
みんなが言ってるけど、ここのモグは口うるさいんだ。
でも今日は、何だかご機嫌みたいだな。

「サンラーさんとご主人さまは、中庭にいるクポ。モグが中庭を作ったクポよ。そしたらサンラーさんが、すごいステキですってモグを褒めてくれたクポ♪」

そういやうちも、中庭を作るから設計図が欲しいって、モグが言ってたっけな。
中庭に出てみると、桜の木の下にテーブルが置かれていた。
二人は、空いているスペースに何を置くかと相談しているところだった。
挨拶すると、さっそくサンラーがお茶を淹れに行ってしまった。
オレが手合わせをしてもらいたい事を伝えると、梅さんは首を横に振ったんだ。

「剣がない」
「え・・・。この間持ってた、あの剣は?」
「立てかけておいたら、モグが掃除中に椅子を倒してな。当たって柄から折れてしまった」
「えぇぇぇ!? そんな剣使ってたのかよ・・・」
「クルたんにも言われていたし、新しい剣を用意しようと思って探しているんだが、どうもこれという物がなくてな」

あんな剣を使ってたくらいだから、何だっていいだろうと思うけど、やっぱりイザとなるとこだわっちまうんだろうな。

「昔使ってた剣は?」
「墓の中だ」
「墓・・・」

梅さんがサンドリアに戻れない話は、だいたい聞いて知っている。
墓に埋めたってことは、死体と一緒ってことだよな?
そんなもん、誰が掘り出すか!

「他には?」
「処分されていなければ、実家の俺の部屋だ」
「取りに・・・は行けないか」
「忍び込もうと思えば、出来ないこともないが」
「それは止めとこうぜ」
「・・・ふむ、インス二で行けるな」
「ふむ、じゃなくて! 扉を開ける度に掛け直すんだぞ。それに、もし見つかったりしたら、幽霊騒動じゃ済まないぜ」
「そうです、梅先生は待っていてください」

サンラーが、お茶の用意を整えて戻ってきた。
それよりもオレは、サンラーが言った言葉が気になった。
待っていて・・・って言ったよな?

「わたしとバルファルさんで、忍び込んで剣を取ってきます」
「おい、ちょっと待て!」
「わたし一人じゃ心細いですけど、バルファルさんと一緒だったら、きっと大丈夫です」
「そういう事じゃなくってな、忍び込むってのが問題なんだ」
「だって、インス二すれば姿も音も消せるのでしょ? わたしはお薬を使います。バルファルさんは、確かジグでインス二出来ましたよね?」
「出来るけど・・・」
「でしたら、扉を開けるのはバルファルさんにお任せします」
「だったらオレが一人で行くよ」
「わたしがいたら、足手まといですか? でしたら、梅先生の剣のために、わたしは待っていますけど・・・」

シュンとしたサンラーには気の毒だけど、オレは忍び込む気すらなかったよ。
だってさ、もし見つかっても、モンスターなら戦って倒せばいいけど、人間はそうはいかないじゃないか。
捕まれば不法侵入と窃盗の罪で、確実に牢獄送りだろう。
そんなリスクを犯すより、もっといい方法があるだろ。

「うずらさんかチリさんに頼んで、取ってきてもらえばいいじゃないか」
「どういう理由で、彼女たちは俺の剣を取りに行くのだ?」
「理由は・・・あ、そうだ。弟がいるんだろ? 連絡は出来ないのか?」
「バルファルさん・・・」
「だからさぁ・・・あー、もう、わかったよっ! サンラー、準備して来いよ」
「はいっ!」

大きく頷いたサンラーが、走って中庭を出て行く。
やれやれ、仕方ないぜ。
オレが断ったなんて、クルクの耳に入ってみろよ。
なに言われるか、わかったもんじゃないもんな。
ところが、優雅にカップを口に運びながら、梅さんがとんでもないことを言い出したんだ。

「そうだな。幽霊騒動にしてしまえば、墓の中の剣も取り出せるな」
「はぁぁ?」
「よし。バルファルはサンラーと先に屋敷に入り込んで、怪奇現象を起こしておいてくれ」
「怪奇現象~?」
「その程度のことなら、見つかってもどうということはないだろう」
「いや、大ありだと思うぜ」
「そうか? まぁ、その時の責任は俺が取る」
「梅さんに責任を取らせるわけにはいかないだろうよ」

責任を取るってことは、生きてたってことをバラすことになるんだろ?
んなことがバレたら、本当に幽霊騒動どころの話じゃなくなる。

「サンラーは置いて、オレだけが行こうか?」
「いや、連れて行ってやってくれ」
「何でだよ?」
「このところ、冒険をしたいと言っていてな」
「冒険くらい連れてってやれよ・・・って、それには剣が必要なわけだな」
「サンラーは聞き分けがいいし、機転も利くぞ」
「秘蔵っ子自慢かよ」
「屋敷に忍び込んで、俺の部屋で物音を立てたりするだけでいい」
「怪奇現象な」
「ただし、あまりやり過ぎるなよ。シュリーナは身重だからな」
「シュリーナさんて、梅先生の弟さんの奥さんですよね?」

