2度目のヴァナディール ソロ活動中の妄想屋クルクと仲間達。
やっぴ~、クルクです(・▽・)ノ

コウさんが、かぼすが主役のお話を書いてくれました!(≧▽≦)
自己中なかぼすのことだから、いつか何かやらかすとは思っていましたが。
まさか・・・まさか・・・!!(; ̄□ ̄)

クルク一家に明日はあるのか!?


それでは、お楽しみくださ~い(・▽・)ノ




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ミンダルシア大陸の南方に位置する、ウィンダス連邦。

先の水晶大戦では、大きな損害を被ったが、そこに住む人々の努力と、緩やかな時間の流れが、その傷を癒し、現在はアルタナ四国の中で、最も魔法の研究が盛んな、学術都市として復興を遂げている。

そのウィンダスのある昼中・・・




「はぁはぁはぁ・・・、なんだよあのミスラ、ちょっとナンパしただけじゃないか!」

息を切らしながら、走っているのは、金髪のタルタルだ。疎らに通る通行人が、驚いたように彼を見る。そのタルタル族はウィンダスを支える五院の一つである、口の院の制服を着ていた。髪型はショートで特に整 えていない。その髪が、全力で走った所為か、うっすらと汗に濡れている。舞い落ちる桜の花びらが、ぺたりとその額に張り付いた。

「・・・撒いたかな?」

金髪のタルタルは立ち止って、後ろを振り返った。

「・・・どうやら、あきらめたみた・・」

安心したのも束の間、頭上から声が降ってきた。

「カボス。逃げられはせんぞ。諦めろ。」

「うわっ!」

カボスと呼ばれた金髪のタルタルは、本当にびっくりして、飛び上がった。

「な、なんでボクの名前を知ってるのさ!っていうか、どうして襲いかかってくるんだよ!ちょっとお茶に誘っただけだろ!」

カボスは喚いた。

桜の木の枝の上に仁王立ちに立っていたミスラ族は、カボスの前に降り立った。ミスラは肌を露出させた革の鎧と、長弓、短剣を身に付けている。

「私の名前は、スカリーM。・・・この名前の意味する所は、分かるな?」

「つ、罪狩り?」

カボスはごくりと唾を飲んだ。

罪狩りのミスラとは、ミスラ本国が懸案とする事項を解決する為に存在している組織で、犯罪の取り締まりや、抑止を行う。が、問題を解決する為に苛烈な方法を取ることも有名で、恐れられている。

「罪狩りが、ボクに何の用さ?ボクはミスラじゃないぞ。」

カボスは胸を張って言った。

スカリーMは目を細めてカボスを見た。

「近頃各所から報告が上がって来ていてな?意識不明で発見されるミスラが続出しているそうだ。彼女らに、よくよく話を聞いてみると、魔導士を名乗るタルタルの実験に協力したとの事。幸い彼女らに何事もなかったから、良かったものの・・・。心当たりがあるだろう?」

スカリーMの言葉に内心汗をかきながら、平静な表情を保ってカボスは言った。

「それは、ボクが彼女達に仕事として依頼したんだ。ちゃんと報酬も渡してるよ。」

「仕事と名を付ければ、何をして良いわけではない。兎に角この件について、何らかの裁きが下される。私と一緒に来てもらおう。」

スカリーMは一歩カボスの方に近づいた。

カボスは逆に一歩下がる。同時に後ろ手で、常に携帯している呪符を起動していた。

「悪いけど、また今度ね。次はお茶が出来るといいな。」

そう嘯くと、魔力の輝きと共に、カボスの身体は、スカリーMの前から掻き消えていた。




話を前に戻そう。

口の院の研修生であるカボスは、元から口の院に在籍していた訳ではなかった。未来の世界から、妹を助ける為に次元移動して来たカボスは、始めはバストゥーク共和国で魔符屋(呪符や護符を総称してカボスが名付けたもの)を営んでおり、彼と仲が良い?ヒュームとミスラのカップルと毎日の様にすったもんだしながら、平穏な日々を送っていた。

だが、いつしかカボスはある夢を見る様になった。それは、彼のトラウマにもなっている、親しい人間達の事故についてだった。

何故親しい人間が事故に巻き込まれると分かっているかというと、次元移動をした際、空間と共に時間をも遡ったので、今のカボスから見れば、その事故は未来に起きる出来事なのだ。

事故は2回起こる。

妹のサンラーの分と、ヒュームとミスラのカップルの分だ。

カボスの記憶だと、それぞれが起こる日時は、もっと何年も先のはずだ。だが、その事故がまるで明日起こる様な夢をみるのだ。

それも何回も。

カボスは未来の世界で口の院の研修生だった時に得た知識を使って考え抜いたが、夢と事故の因果関係を立証する事はできなかった。

しかし、カボスが次元移動をした事実と何らかの関係はある様には思えた。

そこで、一時魔符屋を休業し、現在の世界で、再び口の院で学びなおす事に決めたのだ。通常なら五院の途中編入等不可能なのだが、カボス達を 取りまとめる、一家のボス、冒険者クルクに相談すると、院長のアジドマルジドに口を聞いてくれた。なんでも以前の冒険で面識があったそうだ。こうしてカボスは再び口の院の研修生になる事が出来た。最も、始めクルクに相談した時、研修生になりたい理由としては、

「魔術の知識をもっと増やして、強力な呪符や薬品を作れる様になりたい」

という事にしておいたが。

次元移動については、未来の世界でも不確定な技術で、とても実用段階と言えたものではない。今の世界でカボスの由来が広まってしまうと、どんなパラドックスが起こるか分からないのだ。

それこそ、カボスが回避したい事故が、絶対に起こってしまう・・・という事もあるかも知れない。

だから、真実は語れない。

そんな緊張感を持って、カボスはクルクに依頼をしたのだが、その返事は、

「いいよ~。アジド院長に話してあげる。でもカボちゃん、意外と真面目だねぇ。もっと適当かと思ってた。」

という、なんとも肩透かしするような言葉だった。

ともあれ、カボスの願いは叶った訳だが、悪いクセが出て、冒頭に至った訳である。いや、日頃の行いが悪かったというべきか・・・。




「やぁれ、やれだね。」と独り言を言いながら、カボスは借りているモグハウスの中の、ソファーにどさりと腰を下ろした。

先程使った呪符で、自宅まで戻ったのだ。

モグハウスを管理する、モーグリが飲み物を運んでくる。

「何かあったクポ?・・・ まさか、またご主人様、悪い事を?」

カボスは、モーグリから飲み物の入ったマグカップをひったくり、縫いぐるみの様な、白い生き物を睨みつけた。

「悪い事ってなんだよ?悪い事って。ボクは善良な口の院の研修生だぞ?おかしな事を言うな。」

そう言って、飲み物を飲んだ。冷えたウィンダスティーだったが、走った後の喉には心地良い。

「でもクポ・・・」

「なんだよ?」

「マリ・ジャイカちゃんを薬で眠らしたりとか・・・」

「あれは、合成した薬が、効きすぎたんだ。」

「ハンナ・アルルちゃんを裸に剥いたりとか・・・」

「装備変更の呪文の実験だな。」

「ローナ・ハズトちゃんを箱詰めでサンドリアに送ったりとか・ ・・」

「本人がサンドリアに行きたいって言ったんだ。」

「他にも・・・」

カボスはさり気なく、モーグリから目を逸らして、飲み物に集中するふりをした。

・・・何というか、罪狩りのミスラに追われるのが納得の素行であった。カボス本人にも自覚はある様ではある。

「ご主人様は、どうして魔術の実験に、女の子を使うクポか?それもおかしな目で見られる原因の様な気がするクポ。」

モーグリの問いかけを、カボスは聞こえないふりをした。モーグリは溜息をついて、他の部屋に行ってしまった。

(そんなの、カワイイに決まってるからじゃないか。)

カボスは内心、そう呟いた。

無類の女好きという事だろうか。

「ま、そんな事はともかく。」

カボスは、気分を変える為に、口に出して言った。

(あの、スカリーMってヤツ、面倒だなぁ。)

考えは、そこに戻る。罪狩りのミスラは、非常に優秀なハンターの為、目を付けられた人間で、逃げ切れたものは多くない。

(でも、0って訳じゃないんだよね)

誰か強力な後ろ盾を付けて話を付けてもらうか、はたまた誰かにやった事を擦りつけるか。割とあざとい事も考えたが、妙案は浮かばない。カボスはこの件はとりあえず、置いておく事にした。次にスカリーMに出くわしたら、また逃げる事になるが。




(それよりも、やる事があったんだった)

カボスは、強力な魔法を使えるという意味では、あまり才能がある魔導士とは言えなかった 。だが、いわゆる天才肌で、魔術についての知識と理論はかなりのレベルに達していた。その知識を用いた、物品への魔力付与、即ち呪符や薬品の合成は得意である。

先日、口の院で、自分で合成した薬品を運んでいたところ、たまたま口の院を訪れていた、前院長のシャントット博士がそれを目ざとく見つけた。

シャントットはカボスを呼び止めた。

「あ~ら、子鼠ちゃん。ちょっとお待ちなさいな。」

シャントットはカボスにつかつかと近づくと、カボスが運ぶ木の箱に入った、幾つもの薬品を一つづつ確かめた。

「子鼠ちゃん。これはあなたが作ったの?」

頷くカボスに、シャントットは頬に手を当てながら言った。

「子鼠にしては、なかなか良い薬を作りますわね。・・・アジドマルジド、この子鼠に魔力回復の薬を作らせて、持ってきなさい。」

シャントットは、傍にいた口の院の現院長、アジドマルジドにそう命ずると、高笑いをしながら去って行った。

その薬が昨日完成したのだ。

カボスは早速、薬品をシャントット博士の自宅に持って行こうとしていた。

(そうだ。うまく取り入れば、後ろ盾になって貰えるかもしれないな)

カボスは都合のいい事を考えた。だが、確かにシャントット博士が後ろ盾になれば、罪狩りのミスラとて、カボスに手は出せないだろう。

なにせ、ウィンダス連邦の主席元老院議員なのである。実質的なウィンダスNo2だ。

(そうなれば、問題は全部解決だね)

カボスは、自分が作った薬品の質には、自信があった。確かに、シャントット博士御用達の調剤師という事になれば、あながちカボスの願望も間違ってはいない。罪狩りのミスラも、おいそれとはカボスに手は出せないだろう。

(良し。そうとなれば早速薬品を届けよう)

カボスはとうに中身を飲み終えたマグカップをテーブルの上に置き、ソファから立ち上がった。




モグハウスを出発したカボスは、ウィンダス港から、石の区に向かって歩き始めた。カボスのモグハウスは、口の院の近くのウィンダス港にある。行き先のシャントット邸は石の区の東側だ。

エーテルという名で呼ばれる、魔力回復薬が入った鞄を背負い、カボスはゆっくりと石の区に向かって北に歩いて行った。

ちなみに、先程罪狩りのミスラに遭遇したのは、水の区だ。呪符で瞬間移動したので、そんなに簡単には移動先を特定できないだろうが、そこは名高き「罪狩りのミスラ」である。油断はできない。口の院からの帰りともあって、制服を着ていたのもまずかった。

ともあれ今は、薬を満載した鞄を背負っているので、先程のように走って逃げる事も出来ない。罪狩りのミスラに出会わないよう、運を天に任せながら、歩いて行く他は無かった。

だが、半刻ほど歩いても、罪狩りのミスラに遭遇する事は無かった。ウィンダスはジュノ大公国等に比べても田舎である。カボスとすれ違う人は、むしろ少ないと言って良かった。やがて石の区が見えた。星の神子の御座所である天の塔が間近に見える。

石の区は、全体が湖と呼べる規模の水に覆われている。大きな橋が縦横に走って、天の塔や博士達の家々に通じている。

カボスは、シャントット邸の場所は把握していたので、迷わず東の道を進んだ。少しすると一軒の家が目の前に現れた。

シャントット博士は、元老院公邸に住んでいるので、家自体は中々立派な建物である。

門に呼び鈴があったので、カボスは迷わずそれを押した。どこかで、ジリリリというベルの音が響いた。

「・・・」カボスは待ったが、応答が無い。




もう一度押す。・・・応答が無い。




もう一度押す。・・・応答が無い。




もう一度・・・







「うるさいっ!」

急に耳元で大声で喚かれた。

「うわっ!」

カボスはびっくりして飛び上がった。

「何度も鳴らさなくとも、分かってますわ!今、魔法の実験で手が放せないんですの。用があるなら、鍵はかかってませんので入って来なさいな。」

耳元でもう一度喚かれ、声はぶつりと切れた。何らかの魔法的な仕掛けらしい。

「・・・ちぇ。」思わずカボスは舌打ちした。噂に違わず、シャントット博士は多忙らしい。

気をとり直して、カボスは門を開け、敷地の中に入って行った。更に玄関の扉を開けて、邸内に入る。流石に玄関の扉を開けるときは、若干気後れしたが、館の主人が良いと言っているのである。気にしない事にした。

