2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
2015.01.01 「あけましておめでとうございます」 のコメントにいただいた、コウさんの小説の第4弾です。




アルタナ4国も、年が開け新春の空気が流れていた。
昨夜遅くまで、年が明けた祝いに、ジュノ下層で、花火を打ち上げて大騒ぎをしていた人々もそれぞれの家に戻り、朝になった今では、静けさを取り戻している。
そんな新春の朝、ジュノ下層を歩く人影があった。

バルファルはジュノ下層をぶらぶらと歩いていた。特に目的がある訳ではない。気晴らしにウィンダスから出てきたのだ。
バルファルは先日まで、相方の仕事の手伝いで、ヴァナ・ディール各地を回っていた。
彼の仕事は相方の護衛で、エルシモ島にあるウガレピ寺院では、古代の民の末裔であるというトンベリ族と戦ったりもした。
相方は目当ての品を手に入れ、バルファルに感謝して仕事に戻っていったのだ。
だが、バルファルは不満だった。
相方は仕事の依頼を、ウィンダスの口の院の院長アジドマルジドにされたと言っていたが、その話をした時の彼女の表情が今まで見たこともないようなものだったのだ、それは何と言うか・・・。

バルファルはここまで考えて、ジュノに来たのはいいが、まだ早朝なので店が開いていない事に気づいた。
今いる場所は、商店が並んでいる区画を通りすぎて、競売区画に入った所だ。
しょうがない、引き返すか。と考えて踵を返した時、声をかけられた。
「あ、バルじゃない?」
振り返って相手を見ると、先日ウィンダスで騒ぎを起こしたタルタル族の女だった。名前は確か・・・
「ユファよ。おはようー。」とユファは言った。
「おう、久しぶり。」とバルファルは返した。実際には前に会ってから、まだ一ヶ月も経っていなかったが、各地を冒険をしていると、そんな気分にもなる。
ユファも同様だったようで、「そうねー。」と言った。
「今日は、どうしたの?」そのユファの問いかけに、バルファルは気晴らしにジュノに遊びに来たのだと言った。
そこでバルファルは思いついた。女のユファなら先程考えていた、相方の表情について何か意見が聞けるかもしれない。
タルタル族は成長の早い段階で、身体の大きさが一定になるため、ほんの子供ならともかく若者と大人の区別はつかない。
先日の騒ぎでの言動を見て、ユファは自分より若いかもしれないと思ったが、そこは目をつぶることにした。
「ちょっとお茶でも飲みたいんだが、つきあってくれないか?」とバルファルは言った。

ユファは快く了承し、早朝でもやっている店に案内してくれた、吟遊詩人の酒場と言う店で、朝昼は茶店としても利用できると言う。
店のテーブルについて、飲み物が運ばれてくる前に、既にユファはさまざまな事を話していた。
同居人のコウは昨日の夜から、仲間内での年越しパーティーに出かけたこと、ジュノ下層の年越しカウントダウンは賑やかだったこと、自分も以前バルファルとあってから、鍛錬を行い剣の腕を上げたこと。
店に入ってからまだそんなに時間は経っていなかったが、バルファルは1時間以上話し合っている気分になっていた。
(女は話が長いよな)等と思いながら、ユファの話に適当に相槌を打っていく。
やがて、飲み物が運ばれてきた。バルファルはアルザビコーヒーで、ユファはカモミールティーだ。
飲み物を口にしながら、ユファは尋ねた。
「で、何を悩んでるの?」
バルファルはコーヒーを吹きそうになった。まだ何も言っていないはずだが・・・
「だって、あたしが呼び止めた時、深刻そうな顔してたよ?」とユファは言った。
意外と鋭いなとバルファルは思いながら、先程考えていた事をユファに語った。
聞く内にユファは爛々と目を輝かせ、バルファルに言った。
「それは恋だよ!」
「なに?いやしかし・・・」とバルファルは答える。
「それしかないってー。その彼女って、前にバルが言っていたクルたん・・クルクさんでしょ?そうかークルクさんは口の院の院長に恋をしてるのかー。」とユファは言った。
そうか・・・いや、そうかと思ってはいたのだ、しかし改めて人の口からはっきり言われると、衝撃が走る。
その様子をユファはしげしげと見て言った。
「で、バルはクルクさんが好き・・・と。」
「おい待て!そんなことは言ってないだろ!」とバルファルはムキになって否定をする。
だが、にやにやと笑いながらバルファルを見るユファを見ると、反論しても無駄なような気がしてきた。
バルファルはこの話を打ち切り、ぎこちなく先日ユファが起こしたウィンダスの騒ぎについて、話を切り替えた。