動きやすい装備に着替えたサンラーが、ワクワクした顔をして戻って来た。
腰には小さなカバンと短剣を携えている。

「でしたら、シュリーナさんには事情をお話ししてもいいですよね?」
「そうだな。・・・出来れば弟にも話を通しておきたいからな、うずらの店に行くように言付けておいてくれ」
「それで、どうするつもりなんだ?」
「揃える物があるから・・・とりあえず、2日ほど潜入していてくれ」
「はい!」
「マジかよ~」

それから梅さんは、家までの地図と、屋敷の見取り図を簡単に描いて説明してくれた。
モンスターが待ち構えているダンジョンに入るわけじゃないから、武器はいらないだろうと思ったが、持ってこなかった事を後悔する事態になった時の事を考えて、オレも背中の剣は下ろさずに行くことに決めた。

「もしかしたら、俺の部屋自体なくなっているかもしれん」
「その時はどうするんだ?」
「姿を消したまま、適当に屋敷の中を走り回れ」
「へいへい、了解だ」
「サンラー、頼んだぞ」
「はいっ!!」

やたら張り切っているサンラーを連れて、オレはクリスタルでサンドリアへと飛んだ。
一緒にいるのがサンラーだからなのか、あるいは他人の家に忍び込むからなのか、オレはいつになく緊張していた。
だけどさ、これってやっぱり犯罪だよな?
そう思えば思うほど、やましい気持ちになってくる。
隣を歩くサンラーを見ると、相変わらず目をキラキラとさせていた。
冒険、かぁ・・・。
覚えた道を歩きながら、これは犯罪じゃないと、オレは自分に言い聞かせていたよ。

やがて、目的の屋敷が見えて来た。
オレたちは一度前を素通りしてから、脇道に置かれていた樽の陰に体を潜めさせた。

「いいか? これは遊びじゃないぞ」
「わかっています」
「見つかったらオレたちだけじゃなく、梅さんにも罪が及ぶんだ。もしそんなことになったら、クルクは黙っていないだろうし、うずらさんやチリさんだって同じだ」
「黒糖さんもです」
「そうだな。かぼすだって、ぴよさんやクマさんだって、な」
「はい」
「インビジをかけたら、お互いが見えなくなる。勝手に動き回るなよ」
「わかりました」

大きく頷いたサンラーは、真剣な目をしていた。
聞き分けの良さに関しては、梅さんが自慢するだけのことはありそうだ。
その点は、クルクよりも安心できた。

さて、一番の問題は、家に入ることだった。
道すがらずっと考えていたんだけど、サンラーがいい案があると言い出した。

「木の棒で、扉をノックするんです。そして木の棒を玄関の前に置いて隠れます。出てきた人は、誰もいなくて、ただ木の棒が落ちているのを見つけますよね。お屋敷の人だったら、その棒を置いたままにはしないと思うんです」
「そうか。出てきて棒を拾うよな」
「その隙に、入りましょう!」
「冴えてるな!」
「この前読んだ本に、そういうシーンがあったんです」

サンラーは照れくさそうに、エヘヘと笑った。
だけど、そんなに都合のいい木の棒は落ちていなかったんだ。
オレは落とすアイテムを変更することにして、通りに人気がなくなるのを見計らい、サンラーにオイルとパウダーを使うように指示をした。
サンラーの姿が消えたのを確認して、オレは 「行くぞ」 と小声で囁いた。

玄関から2~3歩離れた場所に、オレは血染めの衣を置いた。
血染めの衣は使う用途もないし、捨てようと思ったままずっとカバンに入りっぱなしになってたんだ。
ここで捨てられて、サッパリしたぜ。
それから、握った拳で扉を乱暴にドンドンと叩き、すぐにジグで姿を消した。
少しの間があり、玄関扉が開くと、中年の男性エルヴァーンが姿を見せた。
お仕着せのような服を着ていることから察すると、おそらく使用人だろう。
彼は少し先に落ちている物に気が付き、辺りを見回しながら玄関から出て来た。
誰もいないことが不思議なのだろう、首を傾げながら落ちている物を拾い、そして 「うわぁっ」 と声を上げていた。
もちろんオレたちは、その隙に中へと入り込んでいたよ。
そして、血染めの衣を指でつまんだ使用人が、喚きながら廊下の奥へと姿を消すのを待ってから、オレはひそめた声でサンラーを探した。