邸内は雑多としていた。

そこかしこに魔法書や、何だか良く分からない装置が積み上げられ、広いわりには足の踏み場も無い。うっかりすると、そこらのものが崩れ落ちて来そうである。

カボスはキョロキョロしながら、邸内を進んで行った。それにしても、博士は何処にいるんだろう・・・。

「あ~ら。あなた、何の御用かしら?」

不意に後ろから声がした。

カボスはまたまたびっくりして、飛び上がった。よくよく人を驚かせるのが、好きな人らしい。いや、わざとやっている訳でもないのだろうが。

カボスは慌てて振り返った。

そこには、黒を基調とした連邦軍師制式装備を身に付けた、シャントット博士が立っていた。所謂ウィンダス連邦の軍人、軍属に支給される制服で、元老院議員としては、自宅でも気が抜けないという事だろうか。まぁ、邸内はほぼゴミ屋敷・・・いや、雑然としているのではあるが。

カボスは一礼をして、話し出した。

「ボクはカボスといいます。数日前に口の院で、魔力回復薬の作成のご依頼をいただきまして、本日お待ちしました。」

それを聞いて、シャントット博士は考える風である。

「魔力回復薬、魔力回復薬・・・何だったかしらね。ああ・・・」

シャントット博士は何か思い出した様子だったが、何処かの部屋で、「ボンッ!」という音が響いた。

「あ~ら。いけませんわ。魔法装置に魔力を供給しっ放しだったですわ。あなた、何か持って来たのだったら、そこへ置いておきなさいな。」

と一方的に喋ると、 搔き消える様に消えてしまった。シャントット博士は自宅内でも、転移魔法を使うらしい。

カボスは唖然とした。シャントット博士は、薬を注文した事も忘れてるらしい。これでは後ろ盾になってもらうどころではない。

「あ~あ。ついてないや。」カボスは独りごちた。しばらく待っても、シャントット博士は帰って来そうもない。言われた通り、薬を置いて帰ろうかと思って、背負っていた薬の入った鞄を床に下ろそうとした。だが、周囲に積まれた魔法書の山に、鞄が当たってしまい、本の山が一つ崩れてしまった。

「ホントについてないな・・・」

ぶつぶつ言いながら、カボスはとりあえず、下ろしかけの鞄を床に降ろし、本を積み直し始めた。

本を積み直し始める と、嫌でも題名が目に付く。

曰く「神獣と魔法」

曰く「精霊魔法の奥義」

曰く「ふりしぼれ!」

曰く「料理と魔力向上」

曰く「モテる女になるためには」

若干、?な本も混じっているが、どれも貴重そうな魔法書ばかりである。それが、こんな無造作に、床に積んであって良いんだろうかと思ったが、その中で一冊の魔法書がカボスの目を引いた。

題名は、「次元移動の考察と、その運用」と書いてあった。

「これは・・・」

カボスは改めて、魔法書を調べた。

分厚い装丁の魔法書で、題名は手書きである。本を開こうと思ったが、魔力で錠がかけてある。カボスは記憶を探った。この世界のシャントット博士とは、ほぼ初対面だが、 未来の世界では、両親と親しかった人物である。カボスも小さい頃から、未来の世界のシャントット邸には頻繁に出入りをしていた。その関係で、シャントット博士の個人的な情報もかなり把握している。・・・あくまで、未来の世界のシャントット博士の情報をだが。

「・・・■ ■ ■。」

考えた末に、3つの言葉を唱えると。カチャリと音がして魔力錠が外れた。

どうやら、合っていたようだ。

カボスはページを捲って行く。難解な文章が多くて完全に読み解く事は、難しかったが、何とか概要は把握できた。次第に手が震えてくる。シャントット博士は、別の世界への移動を実用化していた。それのみならず、次元移動をした後の、移動者が移動後の世界に与える影響まで、考察してある。実体験談も記載されているようだ。

正に、これこそ求めていた本だ。

カボスは本を閉じた。カボスの思考はどうやってこの本を手に入れるかにシフトしていた。

普通に貸して下さいとお願いしても、おそらく貸してはくれないだろう。無造作に床に積んではあっても、これだけの内容である。普通なら五院の禁書として、封印されていて然るべきだ。シャントット博士は自身によほど自信があるのだろう。自分が管理していれば、漏洩はないと思っているのだ。

では、他にこの本を手に入れる方法はあるのか・・・。

この本があれば、いつも頭の片隅にある、あの事故を確実に防げるかもしれないのだ。

カボスの目が妖しく光った。




数刻が 過ぎた。

暴走した魔法装置の後始末を終えたシャントットは、途中になっていたカボスとの会話を思い出し、邸内のカボスと会った場所に瞬間移動した。

「オ~ホホホ~。お待たせしましたわね。思い出しましたわ。あなた、アジドマルジドの所にいた・・・」

ここまで喋って、シャントットは、目の前にカボスがいない事に気付き、キョロキョロと周りを見渡した。

足元に鞄がぽつんと置かれているだけである。シャントットは、鞄を開けてみた。すると中には、布で丁寧に包まれた、薬瓶が10ばかり入っていた。

「これは・・・エーテルですわね。・・・中々の良品。さて、礼の1つも差し上げねばなりませんが、あの子鼠はどこに?」

シャントットはもう一度周りを見渡したが、人影はない。

シャントット博士は、声を張り上げた。

「キング!キング・オブ・ハーツ!何処にいるの!すぐ来なさい!」

すると、機械音をさせながら、一体のカーディアンが現れた。魔導人形である。タルタル族の2倍以上の体格を持っているが、器用に床に積み上げられた、本や魔法装置を避けてくる。足の代わりに取り付けられた、車輪を止めて、キング・オブ・ハーツはシャントットの前で止まった。

「ゴヨウデスカ★ゴシュジンサマ」

その独特の喋り方に被せるように、シャントットは言った。

「邸内にいた子鼠は、何処へ行ったの?」

その曖昧な言葉でも、キング・オブ・ハーツは意図を理解したようで、

「ライホウ★シタ★ジンブツ★ナラ★サンジカンマエ二★キタク★シマシタ」

と答えた。

「あら、まぁ。そんなに時間が経っていたとは。・・・礼なら、アジドマルジドに言付ければ良いかしらね。」

シャントットが肩をすくめると、キング・オブ・ハーツは続けて報告した。

「ソノサイ★ソノジンブツハ★テイナイノモノヲ★モチダシタ★ケイセキガ★アリマス」

シャントットは、片眉を上げた。

「・・・何ですって?キング、邸内の物品をスキャン。報告しなさい。」

ガ~、ピ~と動作音をさせながらキング・オブ・ハーツは答えた。

「ゲンザイノ★テイナイノ★ビヒン★ノソウスウハ・・・」

「要点だけおっしゃい!」

「カシダシヲ★シテイル★イガイノ★ビヒンデ★ショザイガ★フメイノ★モノガ★アリマス」

シャントットは、爪先でトントンと床を叩きながら言った。

「それは何?」

「マドウショデス★ダイメイハ★ジゲンイドウノコウサツト、ソノウンヨウ★デス。」

シャントットの爪先がピタリと止まった。

「何ですってぇ~。」

シャントットは驚いた。持ち出された魔導書は、危険な技術が相当数記載してあるのである。普通の人間なら読む事も出来ないが、一定レベル以上の魔導士なら使う事が出来てしまうかもしれない。そして使えば、下手をすれば次元間の扉が出来、お互い干渉した挙句滅亡という可能性もある。

それにどうやって邸外に持ち出したのだ。あれには魔法錠がかけてあったはずだ。そして魔法錠が掛かったままの状態では、キング・オブ・ハーツのセンサーにひっかかる為、邸外への持ち出しは、不可能なのである。

ということは、あの子鼠は、魔法錠を外した事になる。

(一体どうやって・・・)

シャントットは首を振った。それは子鼠を捕まえてから、聞き出せば良い事だ。

シャントットは、無意識のうちに周囲に魔力を吹き出しながら言った。周りの積み上げられた本がバラバラと散らばる。

「わたくし、ブチ切れますわよ!」

シャントットの周囲に魔力の嵐が吹き荒れた。




シャントット博士の怒りが頂点に達している時、カボスは既にウィンダス連邦にはいなかった。現在居るのはジュノ大公国である。
(いや~。流石にウィンダスにいるのはヤバいよね。シャントット博士になら直ぐに見つかってしまうんじゃないかな)
カボスは、ジュノ大公国の空中庭園である、ル・ルデの庭のウィンダス大使館の近くのベンチに座って、近くの露店で買った、ウルラガンミルクとチーズサンドイッチを頬張っていた。シャントット邸から持ち出した魔導書が、カボスの思った通りの価値があるのなら、各国の大使館に連絡が行くレベルの物であるはずだろうからだ。逆に言うなら、大使館に動きがないなら、あの魔導書は、カボスが想像したものと違うという事になる。

コクのある、ウルラガンミルクを飲みながら、カボスは手元の羊皮紙に目を通していた。それは持ち出した、次元移動の魔導書を書き写した物であった。カボス謹製の写本する為の魔法のペン、「かきうつしくん」を使って、魔導書の半分程は、数十枚の羊皮紙に書き写していた。本当は全部書き移すつもりだったが、時間が限られていたのと、魔導書の魔力の影響か、「かきうつしくん」が壊れてしまったのだ。仕方ないので、書き写しができた分だけを、鞄に入れて持って来ている。ちなみに魔導書は安全な場所に保管してある。その写しを読みながら、ウィンダス大使館の様子を窺っていたのだが、魔導書の写しの内容が衝撃的すぎて、監視の方はそぞろであった。

魔導書曰く、未来に起こるべき事件を、完全に回避するのは非常に難しいと言うのである。これは日々起こる事柄が、起こるべきして起こっている為で、これを変えようとすると 、別の形で同様の事柄が起こると言うのである。分かりやすく言うと、ギルの入った財布を落とす事が、事前に分かっていたとして、落とさないようにしたとしても、近い未来に、別の場所で財布を落とすか、または、同額を何かに使ってしまうと言うのである。つまり、自分からギルが離れるのは防ぐ事はできないと。

「時間の修復作用」と魔導書には書いてあった。これが事実ならば、カボスが防ぎたい事故は防げないという事になる。カボスは呆然として、道行く人々を眺めた。ガルガやエルヴァーン等、色々な種族の人間が歩いている。

(だけど、諦める訳にはいかないんだ)

カボスは強く思った。幼い日に失った物を、また失う訳にはいかない。今ある大事な物も、失くすわけには行かない。

(何か方法があるはずなんだ。何か・・・)

その為には魔導書を読み解く時間がいる。カボスが物思いに耽っていると、不意にウィンダス大使館の動きが激しくなった。人が慌ただしく出入りを始め、時折開けられる扉からは、声高に話す大使館員の姿が見える。

(気付かれた・・・いや始まったね。)

カボスはベンチから立ち上がった。パン屑を払い、歩き出す。

(とりあえず、何処かに引きこもって、魔導書の解析だね。でも、いつ襲われるか分からないから、護衛がいる)

そう考えて、カボスは冒険者互助会の方へ向かった。




冒険者互助会の建物は、ル・ルデの庭の西側にあった。ヴァナ・ディールの世界に多数いる冒険者を統括する組織の建物としては、こじんまりとしている。カボスが先程見張っていた、ウィンダスの大使館の方が余程立派だ。カボスは、目ただない為に、飾り気のない白いローブを着ていた。その所為か、大使館からこちら、誰にも見咎められなかった。ジュノ大公国には、白いローブを着たタルタルなど、掃いて捨てるほどいたからだ。

互助会の建物の扉を開けると、人は疎らだった。受付に互助会の人間と、奥の張り紙が沢山貼られている掲示板の所に、4・5人の人影が見えるばかりだ。

カボスは、互助会に来た事は無かったが、知識だけはあったので、冒険者に正式に護衛を頼むには、受付に行って依頼を出さなければならないと知ってはいた。

だが、追われている身である。正式な依頼など出せるはずもない。そこでカボスは掲示板の所に行った。掲示板には様々な所からの依頼が貼ってある。冒険者は内容を見定めて、依頼を受ける。そこには5人の人間がいた。ガルガと2人のヒュームはパーティらしく、声高にどの依頼を受けるか話し合っていた。後2人は、エルヴァーンの男とタルタルの女で、それぞれ思案する顔つきで、貼られている用紙を見つめている。

(どっちが良いかなぁ。まあ、一緒にいて楽しいのは女の子だね。男はむさいしさ)

カボスは声をかける冒険者を選ぶのに勝手なことを考えていた。そして、金とオレンジの髪をポニーテールにしたタルタルの女に声をかけた。

「ちょっと良いかな?」

「はい?」

タルタルの女はびっくりした様子で振り返り、カボ スを見た。

「急ぎで護衛を探しているんだけど、君、雇われる気はない?」

「ああ。そうなんですか。」タルタルの女はどうしようかと迷う表情で、カボスを見つめた。

「良ければ、仕事の内容と、報酬を説明するから、お茶でも飲まないかい?」

タルタルの女は、迷っていたが、やがて肩を竦めて、

「いいですよ。」

と言った。

「それはよかった。ボクの名前はユズ。君は?」

偽名を使ったカボスに、疑う事なくタルタルの女は名乗った。

「あたしはユファファって言います。」




一方ウィンダスのとあるモグハウスでは、騒ぎが起きていた。

「せ、先生!?ど、どうしましょう?」

栗色の髪を短いツインテ ールにしたタルタルの女の子が、エルヴァーンの男性にまくし立てていた。

「落ち着け。」

エルヴァーンの男性は、実際に落ち着いた口調で言った。

「お、落ち着けって言われても、お兄ちゃんが指名手配されたんですよ!?」

この2人は、クルク一家のメンバーで、ウメとサンラーと言った。カボスの妹のサンラーが言う通り、カボスは魔術書を持ち出した数日後には、各国に指名手配されていた。罪状は、「機密文書窃盗」だ。サンラーが喚くのも無理からぬ事ではある。

「ど、どうしよう・・・」

落ち着かなげに、モグハウスの中を行ったり来たりするサンラーを横目で見たウメは、ゆっくりと立ち上がった。

帯刀し、出かける準備をするウメを見て、サンラーは、

「先生!?何処に出かけるんですか!?」

と叫んだ。

「落ち着けと言っただろう。事の次第を確かめてくる。後、クルたんにも相談しなければな。・・・ここで待っていなさい。」

「なら、私も・・・」

言いかけたサンラーだったが、ウメが目を向けると、しゅんとなった。自分が足手まといになる事を思い出したのだ。

「暫くかかる。悪いようにはならない。落ち着いて待っていなさい。」

そう言い残して、ウメは自分のモグハウスを出立した。サンラーの祈るような視線を背に受けて。




そんな妹の嘆きをよそに、カボスは精力的に魔導書の解読を進めていた。隠れ家にしているのは、ウルガラン山脈の中腹にある洞窟の1つだ 。ル・ルデの庭で飲んだ、ウルガランミルクから思いついたので、足が付きにくいだろう。既にここに篭ってから2週間が経過している。カボスは逃走に当たって、幾つかの準備をしていた。その1つが魂石と呼ばれる特殊な魔法の石の散布である。シャントット博士、いやウィンダス連邦が自分を探索する際、自分の魔力の波動を探知するシステムを使う事は、容易に想像できた。そこで魂石に自分の魔力を込めて、競売に格安で放出したのである。元々、魂石は魔術の実験用に、大量に備蓄してあった。競売に売り出された魂石は、瞬く間に多数の冒険者に買い取られ、カボスの発見を阻害した。魂石は冒険者の装備品の強化に使われるものなので、いつかは使われて無くなってしまうだろうが、まだまだ時間稼ぎはできそうだった。

「ユズさん。今戻りました。」

洞窟の入り口付近から声がした。護衛に雇った冒険者のユファファだ。結局、彼女を互助会から連れ出し、1ヶ月更新で護衛の仕事をする事を了承させた。自分は魔導士で、難解な魔導書を読み解き、論文を発表するつもりという事にしてある。その間、ライバルから妨害があるかも知れないので、護衛を頼みたいと。正式に互助会を通して依頼しないのは、そのライバルに知られたくないからだとも説明し、高額な護衛料をも提示して、迷っていたユファファを説得した。

(ウソをつくときは、本当の事と混ぜて言うのが鉄則だよね)

等と、心の中でほくそ笑むカボスは、魔導書の解析をしている奥の空間から出て、ユファファを出迎えた。

「ご苦労様。何も異常はなかったかい」

ユファファは、肩に担いでいた、雪ウサギを洞窟の床に下ろしながら、頷いた。

「魔物が数匹うろついてましたけど、こちらに近づいてくる様子はないようです。お仕事が良ければ、このウサギを捌いて夕食にしますけど、良いですか?」

ユファファは、雪の被ったマントを脱ぎながら言った。ウルガラン山脈は北方で、春になったこの時期でも、まだ雪が散らつく。洞窟の中は、即席の暖炉の様な物が組まれていて、暖かい。マントの雪も、直ぐ水滴になった。この暖炉はカボスが組み立てたものだ。

「いやー。ワルイね。護衛の仕事以外にも、家事もやらせちゃって。」

カボスの言葉に、ユファファはにこりと笑って 、

「良いですよ。高い料金を貰ってますから、これぐらいは全然。」

「ユファちゃん、いいお嫁さんになるね。」

ユファは再びにこりと笑い。

「ありがとうございます。じゃあ、仕込みを始めますね。」

と言って、キッチンの代わりにしている、石の台の所に、ウサギを持って行った。

カボスは、洞窟の自室に戻りながら、

(いやいや、あのコは拾い物だな。腕もそれなりに立つし、気も効くし、なんと言ってもカワイイよね。あのコと付き合うのもいいな)

等と、現在の追い込まれた状況にそぐわない、緩い考えに浸った。

だが、魔導書を前にすると、自然と考えが引き締まった。

(さて・・・)

問題は、「時間の修復作用」をどう回避するかである。魔導書を読み解いて、カボスは1つの仮説に達していた。

1つの強力な護符を作るのである。それは「時間の修復作用」を防ぐ為の、防御フィールドを常に展開していて、修復作用の自身への働きを無効化する。この護符を持った状態で、未来を変えるアクションを起こすのである。そうすれば未来は変えられる。ずっと護符を持っていなければならないが、身体から離れない様な効果も付与しておくと良いだろう。呪符や護符を作成するのが得意なカボスならではのアイデアと言えた。

護符を作成する為の魔力回路は比較的簡単だが、問題は護符の魔力の供給源である。時間の流れに逆らおうとするのだから、膨大な魔力が必要で、量的に言えば、互助会が設置した、拠点間移動用のクリスタルでも全然足りないだろう。

(どうしようかな)

カボスは更に考える。ぱっと思いつくだけでも、地脈を利用するとか、神獣の力を借りるとか、他にも幾つか魔力の供給源はあった。

(だけど・・・)

護符と供給源を繋ぐ方法が解らない。それは護符自体を作る技術とはまた別物で、カボスの手に余るものだった。

煮詰まった状態で時間が過ぎていく。ここから先は、もっと知識と能力がある魔導士の助けが必要である。そう、例えばアジドマルジド院長や、シャントット博士の様な、だ。だが、勿論それはできない。シャントット博士の魔導書を無断で持ち出したのだから。

宙を睨むカボスの鼻に、香ばしい香りが漂ってきた。どうやら夕飯が出来たらしい。カボスは魔導書を閉じて、洞窟内の自室を出た。

夕飯は野兎のグリルだった。スパイスの効いた香ばしい香りが洞窟内に漂っている。ユファはナイフで肉を切り分けながら、

「あ、ユズさん。呼びに行こうと思ってました。どうぞ座って下さい。」

と言った。

「美味そうだね。」

カボスは口の中に唾が沸くのを覚えながら、椅子の代わりの石に座った。

上面が比較的平らな大きい岩が、テーブルの代わりだ。

携帯用の金属製の皿に盛られた肉とパン、同じく金属製のコップに入った水が、目の前に置かれた。

「じゃあ、いただきます。」

「いただきます。」

2人は口々に言ってから、食べ始めた。

「ユファちゃん、ホント料理上手だよね。」

カボスは肉を頬張りながら言った。実際に美味しい。肉はジューシーだし、皮はパリッと焼けている。

ユファは照れくさそうに笑いながら、

「普通ですよ。しばらく冒険者の師匠のところで住み込んでたんで、その時覚えました。」

と言った。

「ああ、コウって冒険者だね。」とカボスは頷いた。

ユファと話をする都度、度々出てきた名前だ。初めは軽く相槌を打っていたが、最近はその名前を聞くと、妙な気分になる。

(これって嫉妬?・・・まさかねー)
自慢ではないが、カボスは女性に不自由した事はない。口八丁手八丁で、様々な女をモノにしてきた。その為、この感情を嫉妬と認めるのは、いささか抵抗がある。
ユファの話好きもあってか、食事の時の話題は、大抵彼女の冒険談が多い。そして話を聞いてみると、どうやらユファは、クルク一家のバルファルとも知り合いらしい。

(世間って、存外狭いんだな)

そんな考えが頭をよぎるが、カボスから見て幼稚なバルファルは、ユファに手を出してはいないだろう。

(まあ、手を出してもらっても困るんだけどさ)

バルファルの相手はクルクでないと困る。そうでないと自分は・・・

「ユズさん、聞いてます?」

ちょっと身を乗り出し気味に見つめられて、カボスは焦った。どうやら柄にもなく女性と会話中に自分の考えに耽ってしまったようだ。

「・・・ごめんよ。研究のことが気になって・・・」

咄嗟にごまかした。

ユファは頷き、進み具合はどうか?と聞いてきた。

「そうだね・・・」

ユファの事は気に入っているが、次元移動や時間の修復作用について語っても、分かるとは思えなかった。だがまあ、掻い摘んで話してみる事にする。

案の定、ユファは分かったような分からないような、微妙な表情をした。

「時間の修復作用を逃れる方法ですか・・・ユズさんの研究って難しいんですね。」

・・・感心されてしまった。だが、軽く尊敬のニュアンスを感じるので、気分は悪くない。

「より上位の魔導士に相談すれば良いんだけど、研究のライバルに情報が行くかも知れないので、ちょっとね・・・」

始めにユファにしたウソの説明を混ぜて、誤魔化しておく。

なるほど・・・と相槌を打ったユファだったが、思いついた様に言った。

「じゃあ、魔導に詳しい冒険者に聞いたらどうですか?」

虚を突かれた。

少しして、我に返ってカボスは言った。

「詳しい人を知ってるの?」

ユファは少し困った様子で、

「あたし、冒険者としては駆け出しだから、知り合いとかあんまりいないんですけど、コウなら・・・」

と言った。はっきりした事が言えなくて、申し訳ない様な感じだ。

その様子にほのぼのとした感情を覚えながら、しかしカボスは、

(また、コウって奴か)

と思った。だが、考え自体は悪くない。

(そうか、魔導士は連邦直属の人間だけじゃない。在野にもいたんだ)

思いつかなかった。だが院長や博士程の人材がいるかどうか・・・

「・・・そうだね。じゃあ、よかったらユファちゃんの師匠を紹介してくれないかな。」

カボスは考えた末に、そう言った。

ユファは頷き、

「いいです・・・」

と言いかけて、固まった。そしてカボスに言い直した。

「ユズさん、誰か来ます。念の為に直ぐここを出られるようにして下さい。」

そして、壁に立てかけておいた剣を手に取る。

カボスは驚いて、

「誰が・・・」

言いかけたが、 ユファは自分の唇に指を当てて、

「静かに。急いで。」

と小声で言った。

カボスには全く何の気配も感じられなかったが、ユファには分かるらしい。

カボスは慌てて、洞窟の自室に駆け込んだ。




ユファは、そうっと洞窟の入口から外の様子を探った。もう陽は沈み、月明かりを地面に積もった雪が反射している。その為、夜でも結構明るい。

ユファは辺りを見渡したが、先程感じた気配を感じ取る事は出来なかった。

(隠れてるのかな)

感じた気配は1つだけだった。だが明白に敵意を感じたので、どこかに潜んで、こちらの隙を伺っているのかもしれない。

1歩外に踏み出す。さくりと雪を踏みしめると同時に、ヒュッという音が鳴っ た。

咄嗟に横に飛び退くと、ユファがいた場所に1本の矢が突き立っていた。

「!」

ユファは抜刀し、矢の飛んできた方向に目を凝らした。だが何も見えない。

じりじりとした緊迫感の中、不意に声が聞こえた。

「そこにカボスと言うタルタルが居るだろう。カボスを出せ。」

雪で声が反射して、出処が特定出来ない。女の声の様だ。

「そんな人はここにはいない!何処にいるの?姿を現しなさい!」

現しなさい現しなさい・・・とこだまが響く中、低く笑い声が響いた。

「良いだろう。どうせお前らは逃げる事は出来ないのだからな。」

そして木立の中から現れたのは、白い防寒着を着た1人のミスラだった。

ミスラはユファに向 かって言った。

「私はスカリーM。名前の通り、罪狩りのミスラだ。ミスラ本国の指令により、カボスを捕らえに来た。大人しく縄につけ。」

「だから、そんな人は・・・」

ユファが言いかけた時、後ろにカボスがやって来た。

「ユズさん・・・」

何か言いかけるユファにカボスは畳み掛けるように言った。

「ユファちゃん。このミスラはボクのライバルが寄越した刺客に違いないよ。戦っても得は無いから、逃げる事にするよ。」

くっくっくっとスカリーMは笑った。

「相変わらず口が回ることだな。だが、逃げられはしない。」

そして指ををパチンと鳴らした。

すると虚空から3人のタルタルが姿を現した。いずれも口の院の制服を着 ている。

中央の1人が歩みでた。

「私は連邦魔戦士のロランアラン。口の院研修生のカボス。機密文書窃盗の罪で捕縛する。抵抗すれば容赦しない。」

「ち」

カボスは舌打ちした。罪狩りのミスラだけならやりようはあったのだが、相手が4人では分が悪い。




そして・・・




ユファの視線が痛かった。

ユファは静かに言った。

「騙してたんですね。」

カボスはユファと視線を合わせずに呟いた。

「まあ、事情があってね。悪かったよ。ボクは逃げるが、キミは彼らと一緒に行った方が良い。騙されたって言えば、悪い様にはならないさ。」

そして懐に手を入れた。

スカリーMと連邦魔戦士達が身構える。



取り出したのは・・・




真っ黒い何かだった。




それを頭上で2、3回振る。

連邦魔戦士ロランアランが思わず言った。

「何をやって・・・」

スカリーMの様子が変だった。カボスが振る黒い何かに視線が釘付けなのである。

カボスが黒い何かを右に振れば右、左に振れば左に、頭ごと動いている。

カボスが黒い何かを連邦魔戦士の方に放った。

それは、ミスラの大好物、サイレドンの黒焼きだった。

身構えるロランアラン達の上に、スカリーMが飛びかかった。




「………んにゃーーっ!黒焼きだぁ! いっただきぃ!!」




3人のタルタルは、スカリーMに押しつぶされ、4 人が団子状態になった。

「へ?」

思わず気の抜けた言葉が、ユファの口から漏れた。

スカリーMの挙動にびっくりしたのだ。

間髪入れず、カボスは4人と逆方向に走り出す。

だが雪の所為で、中々足がはかどらない。

立ち直ったロランアランがカボスに追いつこうとする。

そこに立ち塞がったのは、ユファだった。

斜め後ろから、ロランアランにタックルをかけると、ロランアランは雪の上に突っ伏した。そのままタルタルを踏みつけて、カボスに追いつく。

「ユズさんか、カボスさんか、どっちでも良いですけど、後で必ず説明して下さいよ!」

そしてユファは、カボスの腕を掴むと、転移の魔法を使った。

2人の身体は、紫色の光に包まれて、ウルガラン山脈から掻き消えた。




クルク一家のウメは、一家のボス、クルクのモグハウスを訪れていた。カボスが指名手配になってから、カボスが訪れそうな場所を幾つか覗いてみたが、結局見つける事はできなかったのである。もちろん連邦もカボスを探しているので、もし本人が行きつけの場所に居たら、直ぐに捕まってしまったに違いない。ウメにとって、サンドリアは鬼門だったので、そちらは同じ一家のメンバーのウズラに頼んで、何日かかけて他の3国を回った。そして今は結局、バストゥーク共和国のクルクのモグハウスにたどり着いたのである。

モグハウスのリビングには、テーブルを挟んで、3人の人間が座っている。一家のボスのクルク、クルクの幼馴染のバルファル、そしてウメであった。その中で、1人バルファルが気炎を上げている。

「大体アイツは何かやらかしそうだったんだよ!」

「一体、国際手配なんかになっちまって、どうするつもりなんだ!」

「妹のサンラーや、オレ達の立場を考えた事があんのか!」

等等、罵詈雑言の嵐だった。

やがて、叫び疲れたのか、バルファルはソファーにもたれかかり、息を吐いた。

「・・・クルク。何とか言えよ。」

クルクは、腕を組み、何かを考えているのか、考えていないのか、暫く黙っていたが、

「うーん、かぼちゃんは何か考えがあって、機密文書を盗ったと思うなぁ~。」

とぽつりと言った。

クルク達は公式な発表しか聞いていな いので、カボスが本当は魔道書を持ち去ったとは知らない。あくまで発表としては機密文書だった。

「何かって何だよ?」

バルファルは顔をしかめて言った。

「それはクルクには分からないなぅ~。女のカンってやつかな。」

「クルたんのカンは当たるからな。案外何か深い訳でもあるかもしれん。」

それまで黙っていた、ウメが口を開いた。

そして、テーブルの上にあったティーカップを指先で弾いた。

その音で気づいたのか、モグハウスの管理人のモーグリが、冷めたお茶を入れ替えていく。その場の重い雰囲気を察してか、何時もは多弁なモーグリも無言だった。

「そんな事言ったってさ、ウメさん。そもそもアイツはどこにいるんだ?」
バルファルが新しいお茶を一口飲んで言った。
「それが分からないから、指名手配されてるんだろう。」

ウメが正論を口にする。

「バル、ウメ」

クルクが、2人を呼ぶ。

「何だよ?」

「どうしたクルたん。」

2人をじっとみて、クルクは言った。

「かぼちゃん。きっと困って助けを求めてくると思うんだ。とりあえず、それを待とうと思う。」

「いいのかよ?」

バルファルは納得いかない様子で言った。

クルクはニヤリと笑い、

「勿論、かぼちゃんに会ったら、まずゲンコツだよぅ。それは確定。」

ウメはふっと笑い、

「まあ、サンラーを心配させたんだ、それくらい当然だな。」

3人はカボスか らの連絡を待つ事になった。そしてそれは決して長い間でもなかった。




「で、一体君達は何をやってるんだ?」

場所は変わって、ここはジュノ大公国、下層の冒険者コウの家であった。

結局、罪狩りのミスラと、連邦魔戦士達から逃れたカボスとユファは、ユファの師匠であるコウを頼った。

と言うか、ユファの転移の呪文の転移先が、ジュノ下層に設定されていた為、必然的にそうなったと言える。

雪まみれで、ガチガチ震えていた2人は、交代で風呂に入り、今はバスローブに包まって、温かいミルクを啜っている。

そんな2人にコウは問いかけたのだ。

カボスとユファは目を見合わせた。先に目を逸らしたのはカボスで、これはユファを騙していた罪悪感が、そうさせたのかもしれない。

「とりあえず、あたしから話すね。」

ユファは、カボスから魔道書の論文を書く間、ライバルからの妨害を防ぐ為、護衛に雇われたと語った。そして敵が来てみれば、それはウィンダス連邦が差し向けたもので、カボスは、実は窃盗の罪で、指名手配されていた。有り体に言えば、自分は騙されたのだ。

憮然とした表情で、ユファに睨みつけられたカボスは、虫も殺さぬような笑顔を見せ、

「騙していて、ごめんよ。」

と言った。

何となく気勢を削がれたユファは、少し声のトーンを落として、

「ユズさん、いえ、カボスさん。とにかく納得のいく説明を頂けませんか。あたし、怒ってるんです。」

と言った。

3人は小さく火を起こした暖炉の前の絨毯に座り込んでおり、春の盛りでも冷える夜にも平気だった。火種が崩れるゴソッと言う音が響いた。

コウも胡座をかいて、その上に肘をつきながら、

「それは僕も聞きたいね。ユファの言う通り、カボス君は連邦から機密文書窃盗の指名手配がかけられている、君をどう扱うにしても、はっきりとした説明は欲しいな。」

と言った。

カボスは曖昧な笑みを浮かべながら、コウに目を向けた。

「1つ聞いておきたいんだけど、コウさんは魔導には詳しいかな?」

コウはカボスを見て、

「魔導。魔法という事だね。一口に魔法と言っても、黒魔法、白魔法、召喚、モンスターの魔法を使う青魔法なんてのもある。どれを指してるんだい?」

と言った。ユファは横から口を挟んだ。

「もしかして、あたしに説明した、次元・・・移動?とか、時間の修復作用とかの話?」

コウはユファの言葉を聞いて、微かに目を見開いた。

「ああ、なるほど。理論に詳しいかと聞いてるのか。どうも冒険者と言うのは、実際に使う技に意識が行きがちだが・・・まあ、一通りは収めているよ。」

「ユファちゃんの言った名称についてはどう?」

コウは肩を竦めて、

「何だか、こっちが問いただされてるみたいだな。平たく言うと、未来が変えられるとか変えられないとか、そう言う議論がしたいのかい?」

「・・・」

カボスは黙った。そしてちらりとユファを見る。

コウは再び肩を竦めて、

「ユファ。カボス君は僕と2人で話がしたいらしい。少し部屋に戻っててもらえるかい。」

「えーーー。なんでよ?あたしが一番の被害者なのよ!?」

なおも喚くユファをコウは何とか宥めて、部屋に追いやった。

「やれやれ、これでいいのかな。」

再び暖炉の前に座り込んだコウは、カボスに言った。

カボスは苦笑いをして、

「ずいぶんユファちゃんに信頼されてるんだね。ボクと話す時と、全然態度が違う。」

「まあ、割と長い付き合いだからね。で、話の続きは?」

カボスは暖炉の小さい火を見ながら、ぽつりぽつりと話した始めた。

自分と妹が、未来の世界から来た事。

未来の世界で、現在の世界に次元移動してきた妹は事故で死んでしまっている事。

妹とは別に、育ての親も事故で亡くなっている事。

妹と育ての親の事故を防ぎたいが、シャントット博士の魔導書によると、防げない可能性が高い事、それが時間の修復作用と呼ばれている事。

時間の修復作用を防ぎたいが、自分の力だけでは、難しい事。

「夢を見たんだよ・・・。」

カボスは言った。

「サンラーと、ピヨりん、クマちゃんが苦しそうな顔で死んでいくんだ。ああ、妹と育ての親の事なんだけどね。居ても立っても居られなくってさ。そのちょっと後で、シャントット博士の家で、役に立ちそうな魔導書を見つけたんで・・・つい。」

