2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
やっぴ~、クルクだよ(・▽・)ノ

今日は、コウさんが書いてくれた小説を紹介しま~す★
第6弾の今回は、なんとうずらが主人公なのです(*´▽`*)

クルク一家のトラブルメーカー、誰よりも恋に憧れて玉の輿を夢見ているうずらが、どんな事件に巻き込まれるのでしょう!?

それでは、はじまりはじまり~♪



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「 とりははばたけるか 」


北方の国サンドリア。クォン大陸の北に位置するこの国にも、夏の日差しが照りつける。だが南方の国々に比べると、日差しは幾分弱く、まだ過ごしやすいと言えるだろう。

そんな夏の日、夕暮れ近くの南サンドリアを歩く人影があった。ヒューム族の女性で、すらりとした容姿、整った顔立ち、豪奢な金髪で、中々に人目を引く女性だった。本人もそれを意識しているのか、何処か気取った感じが見てとれる。服装は脚を見せつける様な青いミニのドレスだ。髪に挿したちょっと無骨な骨製の髪飾りが変わったアクセントになっている。
独特な拍子が聞こえたので、彼女が見ると天涼祭が行われていた。飾りつけの向こうに余興のヒロインショーが見て取れる。彼女はヒロインショーのアイドルに憧れを持っていた。
足に紙が絡みついたので拾って見ると、探し人のチラシだった。そういえば、最近若い女性が失踪する事件が多発しているらしい。彼女は紙を丸めると、その辺にぽいっと捨てた。
そんな彼女は、内心こんな事を考えていた。
(陽が落ちてないとまだ暑っついわね〜。面接するならもうちょっと時間をずらせってーの。あ〜も〜帰って冷えたエールでも飲みたいわ〜。)

・・・彼女の名前はウズラ。
一応、冒険者互助会に所属する冒険者ではあるが、冒険者としての活動は行っていない。これは冒険者と言われる者達の中に何割かいるのだが、互助会に所属していれば、物品の供与や、様々なサービスが受けられる為、本業の冒険者以外の者も、入会するケースがある。多くは難民や貧困層だ。勿論入会するにも審査はあるし、互助会への毎月の報告もあるので、誰でもという訳ではない。
ウズラはこれをパスした。
入会審査は冒険者としての適性を見るもので、彼女はシーフとしての適性ありと判断された。
毎月の報告としては、これは言わば裏道的な物になるが、通常であれば何々の宝物を見つけたとか、互助会指定の冒険を踏破したとか言う報告になるのだが、他の冒険者の手伝いでも良いという規定になっている為、ウズラは他の冒険者の物品の管理をしていると報告をしている。
この、言わば「倉庫番」は雇う冒険者によっては実入りが多い場合もある為、なり手はそれなりにある様である。

ウズラがこういった道を選んだのは、彼女が水晶大戦の難民である事にも起因している。子供時代は弟と一緒の生活だったが貧困を極め、満足な教育も受けられなかった。半ば寄生とも思われるこの生活になったのも致し方ないとも言えるだろう。
勿論、冒険者になったからには一流を目指す道もある。
だが、ウズラは切った張ったは苦手だった。幼い頃、両親を獣人に惨殺されたトラウマかもしれない。また、魔術の適性も無いようだった。だから冒険者としては、倉庫番の道しか無いように思えた。

そんなウズラではあったが、本人としては別に今の自分の生活を卑下している訳ではなかった。むしろ過去を考えれば、上手くやっていると考えている。
今のウズラの雇い主はクルクと言う、タルタル族の女性だ。冒険者として中々のやり手らしく、何人も倉庫番を雇っている。
倉庫番同士では連帯感から友情らしきものも芽生え、弟も雇って貰えた。月々の給与もそこそこあるし、互助会からのサポートもある。彼女は希望していた「安定」というものを手に入れたと思っている。

ウズラの昔からの、そして今の目標は「玉の輿」だ。厳しい子供時代に垣間見た貴族の生活に非常な憧れを持っていた。
子供時代のある日、ようやくその日の夕食を手に入れたウズラは、貴族の屋敷の前を通りかかったのだ。馬車から降りる、夫人と子供達。美しいドレスを身に纏い、幸福そうな笑顔で笑う夫人の顔がウズラの目に焼き付いた。そして夫人の横に立つ貴族の夫。夫人をエスコートするその男性は容姿・物腰・態度は全てにおいて完璧に見えた。
ウズラは子供心に誓ったのだ、自分もいつかこんな生活を手に入れて見せると。
その為に出身地のバストゥークからサンドリアに移ってきた。
長い歴史を持つサンドリアは、工業国家であるバストゥークとは、やはり一味違った。そのサンドリアでウズラは、辛い恋を経験する事になったのだが、それはまた別の話だ。

倉庫番の仕事のお陰で、食べる事には困らなかったが、目標である「玉の輿」はさっぱりだった。外見はそれなりなので出逢いは割とあるのだが、ウズラが頭に描いているような男性は現れなかった。
そんな折、王宮の人間もお忍びで来ると言うバーで、求人が出ているという噂を街で耳にした。接客は嫌いではないし、何より思い描いている男性に出逢えるかも知れない。
倉庫番の仕事は、実入りの割には暇な仕事であるので、ウズラは求人に応募する事にした。

そんな訳で、ウズラは目当てのバーの前に立っていた。場所は、南サンドリアの競売所を東へ進んだ騎兵通りのただ中にあった。下町の喧騒の中で、その店はひっそりと佇んでいた。石造りの一軒家で、家自体にはさして特徴がない。左右にも同じような家が並んでいる。ただ入り口の扉の上には小さな看板があり、「ランコントル」と刻まれている。目的の店の様だ。
(割と地味よねぇ。ホントにこんな店に貴族がくるのかしら)
ウズラは疑問に思ったが、ここまで来て帰るのも馬鹿らしい。ウズラは扉に付いていたノッカーで扉をノックし・・・返事がなかったので、バー ランコントルの扉を開けた。
店に入って、扉を閉める。
まだ開店前らしく、中は薄暗かった。
幾つかのテーブル席があるフロアと、右手にバーカウンターが何とか見える。
「何か御用かな?」
不意にバーカウンターの奥から声がした。
ウズラはその声を聞いて、文字通り飛び上がった。人の気配がしなかったから、びっくりしたのだ。
バーカウンターの下から人が立ち上がり、ウズラの方へ近づいてきた。
見ると初老のエルヴァーン族の男性である。手にはモップを持っていた。
開店前の掃除をしていたらしい。
ウズラは胸に手を当てて動悸を抑えながら、頭を下げて挨拶をした。
「あ・・あたしウズラといいます。求人の件でご連絡していました・・・」
ウズラがそこまで言うと、初老の男は笑って頷いた。
「これはいらっしゃい。驚かせて失礼したね。こちらへどうぞ。」
男はモップを脇に置き、テーブルの上に上げてあった椅子を2つ下に降ろし、その内の一つをウズラに指し示した。
ウズラは会釈して、椅子の一つに腰を降ろした。男もテーブルを挟んで椅子に座る。
ここでウズラはようやく落ち着いてきた。薄暗い店内にも目が慣れて、周りの様子も目に入ってくる。
まず目の前のエルヴァーンの初老の男は、白いシャツに蝶ネクタイ、革のベストとズボンといった、如何にもバーのマスターに見える格好をしていた。と言うかそうなのだろう。顔立ちは若い頃はさぞやというような、整った顔立ちで、綺麗に整えられた白い口髭と顎髭が顔を覆っている。
店内も清潔で、重厚感のあるイメージだ。
ウズラが座っている椅子や、目の前のテーブルも、年代物の木材を職人が丁寧に作った代物のようで、しかもぴかぴかに磨き上げられている。ウズラの位置からでははっきり見えないが、バーカウンターに並んでいる酒も、さぞかし高級なものだろう。

バー ランコントルのマスター兼オーナーの名前は、アルベリックといった。ウズラが自己紹介をし、ここで働きたい旨を伝えると、アルベリックは微笑んだ。
「前に勤めていた子が急に辞めてしまってね。困っていたんだ。こんなに早く次の子が来てくれるとは思わなかったな。」
ウズラは違和感を覚えた。
この店の求人の話は、市場で仕入れたのだったが、結構噂になっていたのである。アルベリックが求人を出したのではないのだろうか。
その考えは、アルベリックが接客経験を訊ねてきた為、立ち消えになった。
ウズラは正直に、売り子や店員としての経験はあるが、所謂ホステスやバーテンの経験はないと伝えた。だがこの業界に興味があって、是非働きたい事も、熱意を持って話した。
(・・・だってこの店だったら、確かに貴族とか来そうだもんね)
ウズラのその熱意が通じたのか、経験が無い話を聞いて、ちょっと困った様な顔をしていたアルベリックだったが、最後にはウズラが働く事を、承諾してくれた。
「どうもこの店は、店の女の子が居着かなくてね。困ってたんだ。まあ、貴女は綺麗だしやる気もありそうだ。暫く働いて貰って様子を見よう。」
何か店に問題があるのだろうか・・・ちらりとそんな考えが頭をよぎったが、玉の輿の為である。多少の冒険は必要だ。
アルベリックの返事を聞いて、ウズラはにっこり笑って頭を下げた。
「ありがとうございます。がんばります。」
こうしてウズラは、バー ランコントルで働く事になった。

その日面接が終わった後、ウズラは自分の家に戻り寛いでいた。ドレスを部屋着に着替え、うん・・と伸びをする。
「あぁ〜。終わった終わった。上手くいってよかったわ〜。そうだお祝いしなきゃ、お祝い。モグ〜モグちゃ〜ん?」
ウズラが住んでいるのは、冒険者互助会が提供しているモグハウスと呼ばれる住居だ。家賃は僅かだし、管理人のモーグリが雑事を行ってくれるので、便利な事この上もない。ウズラが互助会に入りたかったのも、モグハウスの存在が大きい。強いていえば、管理人のモーグリが口煩いのが難点か。
「ご主人様、どうしたクポ〜。」
2階からふわふわと漂ってきたのは、小さくて白く丸っこい身体。飾りのような翼。大きな鼻と耳、頭にポンポンがついたぬいぐるみのような生き物だった。
「モグちゃん。あたし面接通ったのよ!だからお祝いしなきゃ。チリちゃんに連絡とって〜。」
「それはおめでとうクポ!じゃあ早速チリさんのモーグリに連絡を取ってみるクポ。」
チリはウズラの親友だ。とあることで知り合ったのだが、気が合い、よく飲み歩いたりしている。身の上は複雑だが明くて素直な所が気に入っている。
「チリさんから、少ししたら伺うって返事があったクポ〜。」
モーグリの返事に、ウズラは手を打って喜んだ。
「やった〜!じゃあ、お酒とおつまみの準備をしなくちゃ〜!」
ウズラはキッチンに立って、準備を始めた。

しばらくすると、チリがモグハウスに来て、2人は就職祝いという名の、酒盛りを始めた。エールやワインを飲みながら、ウズラの用意した軽食を食べる。時間がなかったので、軽く焼いた肉や、ハムやチーズ。サラダ等だ。
クァールの肉のソテーを頬張りながら、ウズラはエールで肉を流し込んだ。
「ぷはぁ〜。生き返るわ〜。やっぱりお酒って美味しいわよね。」
ウズラは酒量はそれほどでもない。ただ楽しい酒なので、飲み仲間にはこと欠かない。
「そうですわね。ウズラちゃん。おめでとう!」赤髪のエルヴァーン女性のチリは、そう言ってワインのグラスを、ウズラのジョッキにチンッと合わせた。
「チリちゃん、ありがとう。そう言えば、チリちゃん新しい勤め先って、決まった?」ウズラはぐびぐびとエールを飲みながら訊ねた。
チリは若干顔を曇らせながら、首を振った。
「まだ決まってないですわ。」
「そう。でもせっかく告白されたのに、勿体なかったわね〜。」
「私には兄様という人がいますもの。」
「い〜い、チリちゃん?魅力あるオンナはね、2股くらいかけても良いの。覚えときなさ〜い。」
「そんな訳にはいかないですよ」
チリは勤め先の同僚からの告白を断った為、気まずくなって退職をしていた。それをウズラはズバッと切った。
楽しい酒かどうかは、微妙なところかもしれない。ただ、チリはそれほど嫌ではなさそうだった。面白そうにウズラと話を合わせている。
「そう言えば、就職した事をクルクさんに報告しないといけませんね」
「クルちゃんも、喜んでくれるかなぁ〜。」ウズラはワインをどぼどぼとグラスに注ぎながら言った。
・・・そもそも、副業に手を出す事を、雇い主に断っておかないのだろうか・・とか、ツッコミ所満載のウズラではあったが、案外雇い主のクルクは、その辺りは寛容なのかもしれない。
そんなこんなで、ささやかなお祝いパーティの夜は空けていった。