「サンラー、いるか?」
「ここにいます」

スニークのせいで、ひそめた声が更に小さくくぐもって聞こえる。
サンラーの手が腕に当たったから、はぐれないように手を繋ぐことにした。
まずは、二階にあるはずの、梅さんの部屋からだ。
姿と音を消しているとわかっていても、忍び足になっちまうのは、やっぱり家に忍び込んでいるっていう心理かな?
階段を上ろうとした時に、上から物音が聞こえた。
見上げると、お腹の大きなエルヴァーンの女の人が、一段一段階段を下りて来るところだった。
あの人が、シュリーナさんだな。
ゆったりとしたドレスを着ていて、片手をお腹に当て、もう片手で階段の手すりを掴んでいた。
見ていて危なっかしくって、手を貸したくなっちまう。
それはサンラーも同じだったようで、自然と握っている指に力が入っている。
もしも足を滑らせたりして落ちそうになったら、きっとオレたちは咄嗟に助けてしまうだろう。
だけど、その心配はすぐになくなった。
さっきの使用人と入れ替わるように姿を見せたのは、真っ白なエプロンを着けた女性のエルヴァーンだった。
オレたちは階段の脇へ退き、彼女が階段を駆け上がるのを見上げていた。

「奥様、危のうございますわ」
「あぁ、ポリエッタ・・・ごめんなさいね。今、お客様がお見えじゃなかった?」
「いいえ。玄関に汚らしい衣が落ちていたのを、ジョハンが大騒ぎしていただけですわ」
「そう・・・?」
「さぁ、お体に障りますから、お部屋でお休みになってくださいな」

オレはヒヤリとしたよ。
もしかしたら、二階の窓から見られていたんじゃないかって。
でもシュリーナさんはそれ以上なにも言わなかったし、ポリエッタっていう名前の使用人の女の人に連れられて戻って行ったんだ。
二人の姿が見えなくなってから、オレは繋いでいた手でサンラーに合図すると、階段を速足で上って行った。
長い廊下の一番奥、そこが梅さんの部屋のはずだった。
シュリーナさんがどこの部屋に入ったのかわからなかったけど、とりあえずオレたちは一気に駆け抜けた。
部屋の前に辿り着き、後ろを振り返ってみたけど誰もいない。
ドアを開けるには、インビジを解かなきゃならない。
だけど、ドアにカギがかかっていたら?
もしもポリエッタがシュリーナさんの部屋から出て来たら?
考えている時間に、ジグが切れちまう。
オレは腹を決めて、インビジを解いた。
こんなに緊張したのは、限界突破でダボイの奥修道やベドーの大伽藍に入った時以来かもしれないな。
素早く動いているつもりなのに、やけに動作が鈍く感じる。
高い位置にあるドアノブを掴んで回すと、カチャリと音を立ててドアは開いた。
空気の動きで、サンラーが中へと入ったことがわかった。
オレも部屋に入ろうとした時、後ろでドアが開く音が聞こえたんだ。
ポリエッタが、シュリーナさんの部屋から出て行くのだろう。
間一髪、部屋に滑り込んだオレは、ドアを最後まで閉めずにそっと閉じた。
耳を澄ますと、ドア越しに遠ざかって行く足音が聞こえた。

「・・・大丈夫みたいだな。・・・サンラー?」
「・・・・・・」
「サンラー、いるか?」
「あ、ここです」

インビジを解いたサンラーは、壁の一面を見上げていた。
そこには、立派な暖炉があった。
いつでもすぐに火を起こせるように、新しい薪が積まれている。
その暖炉の上に、梅さんの肖像画が掛けられていた。
ここが梅さんの部屋で、間違いはなさそうだ。
それにしても・・・。

「スゲーなぁ」
「・・・・・・」
「こんなデカい自分の肖像画が部屋にあるって、どうなんだろうな」
「・・・・・・」

オレの言葉に返事もなく、サンラーはずっと見上げている。

「持って帰るか?」
「そ、そんなこと出来ませんよっ!」
「シ―ッ!」

顔を真っ赤にしたサンラーが、両手で口を押さえた。
改めて部屋を見回せば、設えられている調度品はどれも格式が高そうだ。
部屋の掃除は行き届いているようだし、いつ部屋の主が戻ってきてもいいように、ベッドメイクもされている。
死んだことになってるのに、な。

そして、大きな棚の横の壁に、二本の片手剣が飾られていた。
まだ梅さんを見上げているサンラーをそのままにして、オレは剣を見上げた。
一本は、細身のレイピア系の剣だ。
そしてもう一本は、柄の装飾が特徴的な、あれはウィングソードか?
ちょっと手に取って見てみようと思ったけど、高い位置にあるので手が届かない。
椅子に乗ったら取れるかな?
オレは机の前にあった椅子を壁の側へと移動させて、その上に立って腕を伸ばした。
剣に触ることは出来たけど、固定されているのか取ることが出来ない。
やっとサンラーがやって来て、後ろからオレを支えてくれた。
つま先立ちになって、何とか剣を外すことが出来たけど、思っていた以上の重さにバランスが崩れ・・・。

「っわ・・・わわっ・・・」
「危ないですっ・・・キャァ!」

フワリと体が浮き、いや、沈み、次の瞬間、大きな音と振動を響かせて、オレは床に落ちていた。

「イタタ・・・」
「大丈夫ですか!?」

サンラーが駆け寄って訊ねてくれたけど、それよりもオレは別の声に耳を傾けていた。

「今の音は何ですの!?」
「奥様!?」
「わたくしではないわ」
「こっちから、すごい音が聞こえましたぞ!」

ヤバい!
オレは体を起こしながら、剣を目で探した。
剣は床を滑って、ドアの前に落ちていた。
バタバタと数人の足音が迫って来ている。
オレが椅子を蹴って元の位置に戻している間に、サンラーはカバンからパウダーを取り出している。
だが、それじゃ間に合わない!

「隠れろ!」

オレはサンラーをベッドの方へと突き飛ばし、自分もその下へと滑り込んだ。
デカいベッドの下には 、タルタルが隠れるだけの余裕が十分にあった。
ドアが開いたのは、そのすぐ後だった。

「何が・・・あっ・・・」
「どうした?」
「剣が落ちてますわ」
「なぜこんな場所に?」
「壁掛けが外れたのでしょうか?」
「いや、そうではなさそうだ」

オレはベッドの下から、部屋に入って来た数人の足を見ていた。
みんなしてウロウロと部屋の中を歩き回っているが、剣が落ちていたこと以外に異常を見つけられなくて、しばらくして全員の足がドアの向こうへと消えた。
オレは大きく息を吐き出し、ベッドの下でうつ伏せになった。

「大丈夫ですか?」
「悪かった。あんなに重いとは、思ってなかったんだ」

タルタルが持つ剣とエルヴァーンが持つ剣じゃ、大きさや重さが違うのは当たり前だ。
不安定な足場で、重たい剣を下ろそうとしたんだ。
こうなることは、想定しておくべきだったよ。
自分の迂闊さに落ち込んでいると、サンラーがクスクスと笑った。

「・・・なんだよ」
「怪奇現象、その1ですね」
「あ・・・アハハ、それもそうだな」

つまり、こんな感じにこの部屋でちょっとした騒ぎを起こしていればいいってことか。
ベッドの下から這い出すと、剣は元の場所に飾られていた。
もう一回くらい、落としてもいいかもな。
そんなことを思っていたら、いきなり服の後ろを掴まれて引きづり倒された。
「ぐぎょっ」 とかいう声が出てしまったが、すぐにサンラーに口をふさがれた。
何だと見ると、サンラーがベッドの下から反対側を指さしていた。
反対側・・・部屋のドアが開いている!?
そして、ドレスの裾が見えていた。
オレはそっとベッドの下に這い戻った。

ドレスの裾は部屋の中へと入り、音を立てずにドアが閉まる。
ゆっくりと、一歩、二歩・・・そこで足が止まり、小さな囁くような声が聞こえた。
その声は、シュリーナさんだった。

「だ、誰か・・・いるのですか?・・・お金や、宝石でしたら、さ、差し上げます。そっと、逃がして差し上げます。で、ですから、どうか・・・」

もしも本物の強盗がいたら、これは利口な行動とは言えないな。
お腹に赤ちゃんがいるなら尚更、1人で対峙すべきじゃないよ。
サンラーはどう思っているのかわからないけど、出て行こうとオレに頷いている。
そうだな、シュリーナさんには説明しておいた方がいいって、梅さんも言ってたし。
オレはサンラーに頷き返した。

「・・・驚かして、ゴメンなさい」

そう言いながら、サンラーがベッドの下から這い出した。
その後に、オレも続く。
するとシュリーナさんが、 「あなたはさっき玄関にいた・・・」 って、オレを見て言ったんだ。
やっぱり見られていたのか。

「オレたち、泥棒じゃないから。・・・って言っても、信じらんないよな」
「初めまして。わたしはサンラーと言います。こちらは、バルファルさんです」
「あ、ども・・・」

サンラーが腰をかがめて、まるで淑女みたいに優雅なお辞儀をするもんだから、オレもつられてお辞儀をした。
シュリーナさんは胸の前で両手を握ったまま、オレたちを見つめていた。
驚いているんだろうし、怖くもあるだろう。
表情は強張っていたけれど、エルヴァーン特有の優美な顔付きで、キレイな人だった。
ここはサンラーに任した方がよさそうだと、オレは黙っていることにした。

「シュリーナさん、ですよね?」
「・・・え、えぇ・・・」
「わたし、シュリーナさんの旦那様のお兄さんに、お世話になっているんです。・・・って言ったら、わかりますか?」

すると、シュリーナさんの目がみるみる見開き、握っていた手を口元に当てた。
よっぽどホッとしたのか、床に座りそうになるのを、オレとサンラーでソファーに導き座らせたんだ。

「メイヴェル様は、お元気でいらっしゃるのでしょうか?」
「はい、元気です。わたしは、梅先生とお呼びしています」
「これは、一体・・・」
「えっとですね、実は、梅先生が使っていた剣を、持ち帰らせていただきたいのです」
「それで、あの剣を・・・?」
「あの剣もそうなんだけど、一番は、墓に埋められている剣なんだ」

ここでオレが話を引き継いだ。
墓に埋められている剣を掘り出すために、ちょっとした幽霊騒動を企んでいること。
それで、オレとサンラーで怪奇現象をでっち上げて起こそうと思っていること。
だけど、シュリーナさんの身体に障らないように、全てを打ち明けるように言われたこと。
梅さんの弟に、うずらさんの店に行くように伝えて欲しいこと。
それらを全て話して聞かせたんだ。

「まぁ・・・。うずらさんとも、お知り合いですのね?」
「あぁ、仲間だ」
「わたくし、メイヴェル様とうずらさんには、感謝をしてもしきれませんの。何でもお手伝いいたしますわ」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
「主人には、戻りましたらすぐに伝えますわ。それと、わたくしは何をすればよろしいの?」
「えっと、そうだな・・・」
「怖がってもらうのはどうでしょう? わたしたちが物音を立てますから、幽霊がいるって怖がってみてください」
「お芝居みたいで、面白そうですわ」
「わたしたちは、姿を消したりしますけど、このお部屋にいさせてください」
「わかりました。・・・それで・・・?」
「あー、部屋に戻っていいよ。音がしたら、怖いって言えばいいからさ」

シュリーナさんはコックリ頷くと、自分の部屋へ戻って行った。
それからオレたちは、さっそく次の怪奇現象の相談をした。
もう一度剣を落すか、それとも、叫んでみるか・・・。

「お部屋のドアを、バーンって開けてみましょうか」
「うっは・・・こえぇ・・・」
「いかにも、何かがこのお部屋に出入りしているっていう風ですよね」

これは芝居で、オレは仕込み側だからいいようなものの、こんなこと知らないでやられたら、オレなら気絶するぜ。
サンラーはパウダーの用意をして、オレはドアノブを回した。
そして二人で思いっきり、力任せにドアを押し開けると、勢いよく開いたドアが派手な音を立てて壁にぶつかった。

「何の音!?」
「また二階よ」
「今度はなんだ!?」

バタバタと階段を駆け上がって来る足音が聞こえた時には、オレとサンラーは姿を消していた。
やって来たのは、ポリエッタとジョハンと、髪を二つに結んだ女性だった。

「か、風で開いたのかしら?」
「窓なんか開いていないだろう」
「イヤだわ、何かおかしくない?」
「奥様はご無事かしら」

3人は代わる代わる顔だけで部屋を覗き込んで、すぐに扉を閉めてしまった。
オレは閉まったドアに体当たりしてみた。
ドン!という音の後に、キャーという悲鳴が外から聞こえた。
サンラーに 「これは遊びじゃない」 なんて言ったけど、ちょっと楽しくなってきちまったぞ。
だけど、やり過ぎないようにしないとな。
他にすることもなくて、オレはベッドの下に潜り込んで横になった。
梅さん、どうするつもりなんだろう・・・。

いつの間にか寝ていたみたいで、目が覚めた時は部屋が薄暗くなっていた。
のそのそとベッドの下から這い出すと、サンラーはソファーに座って本を読んでいた。

「暗くなってきたな」
「えぇ。明かりは点けたらダメですよね」
「そうだな」

魔光草でもあったら、自然と明るくなるのにな。
それに、腹が減ってきた。
夜中になったら台所にでも行って、食べ物をもらってくるかな。
・・・とか考えていたら、急に廊下で声が聞こえた。
サンラーは急いで本を戻すと、ベッドの下に滑り込んだ。
オレはジグで姿を消して、その場に立っていた。

「何をたわけた事を言っているのだ」

その声と同時に、ドアが開いて部屋が明るくなった。
入って来たのは、厳つい顔つきのエルヴァーンの男性だ。
すぐ後ろにランプを持ったジョハンがいて、「ですが、旦那様」 と言っているから、この人が梅さんの弟のロディファスさんか。
どちらかと言えば優男風に見える梅さんとは全然似ていなくって、言われなければ兄弟だなんてわからないや。
それに、この人の方が年上に見えるな。

「剣が落ちたのは、支えが外れたからだろう。ドアが勝手に開いたのは、窓でも開いていたのだろう。兄上の霊などと、バカげたことを言うんじゃない」
「支えは外れてはおらず、窓は閉まっておりました。それに、おかしなことが起こる少し前に、ボロボロの衣が玄関に落ちていたのです」
「衣だと?」
「はい。それは血が染み込んで茶色くなってしまっていて・・・メイヴェル様がお亡くなりになったのは、オークの集団に・・・」
「止めろ、バカバカしい!」

オレは吹き出しそうになるのをグッと堪えたよ。
そっか、オレが捨てた血染めの衣が、いい感じにアクセントになってたんだな。
使用人たちが関連付けてくれて、むしろありがとなって感じだ。
ロディファスさんは梅さんが生きていることを知ってるから、幽霊だとか言われても信じないのは当たり前だ。
だけどジョハンから 「奥様は、大変怯えられていらっしゃいます」 って聞くと、ロディファスさんは眉間に深いシワを作って部屋を出て行ったんだ。
オレは閉まったドアに耳を当ててみたけど、話声は聞こえては来なかった。

ベッドの下から顔を出したサンラーが、オレを見上げた。
ジグが切れたらしい。

「シュリーナさんから、わたしたちのことを聞くかしら?」
「オレたちのことを聞いて、それからうずらさんの店にも行くだろうな」
「それからまた、お家に戻って来るのですよね?」
「そりゃそうだろ」
「でしたら、ロディファスさんが戻る時に、わたしたちも入れてもらえますよね?」
「入れてもらえる?」

何のことを言っているのかと首を傾げていると、サンラーがオレンジジュースが飲みたいと言い出した。
ココからデジョンして、うずらさんの店に行って、ロディファスさんと会い、屋敷に一緒に戻る。
つまり、そういうことか!