カボスは乾いた笑いを浮かべた。

「そんなとこ。まあ、信じられないよね。」

コウは頬杖をついて、カボスの話をきいていたが、おもむろに言った。

「いや、信じるよ。」

カボスは、聞き違えたかと思って言った。

「信じる!?信じるって言った?なんでだよ?こんな突拍子のない話のどこが信じられるんだよ!?」

「根拠がないわけじゃないんだが。」

コウは、戸棚の所に行き、幾つかの物を持ってきた。

酒瓶とグラス2つ。後は、変わった形をした石だった。

「まあ、一杯呑みなよ。」

コウは2つのグラスにブランデーを注ぎ、カボスに1つ渡した。

「ボクは酒は呑まないよ。」

カボスは断ったが、再度促されると、グラスを受け取り、用心深く一口すすった。

芳醇で強い香りが口に広がり、飲み慣れないカボスはむせそうになったが、何とか飲み込んだ。

ぼっと身体に火が入ったような気がする。

「うへ・・・」

思わず息を吐くカボスに、コウはニヤリと笑い、

「こういう時は、酒も良いもんだよ。で、この石なんだが。」

コウは、手の平サイズの曲がった、滑らかな石を見せた。

「これは魔法の石でね。勾玉と言うんだ。イロハと言う、未来の僕の弟子が持ってきたものだ。」

カボスは初めコウの言っている事が分からなかった。だが、意味が分かると思わず叫んだ。

「ボクらの他に、時間を越えてきた人が居るのかい!?」

コウは頷いた。

「正確にはいた、だ。彼女は未来の世界に帰って行ったからね。彼女が現在に来た理由は割愛するが、僕はこの石を貰ってから、時間の流れが見える様になった。」

「時間の流れが・・・」

コウはブランデーを一口飲み、つられてカボスも一口飲んだ。

「うん。カボス君の身に纏っている、時間の流れは他の人間とは違う。だから君の話を信じると言ったんだ。」

カボスは無言でもう一口ブランデーをすすった。

「だが、君の言う事を信じるにしても、やった事は悪手だったな。なにも魔導書を持ち去る必要はなかったんだ。シャントット博士は知識欲と研究欲の塊だ。今僕にした話を、シャントット博士にすれば、間違いなく何らかの助言や手助けをしてくれただろう。その魔導書を書いたくらいだ、博士が時間と空間の第 一人者さ。」

しばらく、沈黙が辺りをつつんだ。

カボスはぽつりと言った。

「待てなかったんだ、シャントット博士はとても忙しそうだったし・・・」

「待つべきだった。」

「自分で何とかできると思ったんだ・・・」

「出来なかったろう?」

カボスは無言になった。今までの疲れと、飲み慣れない酒を飲んだせいで、今にも眠り込みそうだ。

コウはそんなカボスを見て言った。

「とりあえず、詫びを入れに行くしかない。」

「詫びを・・・」

「まず魔導書を持ち去った事を謝って、訳を話そう。」

「許してくれるかな・・・」

コウは肩を竦めたが、がくりと頭を突っ伏して、既にカボスは寝入っていた。
コウは低く喋った。
「ユファ。」

部屋の入り口から、ユファがきまり悪げに進み出て来た。

「どこから聞いてた?」

「聞くつもりじゃなかったんだけど、気になって。声が低くてよく分からなかったな。時間を越えてきたとか・・・イロハさんと関係があるの?」

ユファも先程話に出てきたイロハと言う人物を知っている様だ。

コウは首を横に振った。

「直接関係がある訳ではないよ。それより、魔導書を持ってシャントット博士に謝りに行く事になった。」

えーと叫びかけて、ユファは手で口を塞いだ。

「いやだって、指名手配されてるんでしょ?捕まっちゃうんじゃ・・・。」

「そうさせないためにも、僕が付いていく。」
「じゃああたしも・・・って、足手まといか。」
「すまんな。」

「いいけど、あたしの時といい、コウは物好きねー。」

ユファは、実家から飛び出した後、行く当てもない所をコウに拾って貰ったので、そう言った。

ユファの半分呆れた口調に、コウは肩を竦めた。

「まあ、カボス君については、共感できるところもあってね。」

「どの辺が?」

「僕も、自分の才覚を鼻にかけて無茶をやった時期があったってことさ。」

ユファはびっくりして言った。

「コウがねぇ。まあ無茶って言えば、今でも無茶だけど。」

コウはユファの肩を軽く叩くと、

「話はお終いだ。ユファも疲れたろう。寝なさい。カボス君には枕と毛布をかけてあげてくれ。」

と言った。

「は~い。」

ユファは素直に返事をすると、枕と毛布を取りに出て行った。

カボスの方を見ると、ぐっすりと眠り込んでいる。

コウは軽く欠伸をすると、

「明日は忙しくなるな、僕も寝るか。」

そう言って、コウは自室に戻っていった。



翌朝・・・



「言ったよ。」

「言ってない。」

「言ったよ。」

「言ってないったら!」




コウとカボスは、それぞれ起きてきた後、ユファが作った朝食を食べた。カボスは昨日飲み慣れない酒を飲んだ所為で、軽く頭が痛かったが、ユファの作ったスープや卵料理は美味しく、少しづつであるが、食べる事が出来た。
問題はその後、食後のお茶を飲んでいると、コウが魔導書を持ち出した事を、シャントット博士に謝りに行くと言い出したのだ。そして昨日カボスもそれに了承したと。

それで、先のやり取りになった訳である。

疲れと酔いで、昨夜のコウとのやり取りをあまり覚えていないカボスは、当然シャントット博士に謝りになど行きたくなかった。

謝りに行く事を言ったか言わないかで、言い合いになった後、無言になったカボスは、

「いい加減、諦めなよカボス君。悪い事をしたんだから、謝らなくっちゃね。」

と、ユファに諭される様に言うと、流石に言い返した。

「相応の理由があったんだよ。それとボクの事を君付けで呼ぶのは止めなよ。ボクの方が年上だろ 。」

「あなたなんて、カボス君で十分よ。コウも付いてってくれるから、いきなり捕まる事も無いと思うよ。」

ユファにこう言われ、

「ユファの言う通りだな。それにここに隠れてたって、いつかは見つかるぞ。隠れてて捕まるのと、自分で非を認めて謝りに行くのでは、全然印象が違う。」

コウにも言われると、もはや反論出来なかった。

「・・・分かったよ。行くよ。」

カボスは渋々答えた。

「じゃあ、これを食べ終えたら、早速出発だ。」

コウが言うと、カボスは尋ねた。

「いいけど、連邦兵に見つからずに、シャントット博士の家まで行けるのかい。」

「君も知っての通り、連邦は登録してある君の魔力の波動を元に索敵をし ている。これを阻害するのが1つ。後は古典的に姿隠しと音消しの魔法をかけるだけだな。」

コウが答えると、カボスは懐疑的に、

「単純な方法だなあ。どうやって魔力の波動の検知を止めるんだい?」

と尋ねた。

「昨日の夜見せた勾玉だな。持っていると、護符のような効果がある。本来の用途ではないけど、今回は気配を消す為に使おう。」

「・・・その勾玉って、色々な効果があるんだね。上質な護符みたいだ。」

カボスの言葉にコウは肩を竦めて、

「カボス君。妙な事は考えるなよ。この勾玉は、時間の修復作用を護符で防ぐっていう君のアイデアには使えない。いや使えるけど、問題は魔力源と護符との魔力のやり取りだろう。護符自体は割と簡単 に作れるはずだ。別にこの勾玉じゃなくても良い。」

と言った。カボスは苦笑して、

「分かってるよ。」

と答えた。

ユファは腕組みをして、カボスを睨みつけ、

「恩を仇で返すような真似をしたら、許さないんだからね。」

と言った。

カボスは口を尖らせ、

「いい護符だなって言っただけじゃないか。信用ないなあ。」

と返した。この返事にユファは軽くびっくりして言った。

「・・・いや。カボス君、神経太いわ。びっくりした。」

コウは茶碗を置いて、立ち上がった。

「じゃあカボス君、そろそろ行こうか。ユファ、留守よろしく。」

カボスも渋々という感じで、立ち上がった。




コウとカボスは、クリスタルワープを使って、大胆にも石の区に直接転移した。天の塔のお膝元にある場所ではあるが、存外目立たない場所にある。

勾玉を持っているせいか、カボスがウィンダス連邦に入国しても、特に気づかれる事も無かった。

石の区の転移すると、コウはカボスを天の塔に続く橋の袂に誘導し、カボスに姿隠しと音消しの魔法をかけた。カボスには、後をついてくるように言い含めてある。コウはゆっくりとシャントット邸に歩き始めた。

桜の木は既に葉桜に変わっている。朝の光の中を歩いて行くと、時折天の塔へ出仕するタルタル達とすれ違う。だが、咎められる事もなく、暫くすると、コウと姿を隠したカボスは、シャントット邸にたどり着いた。

コウは迷うことなく、呼び鈴を鳴らす。数回鳴らしても反応がない。ここでシャントット博士が不在なら、ウィンダス連邦内のモグハウスで待つつもりだった。

だが、5回目に呼び鈴を鳴らした時、反応があった。

突如、空中に声が響いた。




「うるさいっ!何度も鳴らさなくとも分かってますわ。用があるなら入ってらっしゃい。鍵は掛かっていませんわ。」




そして、ぶつっと声は切れた。

コウは肩を竦め、言った。

「相変わらずだなあ。。まあ、でも在宅で良かった。」

そして、後ろを振り返り、何もない空間に向かって、

「じゃあ、行こうか。」

と促した。

シャントット邸の中は、カボスが訪れた時と同じで、雑然としてい た。そこら中に本の山と魔法装置の山がある。そしてシャントット博士の姿も見つからない。

コウは館の奥に向かって、すたすたと進む。姿を隠したカボスもそれに従う。

やがて一室の前に辿り着いた。

開いている扉をノックして、コウはシャントット博士の書斎に入った。

シャントット博士は、巨大なデスクの後ろに陣取り、眼鏡を掛けて本を読み耽っていた。書斎の中も、やはり本と魔法装置の山が、そこらにあった。

ノックの音を聞くと、シャントット博士は本から目を上げた。そしてコウをじっと見る。

「あら、ヘッポコ君じゃありませんの。冒険者がわたくしに何の御用?」

コウは一礼をして、口を開いた。

「ご無沙汰しております。シャン トット博士。今日はお詫びに参上致しました。」

シャントットは眼鏡を頭の上にあげてコウを睨んだ。

「お詫び?あなたにはいつぞやの冒険の依頼以降会ってないはず。何を詫びてくれるのかしら?」

「持ち出された魔導書についてです。」

コウの答えにシャントットの表情が剣呑になった。

「あ~ら。無関係のはずのあなたが、何を言ってるのかしらね。・・・本命は隠れてる2人目ではなくて?」

シャントットが指をぱちんと鳴らすと、姿隠しをかけた筈の、カボスの姿が露わになった。

「・・・」

カボスは白い顔をして、無言である。

シャントットは、腕組みをして、指でトントンと自分の腕を叩いた。

「あ~ら。子鼠じゃありま せんの。どのツラ下げてここに顔を出せたのかしらね。盗人猛々しいとは、当にこの事ねぇ。」

シャントットの口調は穏やかだったが、凄まじい怒りが感じられた。抑え切れない魔力が周囲に漏れ出し、かたかたと部屋全体が振動している。

カボスは持ち出した魔導書を鞄から出し、床の上に置いた、そして自身は本の後ろにうずくまり、額を床に擦り付けた。

正式な謝罪の姿勢である。ひんがしの国では、ドゲザーと言ったか。

カボスはそのままの姿勢で口上を述べた。

「今回の件では、大変ご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。魔が差したとはいえ、大変申し訳ありませんでした。お許しいただけるのであれば、何でもする所存です。」

「・・・」

シャントットは無言である。

無言の圧力にカボスが耐えきれなくなった頃、シャントットが口を開いた。

「・・・子鼠。幾つか尋ねたい。1つは何故その魔導書だったのです?ギルに変えるのなら、適当なものが他にあったはず。もう1つは、その魔導書には魔法鍵がかかっていたでしょう。今、魔導書を見れば鍵は外れているようだけれど、どうやって外したのかしら。」

「それは・・・。」

カボスは躊躇った。果たして自分の話は信じて貰えるのか。

コウが口をはさんだ、

「カボス君、僕にした話をシャントット博士にしてくれ。シャントット博士。少し長い話なので、カボス君は身体を起こしても良いですか?」

シャントットは肩を竦めて、

「まあ、良いですわ。とっとと話なさいな。」

と言って、許した。

カボスはとつとつと話し始めた。

自分が未来から来た事。

家族と友人を事故から助ける為の方策を探していた事。

その時たまたま役に立ちそうな魔導書をシャントット邸で見つけた事。

カボスは、話し終えると、再び元の姿勢に戻った。

「・・・」

シャントットは腕組みをして、考え込んでいる。

コウが口を開いた。

「博士から見て、カボス君はどうです?」

シャントットは、コウをちらりと見て、

「身に纏っている、時間軸の流れの事を言っているの?勿論わたくしにも分かりましてよ。未来か過去か、別の時間から来たのは間違いない。大体口の院 で声をかけたのだって、半分はその所為だったんですからね。で、この子鼠が言うには、未来のわたくしと交流があって、鍵の開け方を知っていたと。」

