2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
Klu4641.jpg

i_mm.gif
ひんやりとした、スーっとする匂い。
陥ちた時と同じ速さで、意識が浮かび上がってくる。
深呼吸と同時に、私は目を開いた。
上から、クルクが私を覗き込んでいた。
「・・・クルク?」
「まだ起き上がるな」
体を起こそうとした私を、隊長が止めた。
視線を回して見れば、そこは私たちに充てがわれた部屋だった。
クルクは私の枕元に座って、「何で同じ部屋なの?」 と隊長に聞いた。
「さぁな。兄妹だと言ったからだろう」
そう、私たちには、二つのベッドをチャチな衝立で仕切っただけの、小さな部屋が充てがわれていた。
騎士団時代、私は男ばかりの控え室で平気で着替えていたし、雑魚寝だってしていた。
だから隊長と同室でも、どうと言うことはない。
隊長も、私を女だと思っていないはずだ。
でなければ、拳で顔を殴ったり、手合わせで本気の蹴りを入れたりするはずがない。
それよりも・・・。
「ゴゼーは?」
私が尋ねると、隊長は短く 「寝ている」 とだけ答えた。
ベッドに肘をついて体を起こすと、少しだけ目が回った。
「お前は効きすぎだ」
そう言って隊長は、私にリネンを渡した。
鼻に当てると、スッとした清涼な匂いが肺を満たす。
クルクが隣でクンクンと鼻を動かし、「薄荷の匂い」 と言った。

ぼんやりとした頭が、次第にスッキリとしてきた。
「それで、何か聞き出せた?」
尋ねると、隊長は表情を変えずに 「手を引くぞ」 と言った。
「えっ? どうして!?」
「ドゥッガージという人物は存在していない」
「・・・え?」
隊長が催眠状態のゴゼーから聞き出した話によると、ドゥッガージというのは、標的として目を付けた貴族の家を破産させて乗っ取ることを指す隠語だったようである。
「昔、ドゥッガージって人が借金まみれで破産したから、それでそう呼んでいるみたい」
クルクが説明した。
ゴゼー商会の役目は、巻き上げた金を一時的に預かる隠れ蓑だったようだ。
きっと公には、品物を買い付けたことになっているのだろう。
「バルが、倉庫のどこにも怪しい品物はないって言ってたからね」
おそらく、ちゃんとしてはいるが価値の低い品を使っているのだろうと、クルクが言った。
「でも、だからって、手を引くことは」
「前任の用心棒は、殺されていた」
私が言いかけた言葉を、隊長が遮った。
それも、ゴゼーの口から聞き出したことのようだ。
「前任は、サンドリアからやって来た使者との話を聞いてしまったようだ」
「口封じ?」
「ああ」
背筋がヒヤリとした。
私は隊長から、絶対に秘密を探ろうとするなと釘を刺されていた。
探るために潜入しているのに、なぜだと訊いた。
すると隊長は、何が潜んでいるかわからない藪に無暗に手を突っ込むのは自殺行為だと、そう言ったのだ。
その時はわかったと納得を見せた私だったが、もうそろそろ聞き込みでもしてみようかと思っていた矢先だった。
「前任の人は、自分から盗み聞きしちゃったわけだけど、知りたくなくても何かの時に偶然知っちゃったとか、聞いてないのに聞かれちゃったって誤解されちゃうこともあるよね」
長くいればいるほど、その危険は増すだろう。
クルクは、それが心配だという。
「それにね、梅たちのことも調べてたんだって」
ゴゼーは、兄妹について天晶堂に問い合わせていたらしい。
だが、天晶堂がフィルターになっていて、生い立ちまでは確認することができなかったと言ったそうだ。
それらは全て、裏で事を動かしている組織に関わる者達が指示をしているのだという。
けれどゴゼーは、その組織に籍を置く者の名前を一人として知らなかったらしい。
「裏の組織の一端でもと思っていたが、騎士団でさえ掴めない証拠を手に入れるなど、命をかけても出来るかどうかわからん」
「でも私はっ・・・」
ここでお終いだなんて、そんなの納得がいかない。
なんとか一矢報いたかった。
でなければ、みんなの死が悔しすぎる。
その思いは、隊長だって同じはず。
けれど、隊長はもう一度 「手を引く」 と言った。
「なんで!?」
そう顔を見上げると、隊長は静かに言ったのだ。
「俺にとっては、生きている者の方が大事だからだ」
わかってる。
私だって、そうだ。
ただ、ただ、悔しいのだ。