店を出ると、1時間近くが経過していたようだ。ちらほらと通りを歩く人も増えてきた。
「どうする。コウならまだ戻らないだろうし、ジュノなら案内できるよー。」とユファが言った。
バルファルはどうしようかと考えたが、ふと妙な音が聞こえてきた。
見ると、競売の向かいにある装置から聞こえてくるようだ。
「あれは・・ウェイポイントか?」とバルファルが尋ねた。
ウェイポイントとは、神聖アドゥリン都市同盟が開発した魔道器で、クリスタルと同様ヴァナ・ディール各地にワープをすることができる。
外見はジャイロスコープのような複数のリングからなる半球で、下部にはクリスタルが装着されている。
「そうだよ。コウやあたしもよく使うよ・・・でも、あの音なんだろう?」とユファは首をかしげた。
2人が近づくと、ウェイポイントは、ウィーンウィーンと言う音を発しており、下部のクリスタルは明滅している。
「故障かな?」ユファはウェイポイントに手を伸ばした。
「おい!うかつに触ると・・・」
バルファルのその言葉が終わるまもなく、ウェイポイントから青い光が発し、2人を包んだ。
「!」
「!」
声を発する間もなく、2人の姿はジュノ下層から消え失せていた。

コウは二日酔いの頭を抱えながら、家に帰る途中だった。昨夜は懇意にしている冒険者仲間と集まって痛飲したのだ。
ニューイヤーパーティーと銘打っていたが、様は単なる飲み会だ。
ユファも行きたがっていたが、コウが毎年倒れる者が出るほど酒を飲みあうんだぞ。と言うと、しぶしぶ諦めた。
ユファを連れて行ったら、仲間に、なんとからかわれるか分かったものではない。
ジュノ下層の競売の前を通ると、向かいの場所に人が集まっている。無視して帰宅しようと思ったが、
好奇心が頭をもたげ、覗いていくことにした。
人々が集まっている中心を見ると、半壊した機械が転がっていた。あれはウェイポイントだ。
周囲の者に状況を聞いてみると、魔道器は壊れかけていたらしい、異音がして周囲の者も気づいたが、最初に近づいた2人の男女がウェイポイントを触ると、2人は転送され、ウェイポイントは壊れたとのことだ。
やがて、都市同盟の関係者がやってきて魔道器を調べ始める。コウは周囲の人間の話を聞くとはなしに聞いていたが、
2人の男女の女の方の容姿の特徴が、ユファに酷似していることに気づいた。
(まさか・・・)
コウはシグナルパールを取り出した。これでユファの大体の場所が分かる。念じてみると・・・
(ジュノにはいない!?)
ユファは出かける予定はないと言っていた。少なくともジュノ市街にはいなくてはおかしい。
コウは強い懸念を感じた。魔道器を調査している技術者に話を聞いてみる。
エルヴァーンの技術者は、外部からなんらかの強い力が働いたと言った。
2人の男女の転送先を聞いてみると。
「そうだな。ウェイポイントのシステムログを見ると、シルダスか・・?ここのウェイポイントからは直接転送されないはずだが・・」
技術者は続けた。
「しかも閉じた空間に転送された形跡がある。これは・・・アルビオンか?」
コウはそれだけ聞くと自宅へ向かって駆け出していた。