「嘘だと思われますか?」

コウが尋ねる。シャントットは腕組みを崩さないまま、

「話の辻褄は合ってますし、なにより当人の時間軸の流れが、論より証拠。まあ、言ってる事は本当の事でしょうね。だから許せというんですの、ヘッポコ君は?」

と言った。

「やり方が間違っていたのは、重々承知です。ですが、彼の大切な人達の命がかかっていたのです。そこを考慮して、罪一等を減じては?」

コウの言葉に、シャントットはしばらく無言だったが、やがて口を開いた。

「よござんす!この件はなかっ た事にしてもよろしい。」

思わず顔を上げるカボス。

だが、シャントットの言葉は続いた。

「けれども、何のペナルティも無しという訳にはいきませんわよ?示しがつきませんから。そして、この世の理は弱肉強食。弱い者は生きてはいけない。」

シャントットはビシリとカボスに指を向けた。

「子鼠!わたくしと勝負しなさい。わたくしに見事打ち勝つことができたなら、この件の罪は問いませんわ。むしろあなたの抱えている問題を解決する手助けをしてもよろしい。」

「けれども、わたくしに負けたら・・・」

シャントットはニヤリと笑い、

「一生、魔法の実験体として、飼い殺して差し上げますわ。多分、最初の実験で、死ぬと思いますけどね。」

オーホッホッホと高笑いをした後、シャントットは不意に興味を失ったように、

「時間と場所は、3日後、バルガの舞台でよろしくて?まあ、がんばんなさいな。」

と言ったきり、眼鏡をかけ直し、再び本に目を通し始めた。

思わぬ展開に呆然とするカボスを横目に、コウはごほんと咳払いをした。

「博士。カボス君は兵士でもなければ、冒険者でもありません。戦闘経験がほとんど無いんです。それを連邦最強の魔導師である博士と、単独で闘えと言われるのですか。」

シャントットは邪魔くさげにひらひらと手を振り、面倒くさそうに、

「では、冒険者の言うところの、パーティを組んでもよろしくてよ?1パーティは6人でしたかしら?まあ、何人で来 ても、わたくしには勝てませんけどね。」

と言った。

「今の言葉に間違いはありませんね?」

コウの言葉にシャントットは本から顔を上げた。

「このわたくしに二言はありません事よ。・・・ああ、ヘッポコ君も参戦するつもりですの。それは少しは楽しめそうですわね。」

シャントットは薄く笑った。やり取りを見ていたカボスは、その笑いに鳥肌がたった。

コウは表情を変えずに、

「後、カボス君の国際指名手配を解除していただきたい。色々と準備もありますので、外を歩けないのは困ります。」

と言った。

シャントットは肩を竦めて、

「別に構わないけれど、今度逃げたりしたら、地の果てまで追い詰めて、バラバラに解体して差し上げますわよ。よろしい?」

と言って、カボスをちらりと見た。

蛇に睨まれたカエルの如く、カボスはガクガクと頷く事しかできなかった。

これで、会見は終わりだった。最後に持ち出した魔導書をシャントット博士に手渡して、コウとカボスは館を後にした。




コウとカボスは、ジュノ大公国下層のコウの自宅に帰ってきた。

途中で事情を知らない兵士がカボスを拘束しようとする事態も起こったが、シャントット博士はやる事は素早く行うようで、国際指名手配は解除されており、連邦議会に問い合わせると、解放された。

2人はリビングのソファーにどっかりと座った。ユファはお茶を持ってきたが、どうなったか知りたい様子で、一杯だった。
「どうだった?2人で帰って来れたと言うことは許してもらえたのかな?」

ユファの問いかけに、コウは一口ウィンダスティーを飲み、

「ああ。許してもらえる事になった。」

良かった とユファが言うより早く、カボスが叫んだ。

「どこがだよ!?シャントット博士と勝負して勝ったら、だよね?ボクが闘って勝てる訳無いじゃないか!?」

そして、がっくりと膝に顔を埋めた。

ユファはその様子で察したようで、

「それは・・・コウ、カボス君殺されちゃうんじゃないの?」

ユファは引きつった表情で言った。

コウはもう一口、お茶を飲んだ。

「いやいや、パーティを組んでいいという、言質を取った。まだ勝敗は分からないよ。」

「そうなんだ。って事は、コウも闘うんだよね?」

ユファの問いかけに、コウは頷いた。

「ユファも手伝ってくれ。相手は連邦最強の魔導師だ。いい経験になるよ。」

コウの言 葉に、ユファは微妙な表情で、

「なんか、経験を得る前に殺されちゃいそうだけど・・・パーティの他の3人は?」

と言った。

コウはカボスを見て、虚ろな表情のカボスに、活を入れるように言った。

「カボス君!クルクさんに連絡を取ってくれ。きっと一緒に闘ってくれるよ。」

カボスはのろのろとコウの方を見て、こくりと頷いた。




クルク、バルファル、ウメの3人がコウの自宅を訪れたのは、カボスがクルクに連絡を取ってからすぐだった。

コウとユファが出迎える。挨拶を交わした後、クルクは2人に、

「コウさん、ユファちゃん、ゴメンね~。ウチの鬼っ子が迷惑かけて~」

とすまなさそうに謝った。

コウとユファは 、

「いや~。クルクさん、僕も冒険者なので、色々巻き込まれるのには慣れてます。ユファがバルに助けてもらった事もあるし、お互い様ですよ。」

「あたしも平気ですー。」

と、それぞれ笑いながら答えた。

そのまま、バルと話し始める2人を背にクルクはつかつかと、ソファーに座り込んでいるカボスに近づいた。

ぼんやりしていたカボスは、その気配ではっとし、クルクの方を見た。

「かあさ・・・クルたん、来てくれたんだ・・・」

言い終わる前に、カボスはクルクに胸倉を掴まれていた。掴み上げられ、顎に思いっきり右拳を叩き込まれる。

空中で、身体が3回転はしただろう。壁に叩きつけられたカボスは、その一発で気を失っていた。
思わず呆然と見守る皆の視線も気にせずに、クルクは、ぱんぱんと手を払った。
「あ~。すっきりしたなぅ~。とりあえずこれでオシオキ完了。で、これからどうするの?」

初めに我に返ったのは、バルファルだった。やはり、クルクのやり方に慣れているせいだろうか。

「ちょ・・・クルク、やりすぎだぜ!カボス死んだんじゃないのか?」

ユファがカボスの元に走り寄る。

「・・・バル、大丈夫。息はあるよ。」

最初の挨拶をしただけで、黙っていたウメが口を開いた。

「今のに、サンラーの分も入れておいても良い。これくらいは当然だな。」

「・・・えと、皆さん良ければ座って下さい。ユファ、カボス君の介抱を頼むよ。」

コウの 言葉で、皆は思い思いの場所に腰を下ろした。ユファが改めて、皆にお茶を配る。

カボスは気絶しているので、コウが、かいつまんで経緯を話した。もちろん、カボスが未来から来たというくだりは、ぼかしてある。カボスが懸念した通り、多くの人間がそれを知ることで、未来に起こる出来事に何らかの影響があるかもしれないのである。最も時間の修復作用があることを考えるなら、未来は定まっていると言っても良いのだが、本当にどうなるかは誰にも分からない。何かを言った言わないで、コウは危ない橋を渡るつもりはなかった。それでも皆は興味深げに話を聞いた。

話が終わった後、皆は暫し無言だったが、バルが口を開いた。

「へぇ。サンラーとピヨとクマさんが事故に遭うっ て夢を見たからって・・・予知夢ってやつかい?でも、カボスが他人を気にするヤツだとは思わなかったな。」

カボスが未来から来た事は省いて、予知夢を見た事にして、話をしている。

「サンラーを守ろうとしたのは、評価できるな。盗みはダメだが。」

ウメが言った。ウメはカボスの妹のサンラーから聞いて、2人が未来から来た事は知っているのだが、その事については何も言わない。

クルクは腕組みをして言った。

「そうだよぅ~。ドロボウはウソつきの始まり。ダメな事はダメなんだから。」

バルファルが突っ込む。

「・・・クルク。嘘つきは泥棒の始まりだろ。逆だよ逆。」

「あれ、そうだっけ?」

「シャントット博士って強いんですよね?勝てるのかなあ。」

ユファが、恐らく皆が考えている事を発言する。

「いや、6対1なら勝てるだろ。」

バルファルが当然のように言った。

その言葉にクルクとコウは首を横に振る。

バルファルは驚いたように言った。

「え?あのオバサンって、そんなに強かったっけ。」

クルクとコウが口々に言った。

「クルク、アルタナ様の力で過去に遡って、水晶大戦に参加したんだけど、確か1人で獣人一個師団を壊滅させてたような・・・。ってバル、女性をおばさん扱いしちゃダメだなぅ~。」

「シャントット博士は黒魔導師なのに、空鳴拳や連続魔を使った事があるそうだ。正に規格外の存在だね。魔法においても当代随一。連邦最強と言う が、ヴァナ・ディール最強と言い換えても差し支えないと思う。」

ちなみに空鳴拳はモンクの技、連続魔は赤魔道士の技である。

バルファルはぽかんと口を開けた。

「な、なんだよそれ?あのオバサンそんなに強かったのか?一個師団って・・・何人だよ!」

またも2人は口々に言う。

「だからおばさんって言っちゃダメだって。」

「獣人の編成は人間のそれとは異なるけど、1000人単位だろうね。」

「マジか・・・」

そう言ってバルファルは絶句した。

ユファが憂鬱そうに言った。

「ねえコウ。あたし達、本当にシャントット博士に勝てるのかなあ。」

「方法が無いでもない。」

コウの発言に皆が振り向いた。

「 ホントかよ、オッサン!」

「えぇ~。クルクも知りたいな。」

「どうやるのコウ?」

「ほう。」

と、口々に問いただした。

「カボス君が要になる。気がつくまで、ちょっと待っていようか。」

コウがそう言うと、皆は カボスが? と訝しんだが、暫くの間休憩時間となった。

カボスが目を覚ますのに、小一時間程の時間が経った。その間皆は、雑談したり、お茶やお菓子を摘んだりしていた。

その内に、う・う~んと言う声がして、カボスが目を覚ました。カボスの頭の下には枕が敷いてあり、クルクに殴られた顎には氷嚢が当ててある。

「な、何が・・・あ痛たたた・・・。」

カボスは起き上がろうとして、顎を押さえて呻いた。

「ちょっと。まだ寝てた方がいいよ。ほら氷で顎を押さえて。」

ユファが甲斐甲斐しく世話をする。

「ありがとうユファちゃん。・・・クルたんに殴られたのか。酷いよクルたん。」

カボスが恨みがましそうに言った。

クルクがカボスの前に 、仁王立ちになり、

「なんだって?ゲンコツ1つじゃ足りなかったのかなあ。」

と凄むと、カボスは、

「・・・スミマセン。」

と小さく謝った。

「カボス君、大丈夫かい?凄かったなあ。空中をぐるぐる回転したよ。」

コウが慰めとも感嘆ともつかない言葉を口にすると、カボスは、

「・・・大丈夫だよ!・・・です・・・」

と噛み付く様に言いかけて、クルクに睨まれて言い直した。

「で、オッサン。シャントット博士を倒すのにカボスが要になるってどういう事だよ。」

バルファルが話を元に戻す。

カボスもどういう事だ・・・と言う様に、コウを見た。

「それはね・・・」

コウは、シャントット博士と闘 う戦術を説明し始めた。




5人はコウの説明が終わった後、暫く無言だった。

「ふ~ん。」クルクは闘い方については、あまり興味がなさそうだ。

「それでイケるのか?でも正面切って闘っても勝てないのか・・・。」

バルファルは不審な表情を浮かべている。

「前衛を勤めればいい訳だな。やってみよう。」

ウメは無表情に、了承した。

「あたしは、作戦とか考えられないから、それで良いよ。」

ユファはこくりと頷いた。

「・・・」

カボスは無言だった。

コウはカボスを見て、

「カボス君は大丈夫かな。さっき言った呪符が作れるか作れないかで、話は全く変わってくるんだが。」

と尋ねた。

カボスは躊躇うように、視線を宙に彷徨わせ、

「やってみるよ。何枚くらいあったらいいんだい?」

と答えた。

「多ければ多いほど良いけど、最低でも300枚くらいは要るかな。」

コウの答えに、カボスはまた考え込み、

「分かった。時間がないから早速取り掛かりたいんだけど、材料とか大丈夫かな。」

と尋ねた。

「専用の用紙とインク、大量のクリスタルは準備した。他に要るものがあったら言ってくれ。」

「とりあえず、それだけあれば呪符は作れるよ。」

カボスの返事を聞いたコウは、ユファにカボスを作業場に案内するように言った。

ユファはカボスを連れて、地下室に向かった。

コウは冷めたお茶を飲み干し、
「さて、カボス君には頑張って貰うとして、クルクさん達は、自分の役割は把握されましたか?」
と言った。

「思いっきり、攻撃すればいいんだよね?。」とクルク。

「後、シャントット博士が大きい魔法を1発撃ったら、挑発だっけ。」

とバルファル。

「攻撃が当たると良いけどな。」

とウメ。

コウは3人の言葉に頷き、

「3人は前衛、ユファは回復、僕は支援と回復をします。カボス君は攻撃の最後の締めをしてもらいます。感覚的に、勝算は五分五分無い気がします。頑張りましょう。」

と言った。

「負けたら、魔法の実験体だもんねぇ。あれ?それはカボちゃんだけだっけ?」

クルクの言葉にバルファルはげんなりした様 子で言った。

「カボスだけにしてくれよ・・・カボスが原因なんだからさ。」

「どの道負けたら、サンラーが悲しむ。最善を尽くそう。」

とウメ。

それぞれ言葉は違ったが、逃げるものはいなさそうだった。

闘いの当日になるまで、皆はコウの家で過ごした。鍛錬、連携、フォーメーション。カボスはひたすら呪符の作成。3日という時間はあっと言う間に過ぎ、遂に闘いの日を迎えた。




