2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
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私はモモンジーナだ。
クルクは私をももんがと呼び、アトルガンでの潜入ネームはモモガーになっている。

アトルガンに来て、どのくらい経つだろう?
もう地図を見なくても、細い裏路地の抜け道まで頭に入っている。

私と隊長はゴゼー商会に入り込み、寝食を共にしていた。
ゴゼーはエルヴァーンにしては腹の出たオヤジで、やたらとキラキラと光る物を身につけている。
私は目利きではないが、それらは高額であろうと思われ、しかし品がなかった。
ゴゼーは取り引き先との商談や内輪の話し合いには必ず私たちを外させているが、用心棒としては天晶堂からの招待状を持ってやって来た兄妹を信頼しているように感じる。

その日の朝ゴゼーは、ナシュモにある倉庫へ行くと言った。
クリスタルでの移動は、冒険者登録していない者には許可されていない。
そのため、もちろんゴゼーの用心棒である我々も、船での移動になる。
ゴゼーは外出する時には、いつも隊長を連れて行った。
その間私は留守を守っているのだが、今回ばかりはそうもいかない。
隊長の船酔い体質は、誤魔化しが通せるレベルではないからだ。
ナシュモと聞いて、すでに船酔いしたような顔色になった隊長に代わり、私からゴゼーに真実を告げた。
「うちのお兄ちゃんはぁ~、船に乗るとぉ~、役立たずどころか~、お荷物にしかならないよぉ~」
このバカげたしゃべり方は、クルクの設定によるものだ。
だが、長く続けていると、自分の本当のしゃべり方がわからなくなってくるので、怖ろしい。
私の言葉を聞き、ゴゼーは眉を寄せた。
「む・・・そうなのか?」
「申し訳ない」
これっぽっちも申し訳なく聞こえない声音の隊長に、ゴゼーは仕方ないとため息をつき私を見た。
「ならばモモガー、準備をしておけ」
「はぁ~い、ワタシなら、いつでも出れまぁ~す」
私は指先までピンと反らせた手を真上に上げて、鼻にかかった高い声で返事をした。
まるで痛々しい者を見るような隊長の目つきにも、もう慣れた私だ。
そんなことよりも、これはチャンスだ!
私はここへ来て初めて気持ちが高揚した。

ゴゼーにはマジュリという妻と、リエッタという17歳になる娘がいる。
私はこの娘が、とにかく大嫌いだった。
成金の娘にありがちな、贅沢でワガママなお姫様気取りのバカ娘で、この私を顎で使うことを父親に許されている。
一昨日の夜は真夜中に叩き起こされて、シャララトまでシュトラッチを買いに行かされた。
そして買って帰れば、眠いから後にしてと手を振って追い払われたのだ。
いつか泣かしてやると心に決めた私だが、まさかこんなに早く仕掛けられるチャンスが来るとは!
私は知っているんだ。
このクソ生意気なバカ娘が、いつもチラチラと隊長のことを気にして見ているということを。
私にはくだらない用事を根性の悪い姑のように言いつけるくせに、隊長には朝の挨拶さえまともに返せないのだ。
隊長にバカ娘をたらし込む甲斐性があるとは思えないけど、タルタルと女性には親切な男だからな。
せいぜい勘違いさせてときめかせてやってから、お前なんか眼中にないんだよと泥の中に蹴り落としてやったらスッキリするだろうと、私は密かに考えていたんだ。
だから、これはチャンスだ。

ゴゼーが支度を整え終わるのを待ち、私は思い出したように口を開いた。
「ご主人~、リエッタちゃんって、ダンスは出来るのかしらぁ? お金持ちのお嬢様なら~、ダンスくらい出来ないとねぇ~」
するとゴゼーは、意外にも話に乗って来た。
「そうなのだ。以前に習わせようと思ったことがあったんだが、なかなかよい先生が見つからなくてな」
「お兄ちゃんは上手よぉ~。と言っても、クォン大陸のダンスだけどねぇ~」
私は両手を広げて、ワルツのステップを踏んで見せた。
「ほぅ、クォン大陸というと、サンドリアなどかね?」
「ワタシのお母さんの叔母さんの従兄妹の息子のお嫁さんのお兄さんのお嫁さんのお父さんがサンドリアの人だったみたいでぇ~、それで教わったのぉ~」
もう一度言えと言われても、もう二度と言えないが、ゴゼーはサンドリアと聞いて頷いた。
そして出かける準備が出来ると隊長とリエッタを呼び、隊長にリエッタにダンスを教えるようにと告げたのだ。
その時のリエッタの顔!
見る見るうちに頬を染めちゃって、バカな娘!
私は腹を抱えて笑いたいのを我慢しながら、遮光眼鏡の向こうから睨んで来る隊長の視線を逸らした。
そうだよ、これは隊長にたかる時のネタにもさせてもらうつもりさ。
もしくは、ランコントルでただ酒を飲む時のネタだね。
そっちの方が、その後の修羅場が見れたりして面白いかもね。
ダンスの練習風景を見れないのは大いに残念だけど、私はゴゼーについてナシュモの倉庫へと向かった。

ナシュモの倉庫では、大勢のガルカに混じって荷物の選別作業をしているバルファルを見つけた。
バルファルも私に気づいたようだけど、すぐに視線を外してテキパキと働いていた。
なんとか接触できないかと考えたが、不自然に近づくのは危険なので諦めたよ。
そろそろクルクから連絡がある頃合いだろうしな。

ゴゼーは倉庫の責任者らしきガルカと話しているので、私はその辺をブラブラと見て歩いていた。
積み上げられている木箱のラベルは、読む限りどれもまともな品に思える。
まぁ、こんな目立つ場所に、武器などの密売品は置いておかないだろう。
と、その時、上の方から 「何だ、あれ?」 とバルファルの声がした。
見上げると、積み上げられた荷の上に立っているバルファルが、指を差していた。
その方向へ振り返った私は、こちらに向かって走って来る男を見た。
頭にベヒーモスマスクを被っていたが、体つきを見れば男とわかる。
私やバルファルには、そんな格好の者は見慣れているしどうということはない。
にもかかわらず、バルファルは 「うわぁぁぁーー、コワイ! 逃げろーっ!」 と悲鳴をあげたのだ。
すると、その場にいたガルカたちは慌てて逃げ出した。
見ると、ベヒモス男が走りながら懐に手を入れたので、私は咄嗟に槍を掴んで飛び出した。
私に気づいたベヒモス男はその場に立ち止まると、恐怖で凍り付いたようにその場に立ち尽くしているゴゼーに向けて、手に持った苦無を投げ放った。
私は難なくそれを槍で払い落とす。
2回、3回、4本目の苦無を槍で弾くと、ベヒモス男はそれを見て踵を返した。
逃がすか!
私はベヒモス男の後を追った。

ナシュモの町は小さい。
逃げ込める建物は限られているし、故に追っ手を巻けるような路地も少ない。
が、その分、時間をかけずに外へ逃げられる。
頭の中で地図を思い浮かべ、ベヒモス男が逃げている方角と照らし合わせる。
そして、やはりカダーバへ出るつもりだなと確信した。
そうしながらも、私は考えていた。
ベヒモス男を最初に見つけたのは、なぜバルファルだったのだろうか?
ベヒモスマスクをかぶった冒険者など見慣れているはずのバルファルが、なぜ悲鳴をあげたのだろうか?
導き出せる答えは一つしかない。
私はカダーバへ出てから勝負をかけることに決めた。

足元を狙った槍は水平にクルクルと回転をして、逃げるベヒモス男の足に絡んで転ばせた。
すかさず私は背後から馬乗りになり、片腕をねじ上げながらもう片腕で首を絞め上げた。
「痛い痛い、苦しいってば!」
ベヒモス男は片手で地面を叩きながら、ギブアップを示した。
私は首から腕を外し、ねじ上げた腕を掴む力を緩めてやった。
「あんた、こんな所で何してるのよ?」
「何してるって、モモさんこそ、何で追いかけて来てるんですか?」
「そりゃ、あんたが逃げたから」
「ええ!?」
ベヒモスマスクを取った男は、やはりぴよだった。

ナシュモからカダーバへ出てすぐの草の茂みに、私たちは姿を隠すように腰を下ろした。
「梅兄から聞いてないんですか?」
「何を?」
ぴよは大きくため息をつき、「俺がモモさんに捕まったって、梅兄には言わないでくださいね」 と言った。
「これは隊長の計画なの?」
「いえ、クルたんです。と言っても、クルたんは俺がアトルガンに来ていることは知りません」
「どういうこと?」
ぴよによると、昨夜バルファルからゴゼーがナシュモの倉庫に来るという情報を聞いたクルクが、隊長に会いに行ったらしい。
なかなか進展しないことに焦れたクルクが、ゴゼーを襲うことを提案したようだ。
クルクは自分が変装すると言ったようだが、クルクはタルタルだし変装したところで 「小さい何か」 にしかならない。
そこで隊長がベヒーモスマスクを被って襲うことにしたらしい。
船酔いがあるのでナシュモに行くのは私になるだろうし、そうすれば隊長はクリスタルで素早く移動が出来るからということだったのだろう。
ところが、私がゴゼーに入れ知恵をしたために、隊長は抜け出せなくなってしまった。
そこで、ぴよに連絡がきたようだ。
「ねぇ、隊長からどうやって連絡があったの?」
隊長はモグハをレンタルしていないし、モグがいないので通信も使えないはずだ。
私の問いに、ぴよは 「企業秘密です」 と小さく笑っただけだった。

倉庫へと戻る道すがら、私は浮かび上がった疑問について考えていた。
バスにいたであろうぴよが、隊長の呼び出しにこれほど早く対処出来たということは、以前にアトルガンに来てクリスタルの登録を済ませてあったからだろう。
船で来たのでは間に合わない。
では、アトルガンへは何をしに?
あまりにもタイミングよく女と駆け落ちをした、前任の用心棒。
果たして彼は、本当に駆け落ちをして姿を消したのだろうか?
だとしても、その女の素性は?
そして、隊長の情報屋が手配したと言う天晶堂からの紹介状。
何となく、私にはわかったような気がした。

倉庫へ戻ると、ゴゼーが私を待っていた。
私は大袈裟に頬を膨らまして、唇を尖らせた。
「カダーバまで逃げていくんだもん、疲れちゃったぁ~」
「逃がしたのか?」
「まさかぁ~。追い詰めて、顔を見たよぉ。頬に大きな傷があったっけ~。なんかぁ、先物で騙されたとか~、ヒトカイ? とか叫んでてムカついちゃったからぁ、沼に沈めちゃった。アハハ」
「よくやった。しかし・・・」
ゴゼーは険しい顔になり、それ以上何も言わなかった。

白門に帰って来たのは、夕方だった。
腹を鳴らしながらゴゼー商会へ戻ると、マジュリとリエッタが奥から走り出て来た。
「あなた! 大変でしたのよ!」
「どうしたのだ?」
「パパ! コワイお面を被った人が入って来たのよ」
「なんだと!? メルメルはどうした!?」
マジュリとリエッタが同時に話し始めたので聞き取りにくかったが、どうやら入って来た人というのは、ベヒーモスマスクを被っていたらしい。
ということは・・・もしかして、またぴよか?
ご苦労なことだ。
ベヒモス男はゴゼーはいるかと言って、ナイフを振り回していたようだ。
すぐに隊長が出て行き何の用かを尋ねると、ベヒモス男はゴゼーに騙されたとか、密売をしているのを知っているなどと喚きながら、殺してやると言って暴れたらしい。
が、すぐに隊長が取り押さえ、しゃべれないようにした後、外へ連れ出したと言う。
落ち着きなく部屋を行ったり来たりしながら、ゴゼーは隊長の帰りを待っていた。
間もなくして戻った隊長は、「ワジャームに捨てて来た。今頃は剣虎族のエサになっているだろう」 とゴゼーに報告をした。
マジュリとリエッタはホッとした顔をしていたが、ゴゼーは険しい顔つきのままだった。

夕食後、ゴゼーは私と隊長を自室に呼んだ。
ゴゼーはソファーに腰を下ろすと、年代物のブランデーを惜しみなくグラスに注ぎ、自分だけ喉を潤した。
「それにしても、いったいどういうことだ? わしが誰を騙しただと? 人買いだとか密売だとか、誰がそんな噂を流しているのだ?」
「言われる事実や、心当たりはないのか?」
隊長の言葉に、ゴゼーは目を剥いて 「あるものか!」 と唾を飛ばした。
「ここまで店を大きくするのに、そりゃキレイ事ばかりやって来たわけじゃない。あぁ、嘘をついたこともある。だが、命を狙われるような悪事はしておらんぞ!」
その言葉に、私は隊長と目配せをした。

隊長が、ふっと窓に顔を向けた。
それを見て、ゴゼーは 「なんだっ!?」 と怯えた表情になる。
一度窓を開けて外を確認した隊長は、「いや・・・気のせいだ」 と言って窓を閉めた。
ただのフェイクだ。
しかし、ゴゼーはよほど恐怖を感じているのだろう、目を見開いて何か聞こえはしないかと、耳を澄ましているように見える。
私はゴゼーの気を引くために、パチンと両手を叩いて 「そう言えばぁ~」 と口を開いた。
「ワタシが沼に沈めた男は~、沈んじゃう前に助けてくれって言いながら、なんか言ってたんだけどぉ~、なんだったかなぁ~」
「なんだ? 何を言っていたのだ?」
「えぇ~っとねぇ~」
口元に人差し指を当てて、思い出している風を装いながら、私は隊長を見ていた。
隊長はポケットから茶色い紙の包みを取り出すと、窓際のデスクの上に置かれたオイルランプにそれを浸した。
「そうそう! サンドリアの貴族がどうとかって言ってたっけ~」
すると、ゴゼーがギクリと顔を強張らせた。
「主人、サンドリアの貴族と、何か取引はしていないのか?」
「しておらん! いや、だが、わ、わしは・・・」
ゴゼーはキョトキョトと視線を彷徨わせながら、必死に何かを考えている風だ。
隊長が微かに顎を上げて私を見た。
やれやれ、了解。

普段は化粧などしない私だが、ここに来てからは欠かしたことがない。
自分で言うのもなんだが、素材はいいはずだ。
それに手を加えているのだ、魅力的でないわけがない。
それに、なにより若い!
そんな私が、床に膝をついて、ゴゼーを下から見上げたのだ。
「大丈夫よぉ~。ワタシたちは、ご主人の味方だよぉ」
そして、そっとゴゼーの手を取った。
「ワタシたちィ、ご主人に死んでほしくないのぉ」
「死ぬ・・・」
ゴゼーが、私の顔を見下ろしている。
私はニコッと微笑んで頷いた。
「だからぁ~、ワタシは命に代えても、アナタを守ってあげるぅ。それにはぁ~、誰が敵なのかぁ~、見極めなくっちゃならないのね~」
そうしている間に、ゴゼーのデスクの上にあるオイルランプから、糸のように細い紫煙が漂ってきている。
いつの間にか、隊長は足音もなく扉の前に移動していた。
ゴゼーは私の目をじっと見つめている。
だから私も、ゴゼーから目を逸らさない。
が、視界には隊長からの 「続けろ」 という合図が見えている。
「もしもぉ~、サンドリアの貴族がぁ、ご主人の邪魔をしているんだったらぁ、ワタシがそいつを・・・始末してきてあげるぅ」
「いや・・・そうでは、ないのだ・・・」
私の目を見つめたまま、瞬きもせずにゴゼーは呟くように口を開いた。
「ワタシに、話してぇ。何でもいいのぉ・・・知っていること、全部ぅ・・・」
あぁ、クソッ、眠い!
漂う微かに甘い香りが、急速に眠気を誘う。
これは、騎士団が犯人に自白させる時に使っていた、香の匂いだ。
本来なら、身動きが取れない状態にしてから、直接嗅がせて自白を促す。
それが出来ないから、炊いたのだ。
チャンスがあればこれを使うと、隊長に言われていた。
吸い込むなとも言われたが、それは無理と言うものだ。
ゴゼーは私を見つめ、ユラユラと体を揺らしながら口を開く。
「・・・わしは・・・言われたのだ・・・サンドリアの・・・貴族にして・・・・・・」
耳に何かを詰められているように、ゴゼーの声がどんどん遠のいていく。
目の前で、ゴゼーの口がパクパクと閉じたり開いたりしているのが見える。
何を言っているのだろう?
隊長は、まだそこにいるのだろうか?
視界が狭まり、だんだん暗くなっていく。
あぁ、陥ちる・・・。
そこで、私の意識は途切れた。


< 続く >





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【2017/10/11 23:59】 | * クルク一家
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