バルファルとユファが目を覚ますと、そこはじめじめとした洞窟だった。
「ここは・・・どこだ?」とバルファルは聞くとはなしに尋ねた。
ユファも分からないらしく、首を振る。そして言った。
「ごめんなさい。あたしが触らなければ・・・」
バルファルはかぶりを振った。
「いや、ウェイポイントを触ったことが直接の原因かは分からないから、ユファのせいとは限らない。」
ユファは少しほっとしたように頷いた。
バルファルは武器は持ってきていたが、ウィンダスへはクリスタルを使って帰るつもりだったので、
デジョン系のアイテムは持ってきていなかった。
ユファも同様だと言う。
「じゃあ、洞窟の出口を探すしかないな。行こうぜ。」とバルファルは言った。
2人は歩きだした。

モンスターの気配は感じられなかった。ただ洞窟のそこかしこに、紫色の大きな蝶が飛んでいる。
2人は蝶に近づかないようにして、先に進んでいく。
やがて大きな空間にたどりついた。
「ここは・・・なんだ?」バルファルは疑問を口に出してみた。もちろん答えを教えてくれるものはいない。
どこからか高い笑い声が聞こえる。
バルファルとユファは抜刀し、背中合わせにお互いをカバーした。
笑い声が近づいてくる。
「だれだ!」バルファルが叫んだ。
洞窟の空間に青い灯りがともる。そこに浮かんだのは・・・
「きゃっ」ユファが叫んだ。
奇妙な服を来た、人間・・・いやモンスターだろうか。
赤と黒を基調とした、たっぷりとした布地の服を着込み、宙に浮かんでいる。
二股に分かれた帽子と全体の印象を見ると、道化師のような格好だ。
だが、上半身と下半身は分離しており、青い光でつながれている。
その上、顔は・・・マスクだろうか?髑髏のような面相だ。
道化師が口を開いた。
「キャハハハ・・・、ようこそいらっしゃいました。あなた方が選ばれたようですね。」
「なんだ、何を言っている。オマエは誰だ!」とバルファルが叫んだ。
道化師は一礼をすると、2人に向かって言った。
「これは失礼をいたしました。私はバラモアと言うものでございます。ハデス神にお仕えし、その望みをかなえる事が我が使命。」
バルファルはハデスと言う神も、バラモアの存在も知らなかった。ユファを見ると、ユファも首を振る。
バラモアは続ける。
「ご不安なのはよく分かります。ですが、私は危害を加える為にあなた方を招いたわけではありません。願いをかなえる為です」
「オマエがオレ達をここに呼んだのか。願いっていうのはなんだ?」とバルファルは言った。
バラモアは言った。
「我がハデス神は、1年に一度、選ばれたものに願いをかなえて差し上げているのです。」
ユファが言った。
「なんでそんなことするのよ!」
「もちろん、神の御心は分かりません。ただ人間は常に願いごとを神に向かってするではありませんか。たまにはそれをかなえてやろうと言うことなのでしょう。」
とバラモアが言った。
「信じられないな。そんな事ができるとは、とうてい思えない。」とバルファルは言った。
バラモアの髑髏の仮面が笑ったように見えた。
「そうでしょうか・・・ではお見せしましょう。」
「あなた達が欲しいのは、お金?」
ふいに空中から、色とりどりの宝石や金貨が湧き出て、洞窟の地面に散らばった。
「それとも愛?」
バルファルの目には、バルファルと相方の彼女が抱き合う姿が見えた。
驚く声が隣から聞こえる。ユファも何かの映像が見えているらしい。
「それとも力?」
バルファルは全身に力がみなぎるのを覚えた。どんな敵でも倒してやる!という感情が浮かんでくる。
バラモアの目が青くひかり、2人を見つめている。
「どんなものでも思いのまま・・・神のご加護です。遠慮することはありませんよ?」
バルファルはバラモアの目を見つめていた。提案を辞退するという考えはなくなっていた。魔法にかけられたのだろうか。
「オレの欲しいのは、力だ!自分に力があれば何でも手に入れられる・・・」
ユファも頷いた。どこか夢見るように呟いた。
「うん。力があれば嫌な事を無理強いされることもない・・・」
「キャハハハ・・・では決まりました!」とバラモアは言って、空中でくるりととんぼを切った。
バラモアは両手を大きく広げた。青い強い光が洞窟に満ちる。
「我が神、冥王ハデスよ・・・このもの達の願いを叶えたまえ!」
青い光はバルファルとユファを包み込んだ。