シャントット博士との闘いの場所になる、バルガの舞台は、ヤグード族の宗教都市ギデアスの最奥に位置する、武舞台である。連邦とヤグード族は敵対関係にあるが、盟約によりある種の儀式を行う際は、利用できる事になっている。もともとその位置が、風水的にとても 意味のある場所の為、敵から一時的にでも借り受ける様な事を行っている。

そのバルガの舞台に6人は立っていた。少し離れた所に、シャントット博士が退屈そうに佇んでいる。そして、武舞台の脇には、立会人として、5院の各院長達がしつらえられた席に腰を降ろしていた。

トスカポリカ、アジドマルジド、コルモル、ルクスス、アプルル。

そうそうたるメンバーだ。ヤグード族が協定を破り、彼らを抹殺してしまえば、連邦は大ダメージを受けるだろうが、逆にヤグード族を返り討ちにしてしまうかもしれない。それほどの実力を持った魔導師達だった。

代表で、口の院のアジドマルジドが武舞台に上がる。そして口上を述べた。

「これより裁きの闘いを行うものとする。 被告は口の院元研修生カボス。彼を含むパーティが、原告シャントットを退けた場合、被告の罪は問わないものとする。判定は我ら五院の院長が行う。異議があるものは名乗り出よ。」

五院の院長達は何も言葉を発しなかった。

カボス達も黙ったままである。

シャントットだけが、

「早く始めなさいな。時間が勿体無いですわ。」

とあくび混じりに、言った。

アジドマルジドはそれを無視して、

「それでは闘いを開始せよ!」

と戦闘開始を告げて、武舞台を降りた。

クルク、バルファル、ウメの3人の前衛は身構えた。

カボス、コウ、ユファの後衛は後ろに下がる。

シャントットは彼らに向かって、ひらひらと手を振り、

「先に強化しておきなさいな。ハンデですわよ。ハンデ。」

と言った。

「そうですか。それでは遠慮なく。」

コウはそう言い、ユファに指示を出した。

「ユファ。物理防御と魔法防御。」

そして自身は、神獣の召喚を始める。

「・・・月の神獣たる、神なる獣、顕現して我らを守護せよ・・・」

神獣フェンリルが召喚され、ユファが唱えた物理防御と魔法防御の魔法が、青い光と緑の光を放ちパーティを包む中、フェンリルの守護の咆哮が響き渡る。

パーティの身体能力全般と命中・回避が上昇する。

ユファの魔法によって、物理防御と魔法防御が上昇する。

コウは続いて、風の神獣たるガルーダを召喚して、攻撃速度上昇の魔法をか ける。

最後に土の神獣のタイタンを召喚して、ダメージ軽減の魔法をかけた。

コウは杖をくるりと回して、石突きを武舞台につけた。

「お待たせいたしました。では、行きますよ?」

シャントットは手を口にあてて、高笑いをした。

「オ~ホッホッホ。フェンリルを召喚するとは小賢しい。多少は歯ごたえがありそうですわね。かかってらっしゃい!」

コウは前衛の3人に向けて叫んだ。

「クルクさん、バル、ウメさん、頼みます!」

「まかせて~。」

「おう!」

「了解だ。」

三者三様の返事と共に、シャントットに攻撃を仕掛けていく。

だが、その結果は驚くべきものだった。

シャントットは、クルクの拳をいなし、バルの両手剣はかわし、ウメの二刀流の剣は手に持った杖で受け止める。

攻撃が当たらないのである。

そのうちに、シャントットは反撃を開始した。

クルクの蹴りをかわしざま、ボディに拳を突き立てる。

バルの渾身の一撃を、バックステップでかわすと、火魔法を放つ。

ウメは、剣撃の合間に、杖の一撃を叩き込まれた。

3人は、それぞれ後方に吹き飛ばされた。

ユファが慌てて、回復魔法を順にかけていく。

バルファルは両手剣を杖にして、立ち上がった。身体からは火魔法を食らったせいで、ぶすぶすと煙を上げている。

バルファルは呆然として、

「信じらんねー。3対1だぜ?攻撃が当たりもしないなんて・・・。」

と呟いた。

「4対1だ。」

コウが光の神獣カーバンクルを召喚して、攻撃を開始した。

前衛の3人は、再びシャントットに対して、波状に攻撃を加えていく。

攻撃する頭数が増えたせいか、少なくともシャントットは反撃は出来なくなった。それどころか、何回かに一回は、攻撃が当たり始めていた。クルクの拳が顔を掠め、ウメの剣がシャントットの服を切り裂く。

「む。」

シャントットは顔をしかめた。

更に、ウメが攻撃回数増強の魔法を自らにかけ、剣撃の嵐の様な攻撃を仕掛けた。シャントットの杖が、真っ二つに切断される、だがその代償にウメは火魔法を食らって吹っ飛んだ。

その間に、クルクとバルファルの準備は整っていた。

「行 くよ!」

「おう」

掛け声と共に、ウェポンスキルと呼ばれる必殺技が発動する。

四神演舞と呼ばれる、白虎・玄武・青龍・朱雀を模した攻撃が決まっていく。

続いて、バルファルがレゾルーションと言う多段攻撃を叩き込んだ。最後の、から竹割りの際に三日月型の紋様が浮かび上がる。

光連携が決まった。シャントットの頭上に眩い光のエフェクトが浮かび上がる。

そこへ、カーバンクルを帰還させ、雷の神獣たるラムウを召喚していたコウの、雷撃の嵐の魔法が叩き込まれる。マジックバーストと呼ばれる、魔法攻撃力を倍加させる効果がかかり、シャントットの身体を雷が貫いた。

「やったか!?」

もうもうと上がる土煙の中、バルファルが状況を見極めようとする。
だが・・・
クルクとバルファルの身体を、火の魔法が包み込んだ。
「きゃっ」
「うわっ」
悲鳴が上がり、クルクとバルファルが崩れ落ちる。
煙の中から現れたのは・・・
クルク達の攻撃で、多少のダメージを喰らったものの、ぴんぴんしているシャントットの姿だった。とは言え、そのプライドは傷つけられた様で、クルク達に向かって叫んだ。
「このわたくしに傷をつけるとは、なんて真似を!・・・ぶっ殺す!」
そして、ウメに切断された杖の半分を投げ捨て、呪文の詠唱を始めた。
「ヤバい。」
コウはラムウを帰還させ、新たな召喚獣の召喚を始める。
シャントットの呪文の詠唱が終わりに近づく、前衛の3人は、ユファが回復魔法を唱え続けているが、まだ動けない。
「・・・右の龍からは炎、左の龍からは風。双頭龍の力の息吹!合体魔法ファイエアロガ!」
同時に、コウの召喚も、終了した。
「・・・全てを守護する大いなる盾、顕現せよ!機神アレキサンダー!」
クルク達の周りに炎の嵐が吹き荒れる。
しばらくの間、バルガの舞台はごうごうと炎に包まれていた。
シャントットはふわりと空に浮かび上がった。
「・・・ちょっとやり過ぎてしまいましたわね。。これでは全員ケシズミに・・・」
シャントットがぽつりと呟く。
だが炎が収まってくると・・・
その中からは、白い結界に護られた 、クルク達の姿があった。
「!?」
シャントットは驚いた。今、自分が使った魔法は、100人単位の人間を生き絶えさせる力があった筈である。それが、ほぼ無傷とは・・・
「・・・絶対防御ですわね。」
機神アレキサンダーが発現する能力で、加えられたダメージをほぼ無効化する。
「しゃらくさい。」
シャントットは次の攻撃をどうするかを思案する。そこへクルク達から声をかけられた。
「博士~。攻撃がショボいよ~。」
「まあ、モテない女は、魔法もイケてないってか。」
「本当の事を言ってやるな。可哀想じゃないか。」
クルク、バルファル、ウメのコントの様な口撃に、しばし呆然としたシャントットだったが、こめかみに青筋が浮き上がった。
「・・・死にたいようですわね・・・では、最大最強の魔法を食らわして差し上げますわよ!!」
と再度呪文の詠唱を始めた。
後方のコウは、カボスから魔力回復薬を数本貰い、ガブ飲みしていた。
薬を飲み終わって口を拭い、カボスに話しかける。
「カボス君。大体予定通りだ。次の博士の攻撃が終わったら、いよいよ出番だよ。」
カボスは白い顔で、頷いて言った。
「良いけど、博士は最大最強の魔法って言ったよね。この結界耐えられるの?」
コウは肩を竦めて、
「分からない。理論的には耐えられる。何せ神の力の顕現だからね。だけど、ヴァナ・ディール最強の魔導師のこれまた最強の魔法なんて受けた事が ないから、なんとも・・・」
と言った。
「分からないって、耐えられなかったらどうなるのさ!?」
カボスは叫ぶように言ったが、コウは冷静に答えた。
「結界が耐えられなければ、全員息絶える。お、そろそろ詠唱がおわるぞ。」
その言葉の通り、シャントットの魔法の詠唱は終わりつつあった。
「・・・全ての物質に破壊を。全ての生物に死を。吹き荒れよ魔力の嵐!」
そしてシャントットは、魔法を発動させた。