ランコントルで働きだしてから、1週間程が経って、少し店の様子が分かってきた。バー ランコントルはオーナー兼マスターのアルベリック、その息子でバーテンのアルベールの2人で切り盛りをしている店である。少し前までは、そこにホステス兼バーテンの女性が居たのだが、辞めて替わりにウズラが入った。
息子のアルベールは、アルベリックを若くした様な、当にイケメンという言葉がピッタリのエルヴァーンの男性で、ウズラは初対面で不覚にも舞い上がってしまった。そこを、
(だめよウズラ。此処へはあたしを幸せにしてくれるオトコを探しにきたの・・・目先のイケメンに釣られてはダメ・・・でもしばらく経って理想のオトコが現れなかったら・・・アルベールでいいかなぁ〜)
と必死に耐えるのだが、こんな考えが外に漏れたら、誰かに頭をパチンとひっぱたかれそうである。
何しに働きに来たんだ・・・と、ツッコミを入れられそうなのだが、存外ウズラの評判は悪くなかった。
前任の女性の様に、バーテンの技術は無いので、おしぼりやバーテンのアルベールが作ったお酒や摘みを出したり、客と談笑するだけである。
だがランコントルの客は、比較的年配の男性客が多かった。エルヴァーンの客が殆どだが、若くても人間で言ったら30後半位が殆どである。馴染みの客はマスターのアルベリックと談笑する事が多く、ウズラの出番は一見の客や、常連の連れの新規客が来た時である。
初めての店で、中々の高級店。勿論来る客はほぼ富裕層なのであるが、初見のちょっと落ち着かない雰囲気の時に、
「いらっしゃいませ。ようこそいらっしゃいました。」と若くて綺麗なウズラがにっこり笑って、おしぼりを差し出すと客の緊張感がほぐれるのである。
常連客にも、「いやー。綺麗なコが入ったねぇ。」等と言われれば、やはりにっこり笑って、
「ありがとうございます。これからもご贔屓にお願いします。」と淀みなく答える。その際、相手の目をばっちり見て、満面の微笑みを浮かべるので、大抵の男性客はウズラに好意を抱く。
ウズラにして見れば、バー ランコントルにはオトコを探しに来ているのである。客がウズラを見る様に、ウズラも客を見ていた。
(このオジさん、お金持ってるけど、歳ね)
(この人若いけど、肥ってるな)
ウズラはお酒にも目が無いので、ひどい時になると、
(そ、そのブルーウィスキー・・・20年物じゃないのよ!の、飲みたい〜。一口、一口でいいからぁ〜)
・・・口に出して喋ったら一発でクビになりそうである。
だが、前述の通りランコントルは高級なバーであった。仕入れた噂は嘘ではなかったのである。ウズラもここが良質な狩場である事は了解していた。だから真面目に(?)働いていた。

そんなある日の事、バーテンのアルベールから話があると言われた。店の営業時間は17:00〜25:00で、ウズラは閉店してから30分程軽く片づけをして帰宅する。この日はマスターのアルベリックが、翌日ジュノに酒の仕入れに行くとかで、24:00で閉店した。アルベリックは翌日の準備の為に帰宅している。そんな訳で、バー ランコントルの中は、アルベールとウズラの2人きりだった。
音楽演奏機械のオーケストリオンから軽やかな音楽が流れている。
ウズラは客の相伴で飲んだお酒の所為で、少し酔っ払っていた。
そんな中で、ウズラはアルベールから話があると言われて、ドギマギした。
(こっ告白!?)
雰囲気的にはそんな感じである。
「まあ、座ってよ。ウズラちゃん。」
アルベールはバーカウンターの中から、そう言ってカウンターの椅子を指し示した。
「あ、はい。」ウズラは素直に頷くと、椅子に座った。神木材を削り出して作成された、艶やかなカウンターの上に、タンブラーグラスが置かれた。中にはアイスピックで丸く削られた氷が、ころんと入っている。
アルベールは背面の酒瓶が並んでいる棚から一つの瓶を取って、グラスに注いだ。
「!これはっ」
以前飲みたいと思ったブルーウィスキーだった。思わずアルベールの目を見ると、アルベールはにっこりと微笑んだ。
「ウズラちゃん飲みたがってたもんね。見ていてすぐ分かったよ。親父には内緒だよ。よかったらどうぞ。」
「えぇ〜。いいんですか?」とウズラも笑顔を返しながら言った。
「実は・・・」とアルベールは言いにくそうに・・・
どくっどくっとウズラの心臓が音を立て始める。
(何っ)
(何っっ)
(何っっ!)
ウズラは全神経を耳に集中して、アルベールの目をじっと見つめた。



「頼みがあるんだ。明日出勤してくれないかな。」

(ぇえーー・・・それだけ?)
ウズラのあからさまに落胆した表情を見て、何かを感じ取ったのだろう。
アルベールは申し訳なさそうに、頭をかきながら言った。
「いや〜。親父が酒の仕入れに出かけたから2・3日店が休みで、ウズラちゃんも休みでしょ。そうなんだけど、常連さんから知り合いを連れて来たいから、どうしてもって言われてね。」
「あー。ナルホドー。」
完全に気が抜けた返事をしながら、ウズラはアルベールが注いでくれたタンブラーグラスを手に取った。青みがかった琥珀色の液体がグラスの中を泳いでいる。
一口口に含む。
「!」
なんと言う芳醇な味だろう!そして香料のような芳香を漂わすその濃厚な飲み物を嚥下すると、ウズラの機嫌は直っていた。
「それは大変ですよね。明日アルベリックさんもお出かけですし・・・誰が来るんですか?」
ウズラが質問すると、
「ボードワンさんだよ。」とアルベールは答えた。
「え〜。あのドラギーユ城の官吏だっていう・・・。」
「そう言えば、ボードワンさん城勤めの侍女を探してるって言ってたなあ。なんでも第一王子のトリオン様の好みがヒューム族の金髪の女性なんだって。ウズラちゃん選ばれたりしちゃって。」
「!!!」
咄嗟に、ウズラの頭が高速で回転した。
(待て、待ってウズラ!そんなにうまい話はないわよ。城勤めの侍女なんて、身元のはっきりした人しか勤まらないんだから・・・で、でももしかして侍女に選ばれて、しかもトリオン王子のお目に止まっちゃったりしたら・・・お妾?いやいや王子は結婚してないから、じょ、女王!?)
ウズラはアルベールの目をしっかと見ていった。
「休日出勤させてもらいます!!!」

ウズラは興奮冷めやらぬ様子で、モグハウスに帰り着いた。ランコントルからは獅子の広場を通り抜けて、歩いて15分位である。面接に行った時は、北サンドリアのサンドリア大聖堂に寄っていたので、遠回りをしてしまった。ウズラはたまにサンドリア大聖堂でお祈りをする習慣があるのである。それはともかく、ウズラは明日の事を誰かに話したくてしょうがなかった。
だが時刻は夜中の1時を回っている。普通の人間は昼間活動して、夜間寝るものであるから、大概の人はもう寝ているだろう。
とりあえず、自分のモグハウスのモーグリを叩き起こして、チリに連絡を取ってみる。
眠そうなモーグリが、「ご主人様。チリさんはもう寝ているクポよ〜」と言うのも構わず、強引に連絡を取らせた。
やっぱりチリは寝ているようで、チリのモーグリも通話にでなかった。ただ音声を記録させる魔法的な仕組みがあるので、録音をさせた。
科白はこうだ。
「チリちゃ〜ん。あ・た・し ウズラよぉ〜。未来のサンドリア女王が連絡してあげてるんだから、感謝しなさ〜い!明日であたしの運命が変わるの!見ていなさいよ!」
ここまで言って満足した。ブルーウィスキーで酔っ払っていたので、多少科白がおかしかったかもしれないが、まあ良しとしよう。倉庫番としての雇い主のクルクにも、バーで働き始めた事を、連絡していなかったのを思い出し、同様の科白をクルクのモーグリに送る。
「チリさんはともかく、クルクさんに怒られても知らないクポよ?」
モーグリのそんな小言を無視して、酔っ払ったウズラは、服を脱ぎ捨ててベッドに潜り込んだ。

次に目が覚めた時は、昼を過ぎたぐらいだった。ウズラはうん・・と伸びをしてベッドから起き上がった。鏡を見ると奇跡的に化粧は落として寝たらしい。記憶は全く無かったが、習慣というものだろうか。
シャワールームに入ると、下着を脱ぎ捨てて湯を浴びた。海綿にソープを塗って、身体を丹念に洗う。豊満な肢体が様々に形を変える。髪も専用のソープで丁寧に洗うと、シャワーを止め、大ぶりな海綿で身体を拭いた。温風機で髪を乾かすと、食事を取るか考える。昨日の酔いが若干残っている感じだったので、ミルク粥を少し作って食べる事にした。
もう暫くすると出勤の時間だったので、思い出してモーグリを呼ぶ。
「モグちゃ〜ん。チリちゃんとクルちゃんから返信来た〜?」
ウズラの問いかけに、パタパタと飛んできたモーグリは、
「どちらからも返信は来てないクポ。というか、あんな訳のわからない伝言に返信なんかできないと思うクポ。」
と言った。
「あら。。」ウズラはがっかりした。
クルクの方は、確か互助会の仕事が忙しいと聞いた気がする。なんでも戦士団に加入したような事を言っていた。自分と戦士団で出来た相棒の事を、アルタナの新兵とか言っていたので、きっと訓練が大変なのだ。
「クルちゃんも、もっと女の子らしいことをすればいいのにね。だからバルちゃんと何時までたってもくっつかないのよ。」
ウズラはひとりごちた。
「でも、チリちゃんは何で返事をくれないのかしら。」
そう言えば、チリの方は求職中だった。求職活動にてんてこ舞いなのかもしれない。
「まあ、あたしがサンドリア女王になった暁には、2人共面倒を見てあげるわ。」
ウズラはすっかりサンドリア女王になれる気分だった。
呼ばれたモーグリは、やれやれまたかと言う様なため息をつくと、モグハウスの奥に戻っていった。
ふんふんふ〜んと鼻唄交じりにウズラは、出勤の準備をしていく。髪を結い上げ、念入りに化粧をする。服装は青系統のタイトなドレスだ。
最後に化粧台から、何時も髪に挿している骨製の髪留めを手に取る。これは冒険者互助会に入会して、研修期間に当時の教官から貰ったものだ。研修の卒業祝いにくれた物で、いつも身につけている様にと言われたのでそうしてきたが、今日のこのドレスには合わないような気がする。
(どうしようかしら)
髪留めをくれた教官は、おじいちゃんで、アルベリックのようなナイスミドルでもなんでもなかったが、ただその教練はとても丁寧で親切だったので、ウズラは好感を持っていた。
(まあ、いいか)
ウズラは髪留めを髪に挿すと、化粧台の前から立ち上がった。

ウズラはバー ランコントルに出勤した。勤務開始時間にはまだ少し時間がある。ウズラは少なくとも成人してから働いた職場では遅刻したことはない。どんなに前日お酒を飲んでもだ。と言うのも少女時代に働いた職場で遅刻や早退を繰り返して、何度も仕事をクビになった経験があるので、仕事を続けたければ時間は守らなければならない事は、身に染みていた。
「おはようございます。」ウズラは、厨房で仕込みをしていたアルベールに挨拶をして、店の奥の部屋の自分のロッカーに、ハンドバッグをしまった。それから鏡を見て化粧をチェックすると、店に出た。
「ウズラちゃん悪いね。ボードワンさんは2・3時間で帰ると思うから、そしたら上がっていいよ。」とアルベールが言った。
ウズラは頷いた。心の中では「サンドリアの女王になる」という、幾分勘違いな欲望がメラメラと渦巻いていたが、おくびにも出さない。
店の開店準備はアルベールがあらかた終わらせたようで、ウズラのやる事は特になかったが、何かしていないと落ち着かなかったので、アルベールを手伝ってグラスを磨く事にした。
暫くすると、入口の扉が開いた。今日の客が来たようだ。
「いらっしゃいませ。」とウズラとアルベールは口を合わせて言った。
店に入ってきたのは、中年のエルヴァーンと、ガルカだった。
「やあ、今晩は。今日は悪いねぇ。」
とエルヴァーンが話しかけてきた。
「いえ、ボードワンさんには何時もご贔屓にして貰ってますから、これぐらいなんでもありませんよ。」
とアルベールは返した。
「こちらへどうぞ。」ウズラは2人をカウンターへ案内した。
2人はカウンターの席に腰を掛けた。
ウズラはさりげなく、2人の様子をチェックした。
ボードワンは、何度か店に来ている。ドラキーユ城の官吏という触れ込みで、身なりも上品で高い酒を注文していた。
連れのガルカは、初めての客だった。ボードワンの知り合いと、昨日アルベールが言っていた気がするが、若干身なりが通常の客と異なっている。
鎧を身に付けているのだ。
(これ確か・・・ハーネス系っていう鎧だったかしら)
戦士や騎士が身につける重装鎧とは違って、身体の要所要所を覆う鎧を身につけている。つまりある程度身のこなしが必要とされる職に・・・
(あらいやだ、冒険者とは限らないわよね)
それともサンドリア宮廷が雇った冒険者なのだろうか。
考えても分からなかったので、ウズラは何時ものように、おしぼりを差し出した。
「いらっしゃいませ。これをどうぞ。」
2人は礼をいい、受け取ったおしぼりで、手や顔を拭った。
ウズラは使用済のおしぼりを受け取り、ダストシュートに放り込む。
「ウズラちゃん。これ出してくれる。」アルベールがエールの入ったタンブラーを指した。
ウズラは「はい」と返事をし、タンブラーを取るため、カウンターに背を向けた。
その為、男3人が目線で頷きあったのを見る事ができなかった。

