
こんにちは、サンラーです。
最近わたしは、目の院で本を借りて読んでいます。
冒険のお話が好きで、シリーズになっているものをずっと読んでいたのですが、最後の巻が貸し出し中になっていて、まだ読めていないのです。
司書さんがおっしゃるには、昨日が返却の期限になっているとのことでした。
ですので、わたしは朝ごはんを食べてすぐに、目の院へと出掛けたのです。
目の院の皆さんにご挨拶をして、わたしはさっそく本棚に向かいました。
主人公は、囚われたお姫様を救い出すことが出来るのでしょうか?
敵の本陣へ忍び込んだ仲間たちは、見つかってしまわないでしょうか?
仲間を裏切って魔王の軍団長になった親友は、どうなってしまうのでしょうか?
伝説の宝は、本当にあるのでしょうか?
もうじきそれが読めると思うと、ドキドキしてしまいます。
ですが、本棚のその本があるべき場所は、ぽっかり空いたままになっていたのです。
もしかして、まだ本棚に戻されていないのでしょうか?
わたしは司書さんのところへと行き、本のことを訊ねてみました。
「その本なら、貸し出し期間が延長になったよ」
「えぇぇぇぇっ!?」
はしたなくも、わたしは大声で叫んでしまいました。
そのくらい、ショックだったのです。
ワクワクしていた分だけ落胆の気持ちが大きくて、不本意にも涙が浮かんでしまいました。
「わわわっ、泣かないでよ! その人、冒険者なんだよ。名前で調べてモグハに連絡したら、今ジュノに行っちゃってるんだって。デルクフの塔に用があったらしくってね、本当ならもう帰って来てるはずなのに、まだ戻ってこないって、モグも心配してたなぁ」
「そうですか・・・」
「ねぇ、キミも冒険者? だったら、ちょっとデルクフの塔まで行って、その人のこと探して来てくれない? 本当なら、国外に持ち出し禁止なんだよ。こっちは、本さえ無事に戻ればいいんだ」
「でも・・・」
「貸し出し期間延長ってことにしてるけど、このことは院長には言ってないんだ。頼むよ、本を持って帰って来てくれ!」
「わ、わかりました」
成り行きで返事をしてしまいましたが、どうしましょう。
ジュノには梅先生に連れて行ってもらったことはありますが、デルクフの塔という所へは、行ったことがありません。
わたしにも行ける場所でしょうか?
「行けないこともないが、サンラーが行くにはオイルとパウダーが必須になるな」
「そんなキケンな場所、行ったら駄目クポ!」
モグハに戻って梅先生に聞いてみましたが、わたしのレベルではまだまだ無理がありそうです。
「そんなのご主人様が行けばいいクポ。行ってそいつから本を奪ってくるクポよ!」
「ダメです。もう少し待っていれば、その人も戻って来るでしょうから、だから・・・」
「続きが読めると、楽しみにしていたのだろう?」
「でも・・・」
「デルクフか。ちょっと行ってくる」
「え!?」
梅先生はそう言うと、そのままモグハを出て行こうとしています。
「え、あの、え?」
「ご主人様、剣を忘れてるクポ」
「ん? あぁ・・・」
「モグハをジュノに移しておくクポ?」
「必要ないだろう」
「行ってらっしゃいクポ~」
・・・行ってしまいました。
慌てて後を追おうとしたわたしを、モグさんが引き止めます。
わたしが一緒だと足手まといになることは、十分承知しています。
でも・・・。
「サンラーさん、ここはご主人様にやらせ...任せて、モグと一緒に待ってるクポよ~。それに、今から出ても、ご主人様には追いつかないクポ。きっと、もうクフィムにいるクポ」
「クフィム・・・。モグさん」
「クポ?」
「わたし、もっと強くなりたいです」
「そうなのクポ?・・・じゃぁ、ご主人様が帰って来たら、修行してもらうといいクポ」
「はい!」
それからわたしとモグさんは、お掃除や洗濯をしました。
モグさんが本の内容を知りたがったので、わたしはおやつを食べながらストーリーをお話ししたりもしました。
上手くお話出来たかわかりませんが、モグさんも続きが早く知りたいって言っていました。
「サンラーさん、今日の夕食は何にするクポ?」
「そうですねぇ・・・昨日はお肉でしたから、お魚にしましょうか」
「クップ~♪ 白身魚がいいクポね♪」
お夕食の準備を始めようとした時、モグさんの通信が鳴りました。
バルファルさんからのようです。
「あのさ、サンラーはジュノまで来れるか?」
「え? はい、クリスタルの登録はしてありますから、行けます。えっと・・・?」
「じゃ、今すぐ上層のモグハ前に来てくれるか? 待ってるな」
いったい何でしょう?