「それで、どうやって用心棒を辞めるの?」
クルクが聞いた。
天晶堂の紹介状まで持ってやって来たのに、一身上の都合だなんて理由にならないだろう。
「死んだことにしたらいいんじゃないか? 得意だぞ」
隊長のシャレにならない提案に、クルクが 「それしかないかなぁ」 と頭を傾けた。
「じゃあさぁ」 と言ってクルクが喋り始めた筋書きは、また誰かがゴゼーを襲ってきて、逃げていくのを追いかけて、そのまま戻らないというものだった。
「梅の情報屋って人に、また手伝ってもらえたら、だけど」
「それは大丈夫だろう。バルファルはどうする?」
「バルはねぇ~、もうしばらく働いてればいいんじゃないかな? なんかさ、無邪気を装って、ガルカたちに気に入られちゃってるみたいだよ」
クルクはそう言って笑うが、私が知る限り、バルファルは裏表がなく天真だ。
倉庫で見かけた時も、真面目に働いていた。
体の小さなタルタルが、ガルカに混じって一生懸命に働いていれば、そりゃ気に入られてもおかしくはない。
取り敢えず、もう数日このまま過ごすことになり、クルクは窓から帰って行った。

翌日、ゴゼーは何事もなかったかのように変わりない。
だが私はまだ心の折り合いがつかず、目は何か手掛かりになるものはないかと、今まで以上に探していた。
「なんだ? モモガー、何をキョロキョロしておる?」
「えっ!? あのぉ~、ゆ、指輪を落としちゃったみたいでぇ~」
「指輪だと? そんなものいつもしていたか?」
「・・・ぺっ」
「ぺっ?」
「ペンダントにしてたのぉ! ママの形見なのぉ! 探してぇぇ~!!」
キーキー声で私が叫ぶと、ゴゼーは 「勝手に探しておれ」 と言って部屋を出て行った。
ゴゼーが隊長を呼び、妻のマジュリが 「お気を付けて」 と送り出す声が聞こえてきた。
そう言えば、今日はアルザビのレストランへ用聞きに行くと言っていたっけ。
店が大きくなっても、店主が自ら得意先へ足を運ぶ。
巷では驕らない人物だとか言われているが、よく言う者と同じ数だけ僻む者もいて、裏で何をやっているかわからないと陰口を叩かれてもいた。
だが、ゴゼーが用聞きに得意先を回るのは、倉庫で働く者たちの他に、従業員がいなかったからだ。
つまり、それでやっていける程度の商いなのだ。
大きすぎるナシュモの倉庫には、どこからか大量の安物を仕入れ、それをサンドリアへと運んでいる。
その仕入先や出荷先、そういった類の伝票や書類はないのだろうか?
机の引き出しや書類棚、そして金庫は隊長が調べたと言っていた。
「何をしているの?」
突然背後から声をかけられ、私は飛び上がるほど驚いた。
マジュリが部屋の入り口に立ち、険しい表情で私を見ていた。
「ママの形見の指輪を~、落としちゃったのぉ。見つからなくてぇ~」
「そう・・・。お客様がお見えになるから、捜すのはまた後でにしてちょうだい。邪魔にならないように、リエッタを連れて外に出ていなさい」
「はぁ~い」
私は言われるまま、リエッタと店の外へと出た。