ガルカの客が、ガルカンソーセージという、ガルカの伝統的なソーセージを注文した為、アルベールはソーセージを茹で始めた。
その間にウズラは2人の客と歓談をする。
ガルカの名前はゾルバと言った。ボードワンのお抱えの冒険者らしい。
(やっぱり冒険者だったのね)
ウズラは得心し、「何をなさっているんですか?」と尋ねた。
「うむ。ボードワン殿の為に貿易をしている。」とゾルバは答えた。
ウズラはボードワンの方を向き、感心した様に言った。
「凄いですね!個人貿易商なんですね。手広くやられてるんですか?」
ボードワンは満更でもないように、
「まあ、大した規模ではないがね。だが、それなりに手応えはあるよ。」
と言った。
ウズラは続けて、「何を扱っているんですか?」と尋ねた。
ゾルバがニヤリと笑って、
「一番儲かるのは、なんといっても人・・・」
「ガルカンソーセージ出来ましたよ!」アルベールの声がゾルバの答えを遮った。
2人の客の前に並べられた皿には、ほかほかと湯気の上がる大ぶりのソーセージに、ハッシュドポテト、マスタードとソースが添えられていた。
「これは美味そうだな」
2人はソーセージを食べ始めた。
ウズラはその間に、空いたタンブラーにエールを注ぐ。
アルベールが口を開いた。
「ボードワンさん、そう言えば侍女の話ってどうなったんです?」
(きた!)
ウズラは全身を耳にして、続きを待った。
ボードワンはナプキンで口の脂を拭いてから、幾分わざとらしい様な、勿体ぶった調子で答えた。
「いや、前言った通り、ヒューム族の金髪の女性を探しているんだが、もう一つ条件があってね。実は殿下はかなりの酒好きでね。飲めて、酒の話の分かる女性がいいと言うんだが、これが中々居なくてね。」
(いるわよ!ここに居るわよ!)
ウズラの内心の叫びを知ってか知らずか、
「ウズラちゃん、お酒好きだよね?」アルベールが問いかける。
「そうですわね。」ウズラは虫も殺さぬような笑顔を見せながら言った。
「ほぉ。そう言えば君は金髪のヒューム族の女性だな。ワインは好きかね。」
ボードワンの言葉に、
「はい。」と二つ返事でウズラは答えた。
「ちょっと飲んでみてくれんかね。」
ボードワンの言葉に、ウズラは再び「はい。」と返事をした。
背を向けていたアルベールが、振り返ってワインの入ったグラスをウズラに渡した。
「いただきます。」とウズラは言って、ぐっとグラスを空けた。
(あれ?何かちょっと苦い?)
ウズラは違和感を感じたが、ワインは飲みきった。
「おぉ〜。」
3人の男がぱちぱちと拍手をした。
「いい飲みっぷりだね!」ボードワンが褒める。
「どうですか?ウズラちゃん、いい子でしょう。」アルベールが褒める。
ゾルバは何が可笑しいのか、ニヤニヤと笑っているだけだ。
(あれ・・・?)
ウズラは不意に頭がくらりとした。直ぐに立って居られなくなり、ずるずるとバーカウンターの中に倒れこむ。何かに掴まろうとしと振り回した手が、エールのタンブラーをカウンターから叩き落す。ガシャンというタンブラーが割れる音が響いた。
倒れこんだウズラが意識を失う前に最後に聞いたのは、
「これで20人揃ったな。とっとと売っぱらおうぜ」と言う誰かの言葉と嗤い声だけだった。

チリは困っていた。
ウズラから連絡を貰っていたのだが、午前中はまだウズラは寝ているだろうと思って連絡を控えていたら、仕事の面接が急に入りそのまま夜に入ってしまった。チリは昼間の面接の緊張感から、家に帰ると直ぐに寝入ってしまい、気付いたら連絡を受けてから2晩が経過していた。そして今日の昼にウズラのモグハウスを訪ねたら、ウズラはまだ帰ってないとモーグリが言うのである。
「てっきり、チリさんの所に泊まったと思ってたクボ。」とのんびりとモーグリは言った。全然心配をしていないのは、ウズラはよく無断外泊をするからである。
(ウズラちゃんどこ行ったのかしら・・・)
チリはウズラの交友関係を比較的良く把握していた。
現在、ウズラに付き合っている男は居ないはずである。それとも今の職場で意気投合した男でも急にできたのだろうか。
でもモーグリを通しての伝言だと、明日、つまり今から見たら昨日に、自分の運命が変わると言っていたのである。何かあったのだろうか。
「でも、酔っ払ってましたわね・・・」
ウズラのモグハウスの前で考え込むチリだったが、不意に声をかけられた。
「チリさん、何やってんの?」
振り向くと誰もいなかった・・・いや、下を見るとタルタル族が居た。
「バルファルさん!」チリは思わず叫んでいた。
ウズラの倉庫番としての雇い主のクルクの、冒険者としての相方のバルファルだった。
チリはしゃがみ込んで、総髪のタルタルの手を取る。
「困ってたんですの。相談に乗って・・・あら、そちらはどなたですか?」
バルファルの後ろには女性のタルタル族がいた。金とオレンジの髪を前髪は真ん中で分け、後ろ髪はポニーテールにしたタルタルだ。
「あ、あたしバルの友人のユファファって言います。よろしくお願いします。」
ユファファこと、ユファはぺこりと頭を下げた。
チリは困っていた事を一瞬忘れて言った。
「あら・・・あらあら、バルファルさん良いんですの?クルクさんを差し置いて。」
バルファルは苦虫を噛み潰したような表情で、
「違うって・・・アンタ、ウズラさんの性格が移ってきたんじゃないのか?」
と言った。
ユファも何を言われているか解ったようで、手を身体の前でひらひらと振りながら、
「あ、違います違います。デートとかじゃなくってですね。あたしサンドリアに来た事がなかったから、バルについでに案内して貰ってるだけです。」
と言った。
「あら、そうですの。・・・何のついでですの?」
チリが尋ねる。
バルは頭をかきながら、
「いや、なんか一昨日、クルクの所にウズラさんからよくわからない連絡が入ったんで、見てきてくれって頼まれたんだよ。」
と言った。
チリは問題を思い出して再び叫んだ。
「そう、そうなんですよバルファルさん!ウズラちゃんが行方不明で・・・。」
「行方不明?」
「私の所にも、ウズラちゃんから連絡が入ってて、気になって来てみたら昨日から帰ってないみたいなんです。」
バルファルは少し考えてから言った。
「ちょっと状況を整理してみようぜ。ウズラさんは居ないんだろうけど、上がらせて貰えるかな。モーグリにも話を聞きたいし。」
チリは、「そうですね。」と頷いて、ウズラのモグハウスの入り口に2人を案内した。
ユファは遠慮がちに、「あたしここで待ってようか?」と言ったが、
バルファルは首を横に振り、
「悪いけど、少し付き合ってくれないか。」と言った。

主人が不在のモグハウスに客を上げるのは、ウズラのモーグリが若干難色を示したが、「ウズラが心配」という事で押し切った。
リビングのソファーに3人で座り、モーグリを交えて話をすると次の事が解った。

・ウズラは1週間くらい前から、バーで働き始めた。
・そのバーは働きやすい職場だった。
・一昨日、何かウズラにとって良い事があったらしい。それをチリとクルクに連絡して来た。
・昨日の夜、バーに出勤してから帰ってこない。連絡もない。

「何かこれだけ聞くだけだと、大した事がないような気がするな・・・。というかウズラさんって、よく男の処に転がり込むんだろ?」
とバルファルは言った。
「そうかもしれませんけど・・・。大体ウズラちゃんは、今誰とも付き合ってないはずなんです。それに最近サンドリアで女性が行方不明になる事件が何件かあって、私心配で・・・」
チリは失踪事件に、ウズラが巻き込まれたのではないかと思って不安らしい。
「子供ならともかく、ウズラさんも大人の女だからなあ。」
バルファルは再び首を捻る。
「・・・そう言えば、バルファルさんクルクさんに頼まれたって言いましたけど、クルクさんはどうしてるんですか?」
チリの質問に、バルファルは、
「クルクは、冒険の合間に自分のモグハウスに帰ったとこで、ウズラさんの伝言に気付いたんだ。だけど直ぐに冒険に戻らなくちゃダメみたいで、それでオレに頼んだんだよ。ウズラさんが心配だったみたいだな。」
と説明した。
「・・・そうですか。」とチリは溜め息をついた。
もちろんクルクが居ても、ウズラの居場所について直ぐ何か解るという訳でもないだろう。ただ、居てくれていたら心強いのに・・・とチリは思った。
バルファルは続けて、
「オレもあの伝言は聴かせてもらったけど・・・酔っ払ってなかったか?それに「未来のサンドリア女王」って、意味が分からん。」
と言った。
「・・・そうですね。」
「不甲斐ない主人で申し訳ないクポ」
モーグリも申し訳なさそうだ。
「・・・あの・・。」
それまで黙っていたユファが口を開いた。
モーグリを含めた3人がユファの方を見た。
「とりあえず、ウズラさん・・・ですか?その方の最後にいた場所に行って見ませんか?今分かってる範囲だと、そのバーになると思うんですけど、何か分かるかも。」
ユファのその言葉は説得力があった。
「そう・・・だな。」
「そうですわね。」
バルファルとチリは頷きあった。
こうしてモーグリを除く3人は、バー ランコントルに向かう事になった。

モーグリの情報を頼りに、獅子の広場を抜けて、騎兵通りを西へ進む。モグハウスを出発して15分たらずで目的の場所に着いた。
「あ、あれかなあ。」
ユファが指し示す先には、石造りの一軒家があった。
家に近づいてみると、扉のうえに小さな看板があり、「ランコントル」と描かれている。
バルファルとチリも家に近づいてきた。
周囲にも同様の家があり、家だけ見ると住宅街の一角に見える。
バルファルは扉に付いているノッカーでコンコンと扉をノックした。
しばらく待ったが、返事がない。
バルファルは扉のノブを掴んで、押してみた。動かない。引いてもダメだった。
3人は顔を見合わせた。
「開店時間前ということでしょうか。」とチリは言った。
「モーグリの話だと、確か17:00開店だろ。もうそろそろそれぐらいの時間だぞ。」とバルファルが言う。
「休みなのかなあ。」とユファ。
3人が困惑して佇んでいると、右隣の家の扉が空き、初老のエルヴァーンの男性が出てきた。3人が目に止まると、うろんげに眺めた。
ユファが一歩老人の前に歩み出て、ぺこりと頭を下げた。
「すいません、あたし達ランコントルさんに用があってきたんですが、今日はお休みでしょうか?」
老人はユファの丁寧な物言いに、若干警戒を解いたらしく、口を開いた。
「ああ、アルベリックさんの店に用かね。確かジュノに酒の仕入れに行くと言っていたから、少なくとも今日は休みじゃないかね。」
3人は顔を見合わせた。
チリが口を開いた。
「私達の友人がこちらに勤めてるんですが、昨日から家に戻ってなくて探しにきたんです。何かご存知だったら教えていただけませんか?」
チリの言葉に老人は当惑した様に、
「何かと言われてもな・・・ああ、あんた達の友達というのは、最近店に入った金髪の娘さんか・・・何回か見た事はあるが、昨日は見とらんなあ、店は少し開いとったようじゃが。」
と言った。
「店長が不在でも、店は開いてたんすか。」
バルファルの質問に老人は肩をすくめ、
「アルベリックさんの店の都合は知らんよ。ただ息子さんもいるからね。特別な客でも来たのかもしれん。」
と言った。
「そう言えば・・・、夜半過ぎに裏口にチョコボの荷馬車が来て何か運び出しとった様じゃった。窓越しにチラリと見えたが、あの荷馬車はサンドリア港でよく見るヤツじゃな。」
と老人は言い、友達が見つかるといいのうと言い残して、出かけていった。
・・・振り出しに戻ってしまった。
3人はしばし無言だったが、やがてバルファルが口を開いた。
「オレはついでにサンドリア港まで足を延ばして見るよ。何か分かるかもしれん。」
「あ、じゃああたしもつき合う。」とユファが言った。
「じゃあ私も・・・」チリが言いかけるが、バルファルは首を横に振った。
「チリさんは帰んな。オレとユファは武器も持ってるし、腕に覚えもある。もう暗くなるし、女の人が何人もいなくなってるんだろ。チリさんにまで何かあったら、クルクやウメさんに申し訳が立たない。」
バルファルのその言葉に、チリは申し訳なさそうに頭を下げた。
「・・・ごめんなさい。よろしくお願いします。」
チリのその言葉に、バルファルは笑って答えた。
「ウズラさんの事だから、今頃モグハウスに戻ってて、冷えたエールでも飲んでるんじゃないの?まあ、そうじゃ無くても連絡があるかもしれないから、1人は家にいた方がいい。」
そんな訳で、チリはモグハウスに戻り、バルファルとユファはサンドリア港に向かった。