コウは出発の準備を終えていた。冒険者の装備に身を包み、ユファたちが転送されただろう空間に入る為の、魔法の人形を用意する。
シミューラクラムと呼ばれる魔法の人形で、空間を捻じ曲げるほどの強い魔力を持っている。
コウは懸念をいだいていた。冒険者互助会報によれば、ウルブカ大陸では三魔君と呼ばれる強力なモンスターが暗躍しているらしい。
そしてそこは、ユファ達が転送された大陸なのだ。
(何かにまきこまれたのでなければいいが・・・)
コウは自宅を後にした。
西アドゥリンを経由して、ウェイポイントを使用して、シルダス洞窟へ。
ワープ装置を駆使すれば、目的の場所まで、さして時間はかからなかった。
コウの目の前には、「謎の魔導器」と呼ばれるウェイポイントがあった。シミューラクラムを魔導器に掲げ閉じた空間に転移するように念ずる。
コウの身体は光と共に、シルダス洞窟から、掻き消えていた。

視界がはっきりすると、そこは閉じた空間の中だった。だが・・・
(何かがおかしい)
コウは周囲を見た、モンスターの姿はなく、紫色の大きな蝶がそこかしこに飛んでいる。
(これは・・・)
冒険者互助会が推奨する、アルビオン・スカームというトレジャーハントがある。それは
正にコウが立っている閉じた空間で行われるものなのだが、通常は、各階層にある条件を満たし、強力なモンスターを撃破していくことで、装備や素材、宝石の類を手に入れていくものである。だが・・・今のこの場所は・・・
「最下層?」コウは呟いた。
いきなり最下層に転送されていた。やはりこれは何らかの力が働いているのだろうか。
洞窟内に、モンスターの姿は見えない。だが用心に越した事はない。
コウはステップを踏んだ。ブリリオート舞踏団のライラ・ブリリオート直伝のステップだ。
正確なステップと、高い集中力を持った踊りは、あたかも魔法の如き超常の力を生み出すことができる。
幾つかのステップを踏むと、踊りと共に、コウの姿が消え、音も聞こえなくなった。
(これでよし)
コウは姿を隠し、洞窟の奥へと進んでいった。
やがて、大きな空間にたどりついた。青い光が空間を照らしている。そしてその中央には・・・
(ユファ!)
ユファとあと一人、タルタルの男が洞窟の中央にたたずんでいた。2人共、少し前かがみ気味に立っている。
顔に表情はなく、目はうつろだ。
タルタルの男に見覚えがあった。あれは・・・確かバルファルという名前の男だったように思う。
ユファがウィンダスで騒ぎを起こした時に、助けに入ってくれた男だ。
何故2人が一緒にいるかは定かではないが、コウは姿を隠したまま慎重に周囲を探った。
そして、2人に向かって一歩踏み出した途端、