聞いていたモグさんも、首を傾げています。
考えていてもわからないので、とりあえず行ってみることにしました。
クリスタルを使ってジュノへ飛ぶと、すぐ目の前にバルファルさんがいました。
その顔を見て、呼ばれたことは良いことではないって感じました。
「実はな、梅さんなんだけど・・・」
「!! 梅先生に、何かあったのですか!?」
「オレ、たまたまモンブロー先生のとこにいてな。傷薬もらってたんだ。そしたらタルタルが駆け込んできて、デルクフの塔まで来てくれって言うんだ」
「デルクフの塔・・・」
「先生は患者がたくさん待ってたから、先生の助手とオレで行ったんだ。そしたら倒れてる人がいて」
「それが・・・」
「うん、梅さんだった」
「どうして!?」
「呼びに来たタルタルが言うには、階段から落ちたらしい」
「・・・え」
「こっち」
競売をしている広場の横にある建物が、モンブロー先生の病院です。
先に入って行くバルファルさんの後について中に入ると、消毒のにおいがしました。
廊下の椅子には子供からお年寄りまで、診察を待つ患者さんが座っています。
奥の部屋に入ると、カーテンで仕切られたベッドが並んでいました。
「サンちゃん、やっぴ~」
一番手前のベッドの端に、クルクさんが腰掛けて手を振っていました。
ですがわたしは、ご挨拶をお返しすることが出来ませんでした。
クルクさんが腰掛けているベッドには、頭に包帯を巻かれた梅先生が横になっていたのです。
「梅先生・・・!」
わたしは駆け寄りましたけど、梅先生は目を閉じたままです。
いったい何があったのか、それを訊ねようと振り返ると、バルファルさんが首を傾げていました。
「なぁ、クルク、さっきまでは包帯してなかったよな? どうしたんだ?」
「ん~、ちょっと前に目を開けたんだけどね~」
「この人が、青銅のツボを投げ付けて怪我させたんです」
ベッドの向こう側にいたタルタルが、クルクさんを指差しました。
「ヨックモックは黙っててよね。そんな言い方したら、クルクが悪モンみたいじゃん」
「やっと意識を取り戻した人をまた気絶させるなんて、悪者以外にいないじゃないですか。それから、ぼくはヨックモックじゃなくて、ヨークモークです」
「クルク、何やってるんだよ!?」
「うっさいな! ちゃんと説明するよ。でもその前に、サンちゃんに何があったのか教えてあげなよ」
「あ、そっか。ヨックモック、説明してあげてくれ」
ヨックモックさんは、名前が違うとかおっしゃっていましたが、クルクさんがゲンコツを握ったら黙ってしまいました。
そして、わたしの方を向くと、ペコリとお辞儀をしたのです。
「ぼくはヨークモークです。デルクフの塔で動けなくなっていた時に、この方が助けてくれたのです。それで上層階から階段を下りている途中で、目が回って気持ちが悪いって言った途端、そのままゴロンゴロンと下まで落ちてしまったんです」
「あのグルグル階段だもんねぇ~」
「そういや梅兄って、船酔いもヒドイんだっけ? 三半規管でも弱いんじゃねぇか?」
「ピクリとも動かなかったんで、死んじゃったんじゃないかって怖くなってしまって・・・」
それで、病院まで駆けつけて助けを呼びにきてくれたのですね。
その後バルファルさんがクルクさんに連絡をしてくれて、クルクさんはすぐに病院まで来てくれたのだそうです。
病院に運び込まれた後は、モンブロー先生が診察してくださったそうです。
モンブロー先生によれば、落ちる時に多少受け身を取っていたのか、あるいは落ち方が良かったのか、体の骨に異常はないようです。
ただ、頭を打って脳震盪を起こしているだけなら、不幸中の幸いで済むが・・・とおっしゃっていたそうです。
「それなのに、何でツボなんか投げ付けたんだよ!」
「そうですよ。せっかく意識が戻って、名前とかちゃんと言えて―」
「あぁ~、それね。あれは違うの。え~っと、そう、クルクが飼ってるチョコボの名前。メルメルっていうの」