ピチョン・・ピチョン・・
・・・何か音がする・・・
ウズラは朦朧とした意識で頭を上げた。身体の下に硬いものがある。見ると石の床にうつ伏せに横たわっていた。ウズラはノロノロと身体を起こし座り込んだ。
頭が痛い。頭痛がする。
ぼんやりと座り込んで、どれ位の時間がたっただろうか。頭痛が少し引いてきた。
周りを見渡すと石造りの部屋の様だ。小さい部屋で左手に鉄格子が・・・
(・・・え、ろ牢屋?)
途端に頭がはっきりしてきた。
(・・・確かランコントルで、ボードワンさんにワインを勧められて・・・)
顔面が蒼白になった。
(一服盛られて攫われたんだわ!!!)
ウズラは大声を上げようとして、瞬間思いとどまった。
状況が分からない。下手に騒ぐとどうなるか分かったものではない。音もあまり立てない方がいいだろう。
ウズラは思い当たって、身体の各所を手探りで確認してみた。
(・・・ふぅ。乱暴はされて無いみたいね。)
部屋の中を見ると、酷く狭い部屋で、気付くとおまけに凄い湿気と悪臭がした。悪臭の源は部屋の隅に切られている穴から出ていた。匂いからすると、用足しの穴らしい。
鉄格子に近付いてみる。隙間から手は出せるが、顔は狭くて通らない。
つまり典型的な牢屋だった。鉄格子の隙間から外を見ると、左右に通路が通っていて、どうも同じ様な牢屋が並んでいる様だった。
ウズラは牢の奥の、用足しの穴からなるべく離れて、鉄格子にピッタリくっつきながら、考えを整理し始めた。
そもそもあたしは、どこから騙されてたのかしら・・・
アルベリックが不在の時に、攫われたということはアルベリックは関係ないのか、もしくは気付いてないのかもしれない。でもアルベリックは面接の時に、「女の子が居着かない」と言っていた。とすると以前の従業員も同じように拉致されたのか。
逆にアルベールは絶対にクロだ。薬入りのワインを渡したのは、アルベールなのだから。
ここで、ウズラは最近話題なっていた女性が多数行方不明になっていると言う噂を思い出した。自分はこれに巻き込まれたらしい。
薬入りワインで、意識を失う寸前に聞き取った言葉が頭をよぎった。
「これで20人揃ったから売り払う」と言っていた様な気がする。では、後19人の女性がここに閉じ込められているのだ。そして自分を含めて全員が、もうすぐ何処かに売られてしまう。
薬の後遺症で、ぼんやりしがちな頭を使って、ウズラはここまで考えた。
・・・何とかここから逃げ出さないといけない。
ウズラは鉄格子を観察した。当然鍵がかかっている。内側からでははっきりわからないが、手探りで調べて見ると、構造自体は比較的簡単な鍵の様だ。
ウズラが頭の向きを変えた時、髪に挿してあった骨製の髪留めが鉄格子に当たって、カチリという音を立てた。
その音が存外大きく響き、ウズラはビクッとした。同時に思い出した事がある。そう言えばこの髪留めって・・・
「誰か居るの・・・?」囁きのような声がウズラの所に届いた。
ウズラは再びビクッとした。
・・・拉致された女性の1人だろうか。
ウズラは、返事をしようか迷ったが、好奇心に負けて同様の囁き声で返事をした。
「・・・ここよ。あなたは誰?ここは何処?」
少しの間があって、返事が返ってきた。
「・・・私はコレット。貴女より前に攫われてきたの。ここは・・・はっきりとは分からないけど、多分サンドリア港だと思うわ。」
それからウズラとコレットは、囁き声で話を続けた。
コレットが攫われてきたのは、おそらく10日程前らしい。彼女はバー ランコントルの前の従業員ではなかった。夜道を一人で歩いていたら背後から襲われ、気付いたらここに放り込まれていたようだ。この牢屋は、1日2回食事が差入れられるが、2人組の看守の断片的な会話を繋ぎ合わせると、ウズラが拉致された時にいたボードワンというエルヴァーンの男が親玉らしい。ボードワン一家のボスとの事だ。見た所そんなイメージは抱かなかったが、裏社会ではずいぶん強面で通っているらしい。一家の構成員は20人程、内2人が手練れらしく、あのソルバと言うガルカもその1人だ。
・・・アルベールも、そのボードワン一家の構成員だったのかしら。
ウズラの頭にそんな思いがよぎるが、コレットの悲観的な声で、現実に引き戻された。
「・・・私達はもうダメよ・・・看守達は2・3日の内に、私達を南方へ移送するって言ってたわ。そこで奴隷として売るんだって・・・どうしてこんなことに・・・」
嗚咽交じりのその声を聞いて、ウズラも泣きたくなったが、そんな事をしてもこの状況から抜け出せる訳ではなかったので、気を取り直してコレットに尋ねた。
「コレット、よく聞いて。あたし、ここから逃げ出して助けを呼んでくる。・・・牢からは多分出られるんだけど、出口までの行き方が分からないの。知らないかしら?」
驚いた様に沈黙が続いた。やがてコレットの声が響いた。
「・・・ど、どうやって牢から出るの?」
ウズラはゆっくりと言い聞かせる様に言った。
「あたしは冒険者じゃないけど、冒険者の手ほどきを受けてるわ。それにここに牢屋の合鍵になる物を持ってるの。ただ鍵は一つしかない、だから他に捕まっている人と皆では逃げられないの・・・必ず助けを連れてくるわ。だから何か知ってたら教えて?」
再び沈黙が辺りを包んだ。
「・・・いいわ・・・どうせあたし達は何日も閉じ込められているから、直ぐに走ったり出来ないわ・・・牢から出たら、左に進みなさい。進むと曲がり角が2つあるはずなんだけど、始めは右に、次は左に・・・曲がれば出入り口にたどり着ける・・・はずよ・・・。」
あやふやなコレットの言葉だったが、信じるしかなかった。最もコレットは意識が無い状態で牢に入れられたのだから、仕方ないのだろう。看守達の話を繋げるとそうなるという事なのだ。
ウズラは逃げる準備を始めた。と言ってもヒール付きの靴を脱いで裸足になり、ドレスのスカートの部分を膝丈ぐらいの所で千切る。手で千切ったので力がいったが、何とか短くする事ができた。これで走れるだろう。足は傷つくかもしれないが、我慢するしかない。
コレットの言葉が幽鬼の声のような調子で響いた。
「・・・捕まったら、嬲られて殺されるわよ・・・気を付けて・・・。」
・・・聞いていると、力が抜けて蹲りそうだったが、努めて元気に答えた。
「ありがとう。必ず助けにくるわ。」
ウズラは骨製の髪留めを髪から抜いた。カバーを外すと鍵の様な物が現れた。これはスケルトンキーと言うシーフが使う万能鍵で、鍵穴に鍵を当てると先が魔法的に変形をして鍵穴にフィットし、どんな鍵でも開けられるという代物だった。ウズラも先刻まで失念していたが、互助会の研修所の教官は、万一に備えて何時も身に付けている様にと言ったのだろう。
忠告を聞いていて良かったとウズラは思い、スケルトンキーを逆手に持って、鉄格子の間から手を出し、鍵穴に鍵を当てた。少し待ち右に捻る。
ガチリという音が響き、鍵が開いた。同時にスケルトンキーはボロボロになって崩れ落ちてしまった。
(おじいちゃんありがとう。無事に帰れたらデートしたげるわ)
ウズラは心の中で、名前も忘れてしまった教官に礼を言った。
そして、ウズラは鉄格子を開けて、通路に出た。
中腰になり、音を立てない様にして、言われた通り左に進み始める。
左右に自分が入っていたのと同じ様な牢が並んでいる。人が入っている牢もあったし、空の牢もあった。閉じ込められている人間は、皆一様に蹲ってウズラが通り過ぎても声も出さなかった。誰がコレットかも分からない。
通路の床は石畳だったが、壁は洞窟の壁のようだった。天然の洞窟を改造した施設なのかもしれない。照明は特になかったが、どこからか光が入っているのか、朧げに前が見える。
時折床を横切る何らかの生き物に怯えながら、ウズラはゆっくりと通路を進んでいった。
人の気配は感じなかった。始めの曲がり角を右に曲がり、少し進み次の曲がり角を左に・・・
曲がろうしてウズラは咄嗟にしゃがみ込んだ。曲がり角の先が明るかったからである。そろそろと角から顔出して先を見てみる。
今までが暗すぎた為、眩しくて目が眩んだ。少しづつ目が慣れてくると、2・30メートル先に外の風景が見えた。外は夜らしい。たが月明かりのせいか洞窟の中より余程明るかった。だが外が見えるという事は、扉がないか、有っても開いているという事である。これはチャンスだった。外に出られるかもしれない。
(・・・見張りがいるわ・・)
当然扉言えば当然だった。拉致した女達に逃げられても困るし、外からこの場所に迷い込んで来る人間もいるだろう。
・・・どうやって脱出するか。
見張りを倒してというのは論外だった。武器も持っていないし、大体ウズラに戦闘経験はなかった。
見張りが居なくなる・・・かもしれないが、逆に人が増えるかもしれないので、ぐずくずしていられない。
後は強行突破・・・つまり全力で走って抜けるしかない。
ウズラは冒険者としてのシーフの技能として、2つの物を持っていた。
一つは、走る速度を上げられる技、もう一つは剣のような近接攻撃を確実に躱す技である。どちらも高い集中力が必要なので、数十秒しか効果を出せないが、今ここで見張りを抜くだけなら何とかなるかもしれない。
(・・・やるしかないわ)
ウズラは立ち上がり、深呼吸を何回かした。
意を決して、通路の角を曲がる。そして出口に向かって全速力で走り始めた。
技の効果もあって見る見る内に、出口が近づく。
出口までもう少しという所で、見張りが気付いた。洞窟の外を見張っていた為、ウズラに気付くのが遅れたのだ。ウズラが裸足で、足音があまり立たなかったこともある。
「何だ貴様!」
ウズラは、誰何する見張りの横を凄い速度で走り抜けた。洞窟の出口から出た所でもう一人の見張りと鉢合わす。
2人目の見張りは既に抜刀していた。問答無用で切りつけてくる。
ウズラの限界まで高められた集中力は、見張りの剣の動きを的確に捉えていた。
ウズラから見て左から袈裟懸けに斬りつけてくる剣の一撃を、走りこんできた勢いはそのままに、剣が振り下ろされる直前に軽く屈んでやり過ごした。走り去るウズラの背を凄い勢いで、剣が通り過ぎていった。
見張りをやり過ごしたウズラは、街の光を目指して全力で走り続けた。

バルファルとユファは北サンドリアを、サンドリア港に向かって歩いていた。バー ランコントルの横の家の老人の言葉が根拠となっている訳だが、サンドリア港にウズラがいる確証もない。
バルファルにいたっては、まだ、ウズラは何処かの男の部屋に転がり込んでいるのではないかと考えていた。
なので、何処となく緊迫感のない口調でバルファルはユファに話しかけた。
「ユファはオッサンと、まだ剣の稽古とかしてるのか?」
オッサンと言うのは、ユファの相方の冒険者で、コウというタルタル族の男性だ。
ユファは、バルファルの方を向いて、
「最近は、コウの武者修行みたいのに付き合わされることが多いかな。」
「コウって最近、黒魔法の修行をしてて、範囲魔法をモンスターにかけて倒すようなことばっかりやってるね。あたしはその露払い。」
と言った。
「へぇ〜。オッサンが黒魔法をね。剣は飽きたのかな。」
というバルファルに、
「どうだろ。」とユファは首を傾げた。
バルファルとユファはドラキーユ城を右手に見て、工人通りに入った。日が暮れてからしばらく経っており、人通りは少ない。
「まだそんなに遅くないのに、人少ないね〜。」とユファが言った。
「そうだな。」バルファルが答える。
この辺りは工房が多いので、夕刻が過ぎ仕事が終わると、人が減るのだろう。
大きな階段を降り、サンドリア港の入り口に着いた。
資材が多数置かれており、城壁の改修も行われているようで、見通しが悪く死角が多い。
2人がサンドリア港に入ろうとした時だった。
一つの資材の物陰から、人影がまろび出た。そのまま地面に倒れこむ。
2人は顔を見合わせると、人影の方に走り寄った。
うつ伏せの身体を仰向けにする。女性のようだ。顔にかぶさっていた、長い金髪を顔の横に避けると・・・
「ウズラさん!?」
バルファルが愕然とした表情で叫んだ。
ユファも焦って、
「え?え、この人がウズラさん?」と言った。
ウズラは意識を失っていた。顔色は蒼白で、見た所身体に傷はないものの、足は裸足で血まみれだった。
「ユファ。ケアル。」バルファルに促されると、ユファは頷いた。
ウズラに対して、治癒呪文の詠唱を始める。
ユファが最大魔力で、ウズラに治癒呪文をかけ終わると、ウズラは呻いて意識を取り戻した。
ぼんやりとした眼差しで、バルファルを見つめる。
「・・・あれ?バルちゃん・・・」
ウズラは呟いて、はっと気付いた。慌てて起き上がる。
「なんでここに・・・ってここ何処?あいつらが来るわ!逃げないと・・・」
若干錯乱しているようだ。
「ユファ。呪符持ってるか?」とバルファルはユファに尋ねた?
「転送呪文の?指輪も呪符もあるよ。」とユファは答えた。
「使う準備をしといてくれ。」バルファルはそう言って、大剣を背から抜きながら、振り向いて構えた。
そこには、いつの間にか数人の男達が立っていた。
バルファルは油断なく男達を見渡した。全部で6人いる。
ほとんどが雑魚だったが、一番奥に佇む刀を腰に差した男は別格だった。
(コイツ・・・オレより強いかも・・・)
バルファルも経験を積み、彼我の戦力差を把握出来るようになっていた。
とりあえず声を掛けて様子を見てみる。
「おい。オレ達に何か用か?」
奥の刀の男が口を開く。
「その娘をこちらに渡して貰おう。」
バルファルはまなじりを吊り上げて言った。
「何だと!?この人はウチの大事な人だ。訳の分からんヤツらに渡せるか。大体オマエらは何だ!?」
刀の男は呟くように言った。
「・・・ほう、「ウチの」と来たか・・・同業かな。俺達はボードワン一家だ。お前達は?」
「クルク一家だ!」バルファルが叫ぶ。
バルファルの後ろで、ユファが止めるように手を上げるが、遅かった。
刀の男は再び、
「・・・クルク一家だと?・・・知らんな。だがまあいい。大人しく従わないならば・・・」
男は刀の柄を押さえ、前にでた。残りの5人の男達もバルファル達を半包囲する。
「チッ」バルファルは舌打ちした。自分一人ならともかく、後ろの2人、特にウズラがいる状態では、男達と戦う事は出来ない。
バルファルはチラリと後ろを見た。ユファは軽く頷いた。
バルファルは刀の男に言った。
「決着はまたつけようぜ。ひとまずオレ達は引き上げる。」
バルファルが手で合図すると、バルファル達3人は、ユファが起動した、転移呪文の呪符の力で、その場からかき消えていた。

ウズラ、バルファル、ユファの3人は、ウズラのモグハウスに辿り着いた。驚き慌てるチリが出迎えた。
「ウズラちゃん!大丈夫!」
叫ぶチリに、
「・・・チリちゃん・・・なんとか大丈夫よ・・・」
とウズラは弱弱しく答えた。
チリはウズラを寝室に連れて行き、休ませようとした。
だが、ウズラは首を横に振り言った。
「・・・まだ何人か、女の子が捕まってるはずなの、助けなきゃ。」
ウズラはコレットに約束したのだ、「必ず助けに戻る」と、
幸い、ウズラの傷と体力の殆どは、ユファがかけた回復呪文で回復していた。
ただ、2日近く何も食べずに過ごした為、とてもお腹が空いていると言う。
チリは頷き、何か消化の良いものを作ってくると言って、キッチンに入っていった。3人はリビングに移動して、ソファに腰掛けた。ウズラの着ているドレスは、ズタズタだったので、ユファがウズラに羽織る物を渡す。
「さてと・・・ウズラさん。何があったんだ?」
バルファルがウズラに尋ねた。
ウズラはこれまであった事を、バルファルに説明した。チリも時折キッチンから出て、話を聞いていく。
「・・・で、見張りを躱して、サンドリア港の入り口まで、辿り着いたのよ。バルちゃん達が見つけてくれて、ホントよかったわ〜。」
ウズラは話の途中で、チリから渡された大振りなカップに入れた、コーンスープを少しずつ飲みながらいった。
バルファルはこめかみに指を当てて、困った様に、
「・・・というかウズラさん・・・オレ達が見つけなかったら、どうなってたと思うんだ?」
と言った。
ウズラは、スープを飲むのを止めて、当惑したように、
「・・・それは・・・それはね。」
「前から思ってたんだけど、ウズラさんって考えがなさ過ぎじゃないか?オトコ探しにバーに勤めるとか・・・まあ、そりゃ騙した方が悪いんだろうけど。」
と言う、バルファルの言葉に、
キッチンから出てきた、チリが、
「バルファルさん!ウズラちゃんが、どんな目にあったと思ってるんですか!騙した方が悪いに決まってます!」
目を釣り上げて、叫んだ。
今、このタイミングで、ウズラの行動を糾弾するのは流石に分が悪いと思ったのか、バルファルはぼそぼそと、
「・・・一辺、誰かに説教してもらった方がいいんじゃないか?」
と呟いた。
黙っていたユファが言った。
「それより、これからどうするの?」と言った。
バルファルが答えるより早く、
「あら〜。このコは?」とウズラが言った。
「あたし、バルの友達でユファといいます。よろしくお願いします。」
ユファはぴょこんと立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「あら〜。これはご丁寧に〜。身体を治してくれてどうもありがとうね。」
スープを飲んで、幾分元気が回復したウズラは言った。
そして、ニタリと笑って、
「バルちゃん〜。いいの〜?クルちゃんがいながら?両手に花って事〜?」
と言った。
全員がずっこけた。
「・・・オイ、アンタ拉致られてたんじゃないのか?なんでそんなに元気なんだ?」
「えと、あたし別にバルと付き合ってる訳じゃないです〜。」
「ウズラちゃん・・・いつものウズラちゃんに戻ってよかったですわ。」
3者3様の言葉を聞いて、ウズラはビシ!とバルファルを指差しながら叫んだ。
「ズバリ!このコとの関係は!」
「え、え?・・・いや関係と言っても、友達だよ・・・。」
別に狼狽える必要は全くなかったのだが、ウズラの勢いに何となく引いて、バルファルは言った。
「怪しい!」ウズラは更に嵩にかかって言った。
ユファが冷静につっこんだ。
「ただの兄弟弟子ですよ。」
・・・しばしの沈黙があった。
立ち上がっていたウズラは、ゆっくりソファに座って、スープの残りを飲み始めた。
「つまんないわね。どろっどろの三角関係が見られると思ったのに。」
「オイ。。」
「あたしの相方の冒険者が、バルに剣を教えてるんで、ホントに兄弟弟子ですよ。」とユファが言った。
「あら〜。・・・そう言えばこないだ皆んなで集まった時に、コクトーさんが、バルちゃんの師匠に挨拶に行くとかって言ってたわね。」
とウズラは言った。ちなみにコクトーとは、バルファルの幼い頃からの守役の、初老のガルカである。
「んな事はどうでもいい!これからどうするかって言う話だっただろ!」
バルファルが髪を掻き毟りながら言った。ウズラのペースにはめられて、調子が狂った様だ。
「そんなの決まってるでしょ。」ウズラがカップをテーブルにタンっと置いて言った。
「残りの女の子を助けに行くのよ。」

バルファルはウズラのその言葉を聞いて、自分の意見を言おうとしたが、思い直した。代わりに別の事を言う。
「とりあえず、人を集めないか?」
皆がバルファルを見る。
「何をするにしても、オレ達だけじゃできるかどうかも分からない。ここに来れるだけの人でいい、呼ぼう。」
とバルファルは言った。
ウズラは首を傾げて、
「でも、戦いになるんだったら、戦える人じゃないと・・・」
と言った。
「そうだな。自分で言っといてなんだけど、クルクとウメさんぐらいしか思い浮かばないな。」
とバルファルは言った。
チリがキッチンから顔を出して、
「兄様は実家の問題でサンドリアには・・・。」
と言った。
「・・・クルクだけか、まあ一家のボスなんだから、来てもらわないとな。相変わらず連絡が取れないけど、シグナルパールをエマージェンシーモードにしてみる。気づけば、すぐ来てくれるだろ。」
バルファルは続けて、
「ユファ、オッサンに来てくれる様に、頼んでもらっていいか?」
と言った。
ユファはこくりと頷いて、
「いいよ。コウは多分、相変わらず黒魔法の修行中のはずだから、すぐ来ると思うよ。」
と言った。
「オッサンって、さっき言ってたバルちゃんの剣の師匠?あら〜、ナイスミドルかしら?」
とウズラが冗談めかして言った。
「・・・オレと同じ、タルタル族だぞ?アンタそんなに守備範囲広かったか?」
バルファルが、渋い顔で返事をする。
「あら残念。あたしウメちゃんじゃないから、タルタルを恋愛対象には見れないわ〜。」
とウズラが言った。
「本当は、一家の問題だから、身内で片ずけたいんだけど、ちょっと無理そうだからな。ってもうユファには手伝って貰ったか。」
とバルファルはユファに言った。
「別に気にしてないよ。バルだってあたしが困っている時、助けてくれたじゃない。お互い様よ。それにコウもバルの事は気に入ってるみたいだから、普通に手を貸すと思うよ。」
ユファはにこりと笑って言った。
「悪いな。」バルファルは短く答えた。
「あらあらあら〜。仲が良いわね〜。本当に・・・」
言いかけたウズラをバルファルが遮った。
「ウズラさん、アンタ、シャワー浴びて着替えたほうがいいぞ?泥だらけだし、服がズタズタだ。」
「・・・あら、本当。いい女が台無しね。じゃあ失礼して、そうさせてもらうわ。」
そう答えて、ウズラはシャワールームの方へ歩いて行った。

しばらくして、皆がチリの作ったオムレツと温野菜のサラダ、パンとミルクを食べていると、チャイムが鳴った。
ユファが食べる手を止め、
「出ます。」と言って、席を立った。
やがてリビングに戻ってきたユファは、1人のタルタル族の男を連れていた。
白いローブと、先端が金色に輝く白い杖を持ち、栗色の髪は後ろで短く縛っている。
タルタルは部屋を見渡し、一礼した。
「初めまして、コウと言います。よろしくお願いします。」
バルファルは席から立ち上がって出迎えた。
「おぉ、オッサン悪いな。」
「やあ、バル、来たよ。」とコウは言った。
コウはソファの、バルが指し示す場所に座った。ユファがその横にちょこんと座る。
「後は、クルクか・・・呼んでから、結構時間が経ってるんだけどな。」
とバルファルが言う間も無く、どかんとモグハウスの扉が蹴り開けられた。
どかどかと足音が近づいて来て、リビングに1人のタルタル族の女性が姿を現した。ピンク色のオロール装束と言う装備に身を包み、金色髪はツインにして、肩の処で切り揃えられている。
タルタル族の女性は叫んだ。
「バル来たよ!大丈夫?って、あれ?なんでこんなに人が集まってんの?」
バルファルは慎重に言った。
「クルク・・・緊急の事が起きたんで、パールをエマージェンシーモードにしたんだ、オレは別になんともない。」
クルクと呼ばれたタルタル族の女性は、
「なんだよ〜。クルク心配・・・いや、ちょっと気になったんで、急いで来たのに〜。」
「で、ウズラのモグハウスに、なんでこんなに人がいるの?」
と言った。
バルファルは咳払いをして、
「それをこれから説明するよ。クルクとオッサンはよく聞いてくれ。」
クルクの視線がコウの方を向く、コウは目線で挨拶をした。
バルファルが説明を始めた。
時折ウズラが捕捉しながら話を進める。
クルクとコウ以外は、話は2度目だったが、皆黙って聞いていた。
「・・・という事が起きたんだ。」
バルファルは、サンドリア港でウズラを救出した処まで話すと、話を締めくくった。
しばし皆無言だった。
やがて、パシンパシンという音が響いた。
見るとクルクが、右拳を左手に叩きつけている。
「決まってんじゃん。」とクルクが言った。
「そのボード何とかって奴らをボッコボコにして、女の子達をを助け出すんでしょ。」
ウズラが手を合わせて叫んだ。
「さっすがクルちゃん頼もしぃ〜。そうと決まったら突撃よ〜。」
バルファルは慌てて、
「いや、待て待て。そう言う結論でも良いかもしれないけどな。やり方を相談したいんだよ、やり方を。」
と言った。
クルクは不満そうに、
「やり方〜?そんなのそいつらの所に行って、ボコるだけじゃん。」
と言った。
「じゃあ、ボードワン組のアジトの場所は?」
とバルファルが尋ねる。
「? ウズラの捕まってたって言う洞窟じゃないの?」
クルクは首を傾げる。
「あ・・・多分違うと思うわ。あたしが逃げてきた時、追いかけてけたのは1人だけで、残りはどこから来たのか分からない・・・。」
とウズラが捕捉した。
「ぬぅ〜。じゃあ、どうすんのさ?」
クルクは不満そうだ。
バルファルは溜め息をついて、
「だから、こうやって集まってんだろ。」
と言った。
ここで、バルファルはコウの目線に気が付いた。
「・・・オッサン、頼めるか?」
とバルファルはコウに言った。
コウは頷き、皆に話始めた。
「一応、僕がここに来る前に、ユファからシグナルパールであらかたの経緯は聞いたんで、下調べをしてみました。天晶堂からの情報によると、ボードワン組の構成員は、ボスのボードワンを含めて20人。中くらいの規模の組織かな。幹部が2人いて、1人がゾルバと言う名のガルカ、もう1人がベルナールと言う名のエルヴァーン。それぞれ格闘と両手刀が得物だそうだ。ウズラさんとバルが会った2人が、この幹部でしょう。」
コウは一旦、間を置いて、
「奴らのアジトは、北サンドリアの工人通りにある、「ルフェ建設」という土木会社です。ただこの会社は、土木の仕事の斡旋を多少するだけのダミー会社で、奴らはここを拠点に悪事を働いている訳です。後はボスのボードワンは北サンドリアの住宅街に家を所有している。家族もいるようですね。まあ、周りの住民には、悟られてないんだろうけれども」
「なんで・・・そんなに詳しいの?」
ウズラが呆れた様に言った。
「いや、これは天晶堂に調べて貰ったんで、僕自身が詳しい訳じゃないです。まあ、蛇の道は蛇っていう様な事になるんでしょうか。」
コウは続けて、
「ここにいるメンバーで、ボードワン組と相対するという事については、僕も基本的には賛成です。というか、ウズラさんが拉致された女性に聞いた話だと、2〜3日内に女性達を売り払うという事でしたよね?ウズラさんが逃亡した事によって、時間が早まるかなと・・・つまり今夜になるはずです。今から王都の治安維持を担う神殿騎士団に相談しても間に合いません。」
神殿騎士団が、犯罪の容疑者を逮捕・拘留する為には、ある程度でも客観的な証拠が必要である。疑わしいだけでは逮捕・拘留はできないのだ。騎士団が証拠を集めるのには、時間が足りないと言うことなのである。ちなみに今の時間は、午後を回ったところだ。
「ただ、バルも言った通り、やり方は考えた方が良いかと思います。・・・通常、こう言った裏組織と敵対する場合には、徹底的やらないとダメです。そこでクルクさんに質問ですが、奴らを皆殺しにしますか?」
とコウはクルクに訪ねた。
サラッと言われたので気付かなかったが、意味が分かるとクルクはびっくりして叫んだ。
「ぅ・・・いや、殺さなくてもいいんじゃないの?やった事を後悔する位ボコれば。」
「それだと、時間が経ったら、必ず仕返しに来ますね。裏稼業の人間というのは得てしてそんなもんです。クルクさんやバルは自分の身を守れるかも知れませんが、他の方はどうでしょうか。」
とコウは言った。
「まあ、でも殺さない方で考えると、クルクさんの言う「ボコる」にしても、今度敵対したら殺されると思わせる位に、徹底的にやらないとダメですね。」
「具体的にはどうするんだ?」とバルファルが訪ねた。
「サンドリア港近辺から20人近くの人間を輸送するには、飛空挺か船だろう。飛空挺は犯罪目的には利用できないから、個人所有の船を使ってルフェ湖からサンドリア国境を越えるルートを使うと思う。しかもサンドリア港は飛空挺と同様に使えないから、ウズラさんが捕まっていた洞窟の近辺に船を接舷して、輸送を始める事になると思う。」
とコウはバルファルに説明した。
「段取りとしてはこうだ。今夜早めに洞窟近くに行って、奴らの動向を見張る。女性達を輸送する動きが見え始めたら、こちらから襲撃をかける。なるべく派手に戦って、奴ら全員をおびきだした上で叩きのめす。この際、ボスと幹部2人は徹底的に叩かないとダメだ。後は・・・そうだな、最後に僕が派手な魔法で輸送用の船を破壊するくらいかな。」
「という訳で、幹部2人はクルクさんと、バルで相手をお願いします。ボードワンは、腕っ節は並らしい。ユファが相手で。雑魚は僕が引き受けます。後、ウズラさんは洞窟までの案内をお願いします。」
クルクは肩を竦めて言った。
「ほら、結局洞窟に行って、なんちゃら組の奴らをボコるだけじゃん。」
コウは笑って、
「そうですね。説明が長くなってすいません。」
と言った。
バルファルは、
「いや、クルク、結果的にそうなっただけだろ。過程を全然考えてないだろう?」
と言った。
クルクは横目でバルファルを見て、
「女の直感は、常に正しいんだよ。バルこそカタナの奴に勝てんの?」
と言った。
「む・・・。」
バルファルは微妙な表情である。
ウズラが口を開いた。
「あたしからも提案があるんだけど。」
・・・ウズラの提案を聞いた皆は、口々に言った。
「それ、どんな意味があるんだ!?」とバルファル。
「ウズラがやりたいなら、クルクは別にいいよ?」とクルク。
「あ、あたし今年の衣装持ってます。」とユファ。
コウは少し考えて、
「意味があるかと聞かれたら、あんまり無いような気がしますが、今回の一番の被害者はウズラさんなので、気が済む様にされたらいいかと思います。まあ、相手を驚かすことで、こちらが心理的に優位に立てるかもしれませんね。」
と言った。
「やった!じゃあ決まりね。皆衣装持ってくるのよ〜。」
ウズラは喜んだ。
それから、今晩に向けて、細かい打ち合わせが始まった。