ゴゼーはまだ戻って来ない。
なのに、客・・・ね。
男でも引き入れているのか?
シャララトで甘くしたアルザビコーヒーを飲みながら、そんな下賤なことを考えていたら、リエッタが 「お客って誰だと思う?」 と私に聞いて来た。
そんなこと知るはずがない。
「さぁ~?」 と首を傾げると、「想像もできないの?」 とバカにするように鼻で笑った。
本当に腹が立つ。
だから私は言ってやったのだ。
「ご主人が留守なのにぃ~、わざわざ娘とワタシを外に追い出す客なんてぇ~、愛人でもいるのかしらぁ~?」
「なっ! モモガーあなた、何てこと言うの!? ママがそんなわけないじゃない!」
「ぃやぁ~だぁ~、ただの想像だよぉ~」
キャキャキャっと笑い声をあげると、リエッタが私の腕を掴んで睨んで来た。
「確かめに行くわよ」
「え?」
「戻って、どんなお客か、何をしに来たのか、確かめるのよ!」
それは・・・マズいんじゃないか?
もしも本当に愛人だったら、どうする?
いや、それならそれでいい。
そうではなく、知られてはならない客だとしたら・・・チャンスか?
こちらが見つからなければいいのだ。
それには、この小娘が邪魔だった。
「それじゃぁ~、ワタシが確かめてきてあげる~」
「ダメよ、私も行くわ」
「もしも見つかったら、なんて言い訳するつもりぃ~? ワタシなら、リエッタとシャララトに行ったんだけど、お財布忘れちゃって~って、取りに戻りましたぁって言えるんだけどなぁ~」
「・・・わかったわよ。それじゃ、モモガーが一人で行きなさい」
「りょぉ~かぁい」
私は頬を引きつらせて笑うと、ゴゼー商会へと戻った。

店の正面扉に手をかけると、カギがかかっているのがわかった。
つまり、裏口から招き入れるような客ってことか。
裏口に回り取っ手を掴むと、こちらもカギがかかっていた。
なるほど、客はもう中にいるということか。
私はクルクが入って来たように、窓から部屋に入ることにした。
ところが・・・。
「チッ、あの几帳面男め、窓に鍵なんかかけやがって」
鍵の構造は単純なものだったので、前髪を留めていたリボンのついたピンでチョチョっといじって開けることが出来た。
私はベッドの下に置いてある、隊長のカバンを引き寄せた。
探していたのは、サイレントオイルとプリズムパウダーだ。
もちろんすぐに見つかった。
他に何か面白いものはないかと漁ってみたけど、いくつかの薬品と携帯食、それから最低限の着替えだけだった。
「つまんないなぁ。愛しの彼女の写真くらい持っててもいいのにさ」
カバンを元に戻しながら、そんなことをしている場合ではなかったと、私は部屋を出た。
扉は閉めず、その場でオイルとパウダーを使用した。
靴音は床に吸われ耳には届かず、視界には薄い紗幕がかかっている。
そのおかげで、スニークとインビジがかかっている状態だと認識出来る。
それでも私は、そっと足を運ばせ、気配を消して廊下を進んだ。

軽い笑い声と、低い話し声。
マジュリと客が、事務所に使っている部屋にいるのは間違いなさそうだ。
扉は閉まっているため、聞こえてくる言葉は不明瞭だ。
私は扉に耳を付け、中の音に神経を集中させた。
「サン・・・の・・・様は、・・・」
「さよう・・・かの・・・いずれ・・・」
あぁ、クソッ!
マジュリは声を潜めているようだし、低い男の声は布を通して喋っているかのように、くぐもってよく聞こえない。
ほんの少しでも扉が開けば・・・。
私は扉の取っ手に手をかけようとしたが、魔法によって作り出された薄い紗幕に遮られ、取っ手を掴むことが出来ない。
インビジの効果を切るか?
やめておけと、灰色がかった薄茶色の冷静な瞳が脳裏に浮かんだ。
でも隊長、たった1つでいいんだ。
何でもいいから、ここで私たちがしたことは無駄じゃなかったって、そう思える成果が欲しいんだ。
今が、そのチャンスなんだ。
私は意識を集中して、インビジの効果を切った。



< 続く >





いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
ポチッと押してくれたら嬉しいな♪



関連記事
スポンサーサイト

【2017/10/18 23:59】 | * クルク一家
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック