2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
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『 ループ 』


無造作に伸びた、少し長めの金髪。
腰をかがめて覗き込む、青い目。
「いい子で待ってるんだぞ」
そう言って、ワシャワシャと髪をかき混ぜていた大きな手が頭から離れ、背中を向ける。

「行かないでっ!!」

自分の声に驚いて、ボクは目を覚ます。
幾度となく見る、夢。
頭に置かれた手の重さや、それが離れた時のフッと軽くなる感触は、今でもハッキリと覚えている。
ふぅ・・・と息を吐き出して、額に手を当てれば、うっすらと汗ばんでいた。


昨日、シャントット博士の留守中に、ボクはまたあの禁書を盗み読みしちゃったんだ。
タイトルは、『次元移動の考察と、その運用』
博士の家にある他の本は、全て自由に見ることが許されている。
ただし、のんびり読んでいるヒマがあるならね。
けれどあの本だけは、閲覧禁止と言い渡されていた。
理由は、ボクがそのことにばかり気を向けてしまうから。
博士は本に施した魔法錠のキーワードを変更したと言っていた。
いつものポーズで 「残念ですこと」 とか言いながら、高笑いをしていたっけ。
でもボクは、それをまた解錠してしまったんだ。
自分でもちょっと驚いちゃったけどね。
一度開けてしまった魔法錠は、魔法をかけ直さないと鍵がかからない。
ボクがかけ直してもいいけど、そんなの博士には絶対にバレちゃう。
つまりボクは、博士が帰ってくる前に、魔法防御を上げておかないと、命が危険極まりないってこと。
だけどそんなことは、本を読み始めてしまったら、頭の中からすっかりと抜け落ちてしまったんだ。
言いつけられた仕事も、用意しておくように言われたアイテムを揃えておくことも。
何度も何度も繰り返し読み、時間を忘れて考えに耽って、いつの間にか床で寝てしまっていたらしい。


身体を起こしたボクは、ふと違和感を感じた。
見回せば、そこは間違いなく博士の家にある一室で、乱雑に積み上げられた本の山や、実験途中のアレやコレやが並べられている。
だけど、何かがおかしい。
そう、例えば・・・目の前の壁に貼られている、魔法陣が描かれた羊皮紙。
ずっと前からそこにあるのは知っている。
でも・・・これって何の陣?
魔法陣を形成する方式も、そこに記されている文字も、ボクの知らないものだった。
「・・・んん?」
首を傾げて見つめていたら、部屋の扉が開いて 「ここにいましてよ」 と、シャントット博士の声がした。
ヤバいっ!!
もう帰って来ていたの?
予定では、もう2~3日かかるはずじゃなかったっけ?
咄嗟に立ち上がり振り向いたボクは、絶妙なバランスを保って積まれていた本にぶつかり、崩れ落ちてきたそれらに埋まってしまった。
「あらあらあら」
「もーう! 何やってるの! うろちょろしないで、大人しくしてる約束だったでしょ!?」
ボクの上に乗っていた本を退かしてくれたのは・・・か、母さん!?

ボクが元いた未来の世界において、ボクはクルクの子供として生まれた。
サンラーと一緒に飛ばされた今いる世界は、ボクが元いた世界よりも過去ではあるけれど、果たして繋がっている世界なのかどうかは確定していない。
本来ならばサンラーだけが飛ばされてしまうはずだったのに、ボクもくっついて来てしまったことで、繋がっていたはずの世界が枝分かれしてしまったのかもしれない。
だから、クルたんは母さんの昔の姿かもしれないけれど、これから先の未来で、ボクを生むとは限らない。
そして、ボクたちが元いた世界に戻る術がない今(戻りたいとは思わないけど)、ここに母さんがいるはずがない。
それからもう一つ、ボクは自分の母親とクルたんを間違えたりはしない。
だけど、だとしたら、これは一体・・・。

「あ、あの、ボク・・・」
「ちゃんと謝りなさい」
「え、あ、ゴメンなさい」
腰に手を当てて仁王立ちをしている母さんの怒った顔を見て、ボクは反射的に謝った。
この世で唯一ボクが怖いもの、それは怒った母さんだ。
素直に頭を下げて謝ったボクに、シャントット博士は 「ホホホ」 と軽い笑い声を上げた。
「よろしくてよ。それよりもクルク、その子にきちんと魔法を覚えさせなさいな」
「魔法学校には行かせてるけど、ロークラスだよ」
「ばかちんですのね」

確かにボクは、魔法学校ではロークラスだった。
実技が苦手で、いつも居残り練習をさせられていた。
だけど、魔法の仕組みや原理はクラスの中で一番理解できていた。
つまり優秀な頭脳を持つボクは、この不可解な現状と会話を聞いていてピンと来ないわけがない。
そして、見下ろした自分の小さな手を見て確信した。
どういう訳だかわからないけど、ボクは子供の頃に戻ってしまっているんだ。
そう、ここは、ボクが元いた世界の過去だ。


ボクの家は、水の区の北側にある。
古いし立派ではないけど、そこそこ大きな家だった。
見慣れた玄関の扉を開けて中に入ると、懐かしい匂い。
そして、おぼつかない足取りで奥から走って来たのは、妹のサンラーだ。
その後ろから、爺やよろしく頭にサソリを乗せた梅先生が付いて来る。
相変わらず、変な帽子を被っているね。
ところで、ボクがここにいるってことは、この世界のボクはどこに行ったんだろう?

「あ、かぼちゃん帰って来たのね」
ドキン、と心臓が跳ね上がった。
「お~い、かぼちゃ、クッキーあるぞ~」
ボクをそう呼ぶのは、たった一人しかいない。
「クマちゃん、ぴよくんがまたボクのことかぼちゃっていうの。おこって~」
そう言いながら、ボクは二人の腕の中に飛び込んで行く。

あぁ、そうか、わかった。
この世界のボクは、ここにいるんだ。
つまりボクは、ただの意識。
あぐらをかいて座ったぴよ君の膝の上に、それが当然のようにボクは座る。
おやつのクッキ―を食べた手を、クマちゃんが拭いてくれる。
会いたくて、会いたくて、会いたくて・・・。
何を犠牲にしたって構わないと思っていた、会いたかった二人がここにいる。
嬉しくて、幸せで、きっとボクは泣いている。
だけどこの世界のボクは、当たり前みたいに笑ってる。


「クマちゃん、今日バスに行くんだっけ?」
朝食の席で、母さんが言った。
「うん。仕事の話を聞いて来るだけだから、すぐに戻るよ」
「ボクもいきたいなぁ~」
そう言うと、ぴよ君が 「かぼすは俺と留守番な」 ってボクの頭に手を置いた。
ボクはその手を掴んで、「ねぇねぇ」 とぴよ君の顔を見る。
「ボクもぴよくんみたいなかみにしたい」
すると父さんが、「せっかく一つに結べるようになって、父さんとお揃いになったのに」 と言った。
でもボクは、「ヤダ! ボクはぴよくんとおなじほうがいい」 と言い張った。
ガッカリしている父さんを見て、母さんが苦笑いしている。
「じゃあ、クマちゃんがバスから帰ってきたら、切ってもらいなよ」
「うん!」

ザワっとした。
何だろう?
小さなボクは 「やったー、やったー」 と喜んでいる。
そう言えば、ぴよ君と同じ髪型にしたくって、切ってもらったんだっけ。
思い出して、ふふっと笑いが浮かぶ。
それなのに、お腹がザワザワするのはどうしてだろう?

クマちゃんがバスから戻って来たのは、その日の夜だった。
思ったよりも遅くなったのは、久しぶりに会った知人と話し込んでしまったからだと言う。
「仕事の依頼主が、偶然にも知り合いだったの。ずいぶん前にエラジア大陸に移って、それから一度も会ってなかったからビックリしちゃった」
その話を、ボクはぴよ君の膝の上でウトウトしつつ聞いていた。
「その子ね、モンスターの生態研究をしているんだって。で、クゥダフのことを調べたいって言うの」
「あぁ、エラジアにはいないもんなぁ」
「それで、ベドーに行きたいんだって」

ベドー!!
その瞬間ボクは、お腹の中でザワザワしていたものに、心臓をギュッと掴まれた気がした。

「道中はチョコボで移動するから危険はないし、ベドーまで案内したら帰っていいんだって」
「そっか。出発はいつ?」
「早い方がいいって言うし、明後日に決めて来た。明日はかぼちゃんの髪の毛を切ってあげなくちゃ。今日、遅くなっちゃったからね」

ベドーはダメだ!
その仕事は、クマちゃんじゃなくたっていいじゃないか!
母さんや父さんに、代わりに行ってもらってよ!
ベドーに行ったらダメだ!
そう叫びたいのに、ボクはボーっとしたまま動かない。
クマちゃんが髪を切ってくれるって、その言葉が嬉しくて、早く明日にならないかなぁって、今にも眠ってしまいそうだ。
ダメだ!
ダメだ!
ダメだ・・・!


クマちゃんは、料理が上手だ。
魚を捌くのも手慣れているし、野菜の皮は魔法みたいにスルスルと剥く。
だけど髪の毛を切るのは、あんまり上手じゃなかった。
「あれ~、おかしいなぁ」
「もうちょっと、こっちを短くじゃないか?」
「ん~、こんな感じ?」
「あっ、そうじゃなくて・・・」
「えー!」
チョキチョキと頭上でハサミが鳴る度、黄色いボクの髪がパラパラと落ちてくる。
「よし! これでカンペキ!」
クマちゃんはそう言って満足そうに頷いた。
ボクはワクワクして鏡を見たけれど、そこに映っていたのは、ぴよ君とは全然違う髪型のボクだった。
「なんかさー、みじかいよ」
「そんなことないよ! これでもうちょっと伸びたら、ぴよ君とお揃いになるから大丈夫」
やっぱり短いんじゃん、と思っていると、ぴよ君がボクの頭に手を当てて、髪をワシャワシャってかき混ぜた。
「お、かぼちゃの頭、気持ちいいぞ」
「かぼちゃじゃないってば~!」
それだけで、もうボクはこの髪型が気に入ってしまった。


クマちゃんが、テーブルに地図を広げている。
ベドーまでのルートを下調べしているんだ。
出発は明朝、バスへはクリスタルで移動して、グスタからコンシュタットを通ってパシュハウ沼に出てベドーへ。
ボクは見てもわからない地図を、一緒になって覗き込んでいる。
「ボクもバスにいきたいよ」
「じゃあ、クマが帰ってきたら連れてってやるか」
「ホント!?」
「クルたん、いいよね?」
「い~よ~」
「やったぁ~!!」

そうじゃない!
そんな話はしなくていい。
あぁ、誰か、クマちゃんを止めて!
父さん母さん、ベドーに用事はないの!?
お願いだから、行かないで!!


朝、眠い目をこすりながら「いってらっしゃ~い」 と、ぴよ君に抱えられたボクがクマちゃんに手を振る。
今すぐ、クマちゃんに飛びついて引き止めたいのに!
それからボクは、バスに行く時に持って行く物を、まだ早いでしょと言う母さんにせがんで、カバンに詰めてもらう。
このカバンがどうなったか、ボクは覚えていない。


そして・・・。
「クマを迎えに行って来るな」
ぴよ君がボクの顔を覗き込みながら、「いい子で待ってるんだぞ」 と言って、ボクの髪をワシャワシャとかき混ぜる。
その大きな手がボクの頭から離れ、背中を向ける。
イヤだ・・・。

「行かないでっ!!」

ボクは、自分の声に驚いて目が覚めた。
あぁ、またこの夢だ。
ここは・・・そう、シャントット博士の家の一室。
ボクは昨日、シャントット博士から閲覧禁止と言い渡されていた本の魔法錠を開錠してしまい、言いつけられていた全てのことを忘れて読み耽り、そのまま床で眠ってしまったらしい。

・・・あれ?
体を起こしたボクは、妙な違和感を感じて部屋を見回した。
目の前に貼ってある魔法陣の描かれた羊皮紙、あれは何の陣だっけ?
何度も同じものを見た覚えがある。
もっとよく見ようと立ち上がろうとした時、パンッと鼓膜を震わせる音がした。
部屋の扉が開いて 「ここにいましてよ」 と、シャントット博士の声がした。
驚いたボクは、振り向いた拍子に積んであった本にぶつかり、崩れた本の下敷きになってしまった。
きっとこの後、母さんが助けてくれる。
どうしてそう思ったのか、わからない。
だけど実際、 「もーう! 何やってるの! うろちょろしないで、大人しくしてる約束だったでしょ!?」 と母さんの声がして、本の中に埋まっているボクを助け出してくれた。
いや、そんなはずはない。
だってここは・・・ここは・・・?
見下ろせば、小さなボクの手。
あぁ、そうか、またボクは同じ夢を見ているんだ。
・・・同じ夢?
どこからどこまでが、夢なんだ?
夢?
これは夢なのかな?
ボクの記憶じゃない?
記憶を反芻しているの?
それにしては、今のボクの思考が混じっているよね。
こんな風に考えている間にも、小さなボクは母さんと水の区にある自宅へ向かって歩いている。
ああ、家に帰れば、大好きな二人がボクを待っている。
だから、夢でも記憶でも構わない。
ボクの側にはぴよ君とクマちゃんがいる。
それこそが、ボクが何よりも望んでいること。
だけど、クマちゃんは仕事でベドーに行くと言う。

行かないで!行かないで!
お願いだから、行かないで!!
どんなにそう願っても、小さなボクはクマちゃんに手を振っている。
一日、いや数時間、あるいは数分、クマちゃんの出発が遅れていたら、あんなことになからなかったかもしれない。


クマちゃんからシグナルパールで連絡があったと、ぴよ君が母さんに話していた。
依頼主が、大伽藍まで案内してほしいと言い出したとか。
だけどクマちゃんは、それを断ったとぴよ君は言っている。
それでも一人になれば地下に入ってしまうかもしれないからと、クマちゃんは依頼主を地下へ行かせないために、帰るまで付き添うことにしたらしい。
そんなクマちゃんを心配して、ぴよ君はベドーまで行って来ると母さんに告げていた。
「クルクも行こうか?」
「地上なら絡まれることもないし、大丈夫ですよ。クマたちはベドーの入り口で野宿するって言っていたし、護衛がてら迎えに行って来ます」
「そう?」
「それにクルたんは、天の塔から呼び出しがかかっていたでしょう?」
「あ~、忘れるとこだった」

この時ぴよ君が、何でもいいからとにかく今すぐ戻って来るようにってクマちゃんに言っていたら・・・。
母さんが天の塔からの呼び出しよりも、クマちゃんを優先にしてくれていたら・・・。
この日アドゥリンへ行った父さんが、まずはぴよ君と一緒にベドーまで行ってくれていたら・・・。
全ては、結果を知っているボクの願望。
知っているのに、今、ぴよ君がボクに 「いい子で待ってるんだぞ」 って言いながら、昨日クマちゃんが切ってくれた髪をワシャワシャとかき回しているのに、ボクはその手を掴むことすら出来ないんだ。

行かないで!
お願いだから、ボクを置いて行かないで!!

「行かないで!!」

ボクはまた、自分の声で目を覚ました。
そして思った。
これからボクは、ぴよ君とクマちゃんが待つ家に帰るんだ。
失ってしまった幸せな時間を、繰り返し過ごせるんだ。
その後には、永遠の別れの瞬間がやって来る。
だけどまた、ボクは二人に会えるじゃない。
それで、いいんじゃないの?
何度でも二人に会えるなら、あの瞬間さえ別れとは言えなくなる。
時間を切り取って、その中でだけ繰り返そう。
そうすればもう、会いたくて焦がれて苦しい涙を我慢する必要さえなくなるよ。
あぁ、それがいいよ。
優しい二人に甘えて、最後の数日間を永遠に過ごそう。

きっと、忘れられる。
「何の連絡もないなんておかしいよね」 って言う、母さんの不安そうな顔も。
「クルクはもうベドーに行ったのか?」 って、アドゥリンから戻って来た父さんの慌てた声も。
「二人を頼むぞ」 って、サンドから飛んできたうずらちゃんと入れ違いに、駆けて出て行く梅先生の後ろ姿も。
「大丈夫よ、絶対に戻って来るわ」 って、自分に言い聞かせるようにボクとサンを抱きしめた、うずらちゃんの震えていた腕も。
「どうしてぴよくんとクマちゃんはもどってこないの?」 って、毎日泣いていたボクのことも。

そしてきっと、ボクは忘れる。
あの時に戻って、二人を必ず取り戻すと誓ったことを。
そのために、寝る間も惜しんで勉強したことを。
サンと一緒に飛ばされた世界で、あの二人に会ったことを。
二度と失いたくない、あの二人のことを!

誰が忘れるもんか!!


「見つけましてよ」
シャントット博士の声がした。


「おい、かぼちゃ!」
「・・・ボクは・・・かぼちゃじゃない・・・ってば・・・」
青い目が、ボクを覗き込んでいた。
「・・・ボク・・・いい子で・・・待ってたよ・・・」
「お前がいい子なわけないだろ!」
ぴよ君が、ボクの髪をワシャワシャとかき回しながら言った。
「かぼちゃん! あぁ、目を覚ました! よかった!」
ぴよ君を押し退けたクマちゃんが、ボクをぎゅっと抱きしめた。
・・・あれ?
重たい瞼を何度か瞬きさせると、真上からシャントット博士がボクの顔を見下ろしていた。
そして 「わたくしの言いつけを何一つ守っていないとは、子鼠の分際でいい度胸ですこと」 と、魔法の詠唱を始めた。
・・・え? え?
「待ってください!」 と言う、ぴよ君の叫び声。
クマちゃんは悲鳴を上げながら、横になったままのボクに覆いかぶさった。
何がどうなっているの?
えっと・・・母さんは?

「・・・よござんす。訳もわからぬまま消し炭にするより、怯えた消し炭にする方がお仕置きのし甲斐がありますものね」
詠唱を止めた博士が物騒なことを言っているけど、まだボクには状況が理解できていなかった。
「あの・・・?」
体を起こすと頭がフラフラとして、クマちゃんが背中を支えてくれた。
「かぼちゃん、倒れたままずっと意識がなかったのよ」
聞くところによると、ぴよ君とクマちゃんはボクを訪ねてシャントット博士の家に来たと言う。
けれど、ボクを呼びに行ったキングから、返事がないし部屋の扉も開かないと言われたらしい。
それはおかしいと二人が中に入ろうとしたところ、キングに阻止された。
押し問答の末、玄関先でちょっとしたバトルになったそうだ。
もちろん、勝敗は言わずもがな。
懲りずに二度目の攻防戦をしている所に、シャントット博士が帰って来たのだと言う。
そして開かない扉を開けてくれて部屋の中に入ってみると、ボクが意識をなくして床に倒れていたってことらしい。
つまり、今は、本当に本当の現実ってこと?

シャントット博士は床に落ちていた 『次元移動の考察と、その運用』 とタイトルされた本を拾い上げた。
「この本を棚から抜くと、部屋の扉が施錠されるように、わたくしが魔法をかけておいたのですわ。また、持って逃げられると困りますからね」
ホホホ・・・と軽く笑い、そして目を眇めてボクを睨みつけた。
「確か、わたくしはこの本を閲覧禁止と言いましたわよね?」
「・・・目につく所にあったので、つい・・・」
「わたくしの言いつけを破って、 『つい』 では言い訳になりませんことよ」
そして博士はぴよ君とクマちゃんに向かって、出て行けと手振りをして見せた。
だけどクマちゃんは、ボクをギュッと抱きしめたまま、フルフルと首を振っている。
「ぶっ殺したりはしませんわよ、まだ」
博士がキングを呼び、二人を強制的に退室させてしまった。
「放せ!」 とか 「かぼちゃん!」 という二人の声が聞こえなくなると、博士は 「さて・・・」 とボクを見下ろした。
「では子鼠、何があったのか話しなさい」
ボクは頭をフラフラさせながら床に座ったまま、自分の声で目を覚ましたところから話を始めた。
所々、自分でもよくわからないことがあったりもしたけれど、その時の自分の感情は一切排除して、体験したことを客観的に語った。
「あのまま繰り返していたら、ボクはどうなっていたんですか?」
「オホホ、わかりきったことを聞くのですね」
たいして面白くもなさそうに博士は笑うと、持っていた本から一枚の羊皮紙を抜き取り、ボクの目の前の床に置いた。
そこには、 魔法陣が描かれていた。
それを見たボクは、ハッとして壁を見上げた。
が、壁には何も貼られてなどいない。
そう・・・そうだよ。
魔法陣なんて、普通は壁に貼っておくものじゃない。
それに、ボクはこの陣を知っている。
だってこれは、ボクが描き写したものだもの!

魔法錠を解いたボクは、博士が記したページの中に、新しく加えられていた魔法陣を見つけた。
その陣はまだ未完で、完成させるために必要ないくつかのパーツが、ページの下に記されていた。
見たことのない方式で、ボクはそれを読み解くのにしばらく時間を費やした。
けれどそれがわかった瞬間、ボクは試してみようとかそんなことを考えるよりも先に、その陣を羊皮紙に描き写していたんだ。
欠けた場所に、必要な記号を埋めていく。
そうして、何の迷いも躊躇もなく、ボクは陣を完成させた。
シャントット博士が仕掛けた小さな罠、外して描かなければならなかった記号 『閉じられた輪』 の意味にも気付かずに。

「わたくしがどれほど禁じようと、目の前にこの本があれば、あなたは必ず開くでしょう。どんなに複雑な魔法錠をかけたとしても、知識を得たいという欲求の前には鍵など無に等しいことを、わたくしは知っています」
シャントット博士が言った。
だから、餌を撒いたんだ。
ボクが作業する部屋にある棚にあの本を置き、わざわざ魔法錠をかけ直したと言ってけしかける。
ボクはまんまと釣られ、博士の実験台になったわけだ。
もしもボクが閉じられた輪の記号に気づいて、それを消して陣を完成させていたら?
そう尋ねると、博士は 「いずれにしても、意識だけしか飛べないのなら、これは失敗ですわ」 と言って薄く笑い、パチンと指を鳴らした。
ボクの目の前で、魔法陣の描かれた羊皮紙が燃え上がった。
羊皮紙が灰になって行く様を見つめながら、ボクは閉じられた輪の意味をボンヤリと考えていた。
あのままあの世界にいたとしても、それはそれでボクには幸せだったかもしれない。
だけどボクは、あの輪から抜け出した。
それを選んだのは、ボク自身だ。
その意味を・・・。

パンパン、とシャントット博士が手を叩いた。
「ところで子鼠、いつまでボケっと座っているつもりなのかしら? わたくしが言い付けたアイテムは、もちろん揃っているのでしょうね?」
「・・・エッ!?」
「今日中に揃わなかったら、次に灰になるのは子鼠ですわね」
「ヒェッ!」
ボクは跳ねるように立ち上がり、部屋を飛び出した。

ぴよ君とクマちゃんの二人は、部屋の外でボクを待っていてくれた。
クマちゃんは 「大丈夫!?」 とボクに駆け寄り、ぴよ君は 「いったい何だったんだよ」 と文句を言いながら心配そうにボクを見ている。
またこの二人に会えたことが、ボクは嬉しかった。
あの過去を二度と繰り返さないためにも、ボクは絶対に諦めない。
そのために、ボクはこの世界にいるんだから。
「ぴよ君、クマちゃん、アイテム揃えるの手伝って! 消し炭にされちゃうよ~!」
玄関に向かって走り出したボクに、クマちゃんが 「待って~!」 と後に続く。
そしてぴよ君は、「お前なんか、かぼちゃの消し炭にされちまえ!」 と叫びながら、やっぱりボクの後から走り出した。
そんなボクらの背後から、シャントット博士の高笑いが追いかけて来た。



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やっぴ、クルクです(・▽・)ノ

ずっと前に、もう一年以上前になるかな? コウさんから 「元の世界にいた時のぴよクマとかぼす」 はどんなだったのか? っていうコメをいただいていたのです。
で、そのことをフと思い出したのが、精神状態が暗黒になる一歩手前の時期だったために、何かこんな感じのを書きらしてたのねw
そのまましばらく放ったらかしてたんだけど、暗黒抜けたのでチャチャッと書き直して仕上げてみました。

生きていれば、それが長くなればなるほど、誰でも何かしら大切なものを失うと思うのです。
シャントット博士にも、理性ではなく感情で、もう一度会いたい人はいると思うんだ。
知的好奇心と欲求を満たすためだけではなく、ほんの少しでもその感情が混じっていればいいなぁ・・・と。
あとは、失うだけではなく、得るものだってあるよ~ってことですよね★

お付き合い、ありがとうございました。






いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
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【2017/06/11 23:59】 | * クルク一家
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おひさしぶりです。
コウ
クルクさん。こんにちは〜。
おひさしぶりです。お元気だったでしょうか。

今回のお話は、元の世界のかぼす君の子供の頃のお話ですね。書いてくださってありがとうございます。
子供の頃のかぼす君は、ぴよ君とクマさんに愛されてますね〜。だからベドーで事故が起こった事が、かぼす君のトラウマになってるんですよね。
で、意識が過去に戻るこの現象は、シャントット博士のトラップだったと。ループの記号を見落として、書き写してよかったですね。でなければ、かぼす君の意識は過去世界に行ったきりになったかも・・・その場合でも、シャントット博士が何とかしたんでしょうが。
かぼす君は自力でループを抜けだした。今この世界のぴよ君とクマさんを助けたいからですよね。きっと上手くいきますよ。

面白かったです。
ループするとことか、リゼロの影響があったのかな〜と何となく思いました。クルクさんリゼロ読まれましたか?最近更新がまた再開されてます。作者の方がアニメ化とかの仕事がひと段落したんでしょうかね。

クルクさん、精神状態が暗黒だったのですか!ご自愛されますよう。僕も夜勤が続くと気分的にいらいらしてくるのを感じます。。やっぱり人間は、朝起きて夜寝るようできてますよね〜。
まあ寝不足が原因ではないんでしょうが、何か気分転換できるといいですね。体を動かすといいかもです。もうすぐ夏になっちゃいますが、まだ今の内は外でランニングとかでも気持ちいいですよ。

話は変わりますが、僕のff11の近況としては、ようやくイオニックウェポンを1つ作る事ができました。ちなみに槍です。トリシューラってやつですね。そしてもうすぐ2個目(片手刀)ができそうです。
クルクさんは今プロマシアやられてるんでしたよね。僕もプリッシュ好きなんですが、ストーリー的にはあまり面白さを感じませんでした。
ミッションやられるんでしたら、アドゥリンの方が面白いと思います。IL119装備でも、BF戦が割と歯ごたえがあるので、楽しめるかと。クリア後に遊べるコンテンツもありますし、星唄も進められるかもしれませんね。
プロマシアに飽きたんでしたら、アドゥリンをやってみるのも1つの手かもしれません。ご一考下さい。

自分で書いてる懸賞小説が110000字を超えても終わりませんー。その割に面白くないような気がするし・・・これが終ったら、またff11のお話を書こうかな。

これから暑くなるので、健康に気をつけて下さいねー。
それでは〜。

Re: おひさしぶりです。
クルク
コウさん、おひさしぶりで~す(・▽・)ノ

かぼすはコウさんのおかげで、シャントット博士にお世話になっておりますw

いなくなってしまった二人の夢(主に悪夢的な感じ)は、かぼすは日常的に見ていると思います。
死体でも残っていればお別れ出来たかもしれないけど、行方不明のままなので、いつまで経っても癒えない傷になっているんでしょう。
今いる世界の二人を同じ運命にさせないようにっていうのは、自分のためだと思います。
自己中の子だから、自分がこれ以上苦しまないようにって。
だけどそう考えると、可哀想な子ですよね(自分で書いててアレですがw)

シャントット博士の仕掛けは、かぼすに対するテストみたいなものだったのかもです。
ループから自分で抜け出せなければ、それを選んだのはかぼすだし、そんな子には博士は用は無いと思うのです。
もしかしたら、ループの記号は必ず組み込まれていたもので、外していたら発動しないようになっていたとか・・・。
後になって、そうかも!って考えただけですけどww

リゼロのことは、頭をよぎりましたw
あっちは繰り返してやり直す世界だけど、こっちはやり直せないからマネっこにならないかな~とか。
リゼロは、途中で止まったままなんです。
時代小説にハマってしまって、そっち系ばっかり読んでいましたw
また再開されたのですね~。
読まなくては追いつかない(^_^;)

イオニックウェポンて、用語辞典調べたけど理解できませんでしたwww
まずは、ビーズって何!?ってとこからですw
でも、トリシューラも丙子椒林剣もカッコいいですね!
ぜひとも次のお話に登場させてほしいです♪

110000字って、原稿用紙275枚!!( ̄□ ̄)
大作じゃないですか!
頑張って完結目指してください★

暑かったり涼しかったりジメジメしたりしますから、コウさんも身体に気をつけてくださいね~(・▽・)ノ


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