日が暮れた頃、5人は女性達が捕まっている洞窟に向けて出発した。5人とは、クルク、バルファル、ウズラ、コウ、ユファである。チリは、神殿騎士団の本部があるドラキーユ城に出向いている。今晩の事件には間に合わないだろうが、事の次第を
説明しに行ったのだ。つまり告発である。
5人はすっぽりマントとフードに身を包んでいた。それぞれ色違いで、クルクがピンク、バルファルが黒、コウが白、ユファが赤、ウズラに至っては金色である。はっきりいって滅茶苦茶目立ったが、天涼祭の最中ともあって、イベント関係者に見られた様だ。南サンドリアから北サンドリアに入るあたりで、5人は物陰で、姿隠しの呪文をかけた。音消しの呪文もあるが、両方かけるとお互いが分からなくなるので、姿隠しの呪文の方だけかけた。サンドリア港に向かう途中、工人通りで、ボードワン組のアジト、「ルフェ建設」の前を通ったが、人気が無い様だった。
サンドリア港の入り口辺り、資材が固まっている場所で、ウズラが城壁の方へ皆を案内した。ウズラは、自分でもうろ覚えの記憶を元に、資材の山の中を右に曲がり左に曲がる。するとやがて城壁が修理中の場所に辿り着いた。城壁に人が1人通れる位の穴が開いており、外に抜けられる様だ。
5人はウズラを先頭に、城壁の外に出た。木々の中をそのままルフェ湖の方へ向かっていく。月明かりの中を、比較的ゆっくりなペースで湖に進むと、やがて斜面に出た。斜面はなだらかに湖の方へ下っており、湖の横の崖には洞窟の入り口が見えた。月が照っていなかったら見逃したかもしれない。
洞窟の入り口には、見張りが1人立っていた。おそらく入り口の少し中にもう1人見張りがいるのだろう。ウズラが逃亡した時と同じ構成だ。他に動きはなかった。まだ船も見えなかったし、時間に余裕を持って着けたようだ。
5人はその場に座り込んで時間を潰す事にした。サンドリアは北の国とはいえ、夏の只中である。陽が落ちたこの時間でも少し暑い。マントとフードに身を包んでいる5人は尚更だった。姿隠しは解いていないので、姿は見えないがそれぞれ、マントの中に風を送り込んでいる気配を感じる。
ぼそぼそと話し声が響く。
(・・・これ暑っついわね〜。)
(アンタが着るって言ったんだろ。)
(クルク、ジュースが飲みたいなぅ〜。)
(あ、クルクさん、ウィンダスティーだったらありますよ。冷えてます。)
(ユファちゃん、気がきく〜・・・ゴクゴク・・・ぷはぁ)
(クルクうるさい)
(し〜)
なんてことをやってる間に、5人から少し離れた斜面に人影が幾つか現れた。ばらばらに洞窟の入り口に向かって行く。また、ルフェ湖の沖の方からは船が近付いてきた。中程度の大きさの帆船で、岸より少し離れた所に停泊した。人の輸送はボートで行うようで、積載しているボートを、ロープを使って降ろし始めた。サンドリアの方からは、また人が現れていた。
(そろそろだと思います。もう少したったら、襲撃しましょう。)
コウが皆に囁いた。
やがて、洞窟の前に15・6人の男達が集まった。帆船からのボートも岸についている。
ウズラは男達を見て、
(ボードワンとゾルバがいる!)と囁いた、
バルファルも、
(刀の男がいるな・・・ベルナールだったか。)と囁いた。
一通り組の人間が揃った様である。
「じゃあ、行きましょう。」コウは立ち上がった。

ボードワンは洞窟の前で、奴隷商人の男と談笑していた。予想しないトラブルの所為で、取引日時が早まったが、問題なく終わりそうだ。今回の取引では一人頭50万ギルで売買する契約になっている。つまり20人で、1000万ギルだ。
(ボロい商売だぜ)
ボードワンはニヤニヤ笑う。
ボードワンの女達を拉致する方法は様々だが、サンドリア宮廷に出仕していると言うと、女達はころりと自分を信用するので、楽なものだった。もちろんまったくの嘘だったが。ボードワンは外見は端正なエルヴァーンの男で、筋者には見えない。
(・・・ち、そう言えば20人じゃなくて、19人だったか。)
昨夜1人が洞窟から逃亡したのだ。その所為でスケジュールを早めなければならなかった。
(あの女、今度見つけたら生皮剥いでやる。)
物騒な事を考えていたボードワンだったが、見張りの声で現実に引き戻された。
「なんだ、お前ら!」
見張りのドスの聞いた誰何の声も気にする様子もなく、近づいてくる人影があった。
「なんだありゃ?」
組員の1人が素っ頓狂な声を上げた。ボードワンがよく見ると・・・
近付いてくる人影は5つだった。おかしいのは、全員が色とりどりのマントとフードで身を包んでいる事だろう。なので、顔立ちや性別が分からない。
ボードワンから見て、真ん中が金、右がピンクと黒、左が白と赤である。しかも中央の人影以外、全員異常に背が低い。子供かタルタル族だと思われる。
5人の人影はボードワン達から少し離れた所で立ち止まった。
金色マントが口を開いた。
「ボードワン!お前達の悪業もこれまでよ!大人しく女達を解放すればよし。さもなければ、ルフェ湖の藻屑に変えてあげるわ!」
と金色マントはボードワンを指差して言った。
女の声だ。ボードワンは目付きを鋭くしながら前に出た。
「何だお前ら?ふざけた事を抜かすな!殺されたくなければ・・・いや、もう見ちまったな。死んでもらおう。」
その言葉を聞いた、金色マントは、
「後悔しても知らないわよ!いくわよっ!みんな!」
と叫び、5人は一斉にマントとフードを脱ぎ捨てた。
現れたのは・・・
奇抜なコスチュームに身を包んだ5人の戦士だった!!
・・・と言っても、天涼祭のアイドルショーで手に入れた衣装をそのまま使っているので、女性はスターレト装備という、ふりっふりのピンクの衣装。男性はエージェント装備という黒いローブ系の衣装である。顔の上半分をマントと同じ色の仮面で隠しているのが、違いといえば、違いか。
5人はそれぞれ名乗りを上げ始める!!
「赤の勇者!ジャスティスレッド!」ユファが、右手をぐるりと廻し左手を突き出して叫んだ。
「く・・黒の勇者!ジャスティスブラック!」バルファルが鞘ごと持った大剣を地面に突き刺しながら叫んだ!
「白の勇者!ジャスティスホワイト!」コウが空中に風を巻き起こしながら(実際は単なる風魔法エアロ)叫んだ!
「桃の勇者!ジャスティスピンク!」クルクは空中に跳び上がり、拳と蹴りを繰り出しながら叫んだ!
「金の勇者!ジャスティスゴールド!」ウズラはその場でくるりと回転して、両手を空に掲げながら叫んだ!



「「「「「5人の勇者!!サンドリアジャスティス!!」」」」」
5人の声が綺麗にシンクロして、辺りに響きわたった!!



・・・辺りを静寂が支配した。
ボードワン達は、唖然としている。
ウズラは小声で言った。
(キマったわね!)
(あはは。これ面白いですね)
コウは楽しそうである。
(・・・やっぱり、意味わからん)とバルファル。
(バル噛んじゃったじゃん。練習したのに)とクルク。
(あ、リアクションきそうです)とユファ。
ボードワンはわなわなと震えながら叫んだ!
「貴様ら舐めてんのか!真ん中のお前、確かウズラと言う女だな!わざわざ戻って捕まりに来たか!」
ウズラもとい、ジャスティスゴールドは鼻で笑いながら言った。
「ウズラは仮の名前。あたしはクルク一家のクルクこと、ジャスティスゴールドよ!」
ウズラの横のクルクがぼそっと呟く。
(ウズラがクルクなら、クルクは誰なんだよぅ〜)
ボードワンは勝手に勘違いして、喚き散らした。
「そうか、貴様ウチのシノギを内偵してやがったな!人のシマを荒らすたぁ良い度胸だ!生きて帰れると思うなよ!お前らやっちまえ!」
ボードワンのその言葉を合図に、10人程がサンドリアジャスティスに向かってくる。
ウズラことジャスティスゴールドは、ばっと右手を向かってくる10人に指し示しながら叫んだ!
「ホワイト!やっておしまい!」
コウことジャスティスホワイトは叫んだ!
「あいさー!」
コウは手に持った先端が金色の杖をくるりと廻して、呪文を詠唱した。
組員達が数歩走った所で、足元の地面が隆起し、土の槍となって組員達を打った。組員達はばたばたと倒れる。あっと言う間に、10人全員が地面に転がった。
ジャスティスゴールドがさも可笑しそうに笑った。
「オ〜ホッホッホ!口ほどにも無い!さっさと降参しなさい!」
ボードワンは唖然として、
「・・・ば、馬鹿な、一撃の魔法で10人だと・・・」
それからぶるぶると頭を降り、
「ゾルバ!、ベルナール!始末しろ!」
と叫んだ。
幹部の2人、ガルカとヒュームの男達は、「おう」「はい」とそれぞれ返事をして、サンドリアジャスティスに向かってきた。
ジャスティスゴールドは応じて、叫んだ!
「ジャスティスピンク、ブラック!やっておしまいなさい!」
「まかせな〜。」「・・・よし。」ジャスティスピンク、ブラックことクルクとバルファルは返答を返し、それぞれゾルバとベルナールに向かって行った。
コウはそれを見ながら、ボードワン組の人数を数えた。倒れている組員が10人、ボードワンと幹部2人で合わせて3人、ボードワンの周りに更に3人の組員が居て、騒ぎを聞きつけて来たのだろう、洞窟の中から新たに4人の組員が出てきた。これで総数は20人。構成員の全てがこの場所に集まった事になる。ボードワン組にとって、それだけこの取り引きは大きい仕事なのだろう。
コウは杖を構え、睡眠魔法を唱えた。組員達がバタバタと昏睡状態になって倒れる。うまく7人の組員だけにかかった様だ。中央のボードワンがぎょっとした表情になっている。
コウはウズラに言った。
「ウズラさん、船を壊す為の魔法の詠唱に入るので、クルクさん達の戦いが終わったら船員達に逃げる様に言ってください。」
ウズラはパッチリとウィンクをして、
「分かったわ!」と言った。
コウは、精霊の印という複雑な手振りの印を組んだ後、呪文の詠唱に入った。

ジャスティスピンクことクルクは、ボードワン組の幹部、ゾルバと相対していた。クルクはタルタル族、ゾルバはガルカ族である。両者の体格の違いは大人と子供どころか、人間と巨人ぐらいあった。ゾルバはニヤニヤ笑いながら、
「タルタル族の癖に格闘で戦うなんて、何考えてやがる。手前らは魔法でも唱えてりゃ・・・」と言いかけたところで、クルクの姿が瞬間ぶれた。
あっという間にゾルバの頭の位置まで跳び上がると、右足で顔面をしたたかに蹴りつけた。ゾルバは血反吐を吐きながら、後ろに吹き飛ばされた。
「ゲッ・・・げはっ・・・」血を吐くゾルバにクルクは、退屈そうに言った。
「クル・・・ジャスティスピンクのゲンコツは痛いぞぅ〜。・・・あ?今蹴っちゃった。次ゲンコツね〜。」
ゾルバはクルクに突進した。右拳を振り下ろすが、クルクはひょいと躱し、ゾルバの右手を駆け登って、右拳でゾルバを殴りつけた。ゾルバの頭がガクンと右側に傾ぐ、そのまま倒れかかるが、持ち直して立ち上がった。右手に乗っているクルクを身体を揺すって振り落とす。宙に浮くクルクに左の裏拳を叩きつける。クルクは勢いに逆らわずに、羽毛の様にゾルバの左手に取り付いた。左に振り抜く回転を、自分の体重を使って、更に勢いをつける。ゾルバが半回転した所で、下に体重をかける。堪らず後ろにひっくり返るゾルバ。クルクはゾルバの左手の下にいた。そのまま左手の関節を逆に極めていく。腕ひしぎ逆十字だ。みちみちみちとゾルバの関節が破壊されかける。
「ガァ〜!」とゾルバが強引に腕を振り払う。流石にガルカの力は強く、クルクは腕を極め切れなかった。
両者が共に立ち上がる。クルクは顔をしかめて、ピンクのふりふりの衣装の汚れをぱんぱんと払った。
「せっかくの衣装が汚れちゃうじゃん。」
ゾルバはぜいぜいと荒い息を吐いていた。左手はだらりと下に下がっている。
「・・・くそ・・・これでも喰らえ、夢想阿修羅拳!」
ゾルバの身体が高められた気力で発光する。ゾルバが連打の構えを取った!
クルクはニヤリと笑い、
「お?やるじゃ〜ん。・・・そう言えば派手にやるんだっけ?こっちも行くよ〜。ジャスティスピンク・ファイナルアタッ〜ク!」
ゾルバに呼応する様に、クルクの身体が発光する。
同時に発動された2人のウェポンスキルが交差した。
ゾルバは左手を痛めた為、右手のみの連打になる。それを掻い潜って、クルクの手による斬撃、アッパー、飛び回し蹴り、裏拳が、次々と決まる。闘気によって薄っすらと動物の様な姿が現れた。
コウは呪文の詠唱をしながら、ちらりとその姿を見た。
(お。四神演舞。)
格闘のウェポンスキルの内、最も威力の高い物の一つだ。だが前に見た、格闘の達人の放つ四神演舞は、四神の姿がもっとはっきり具現化していた様な気がする。
(もちょっと修行がいるかな・・・まあ、僕も同じか。。)
コウはそんな事を考えながら、呪文の詠唱を続けた。
倒れたゾルバはピクリとも動かなかった。クルク、いやジャスティスピンクの勝利だった。

ジャスティスブラックこと、バルファルはもう1人の幹部ベルナールに苦戦していた。というか戦術が違うので、噛み合っていなかったというのが正しいかもしれない。バルファルの大剣を使ったスタンダードな剣術に対して、ベルナールのそれは居合だった。刀を鞘に収め、腰を落とし向かって来た敵に対して、抜き打ちに斬りつける。始めこの理が分かっていなかったバルファルは、危うく真っ二つにされかけた。大剣を使って辛うじて防いだが、以降ベルナールに対して迂闊に踏み込めなくなった。じりじりと時間だけが過ぎたが、クルクがゾルバを倒すのを横目で見たバルファルは、覚悟を決めた。
(一番強い技で行くしかない・・・)
バルファルは気力を溜めた。持てる最大の技を放つ準備をする。
ベルナールも結着を感じ取って、居合の構えを取った。
「行くぜ!」
バルファルは大剣を振り下ろす。その直前にベルナールの居合がバルファルに迫る。しかし双方の剣は空を斬った。バルファルが1歩間合を外して斬ったのである。その真の狙いは・・・
地を打ったバルファルの大剣は、直後に氷の塊を発生させた。その氷に包まれたベルナールは、次の一撃への繋ぎが遅れた。そこへバルファルの大剣のひらが、ベルナールの頭に叩きつけられる。ベルナールはがくりと膝から崩れ落ちた。
(やれやれ、ウェポンスキルの魔法属性のお陰で勝てたな。剣術の腕だけだったら、向こうの方が上だった。)
そんな考えがバルファルの頭をよぎった。
ジャスティスブラックことバルファルは、ベルナールに勝利した。
大剣を鞘に戻すと、クルクが手を振ってくる。
そこでバルファルは気付いた。大気が振動していた。

ボードワンは愕然としていた。手下の組員の20近くと、ゾルバ、ベルナールの幹部2人があっという間に倒されていた。手下はともかく、ゾルバとベルナールの腕は確かではなかったのか。クルク一家、サンドリアジャスティスとは一体何なのだ。ボードワンは側にいた奴隷商人の男がサンドリアジャスティスに目を奪われているのを見て、そろりと横に一歩動いた。自分に矛先が向かない内に、逃げ出すつもりだった。そこに声がかかった。
「どこに行くの?逃げられないよ。」
見ると、赤い仮面を付けたタルタル族の女が立ち塞がっていた。
「ええぃ、どけ。お前らの様なふざけた奴らを相手にしている時間はない。」
ボードワンは腰の剣を抜いた。
ジャスティスレッドこと、ユファは剣を抜いた。
「愛と正義の使徒、ジャスティスレッドが相手をしてあげる。」
ユファも結構ノリノリだった。
ボードワンが斬りかかってくるが、幹部2人に比べれば、明らかに腕が落ちる。
2、3合でジャスティスレッドがボードワンの剣を叩き落とした。
「ぐっ・・・」ユファの剣のひらで強打された腕を抑えながら、ボードワンは呻いた。そこへジャスティスゴールドことウズラが近づいてきた。
「ホーホッホッホ、ざまぁないわね。悪は必ず滅びるのよ!」
ジャスティスゴールドがボードワンに指先をビシッとと向けていった。
「・・・ふざけやがって・・・貴様さえ居なければ・・・」
ボードワンは、そう言うとユファが止める間もなく、憤怒の表情でジャスティスゴールドに殴りかかってきた。
だが、ジャスティスゴールドはそれを予想していた様だった。
軽くバックステップをして、ボードワンの拳を躱す。たたらを踏むボードワンに、
「あんまり女を甘く見んじゃないわよ!」
と叫んで、右の掌底をボードワンの鼻っ柱に叩き込んだ。ウズラはクルクに護身術として、幾つかの格闘の技を教わったが、その内の一つだった。
捻りが加わったその一撃で、鼻を折られて、ボードワンは仰向けにばったり倒れた。
「ふぅ・・・これでやっと終わった・・・って、え?」
ウズラは空を見た。大気の振動が凄い事になっている。ゴゴゴゴゴという振動音が空から響いていた。
・・・そう言えば、さっきコウが「魔法で船を壊すから、船員に逃げる様に言ってくれ」と言っていた気がする。
ウズラは慌てて奴隷商人に、
「ちょっとアンタ!船の乗組員に逃げる様に言いなさい!コウちゃん・・・じゃない、ジャスティスホワイトが船をぶっ壊すわよ!」
奴隷商人は顔面を蒼白にして、
「は、ハイッ!」と叫んで停泊中の船に身振りを交えて、大声で指示を出し始めた。逆らう気はない様だ。ボードワン組とサンドリアジャスティスとの戦いを見て、勝てないと思ったのだろう。
岸から離れたところに停泊中の奴隷商船は、それでも指示が分かったらしく、船員が次々と湖に飛び込んでいた。必死に岸まで泳ぎ始める。
ウズラ以下4人は、空を見上げた。遥か上空の星の一つがだんだん大きくなる。
「あれ、何かしら?」とウズラ。
「・・・なんか落ちてくるよな?」とバルファル。
「ここ、危ないんじゃ?」とクルク。
「・・・コウ・・・また無茶を・・・」とユファ。
船員達が次々と岸に泳ぎ着いた。船には誰もいなくなった様だ。
ウズラ達から少し離れて、呪文の詠唱をしていたコウが一際大きな身振りをした。

「・・・天より飛来し神の鉄槌、我が敵を撃たん・・・」
呪文の詠唱が完了した様だ。


「メテオ」


天空より飛来した、隕石が奴隷商船に着弾した。
船に隕石が当たる瞬間、一瞬隕石が止まった様な気がしたのは、目の錯覚だろうか。木造の中型の帆船は一瞬でバラバラになった。木ではなく紙でできている様だった。船を突き抜けた隕石は、湖の底に激突した。爆発が起こった様な凄まじい水飛沫と水が蒸発した霧が辺りに撒き散らされる。同時に隕石による地震が起きた。ウズラ達はその場で転倒しそうになる。
上空から船の残骸がばらばらと降る中で、頭を庇いながらウズラは叫んだ。
「凄いわね!船がバラバラよ!」
コウが近寄ってくる。ユファは腰に手をやってコウを睨みつけた。
「コウ!やり過ぎ!こんなに強い魔法を使わなくてもいいでしょ!」
コウは頭を掻きながら、
「いや〜。この呪文って、詠唱長すぎて実戦で使いづらいんだよね。試し撃ちがしたかったと言うか・・・」
バルファルが、
「オッサン・・・試しにこんなでかいの撃つなよ。」
と呆れた様に言った。
クルクはのんびりと、
「見事に船がバラバラになったねぇ〜。」
と言った。
見ると奴隷商人や船員達は呆然とその場にへたり込んでいる。ボードワンに至っては、踞ってガタガタ震えていた。
ウズラは、
「さぁ。これでコレット達を助け出す・・・」
と言いかけた時、どこからか、ピーと笛が鳴る音がした。
更に洞窟に向けて向かってくる多数の人影が見える。
「新手か?」とバルファルが大剣の柄に手を当てる。
「・・・いや、多分神殿騎士団だろう。チリさんの告発が功をなしたか、さっきのメテオを脅威に感じたか・・・」
コウはウズラ達の方へ向き直って言った。
「今日はここまでだね。騎士団には事情を説明しとくから、あなた達は帰った方が良い。」
「あたし達だけ?」とウズラは言った。
「何人も残っていると、組織同士の抗争と見なされるかもしれない。・・・まあ、実際似たようなものだったが。」
「クルク一家が、裏組織に認定されるのはいやでしょう?」
コウは笑っていった。
クルクも笑いながら肩を竦めて、
「箔がつくかもね。・・・頼めるの?」
「神殿騎士団長のクリルラとは面識もあります。まあ、なんとかなるでしょう。」
とコウは言った。
「じゃあコウ、家で待ってるよ。」ユファは特に心配していない様だ。
コウはウズラ達に順番に転移呪文をかけていった。最後の1人、ユファが虚空に消えると同時に、神殿騎士団の団員達が洞窟前に到着した。


【エピローグ】
ボードワン組によって拉致されていた、女性達は神殿騎士団によって救出された。ウズラ達の戦闘が終わったタイミングで騎士団が現れたのは、やはりチリの告発が功をなした所為だった。元より拉致事件の捜査は行われていたが、決め手となる情報がなかったのだ。チリの告発により情報を得た騎士団は緊急出動となった。騎士団長クリルラの英断である。
もしかして、ウズラ達の戦いは必要なくて、告発だけで騎士団が女性達を救出出来たかもしれないが、全て終わった今となっては、誰にも分からない。
ボードワン組の人間や、奴隷商人達は全員拘束された。拉致された女性達の体調や心情を考えれば、厳しい沙汰が待っているだろう。
コウは、神殿騎士団と冒険者互助会にこってり絞られた。拉致者の救出に一役買ったのは評価されたが、やはり使った魔法が危険すぎた為、冒険者資格の一ヶ月停止の処置が下された。
クルク一家については、コウが喋らなかったのと、サンドリアジャスティスの印象が強すぎて、ボードワン達が殆ど覚えていなかった為、良い意味でも悪い意味でも話題にならなかった。
そのサンドリアジャスティスは、口コミで広がって、サンドリアの裏社会で伝説となった。余り悪どい事をすると、金髪の美女がタルタルの軍団を率いて、組織を壊滅させると言う伝説だ。サンドリアの犯罪発生率の減少に一役かっただろうか。


・・・事件から2・3日後、南サンドリア・・・
ウズラはバー ランコントルのノッカーをノックしていた。先日マスターのアルベリックから謝罪したい旨、大変恐縮だが来店頂けないだろうか。との手紙を貰ったのだ。また、何かしら企んでいるのかとも思ったが、組織は壊滅したのと、もともとアルベリックは今回の事件に関係がなかったので行く事にした。関係していたのは、息子のアルベールである。アルベールは既に神殿騎士団の手によって拘束されていた。最も今度は、夜までに帰らなかったら、仲間達に連絡するようモーグリに伝えてはある。

「・・・どうぞ・・」
細い声で返答があった。
店の中に入ると薄暗い。目が慣れると、以前綺麗に整頓されていた店内は、テーブルや椅子は床に転がり、床にはブーツの足跡がつき、酷いありさまだった。騎士団による家宅捜索があったのだろう。
椅子の一つに腰掛けて、テーブルに肘をついているアルベリックも酷い格好だった。綺麗に整えられていた髭は伸び放題になり、髪にも櫛が通っていない。着ているシャツもよれよれだった。何日も酒浸りなのだろう、目も落ちくぼみ、頰もこけている。
アルベリックは震える手で、目の前の椅子を指し示し、ウズラに言った。
「座って頂けますか。」
ウズラは躊躇したが、結局は椅子に座った。
ウズラが椅子に座ると、アルベリックはテーブルに手をついた。
「ウズラさん。この度は大変申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げるアルベリックを見て、ウズラは当惑したように
「・・・アルベリックさんは関係なかったんですもの。謝る必要はありませんわ。」
と言った。
アルベリックは頭を左右に振って、
「いや、アルベールのした事を見抜けなかったのは、私の責任です。聞けばウズラさんの前任の女性も同様の手口で拉致したらしい。どうしようもない奴だ。」
と言った。
「アルベールさんは何故こんな事を・・・」
とウズラが聞くと、アルベリックは苦々しげに、
「手に入ったカネで、この店を拡張したらしかったらしい・・・馬鹿な奴だ。」
と言った。
「そうですか・・・」とウズラは頷いた。アルベールも真っ当な方法で店を大きくすればよかったものを・・・
アルベリックはウズラを見て言った。
「今日、お越しいただいたのは他でもない。今回のお詫びにウズラさんに、この店を譲ろうと思いましてな。」
ウズラは驚いた。
「は?・・・いえ、そんな事をしてもらう訳にはいきません。」
「私は今回の件で、非常にダメージを受けました。・・・いや、実際の被害者のウズラさんに向かってこんな事を言えた義理ではありませんが・・・」
アルベリックは地に沈み込む様な調子で言った。
「田舎に帰って、余生を過ごそうと思います。これが店の権利書と鍵です。また、金庫には当座の回転資金が入っています。」
アルベリックは立ち上がって上着を身につけながら、
「私はもう、サンドリアにいるのがイヤになった・・・」
と言った。
「そのまま経営するもよし。売り払ってお金に変えるもよし。全て貴女に一存します。それでは・・・」
アルベリックは足を引きずりながら、店の外に出て行った。
ウズラはびっくりしていた。
ハンドバッグからタバコを取り出すと、1本火を点ける。滅多に吸わないが、たまに無性に吸いたくなるので、携帯している。
煙を吸い込み、紫煙を吐くと気分が落ち着いてきた。
これはどうするべきか、良く考えなければならない。貰える物はもらっていいのか?それともウズラの前任の女性を探し出して、折半するべきだろうか。
タバコを吸っていると、バーカウンターが目に入った。タバコを灰皿に置くと、ウズラはバーカウンターに入った。
棚から20年物の、ブルーウィスキーの瓶とショットグラスを取ると、テーブルに戻る。瓶からグラスに一杯注ぎ、飲もうとする。

ふと、何かに乾杯したい気分になった。
少し考えて、口に出してウズラは言った。

「あたしの人生に乾杯。」
一気に飲んだブルーウィスキーは、やはり美味しかった。



おしまい。



**:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:**


♪ コウさんの小説リスト ♪


第1弾 : 「とある出逢い」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第2弾 : 「とある出逢い 2」


第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第4弾 : 「ねがい」


第5弾 : 「ああ、ばれんてぃおん」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。





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【2015/08/19 23:59】 | # コウさんの小説
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戦隊シリーズ!?
らぶりぃ
クルちゃん、おはようございます(*´ω`)ノ

コウさんの小説、読ませて頂きましたので、
コメント欄をお借りして感想を書かせて下さいね♪



コウさん、こんにちはなのです(*´ω`)ノ

今回の主役がうずらちゃんだったのがビックリでした!
クルちゃんやバルちゃんが主役ならわかるのですが、
倉庫番のうずらちゃんにスポットを浴びせるとは(☆ω☆)

だけど読んでてうずらちゃんらしさがイイ感じですね~♪
私もクルちゃんコメントでうずらちゃん&らぶりぃで遊ばせて貰っているので、
普段通りのうずらちゃんが小説の中にいて嬉しかったですヾ(⌒ω⌒)ノ

玉の輿を狙ってるうずらちゃんや、お酒を飲みたがってるトコロに、
酔ってメッセージしちゃうとこなんか想像出来ちゃった(笑)

少し古びたバーで、将来の旦那様が出て来るのかな~って、
ワクワクドキドキしながら読んでると怪しい感じの2人組…
しかも手引きをしてるのが優しい主人のムスコって( ̄ー ̄;

うずらちゃんは普段から美味しいお酒を嗜んでいるからこそ、
ワインのヘンな味に気が付いたのカモ!?
私だったらなーんにも考えずに飲み切ったような( ̄▽ ̄*)ゞ

牢屋に入れられてこのまま売られるって分かっても、
慌てず騒がず冷静に分析しちゃうのはサスガですね!
クルちゃんやコウさん、私みたいな「活動している冒険者」なら、
それも出来るけど冒険者と言う肩書だけだったら、
もっと騒いでもおかしくないのにうずらちゃんってばサスガ…
クルちゃん一家の中で揉まれてるのか、はたまた肝っ玉が据わってるのか(笑)

無事に脱出してさあお礼参りだ!って言うのはわかります。
だけどまさか戦隊モノになってて笑っちゃいました(o_ _)ノ彡☆ぽむぽむ

しかも中央に光り輝くゴールドのうずらちゃん率いる、
他のコたちは全員タルタルってすっごく想像しやすいです(* ̄m ̄)ぷぷっ
警備保障アルゾ○クのCMみたいだぅ!
悪役たちは…まあ相手が悪すぎましたね(  ̄ω ̄)σ
数々の修羅場を潜り抜けて来た戦士たちに敵うはずないですし。
中でもうずらちゃんは違う意味で百戦錬磨の勇者ですものネ!
きっと今回の隊員たちの中では1番強いと思います…ハートが(笑)

いや~、うずらちゃんが主人公でどんな内容なのか、
最後までワクワクしながら読ませて頂きましたヾ(⌒ω⌒)ノ
情景が浮かんできちゃう書き方って本当にスゴイと思います♪

今度はダレが主人公になるのか楽しみにしていますね(*⌒ω⌒)v


ありがとうございます
コウ
クルクさん、コメント欄お借りします。

---------------------------------------------------
らぶりぃさん、こんにちは〜

うずらさんのお話、読んでいただいて、ありがとうございます。コメント頂けると、書いた甲斐があります。
うずらさんはキャラが立ってて書きやすかったです。トラブルメーカーっぽいところも、イベントが盛り込み易いし、良かったですね。
戦隊物の所は、書いてる途中で思い浮かびました。ただ捕まっている女の子達を助けに行くだけじゃつまらないかなあ、と思ってた所に、子供と一緒に見てた戦隊番組でピンと来ました。
後は、うずらさんが、冒険初心者と言うこともあって、途中で死なせないように気を付けました。あの髪飾りのカギとか、結構ご都合主義ですねw

唐突ですが、予告です。


【次回予告!!!】
ウィンダスで暮らす、冒険者チー。地味な役回りの彼女は、一見物静かに見えるが、内面には激しい情動が渦巻いていた。そんなココロにつけ込む悪しき影が!吹き出る暗黒面!変貌するチー!
変貌したチーはらぶりぃ一家は勿論の事、ウィンダスの平和にも影を落とす。
連邦の黒い悪魔も問題の解決に乗り出す中、ウィンダスの平和は守られるのか?はたまた連邦の黒い悪魔と全面衝突する事になった、チーの安否は!?

乞うご期待!!!

・・・

・・

なぁんてお話を、次回書いてみようと思いますので、また読んでいただけますでしょうか。

よろしくお願い致します。
それでは〜。


予告が!!
クルク
こばわんわ、クルクだぬ(・▽・)ノ

コウさん、この度はありがとうございました♪
感想第1弾は小説をいただいたコメに付けさせていただきましたが・・・。
あれからまた、第1弾から順に読み返しちゃいました(≧▽≦)楽しい~♪

うずらのこれからについて・・・。
一家での話し合いが必要になりそうです★
それ考えてるのも楽しくて、妄想の日々が続きそうです(*´▽`*)

そしてそして、なんと予告が!!
チーちゃんに、いったい何が!?(; ̄□ ̄)
デビル・チーになってしまうのでしょうか(>д<)
らぶたんは、何があろうとチーちゃんの味方だよね!?
例え、連邦の黒い悪魔と敵対することになろうとも・・・w

ワクワクドキドキ、楽しみにしてます((o(^▽^)o))


予告!?
らぶりぃ
クルちゃん、またまたこばわんわん(*´ω`)ノ

次回予告にチーちゃんの名前があってビックリ!!

普段は物静かですけれど私が騒いでダレかに迷惑をかけようものなら、
彼女は闇の神よりも世界の終りに来る者よりも恐ろしいモノに…
なぜか私よりも前衛職に精通しててほぼLv99の強者になった彼女の、
怒りの鉄拳制裁は凶器ですヾ( ̄ω ̄;)ノ

そんなチーちゃんがどうなったのか楽しみ過ぎです!!
しかも連邦の悪魔と…ウィンダスが危なくなったら、
星の大樹に全員避難してスイッチを押せばそのまま飛び立てるカモ♪


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戦隊シリーズ!?
クルちゃん、おはようございます(*´ω`)ノ

コウさんの小説、読ませて頂きましたので、
コメント欄をお借りして感想を書かせて下さいね♪



コウさん、こんにちはなのです(*´ω`)ノ

今回の主役がうずらちゃんだったのがビックリでした!
クルちゃんやバルちゃんが主役ならわかるのですが、
倉庫番のうずらちゃんにスポットを浴びせるとは(☆ω☆)

だけど読んでてうずらちゃんらしさがイイ感じですね~♪
私もクルちゃんコメントでうずらちゃん&らぶりぃで遊ばせて貰っているので、
普段通りのうずらちゃんが小説の中にいて嬉しかったですヾ(⌒ω⌒)ノ

玉の輿を狙ってるうずらちゃんや、お酒を飲みたがってるトコロに、
酔ってメッセージしちゃうとこなんか想像出来ちゃった(笑)

少し古びたバーで、将来の旦那様が出て来るのかな~って、
ワクワクドキドキしながら読んでると怪しい感じの2人組…
しかも手引きをしてるのが優しい主人のムスコって( ̄ー ̄;

うずらちゃんは普段から美味しいお酒を嗜んでいるからこそ、
ワインのヘンな味に気が付いたのカモ!?
私だったらなーんにも考えずに飲み切ったような( ̄▽ ̄*)ゞ

牢屋に入れられてこのまま売られるって分かっても、
慌てず騒がず冷静に分析しちゃうのはサスガですね!
クルちゃんやコウさん、私みたいな「活動している冒険者」なら、
それも出来るけど冒険者と言う肩書だけだったら、
もっと騒いでもおかしくないのにうずらちゃんってばサスガ…
クルちゃん一家の中で揉まれてるのか、はたまた肝っ玉が据わってるのか(笑)

無事に脱出してさあお礼参りだ!って言うのはわかります。
だけどまさか戦隊モノになってて笑っちゃいました(o_ _)ノ彡☆ぽむぽむ

しかも中央に光り輝くゴールドのうずらちゃん率いる、
他のコたちは全員タルタルってすっごく想像しやすいです(* ̄m ̄)ぷぷっ
警備保障アルゾ○クのCMみたいだぅ!
悪役たちは…まあ相手が悪すぎましたね(  ̄ω ̄)σ
数々の修羅場を潜り抜けて来た戦士たちに敵うはずないですし。
中でもうずらちゃんは違う意味で百戦錬磨の勇者ですものネ!
きっと今回の隊員たちの中では1番強いと思います…ハートが(笑)

いや~、うずらちゃんが主人公でどんな内容なのか、
最後までワクワクしながら読ませて頂きましたヾ(⌒ω⌒)ノ
情景が浮かんできちゃう書き方って本当にスゴイと思います♪

今度はダレが主人公になるのか楽しみにしていますね(*⌒ω⌒)v
2015/08/20(Thu) 08:22 | URL  | らぶりぃ #-[ 編集]
ありがとうございます
クルクさん、コメント欄お借りします。

---------------------------------------------------
らぶりぃさん、こんにちは〜

うずらさんのお話、読んでいただいて、ありがとうございます。コメント頂けると、書いた甲斐があります。
うずらさんはキャラが立ってて書きやすかったです。トラブルメーカーっぽいところも、イベントが盛り込み易いし、良かったですね。
戦隊物の所は、書いてる途中で思い浮かびました。ただ捕まっている女の子達を助けに行くだけじゃつまらないかなあ、と思ってた所に、子供と一緒に見てた戦隊番組でピンと来ました。
後は、うずらさんが、冒険初心者と言うこともあって、途中で死なせないように気を付けました。あの髪飾りのカギとか、結構ご都合主義ですねw

唐突ですが、予告です。


【次回予告!!!】
ウィンダスで暮らす、冒険者チー。地味な役回りの彼女は、一見物静かに見えるが、内面には激しい情動が渦巻いていた。そんなココロにつけ込む悪しき影が!吹き出る暗黒面!変貌するチー!
変貌したチーはらぶりぃ一家は勿論の事、ウィンダスの平和にも影を落とす。
連邦の黒い悪魔も問題の解決に乗り出す中、ウィンダスの平和は守られるのか?はたまた連邦の黒い悪魔と全面衝突する事になった、チーの安否は!?

乞うご期待!!!

・・・

・・

なぁんてお話を、次回書いてみようと思いますので、また読んでいただけますでしょうか。

よろしくお願い致します。
それでは〜。
2015/08/20(Thu) 17:58 | URL  | コウ #-[ 編集]
予告が!!
こばわんわ、クルクだぬ(・▽・)ノ

コウさん、この度はありがとうございました♪
感想第1弾は小説をいただいたコメに付けさせていただきましたが・・・。
あれからまた、第1弾から順に読み返しちゃいました(≧▽≦)楽しい~♪

うずらのこれからについて・・・。
一家での話し合いが必要になりそうです★
それ考えてるのも楽しくて、妄想の日々が続きそうです(*´▽`*)

そしてそして、なんと予告が!!
チーちゃんに、いったい何が!?(; ̄□ ̄)
デビル・チーになってしまうのでしょうか(>д<)
らぶたんは、何があろうとチーちゃんの味方だよね!?
例え、連邦の黒い悪魔と敵対することになろうとも・・・w

ワクワクドキドキ、楽しみにしてます((o(^▽^)o))
2015/08/20(Thu) 20:46 | URL  | クルク #-[ 編集]
予告!?
クルちゃん、またまたこばわんわん(*´ω`)ノ

次回予告にチーちゃんの名前があってビックリ!!

普段は物静かですけれど私が騒いでダレかに迷惑をかけようものなら、
彼女は闇の神よりも世界の終りに来る者よりも恐ろしいモノに…
なぜか私よりも前衛職に精通しててほぼLv99の強者になった彼女の、
怒りの鉄拳制裁は凶器ですヾ( ̄ω ̄;)ノ

そんなチーちゃんがどうなったのか楽しみ過ぎです!!
しかも連邦の悪魔と…ウィンダスが危なくなったら、
星の大樹に全員避難してスイッチを押せばそのまま飛び立てるカモ♪
2015/08/20(Thu) 22:04 | URL  | らぶりぃ #-[ 編集]
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