「キャハハハハ・・・」どこか音程の狂った笑い声が、洞窟内に響き渡った。
「!」
コウは抜刀した。今日コウが持っている武器は2本の短剣である。だが短剣を抜いた事で、踊りの魔力が消えていた。
コウの姿が露わになる。
「誰だ!」コウは叫んだ。
空中からくるくると回りながら姿を現したのは、黒と赤の道化師の服を着た、髑髏の面の男。
「お前は・・・たしかバラモア?」とコウは言った。
「キャハハハハ・・・私の存在を知っていますか。会った事がありましたかね?」
バラモアはどこか揶揄するような口調で言った。
「以前、スカームの踏破で、シルダス洞窟の最下層でお前に会った事がある。お前と戦って撃退はしたが、
僕の所属するパーティは、全滅させられそうになった。」
とコウは答えた。
「キャハハハハ・・・宝物目当ての冒険者の相手は何回もしましたが、あなたのことは記憶にないねえ。それで何をしにきたんですか?」
空中でくるくる回りながら、バラモアは問いかける。
「もちろん、その2人を返してもらいに来た。」とコウは言った。
「・・・その2人は契約を済ませました。我が神ハデスに願いをいったのです。彼らは・・・彼らの魂は我々のものですよ?」
とバラモアは言った。髑髏の仮面で表情は見えないが、笑っているような印象を受ける。
「そんなことはさせない。もうしばらくすると、仲間達が駆けつける。お前の勝ち目はないぞ。」とコウは言った。
はったりだった。
コウの冒険者仲間は各々の目的の為に、ヴァナ・ディール各地で活動をしている。すぐには彼らに連絡は取れなかった。
ジュノにいた少数の仲間は、昨日のパーティーの為に、全員酔いつぶれて動くことができない。
ジュノ親衛隊は、一介の冒険者の為に動くことはないだろう。
ここは、コウ一人で凌ぐしかなかった。
そんなコウの思いを知ってか知らずか、バラモアは笑いながら言った。
「それは大変ですね。・・・それでは一つチャンスを上げましょう。」
「・・・なんだ?」短くコウは尋ねる。
「その2人と戦って勝ったら、2人を返してあげましょう。できますか?」
バラモアはくすくす笑いながら続ける。
「2人の願いはかなっています。簡単にはいきませんよ?」
コウはしばらく考えた後、言葉を選んで言った。
「いいだろう。だが、2人を解放することは、お前の主の存在にかけて誓え。」
選択の余地はなかった。コウはバラモアの提案を了承した。
バラモアは、ぱんぱんぱんと拍手をして言った。
「ビューティフル!いいでしょう。では始めますよ。」
バラモアの手に青い光が浮かび上がり、それは2人の身体に吸い込まれた。
バルファルとユファの頭がコウの方を向き、うつろな目がコウを見つめた。

バルファルは、ふと気づくと青い光を放つ空間の中にいた。
頭がはっきりしない。自分がなぜこのような所にいるか、分からなかった。
視界の隅に人影が見える。振り向くと・・・それは一人のタルタルだった。
(あれは・・・)
ぼんやりとした頭で考える。あれは確か口の院の院長のはずだ。
バルファルが見ていると、口の院の院長はバルファルを口汚く罵りはじめた。
曰く能無しだ、役に立たない等、それを聞いている内に、バルファルの心の中で激しい怒りが沸いてきた。
(こいつは敵だ。倒さなければならない。)
バルファルは、背中の大剣を抜き、口の院の院長に切りかかっていった。

ユファの目には、生家の護衛隊長サモンリタンの姿が映っていた。
サモンリタンは軽蔑したようなまなざしと、揶揄するような口調で、ユファを責め立てた。
・・・お嬢様は、お父上の言うことをなぜ聞けないのですか?あなたにはそれくらいしかできないでしょう・・・
ユファの心に、怒りが沸きあがる。サモンリタンは約束を守らなかったではないか。どの面さげて、私を馬鹿にするんだ?
(こいつを黙らす。)
ユファは腰の剣を抜き、サモンリタンに切りかかっていった。

コウはうつろな目で自分を見つめる2人に、正気に戻る様に説得をしたが、無駄なようだった。
2人はそれぞれ剣を抜き、恐ろしいほど敏捷な動きで、コウに切りかかってきた。
あわてて両手の短剣を構える。バルファルの一撃が頭上から襲ってきた。
コウはそれを半身になってかわす。洞窟の地面に露出した岩を叩いた大剣は、岩を粉砕していた。
コウの背に冷や汗が落ちる。受けていたら短剣ごと真っ二つになっていたかもしれない。
続いて横殴りにユファが切りかかってくる。剣の速度が尋常ではない。いつもユファの剣の稽古に付き合っていたが、
まるで別人だった。こちらは避けきれないと判断して、左手の短剣で受け流す。
刃と刃が接触して、火花を散らした。左手にずしりとした重さを感じたが、どうにか受け流すことができた。
コウは2人の2撃目・3撃目をなんとかかわし、受け流したが、いつまで持つか分からなかった。
(まずい)
2人を傷つける訳にはいかないのである。対して攻撃してくる2人は、何らかの魔法的な強化を受けているらしく、
速度と破壊力が尋常ではない。通常の剣技では、1人ならともかく2人を同時に相手をして、無力化することはできなかった。
むしろ気を抜けば、こちらが殺されてしまうかもしれない。
(何かないか)
コウは必死に考える。勿論考えている途中にも2人は切りかかってくる。それをなんとかあしらいながら、
ふと、以前老練の盗賊から手ほどきを受けたことを思い出す。それと踊りのステップ・・・
(これだ)
コウは意識を集中した。盗賊の言葉が耳に蘇る。
・・・いいか、この技は高い集中力を必要とするんだ。相手の動きを個別に見るんじゃなくて、全体を見ろ・・・
・・・自分に暗示をかけるんだ・・全てを避けられるってな・・・それはある意味魔法と同じなんだぜ・・・・・
コウは全神経を自分の身体の動きに向けた。盗賊の言葉通り、全ての攻撃を避けれると思い込む。
バルファルの大剣が振り下ろされる。
その刃の動きが、不意に遅くなっていた。いや、コウの目には遅く映っていたのだ。
大剣の一撃をかわす。続いてのユファの突きも身体を捻ってかわす。かわした動きでバルファルの左の肩口にぴたりと
身体を寄せる。コウの身体が左手に密着している為に、バルファルは大剣をうまく振ることができない。
振りほどこうと振り回すバルファルの両手をかいくぐって、コウの身体が沈む、その上をユファの剣がもの凄い音を立てて通り過ぎていった。
2人の攻撃を全てかわしながら、コウの両足は複雑なステップを踏み続けていた。

「ほー。」バラモアは空中に浮かびながら、3人の戦いを見ていた。
生贄の2人は、彼らの願いどおり主の魔力を借りて強化してある。生半可な者では太刀打ちできないはずだ。
それを後から来た冒険者は、2人の攻撃を全てかわし、おまけに何やら反撃を試みてみるようだ。
(あの冒険者の魂をいただくのもいいかもしれない)
バラモアはそう思った。主の冥王ハデスの復活には、多くの魂が必要なのだ。

コウの集中力は限界に達していた。これ以上2人の攻撃を避けきれない。だが、踏み続けたステップのおかげで、
最後の踊りの準備は整っていた。
(一瞬でもいい、2人の動きが止まれば・・・)
そのチャンスはやがてやってきた。2人はコウを左右から囲み、同時に切りかかってきたのだ。
バルファルはコウから見て右から、ユファは左から。
2人の横殴りの一撃がコウを襲う。
瞬間コウはしゃがみ込んでいた。コウの頭上でがっきと2人の剣が組み合った。
渾身の力を込めていた所為で、2人はたたらを踏む。
(!)
このタイミングしかなかった。コウは立ち上がりながら、両手の短剣をそれぞれの手の内でくるくると回した。
洞窟の青い照明が、短剣の刃に反射して2人の目を貫く。
思わず目をつぶる2人に、コウは最後のステップを踏みながら、身体を踊る様に旋回させた。
両手の短剣をくるりと回し、柄を二人のみぞおちに叩き込む。その一連の動作は、激しい踊りのようだった。
一撃を受けた2人の身体は、麻痺をした様に硬直し、洞窟の地面に崩れ落ちた。

コウは肩で息をしていた。フラリッシュと呼ばれる舞踏の魔力を2人に叩き込んだ。しばらくは起きないだろう。
ぱむぱむぱむと間延びした拍手が聞こえる。
宙に浮いたバラモアが口を開いた。
「驚きました。まさか無傷で2人を倒すとは思いませんでしたね。」
「約束通り、2人は返してもらうぞ。」とコウは言った。
「・・・そんな約束をしましたっけ?」とバラモアは可笑しくてしようがない様子で答えた。
この展開は予想していた。所詮悪魔と約束をしても、守られる保障はどこにもない。
だから、一つの賭けではあるが、保険をかけてあった。手下に話が通じなくとも、神と呼ばれるほどの主にはどうか。
コウは大声を上げた。
「冥王ハデスよ!お前の僕は、お前の存在をかけて誓ったぞ!神たる身がそれを破るのか!」
しばらくの沈黙があった。バラモアは動揺したように、きょろきょろと周囲を見渡している。
やがて、地の底から重々しい声が聞こえてきた。遠くから話しているように途切れ途切れに聞こえる。
・・・人たる者が賢しいものよ・・だが誓約は我にも届いた・・・
・・・いいだろう・・・そなたの行動に免じて・・・約束は守ってやろう・・・
・・・バラモアよ・・・2人を解放せよ・・・
そう言い残して、声は消えた。
「・・・うまくやりましたね。いいでしょう。主の命です。2人は解放しましょう。」
バラモアは苦々しげに言った。
コウは無表情にそれを聞きながら言った。
「バラモア。僕達は家に帰る。だが最後に餞別が欲しくないか?」
バラモアは懐疑な表情を浮かべる。
「なんですって?」
瞬間、コウはバラモアの方に飛び込んでいった。バラモアはぎょっとして、慌てて呪文の詠唱を始める。
だが、コウの動きの方が早かった。
限界まで身体中に満ちた気力によって、体全体を発光させながら、コウは呟いた。
「・・武神流秘奥義・・」
コウは身体全体を使いながら、右手の短剣を袈裟懸けに叩き込む。次いで左手の短剣も。
真横に短剣を振るった後、バラモアの頭上に飛び上がりながら切り上げる。
最後に空中でくるりと身体を回転させると、バラモアの顔に両の短剣を叩き込んだ。
攻撃を終え、地面に着地すると、バラモアに叩き込んだ短剣の軌跡が、紋章のように輝いていた。
コウはバラモアに向かって言った。
「・・・あまりタルタルを、人間を舐めるなよ?」
バラモアの髑髏の仮面が割れていた。そこから干からびた顔が見える。割れた仮面を抑えながらバラモアは叫んだ。
「・・ぐぅおおー。・・きっ貴様、人間の分際で・・・」
コウは言った。
「まだやるか?」
短剣を構える。
だがバラモアは撤退することにしたようだった。
「・・・覚えていろよ冒険者!貴様の魂は必ずハデス様に捧げてやる!・・・キャハハハ・・・」
捨て台詞と狂った笑い声の残して、バラモアは空中に消えていた。
「・・・ふぅ」コウは息をついて、短剣を鞘に戻した。
バラモアに対して攻撃し、挑発したが勿論一人で勝てる相手ではない。
どうにも腹に据えかねたので、つい手を出してしまったが、バラモアが撤退して行幸だった。
「・・・僕らしくなかったかな?」コウは呟くと、2人の方へ駆け寄っていった。