「腹も減ったよな。よし、それじゃうずらさんの店に行くとするか」
「はい」

サンラーは呪符で、オレは指輪で一度ウィンダスに戻り、そこからサンドリアにとんぼ返りだ。
サンラーがプリズムパウダーをもう少し買い足しておきたいと言うので、競売所で手に入れてからうずらさんの店へと出かけた。

「あら? お店のランプが点いていませんね」
「今日は休みか?」
「でも、中は明かりがついているみたいです」

閉められている窓のカーテンから、仄かな明かりが漏れていた。
オレたちは裏口へと回り、扉をノックした。
2回目にノックをした時、中から 「どなた?」 と言うチリさんの声が聞こえた。

「バルファルだ。それから、サンラーも」
「あらあら、まぁ・・・」

すぐにドアが開き、チリさんがオレたちを招き入れてくれた。
そして店の方へ顔を向けると、「うずらちゃん、バルファルさんとサンラーさんよ」 と声をかける。

「それじゃ、私は行って来ますわね」
「うん、お願いね」

そのままチリさんは、オレとサンラーに 「がんばってくださいね」 って言って、店から出て行った。
うずらさんはカウンターの中にいて、何かを作っているらしい。
その前の席には、さっき梅さんの部屋で見たエルヴァーン、ロディファスさんが座っていた。
オレとサンラーは、何となくロディファスさんに会釈をした。
すると、ロディファスさんもオレたちを見ながら、会釈を返してくれたよ。

「今日は休みなのか?」
「臨時休業よ」
「それでチリさんは、どこ行ったんだ?」
「ん、ちょっと黒糖さんの所」
「爺やの所? 何しに?」
「夜なべでお裁縫」
「はぁ?」

うずらさんは意味深に 「うふふ」 と笑った。
それから、うずらさんはオレたちのことをロディファスさんに紹介したんだ。

「この二人がさっき話した、怪奇現象の原因よ。バルちゃんと、サンちゃん。それでこちらが」
「ロディファスさんだろ? オレはバルファルだ」
「サンラーと申します」
「貴方がたでしたか!」

ロディファスさんは厳つい顔で頷きながら、わざわざ席から立ち上がってお辞儀をしてくれた。
顔の割には、真面目な人っぽいな。
それから、やけにサンラーのことをまじまじと見ていると思ったら、うずらさんがまたクスクスと笑い出した。

「ロディファス様、この子が梅ちゃんの秘蔵っ子よ。バルちゃんは見つかっても仕方ないけど、サンちゃんだけは何としても守らないと、梅ちゃんに何されるかわからないわよ~?」
「オレは見つかっても仕方ないのかよ!」
「バルちゃ~ん、クルたんがオカンムリよ。『面白そうなこと、何でクルクに内緒にしてるのさ!』 ですって」
「うへぇ・・・。で、クルクはどこにいるんだ?」
「梅ちゃんに頼まれごとされて、彫金師の所にお使いに行ってるわ」
「彫金師~?」
「ほら、クルたんの親友に、匠がいるって言ってたじゃない?」
「あぁ・・・」

タルタルの女性で、名前は確か・・・ライカだったか。
三つ子で、三人とも合成の匠だって聞いたな。
クルクは親友のくせに、三人の見分けがつかないって言ってたっけ。
「きっと同一人物なんだよ」 とか、バカなことを言っていた。
オレたちが背の高い椅子によじ登って座ると、うずらさんは作り立てのサンドイッチを皿に盛って出してくれた。

「ロディファス様に、持って行ってもらおうと思っていたのよ。お腹減ってるでしょ? サンちゃんは、オレンジジュースでいい? バルちゃんは?」
「オレも同じでいいや」

オレの隣で、改めてサンラーとロディファスさんが挨拶を交わしている。
オレはサンドイッチをパクつきながら、うずらさんに向き直った。

「でさ、梅さんは何をしようっていうんだ?」
「さぁね、詳しいことはあたしも知らないわ」
「・・・うそつけ」
「あら、何でそう思うのよ?」
「例の一件に関しちゃ、アンタらツーカーなんだろ? オレらに言わないことでも、梅さんはうずらさんには説明くらいするだろうと思ってさ。それにうずらさんは、知らないまま協力なんかしないだろ?」

うずらさんは目を細めてオレを見ると、フフンと笑った。

「そうね・・・。とにかく、梅ちゃんは埋めてしまった剣を手元に戻したいのよ。ずっと使っていた剣だったからね。だからこそ、遺体が梅ちゃんじゃないと疑われないように、一緒に埋葬しなくちゃならなかったんだけど」
「部屋にウィングソードがあったけど、やっぱりあれじゃダメなのか・・・」
「あの剣は、ウィングソードではないのです」

聞いていたのか、ロディファスさんが教えてくれた。
部屋に飾ってあった剣も梅さんのお気に入りだったらしく、刃がキレイなのだそうだ。
刃がキレイ?
似ているけどウィングソードじゃなくって、刃がキレイって言うと・・・エフェメロンか?
抜刀すると陽炎みたいな霞が刃を覆い、光の粒が舞うっていう・・・。
エフェメロンがあるなら、それでいいじゃないかって思うけどな。

その時、店の裏口を叩く音が聞こえた。
やって来たのは、クマさんだった。

「お待たせ。かぼちゃん特製、悪霊セットだよ。説明が書いてある手紙も預かって来たから、その通りにしてね」
「ありがとう。何か飲んで行く?」
「うぅん、これから黒糖さんの所に行くから」
「大変だけど、よろしくお願いね」
「任せて!」

クマさんはこっちに顔を向けて、ヒラヒラと手を振ってから帰って行った。
悪霊セットとかいうのは数枚の呪符で、うずらさんは添えられていた手紙を見ながらそれを分けて、オレとロディファスさんの前に置いた。

「ロディファス様は、大聖堂から護符をもらってきたと言って、この呪符を梅ちゃんの部屋のドアに貼ってくださいな。あとは、手筈通りに・・・」
「うむ、わかった」
「手筈ってなんだ?」
「バルちゃんたちは、梅ちゃんの部屋に戻ったら、コレを暖炉の中とカーテンの見えない所に貼ってね。炎のマークがある方が暖炉よ。間違えないで」
「あ、あぁ・・・」
「それから、適当に床や壁やドアを叩いたりして、怪奇現象を起こし続けてちょうだいね。ただし、ドアは開けないように」
「はい、わかりました」

手筈が何だかわからないままだったが、それはロディファスさんがどうにかすることなんだろうな。
腹も一杯になったし、ロディファスさんが帰るみたいだから、オレたちも腰を上げた。
うずらさんは明日の分だと言って、パンやチーズ、スモークした肉を包んでくれたよ。
それと、小さなランタンも渡してくれた。

「黒糖さんたちとクルたん次第なんだけど、早ければ明日中には片が付くはずよ。あんまり怪奇現象を長引かせると、使用人たちが街で話のネタにしちゃいかねないから」
「それに関しては、私が箝口令を布いておきましょう」
「お願いするわ」

店から出て屋敷へ戻りながら、サンラーはロディファスさんに、梅さんは昔から豆が嫌いだったのかって聞いてたよ。
子供の頃から嫌いだったそうだ。
でもサンドリアって言ったら、豆料理が有名じゃなかったっけ?
ロディファスさんは、豆のシチューが大好物らしい。
そんな他愛もない話をしていたら、あっという間に屋敷に着いた。
オレとサンラーはインスニをして、ロディファスさんの後に続いた。
普通に玄関を入り、そのまま先に階段を上っていると、ロディファスさんがジョハンとポリエッタを呼んだ。

「お帰りなさいませ」
「シュリーナはどうしている?」
「奥様は、落ち着いていらっしゃいます」
「あれから、おかしな物音は聞こえておりません」
「・・・そうか。とりあえず、大聖堂の司教様から護符をいただいてきた。私は霊など信じてはおらんが、皆も面白おかしく噂話などせぬよう、注意しておくように」
「それはもちろんでございます」
「では、護符を・・・」
「いや、これはこの家の主人である私が貼るようにと言い付かった」
「かしこまりました」

階段を上る音が聞こえ、ロディファスさんとジョハンがこちらへやって来る。
ロディファスさんは梅さんの部屋の前で立ち止まり、ゆっくりと部屋のドアを開いてくれた。
オレたちは何の問題もなく、梅さんの部屋に入れたよ。
ドアを開けたロディファスさんは、部屋の中の様子を窺うような仕草をしてから、ドアを閉めた。
それからカサコソという音がドアからしていたから、きっと護符を貼っているんだろう。
かぼすが作った、インチキの護符だ。

「仮に霊というものがいたとすれば、これで閉じ込めたことになる。明日明後日にでも、霊験あらたかな司教様が、お払いに来てくださることになっている。それまで、決してこの部屋を開けてはならん。よいな」

ロディファスさんはそう言って、自分の部屋へ戻って行ったみたいだ。
となれば、誰もこの部屋には入って来ない。
オレはうずらさんからもらったランタンに火を入れて、ベッドとソファーの間の床に置いた。
小さいけど、真っ暗な部屋の中では十分に明るく感じるよ。
かぼすの呪符は、夜が明けてから貼ることにした。

「サンラーは、ベッドで寝ろよ。オレはソファーで寝るからさ」
「でも・・・」
「怪奇現象はまだ続くんだから、ベッドが乱れていたって平気だよ」
「はい」
「じゃ、寝る前にいっちょ、床でも叩いておくか」

サンラーが靴を脱いでベッドによじ登っているのを見ながら、オレは両手剣で床を不規則に数回叩いた。
それからランプの明かりを小さくして、オレはソファーに横になった。
爺や達は、何をしてるんだろう?
不審に思われずに墓の中の剣を取り出すって、どうやるんだろう?
ぼんやり考えていたら、突然ガリガリという音が聞こえた。
オレは起き上がり、ベッドを見た。
サンラーも体を起こして、オレの方を見ている。

「今の音・・・」
「・・・何でしょう?」

その場で静止したまま耳を澄ましていると、またガリガリという音が聞こえて来た。
何かを引っかいているような音は、部屋の入り口の方から聞こえている。

「ドアを・・・開けろって催促しているみたい・・・」
「お、オポオポでも、飼ってるのか・・・?」
「ホンモノのオバケかも・・・」
「バ、バカっ、そんなこと言うなよっ!」

オレもチラッとそう考えていたから、声に出して言われると、怖さが余計に増しちまった。
いや、もしかしたら、かぼすのインチキ護符の仕業かもしれないぜ?
でも、そうだとしたら、オレたちが怪奇現象を起こし続ける必要はないはずだよな。
うずらさんも、そう言うはずだ。
じゃぁ、何が音を立ててるんだよ!?
ガリガリという音は続いていて、焦れているようにだんだん早くなっている。
そして、一瞬止まったと思った次の瞬間、ドーンドーンと大きな音がドアから聞こえ・・・静かになった。

「バ、バルファルさん・・・」
「お、おう・・・」
「コワイです」
「オレもだ」

男の見栄とか、そんなの一かけらも頭になかったよ。
ただ、デジョンもしないでそこにいられたのは、「バルはコワがりで、ヨワッチイんだもんね~」 と言ってプププと笑う、子供の頃のクルクの顔が脳裏をよぎったからだ。
物陰から飛び出して来ては脅かされ、後ろにオバケがいると指さされては脅かされ、その度にオレは 「クルたん、やめてよ~」 と言って泣いていた。
くっそ! オレはもう爺やよりも強いんだぞ!

「オバケでも何でも来やがれっ」

音が聞こえなくなったからじゃ、決してない。
オレは両手剣を握って、朝まで素振りをすることにした。
ここんとこの練習不足も、それで解消されるだろう。
サンラーはベッドの中に潜り込み、丸くなって何か言っている。
よく聞くと、「梅先生のお部屋に、オバケは入って来れません」 って、呪文みたいに繰り返し呟いていた。

絶え間なく剣を振るっていると、だんだん無心になってくる。
どう動いているのか、考えるよりも先に体が動いている。
ブン、ブン、という剣が風を斬る音だけが聞こえてきて、自分が呼吸しているかさえわからない。
コレが、剣と一体になってるってことなのかな・・・。
アドゥリンでの修行中に、おっさんに言われた言葉を思い出した。

「一種のトランス状態だよ、バル」

耳元で声が聞こえた気がして、ハッとオレは動きを止めた。
二、三度まばたきをすると、五感が全て戻って来た。
窓の外が、うっすらと明るくなり始めていた。
ベッドを見ると、真ん中にこんもりと小さな山が出来ている。
ふぅ・・・と、立っていられないほどの疲労感に襲われて、オレは床に大の字になって転がった。
また、ドアがガタガタ音を立てていたけど、そんなことはもうどうでもいいほど疲れて、そのままオレは眠ってしまった。

「グゥ~ギュルギュルキュルル・・・」

何かの鳴き声で、オレは目を覚ました。
部屋の中は明るくて、窓から陽が射している。
オレはのっそりと起き上がった。

「今の、何の鳴き声だ?」
「バルファルさんの、お腹の虫です」
「オレ?」

サンラーがクスクス笑いながら、うずらさんが用意してくれた包みを差し出してくれた。
途端に空腹を自覚するから、ゲンキンなもんだよな。

「音は?」
「朝になったら、聞こえなくなりました。ですので、わたしが何度かドアを引っかいたり叩いたりしていました」
「・・・今、何時だ?」
「えーっと・・・ずいぶん前に、正午の鐘が鳴っていましたから・・・」

そんなに寝てたのかよっ!
クルクじゃあるまいし・・・。
サンラーは、かぼすの呪符も貼っておいてくれたらしい。
オレはまだ何となく疲れていたから、ソファーでダラダラとして過ごしていた。
サンラーはベッドに座って、本を読んでいたよ。
そうやって、たまにドアを引っかいたり床や壁を叩いたりしながら、もう一晩このままかと思っていたんだ。





<後編へ続く>





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【2016/05/03 23:59】 | * クルク一家
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