「え? そんな名前じゃなかった―」
「メルメルって言ってたよ! で、頭おかしくなってる~って思って、もう一度ぶつけたら戻るかな~ってさ」
「だからって、手加減してやれよな。そのまま逝っちまったらどうすんだよ」
「てへっ」
クルクさんの言葉で、わたしはわかりました。
その時、梅先生はまだ朦朧としていたのでしょう。
それで本名を言ってしまったんですね。
誰がどこで聞いているかわかりませんから、クルクさんが咄嗟に・・・。
だけど、何も青銅のツボを頭に投げ付けなくても・・・。
「それはともかくさ、どうして梅兄はデルクフになんか行ったんだ?」
「あ、それ。クルクも聞きたかった~」
お二人がわたしを見て訊ねたので、わたしは本のことからお話ししたのです。
ずっと返却されるのを待っていたこと、期限が来たのに返しに来ない人のこと。
その本を取り返して来て欲しいと頼まれたこと。
「その本、クルク知ってる~! すごい好きだったなぁ~」
「オレも読んだぜ。なるほどな、それで梅さんがデルクフに行ったのか」
「で、その本は見つかったの?」
「梅兄の持ち物、剣だけだったぞ」
「・・・スミマセン。ぼくが持ってます」
その時、ヨックモックさんがカバンの中から、1冊の本を取り出したのです。
わたしがずっと読みたかった、あの最終巻です。
「あぁ~っ! コンニャロめ! ヨックモックがちゃんと本を返してれば、うちの梅がこんな目に遭わずに済んだんだからね!」
「ゴメンナサイ。でもぼくの名前はヨークモークです」
「うるさい! 今からサンちゃんと目の院に行って、その本を返して謝っておいで!」
「サンラーと行くのか?」
「そしたらすぐに借りられるでしょ?」
「それでしたら、わたしが持って行きます」
「ダメ! ヨックモックが規則を破ったんだから、自分で持って謝りに行くのがケジメってもんだい」
「ま、そうだな」
ヨックモックさんは、手に持っていた本をギュッと抱きしめて、大きく頷きました。
「わかりました。それじゃ、すぐに行って来ます」
「あ、あの・・・わたし・・・」
「梅のことは、クルクに任せて。サンちゃんが戻って来るまでに、クルクが叩いて起こしておいてあげるから」
「止めとけ。今度こそ死んじまう」
「バルファルさん、ヨロシクお願いします」
わたしとヨックモックさんは、病院のすぐ横にあるクリスタルでウィンダスに戻り、目の院へ行きました。
司書さんはペコペコと謝るヨックモックさんにガミガミと文句を言って、それからわたしに本を渡してくださいました。
待ちに待った、最終巻です。
それがやっとわたしの手に・・・。
目の院を出ると、ヨックモックさんはわたしに 「本当にゴメンなさい」 と謝ってくれました。
「実はぼく、冒険初心者友の会っていうのに入ったんです」
「なんですか、それ?」
「初めに入会金を払うと、1人でジュノに行けるようになるくらいまで後援してくれるって言われました」
「そんなの聞いたことないわ。それに、そんな会に入らなくたって、ガードの人がある程度サポートしてくれるじゃない」
「そうらしいですね。ぼく、そのこと知らなかったんです」
「入会金って、いったいいくらだったのですか?」
「えっと、10万ギル」
「えぇ!?」
「もちろんそんなお金は持ってなくって、でもそのくらいはあっという間にたまるからって言われて、借用書にサインしたんです」
「バカじゃないの・・・あ、ごめんなさい」
「うぅん、あの方にもバカだって言われました」
「梅先生?」
「うん。・・・入会した次の日、お金を返せってコワイ人がモグハに来たんです。初心者友の会っていうのは全くのウソで、借りてないのに借用書にサインをさせて、それでお金を奪うっていう組織だったのです」
「それでジュノに逃げていたのですか?」
「そうじゃなくて・・・。払えないなら、盗んででもお金を作れって言われました。コッチには借用書があるんだから、これを天の塔に持っていけば、お前は闇牢入りだぞって脅されたんです。でも、盗むなんて出来ないし・・・」
「当たり前です!」
「どうしようかってウロウロしていたら、デルクフの塔の上層階にある宝箱にお金が入っていたっていう話をしていた人がいて、それだ! って思ったんです」
「えぇぇぇ・・・」
「ぼく、本当に何にも知らなくって。そこに行けばお金が入った宝箱があるって思っていたから、それで地図とオイルとパウダーを買って、ジュノに行ったんです」
「ちょっと待ってください。いくら何も知らないって言ったって・・・」
よくよく話を聞いたわたしは、その場に座り込みたくなってしまいました。
ヨックモックさんは本を読んで冒険に憧れて、冒険者登録をしたその日に騙されたのです。
そしてサルタバルタでマンドラゴラを倒すより先に、デルクフの塔に行ってしまったレベル1の冒険者なのでした。
何もわからないのに、いいえ、だからこそ危険な場所に行ってしまったのでしょう。
そして行ったはいいけれど、戻れなくなってしまったということですか。
もしも梅先生と会わなければ、ヨックモックさんはどうなっていたのでしょう?
「だけど、結局1人でジュノに行ったことになるんですよね、ぼく。スゴイなぁ」
「ちっとも凄くなんかないです! 地図とオイルとパウダーがあれば、誰だって行けます。そして、誰にも迷惑をかけずに戻って来れます!」
ヨックモックさんがのんきに笑っているので、つい怒ってしまいました。
するとすぐに気がついたのか、ヨックモックさんが項垂れてしまいました。
「そうでした・・・ゴメンナサイ」
「・・・わたしもゴメンナサイ」
「え?」
「エラそうなこと言ってしまいましたけど、わたしが読みたい本を探しに行ってくださったのは、梅先生なんですもの。わたしも梅先生に迷惑をかけてしまっています」
「それはぼくのせいだから・・・」
何となく気まずい雰囲気になってしまいました。
その時、ヨックモックさんがハッと顔を上げて、そしてわたしの手を掴むと、目の院の建物の脇に隠れました。
「どうしたんですか?」
「シッ! 友の会の人です! 見つかっちゃう!」
そっと覗いて見ると、ピカピカ光っている趣味の悪い鎧を身につけたヒュームの男性2人と、あれは・・・ホノイゴモイさん!?
3人は目の院の前で何か話していましたが、ホノイゴモイさんはそのままクリスタルがある方へ歩いて行ってしまいました。
残った2人はその場に立ったまま、辺りを見回しています。
誰かを探しているのでしょうか?
それとも、新しいカモを物色しているのでしょうか?
このままここにいても、見つかってしまいそうです。
「わたしが2人の気を引きますから、そのスキに逃げてください」
「・・・ぼく、このまま天の塔に行きます」
「え?」
「もしかしたら、ぼくの他にも騙されている人がいるかもしれないし、その人は言われたまま盗みを働いてしまうかもしれません。だから、悪い奴がいるって、報告しに行きます!」
「そんなことされちゃ困るんだよなぁ~」
「!!」
いつの間にか、わたしたちのすぐ後ろに、ピカピカの鎧をつけた2人が来ていました。
そしてわたしとヨックモックさんの襟首を掴んで、ニヤニヤ笑っているのです。
「お前は確か、ヨークモークだったな」
「ひっ、人違いです。ぼ、ぼ、ぼくは、ヨックモック、です」
「どっちだっていいや。それで、坊やは借金を踏み倒そうってんだな。この嬢ちゃんにそそのかされたのか? 悪い子だなぁ~」
「悪い子には、お仕置きが必要だな」
1人が大きな袋を取り出しました。
わたしとヨックモックさんくらいなら、入ってしまいそうな大きさです。
ヨックモックさんはブルブルと震えて、顔は真っ青になっています。
わたしも怖くて涙が浮かんでしまいました。
どうしよう、どうしよう・・・梅先生!
クルクさんもバルファルさんも、ジュノです。
黒糖さんがたまたま通りかかるなんて、そんな物語みたいな奇跡は起こったりしません。
・・・物語・・・。
わたしは震えるノドで大きく息を吸い込み、お腹に力を入れて、ありったけの声を出しました。
「本が燃やされるーっ!! 本が破れてビリビリですっ!!」
「なに言ってやがる、黙れ」
すぐにわたしは口を塞がれ、頭から袋をかぶせられてしまいました。
しかし・・・。
「何だと!?」
「本が燃やされるだって!?」
「ビリビリって聞こえたぞ!」
「お前たち、そこで何をやっとるか!?」
チッという舌打ちの音の後、わたしは地面に放り出されました。
逃げて行く足音と、「待てー」 と追って行く声が聞こえました。
「大丈夫だった?」
袋の口が開き、顔を出したわたしは、涙でぐしょぐしょになった顔でヨックモックさんに頷きました。
「あ、キミ! 今の、キミが叫んだの? 本は? 本は無事かい?」
目の院の司書さんです。
そしてその周りには、目の院のほとんどの人たちが集まっていたのです。
わたしがしっかりと胸に本を抱えているのを見て、全員がホッと胸を撫で下ろしています。
「いったいこの騒ぎは何なのだ!?」
トスカポリカ院長が、ムムムと言いながら頬に手を当ててこちらを見ています。
「あ、あの、えっと・・・」
「ぼく、あの人たちに騙されちゃったんです。他にも騙されている人がいると思って、そのことを天の塔に報告しに行こうとしていたら見つかってしまって・・・」
「ムムム、それで奴らは本を破いて燃やそうとしていたのだな!? けしからん!!」
目の院の皆さんは、よくぞ本を守ったと口々に言い拍手をしてくれています。
ちょっと罪悪感がありましたけど、わたしたちは黙ったまま、そうだとも違うとも言わず、チラリと目配せし合いました。
2人の後を追いかけていた人が戻って来ましたが、どうやら逃げられてしまったようです。
「よし、誰か彼らを天の塔へ送って行くのだ。途中で待ち伏せされているといかんからな」
トスカポリカ院長のお言葉で、わたしとヨックモックさんは目の院の人に守られて、無事に天の塔へと着くことが出来ました。
「ここからは、ぼく1人で行きます」
「でも・・・」
「大丈夫です。貴女は、ジュノに戻ってください」
「・・・わかりました」
ヨックモックさんのことも気になりましたが、ここまで来ればもう安心出来るでしょう。
それ以上に、梅先生のことが心配です。
お別れの挨拶をして行こうとしたわたしを、ヨックモックさんが呼び止めました。
「あの、その本・・・」
「はい」
「今度会った時に、感想を聞かせてください」
「はい!」
辺りはもう暗くなってきています。
わたしとヨックモックさんは、手を振って別れました。
そしてわたしは、ジュノへと戻って来ました。
モンブロー先生の病院に行くと、待合室で待っていた患者さんたちはいなくなっていました。
奥の部屋に入ると、梅先生はいらっしゃらず、ベッドにはクルクさんが寝ていました。
そしてバルファルさんは、同じベッドの上に荷物を広げて、ご自分のカバンの中身を整理しているようです。
「お、戻ったか」
「バルファルさん、梅先生はどちらですか?」
「今、モンブロー先生に診てもらってるよ」
「クルクさんは・・・?」
「あぁ、クルクはただ寝てるだけだ。で、ヨックモックはどうした?」
「はい、天の塔に報告に行きました」
「天の塔~? なんで?」
バルファルさんは、ヨックモックさんが騙されていたことは聞いていないようです。
わたしが説明しようとした時、梅先生が部屋に入って来ました。
いつもとどこも変わらず、歩き方もしっかりとしています。
梅先生はわたしを見て、「心配かけたな」 とおっしゃってくださいました。
「もう、大丈夫なのですか?」
「あぁ。あちこちアザになっているが、それもじきに治るだろう」
「よかった・・・」
「本は借りられたか?」
「はい! ありがとうございます。ヨックモックさんも、天の塔に報告に行きました」
「そうか」
「なぁ、本を期限に返さないと、天の塔にまで報告しなくちゃならないのか? それとも、国外に持ち出したことか? だったら・・・」
バルファルさんが、わたしを指差しました。
何でしょう?
・・・あっ!!
借りた本を、わたしはジュノに持ってきてしまっていました。
これは、規則違反ってことですよね?
すぐにウィンダスに持って帰らなくちゃいけません。
「期限までに返せば平気だろう」
「言わなきゃわかんねぇし」
「そうでしょうか」
「それよりさぁ、クルクお腹空いちゃった。みんなで何か食べに行こうよ」
目をこすりながらクルクさんが起き上がり、大きく伸びをしています。
ジュノで、梅先生とクルクさんとバルファルさんと一緒にお食事・・・。
「行きたいです!」
「あ、ちょっと待ってくれ。荷物がまだ」
「もう! バルはホントに片付けが出来ないなぁ。クルクに貸してごらん」
「わりぃ・・・」
起きたばかりなのに、クルクさんはテキパキとバルファルさんの荷物をカバンに詰めています。
バルファルさんは、壁に立てかけてあった剣を梅先生に手渡します。
「これ、梅さんの剣か?」
「ん? あぁ、そうだな」
「こう言っちゃ何だけど、もうちょっといい剣持ったらどうだ?」
「そうか?」
「何? 梅はビンボーっちい剣使ってるの? サンちゃん守らなくちゃいけないんだから、剣くらいちゃんとしたの用意しておきなよね」
「わかった、そうしよう」
それからわたしたちは、モンブロー先生にお礼を言って、ジュノの下層にあるレストランへ行きました。
わたしはヨックモックさんが騙されてしまっていた事や、ウィンダスでの出来事を話しました。
バルファルさんは、わたしが叫んだことを褒めてくださいました。
それから、わたしももうちょっと強くなりたいと言うと、クルクさんが使っていない短剣があるのでくださると言ってくださいました。
「クルクと一緒に修行する?」
「断った方がいいぞ。クルクの修行はサバイバルだからな」
「なんだとぉ~」
「だって、そうじゃねーか」
いつか、わたしがたくさん強くなったら、梅先生とクルクさんとバルファルさんと一緒に、遠くに冒険に行けるでしょうか?
そう出来る様に、いっぱい頑張らないといけません。
お料理も、もっともっと上手になりたいし、本もたくさん読みたいです。
それから、それから・・・。
「どうした?」
「・・・えへへ・・・楽しいことがたくさんで、とってもとっても嬉しくて、涙が出ちゃいました」
「サンラーは、ホント良い子だよなぁ~」
「俺の育て方が良かったのだろう」
「梅、そういうことはクルク達といる時だけにしなさいね」
お父さんとお母さんは、どうしているでしょうか。
先生はお元気でしょうか。
わたしはとっても幸せ過ぎて、だけどナゼかほんのちょっとだけ悲しい気もして・・・。
隣にいる梅先生が、ポンとわたしの頭を撫でてくださいました。
「クルクとバルは明日もジュノにいるけど、梅とサンちゃんは?」
「そうだな・・・どうする?」
「えっと、ウィンダスに戻りたいです。本を借りているし」
「ということだ」
「ういういう。それじゃ、またね」
「梅兄、お大事にな」
「あぁ、ありがとう」
「おやすみなさい」
モグハの前で別れて、わたしと梅先生はそのままクリスタルでウィンダスに戻ってきました。
きっと、モグさんは心配して待っていてくれているでしょう。
帰ったら、まずはお風呂に入って、それから最終巻を読まなくちゃ。
あぁ、でも、読み始めたら止まらなくなってしまうかもしれないから、明日にしようかしら。
だけど、続きが気になるし・・・。
「モグさん、ただいま帰りました」
長かったわたしの1日は、まだもうちょっとだけ続くのです。
いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
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