ユファは何者かと戦っていた。相手の手がユファに伸びる。それを振り払いながら、
(あんたなんか・・・あんたなんか・・・)
「だいっ嫌いよ!」絶叫しながら、渾身の力を込めて右手を突き出した。
「ゴスッ・・!」凄い音がした。
ユファは我に返った。見ると目の前にコウがひっくり返っている。
「あ、あれ?」ユファは周りを見渡した。見慣れた風景が目に入る。
コウの家のリビングだった。ユファはソファに寝かされており、毛布が身体にかかっている。
「ど、どうしたんだろ・・・」と呟いて、ユファがきょろきょろ回りを見渡していると。
「いっ・・・いったいなあ~。」コウがいつもの間延びした声でしゃべりながら、起き上がってきた。
「何をするんだ君は?」コウは痛そうに殴られた頬を押さえながら、ユファに言った。
「コウ・・・、ここは?」とユファはコウに尋ねた。
「ここって・・・僕の家じゃないか。君らは運んでもらったんだ。」とコウは言って、更に続けた。
「君らは、ウェイポイントの事故に巻き込まれたらしいな。魔導器が壊れたときの衝撃で失神したらしい。
さっき医者にも見てもらったんだが、特に問題ないってさ。」とコウは言った。
「え~?」ユファは思い返していた。確か洞窟に飛ばされて道化師みたいな男と会話をしたような・・。
コウにそれを言うと。
「夢でも見たんじゃないか?大体「だいっ嫌い」って僕のことか?」と言い返されてしまった。
夢だと言われれば、そんな気もしてきた。身体に倦怠感があるが、それ以外に怪我もしていない。
ふと後ろを振り返ると、床に寝かされていたバルファルが起き上がっていた。
「バル・・・大丈夫?」とユファが尋ねると、バルファルは曖昧にうなずいた。
続けて「バル・・・あの道・・・」と言おうとすると、ぐぅ~~という音が響いた。ユファのおなかが鳴ったのだ。
赤面するユファを見て、コウは、
「よし、腹が鳴るようなら、身体は大丈夫だな。3人で食事に行くか。」
と言った。

日は高く上り、新春にもかかわらず、ジュノは暖かい空気に包まれていた。
3人はジュノ上層のレストランを目指していた。ユファが先頭を歩き、残る2人は少し遅れて歩いている。
「おい。オッサン。」とバルファルはコウに話しかけた。
バルファルはコウの家で目を覚ましてからずっと無言だった。何か考えていたらしい。
話しかけられたコウは、
「おっさん呼ばわりはひどいな。僕はまだそんな年じゃないぞ。」と言った。
「まさか「夢だった」で全部かたづける気じゃないだろうな。」とバルファルは言った。
「夢じゃないのかい?」コウは尋ねた。
「あれが夢であるもんか!あの道化師は願い事をかなえるって言ったんだ。願ったオレは・・・。」
バルファルは言いよどんだ。
「願いはかなったのかい?」コウは続けて尋ねる
「分からない・・・本物かどうかは分からないけど、アジドマルジドと戦うことになって・・・。」
「それからの記憶がない。」 とバルファルは言った。
「さあ、僕にはそれが夢か現実かは分からない。だが、君の懸念と願望が何らかのヴィジョンを見せたんだろう。」とコウは言った。
「戦った相手は君の敵か、ライバルか?」と続ける。。
「さあ、どっちでもないよ。」とバルファルは苦い口調で答えた。
「ともあれ、君はその相手を超えたいと、ずっと思っていたのに違いない。ただ、相手を負かす事を考えるよりも・・・。」
「考えるよりも?」バルファルは続きを促した。
「自分の力を伸ばしたほうがいい。そうすれば、相手の力を超えて、最終的には戦う必要もなくなるかもしれない。」
「それに、君の努力する姿を見て、君の想う相手も考えを変えるかもしれないぞ?」とコウは言った。
バルファルは苦笑して、「オッサン、説教好きなのは、やっぱり年のせいだろ?」と言った。
だが、バルファルの中で、思い込んでいた一つの考えが、変化を遂げていた。
(オレはオレの道を進んで、努力すればいいってことか・・・。ウィンダスに帰ったら、クルたんをまた手伝うか)
ずっと側にいることで、相手に差し出すことができるものもある。そう、オレはクルたんの側に居たいんだ。
表情が変わるバルファルの顔を見るコウの耳に、
「コウ、バル、早くー。」
と呼ぶ、ユファの声が響いていた。





第1弾 : 「とある出逢い」
らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。

第2弾 : 「とある出逢い 2」

第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。





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【2015/01/02 14:38】 | # コウさんの小説
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