「デス」




黒球が白い結界を包み込んだ。

暫く、黒と白が拮抗していたが、やがてガラスの砕けるような音と共に、結界が砕け散った。

だが、闇魔法デスもその効果を失い、消え失せた。
「ちっ。」
シャントットは舌打ちをした。空に浮かんでいた身体が緩やかに落下する。全魔力を使い切ったのだ。

間髪入れずに、コウが叫んだ。

「クルクさん達!頼みます!」

ユファの回復魔法である程度回復していた、前衛の3人は、攻撃を再開する。だがその動きは鈍く、シャントットは全て攻撃を躱していた。

このままだと自然に、シャントットの魔力は回復してしまうだろう。

コウは振り向いて、

「カボス君。出番だ。」

カボスは頷き、背負っていた鞄を下ろして、開けた。中には呪符がぎっしり詰まっている。

コウは、最後の魔力を使って、風の神獣ガルーダを召喚した。吹き荒れる風と共に、半透明で緑色の有翼の神獣が姿を現した。

カボスはコウを見つめて、

「呪符・・・効くかな?」

と言った。

コウは頷いて、

「自分の力と技を信じるんだ。いくよ。」

と言い、ガルーダに合図を出した。

ガルーダの翼が羽ばたき、突風が巻き起こった。その風に煽られて、呪符が次々と舞い上がる。

制御された風に乗った数多くの呪符は、とぐろを巻いてシャントットの方へ向かう。それは白い龍の様だった。




格闘だけで、クルク達を退けたシャントットは、一息ついた。見るとクルク達3人は武舞台の床に倒れ伏している。回復役のユファも魔力切れの様でうずくまっている。

「今度こそ、全員ぶっ殺して差し上げますわよ。」

そこへ突風が吹いた。思ず上空を見ると、白い紙片が次々とシャントットの方へ押し寄せてくる。

数枚がべたりべたりとシャントットに張り付いた。

「なんですの!?これは!?」

剥がそうとするが中々剥がれない。ようやく破りとると、魔力吸収の呪符のようだった。その間もシャントットの身体中に呪符が張り付いてくる。

「小賢しい!」

シャントットは相手の策が読めた。数百枚の魔力吸収の呪符を貼り付ける事によって、魔力切れを起こさせ、気絶させる腹積りなのだ。

シャントットの前方。コウの後方で、カボスが呟いた。

「吸着式魔力吸収呪符陣・・・っていう感じかな。」

シャントットの右手から炎が巻き起こった。数十枚の呪符が灰になるが、シャントットはそれ以上魔法を発動させる事ができなかった。

闇魔法デスによって、消費した魔力は未だ回復していなかったのだ。そうでなければ、範囲攻撃魔法で呪符の全てを焼き払えだだろう。

おまけにこの呪符は、磁石のように魔力を発する対象に張り付き、対象の魔力を外に発散させ続けるので、さしものシャントットもたまったものではなかった。

やがて、呪符が全て張り付き、白いダルマの様になったシャントットは、魔力が0になって、気絶して武舞台の上でばたりと倒れた。

最後に武舞台で立っていたのは、カボスとコウだけだった。

やがてアジドマルジド院長が、武舞台に上がり、勝敗を宣言した。




「勝者。カボスチーム。よって被告カボスの罪はなかっ たものとする。」




初夏を思わせる日差しが、皆を照りつけていた。







【エピローグ】

吟遊詩人達が奏でる音楽と共に、何組もの男女のカップルが緩やかなダンスを踊っていた。

ここはジュノ大公国の中の空中庭園、ル・ルデの庭。

オーロラ宮殿の前の広場を借り切って、感謝祭が行われていた。冒険者互助会主催のものである。

料理や酒もふんだんに並べられ、それをも目当てに、人が多数集まっている。

毎年恒例のこの祭りには、多くの冒険者が集まる。

クルク一家や、コウやユファも感謝祭に参加していた。

バルファルはクルクと踊りながら、話しかけていた。バルファルは緊張した面持ちでクルクを踊りに誘ったものだ。

「ホント、大変な騒動だったな。」

バルファルの腕の中で、クルクがくるりと回る。

「まあ、一件落着したから良いんじゃない~。」

とクルクが答えた。




そう。事件は一応収束を見たのだ。

闘いの後、呪符を剥がされ、意識を取り戻したシャントット博士は、ぶすりと言った。

「一杯食わされましたわ。3人の前衛の挑発もアレキサンダーの絶対防御も、デスを使わせる前振りだったとは・・・ヘッポコ君が考えましたの?」

コウは頭を掻いて、言った。

「恐縮です。ですが、カボス君の呪符が無ければ、この作戦は成り立たなかったでしょう。」

続けて、

「カボス君は、有望な若手です。行いに誤りはありましたが、お許し願いませんか?」

シャントットはその言葉に、ふんと鼻を鳴らして、

「・・・確かに約束は約束。わたくしが負けた以上、罪は許します。」

と言い、カボスを横目で睨んだ。

思わず、固まるカボスを見て、

「子鼠。修行する気はありまして?」

カボスは訳も分からずに頷いた。

「よろしい。多少の根性と才能はある様です。では直弟子になる事を許します。精進しなさい。あなたの問題は、一緒に考えましょう。」

とシャントットは言い、服のホコリをぱんぱんとはたいた。

「あらあら。いいオンナが台無しですわね。」

と言って、転移魔法を使って、自宅に帰って行った。激戦を行った直後にも関わらず、平然とした様子だった。

呆然とするカボスの肩を、アジドマルジド院長がぽんぽんと叩き、

「死なない様に気を付けろよ。凄くシゴかれるぞ。」

と言った。

このやり取りを聞いて、5院の院長達に治療を受けていた、他のメンバーにも、この事件は終わったという空気が流れた。




クルク達の横では、ウメとサンラーが、踊っていた。クルクも照れくさそうだったが、サンラーはガチガチだった。何回もステップを踏み間違えて、ウメの足を踏む。

それを壁際で見ていたカボスは肩を竦めた。

(やれやれ。サンラーのヤツ、ダンスの練習くらいしとけよな。)

事件が終わったあと、サンラーには散々なじられたものだ。指名手配までされては当然ともいえるが。

そうは考えても、カボスのサンラーを見る目は暖かかった。なにしろ、事故を回避するきっかけが掴めたのだ。

なんだかんだ言っても、ヴァナ・ディール最高の魔導師の一人、シャントット博士の下でなら、何らかの解決法が見出せれるだろう。

(だけど、急がなくっちゃな。)

いつ何時、家族や友人達に死に至る事故が降りかかるかも知れないのである。この祭りが終わったら、早速研究に取り掛かるつもりだった。

目を移すと、コウとユファが踊っている。ユファの警戒心のない笑顔がコウに向けられているのを見ると、つまらなくなって、

(ちぇ)

と内心悪態をついた。

そして、手に持ったグラスから、カクテルを一口飲む。コウにブランデーを飲まされたあの夜から、少しは飲める様になった様だ。




「おい。」




不意に横合いから声をかけられた。見るとドレスアップしたミスラが立っている。そのミスラは・・・

「罪狩り!」

カボスは小さく叫んだ。そう言えばコイツの存在を忘れていた。またしてもボクを捕縛しようとするのか。

罪狩りのミスラは一呼吸おいて、

「カボス。シャントット博士の計らいで、とりあえずミスラ本国からの指令は、保留となった。でも忘れるなよ?今度同胞に手を出したら、タダではおかない。」

スカリーMのその言葉に、カボスはくすりと笑った。正にシャントット博士の仕事は完璧だ。罪狩りのミスラの件まで、手を回して貰えるとは。
カボスの笑いを勘違いしたのか、スカリーMはやや顔を赤くして、

「この間は遅れを取ったが、今度機会があれば目にもの見せてくれる!」

カボスは訝しがった。コイツは何を言ってるんだ?

「ああ・・・」

カボスは得心した。このミスラはウルガラン山脈で、サイレドンの黒焼きに飛びついた事を恥ずかしがっているのだ。

むっつりと口をつぐむスカリーMを見てカボスは、

「可愛いとこあるじゃない。どう?一曲踊らない?」

と誘った。

スカリーMは唖然としてカボスを見て、

「・・・お前、全然懲りてないな。」

と言った。







カボスはスカリーMに手を差し出して、ウィンクした。

にっこりと 笑って。







おしまい。


**:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:**


♪ コウさんの小説リスト ♪


第1弾 : 「とある出逢い」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第2弾 : 「とある出逢い 2」


第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第4弾 : 「ねがい」


第5弾 : 「ああ、ばれんてぃおん」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第6弾 : 「とりははばたけるか」







いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
ポチッと押してくれたら嬉しいな♪



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【2016/05/23 23:59】 | # コウさんの小説
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やっぴ~、クルクだよ(・▽・)ノ

今日は、コウさんが書いてくれた小説を紹介しま~す★
第6弾の今回は、なんとうずらが主人公なのです(*´▽`*)

クルク一家のトラブルメーカー、誰よりも恋に憧れて玉の輿を夢見ているうずらが、どんな事件に巻き込まれるのでしょう!?

それでは、はじまりはじまり~♪



**:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:**

「 とりははばたけるか 」


北方の国サンドリア。クォン大陸の北に位置するこの国にも、夏の日差しが照りつける。だが南方の国々に比べると、日差しは幾分弱く、まだ過ごしやすいと言えるだろう。

そんな夏の日、夕暮れ近くの南サンドリアを歩く人影があった。ヒューム族の女性で、すらりとした容姿、整った顔立ち、豪奢な金髪で、中々に人目を引く女性だった。本人もそれを意識しているのか、何処か気取った感じが見てとれる。服装は脚を見せつける様な青いミニのドレスだ。髪に挿したちょっと無骨な骨製の髪飾りが変わったアクセントになっている。
独特な拍子が聞こえたので、彼女が見ると天涼祭が行われていた。飾りつけの向こうに余興のヒロインショーが見て取れる。彼女はヒロインショーのアイドルに憧れを持っていた。
足に紙が絡みついたので拾って見ると、探し人のチラシだった。そういえば、最近若い女性が失踪する事件が多発しているらしい。彼女は紙を丸めると、その辺にぽいっと捨てた。
そんな彼女は、内心こんな事を考えていた。
(陽が落ちてないとまだ暑っついわね〜。面接するならもうちょっと時間をずらせってーの。あ〜も〜帰って冷えたエールでも飲みたいわ〜。)

・・・彼女の名前はウズラ。
一応、冒険者互助会に所属する冒険者ではあるが、冒険者としての活動は行っていない。これは冒険者と言われる者達の中に何割かいるのだが、互助会に所属していれば、物品の供与や、様々なサービスが受けられる為、本業の冒険者以外の者も、入会するケースがある。多くは難民や貧困層だ。勿論入会するにも審査はあるし、互助会への毎月の報告もあるので、誰でもという訳ではない。
ウズラはこれをパスした。
入会審査は冒険者としての適性を見るもので、彼女はシーフとしての適性ありと判断された。
毎月の報告としては、これは言わば裏道的な物になるが、通常であれば何々の宝物を見つけたとか、互助会指定の冒険を踏破したとか言う報告になるのだが、他の冒険者の手伝いでも良いという規定になっている為、ウズラは他の冒険者の物品の管理をしていると報告をしている。
この、言わば「倉庫番」は雇う冒険者によっては実入りが多い場合もある為、なり手はそれなりにある様である。

ウズラがこういった道を選んだのは、彼女が水晶大戦の難民である事にも起因している。子供時代は弟と一緒の生活だったが貧困を極め、満足な教育も受けられなかった。半ば寄生とも思われるこの生活になったのも致し方ないとも言えるだろう。
勿論、冒険者になったからには一流を目指す道もある。
だが、ウズラは切った張ったは苦手だった。幼い頃、両親を獣人に惨殺されたトラウマかもしれない。また、魔術の適性も無いようだった。だから冒険者としては、倉庫番の道しか無いように思えた。

そんなウズラではあったが、本人としては別に今の自分の生活を卑下している訳ではなかった。むしろ過去を考えれば、上手くやっていると考えている。
今のウズラの雇い主はクルクと言う、タルタル族の女性だ。冒険者として中々のやり手らしく、何人も倉庫番を雇っている。
倉庫番同士では連帯感から友情らしきものも芽生え、弟も雇って貰えた。月々の給与もそこそこあるし、互助会からのサポートもある。彼女は希望していた「安定」というものを手に入れたと思っている。

ウズラの昔からの、そして今の目標は「玉の輿」だ。厳しい子供時代に垣間見た貴族の生活に非常な憧れを持っていた。
子供時代のある日、ようやくその日の夕食を手に入れたウズラは、貴族の屋敷の前を通りかかったのだ。馬車から降りる、夫人と子供達。美しいドレスを身に纏い、幸福そうな笑顔で笑う夫人の顔がウズラの目に焼き付いた。そして夫人の横に立つ貴族の夫。夫人をエスコートするその男性は容姿・物腰・態度は全てにおいて完璧に見えた。
ウズラは子供心に誓ったのだ、自分もいつかこんな生活を手に入れて見せると。
その為に出身地のバストゥークからサンドリアに移ってきた。
長い歴史を持つサンドリアは、工業国家であるバストゥークとは、やはり一味違った。そのサンドリアでウズラは、辛い恋を経験する事になったのだが、それはまた別の話だ。

倉庫番の仕事のお陰で、食べる事には困らなかったが、目標である「玉の輿」はさっぱりだった。外見はそれなりなので出逢いは割とあるのだが、ウズラが頭に描いているような男性は現れなかった。
そんな折、王宮の人間もお忍びで来ると言うバーで、求人が出ているという噂を街で耳にした。接客は嫌いではないし、何より思い描いている男性に出逢えるかも知れない。
倉庫番の仕事は、実入りの割には暇な仕事であるので、ウズラは求人に応募する事にした。

そんな訳で、ウズラは目当てのバーの前に立っていた。場所は、南サンドリアの競売所を東へ進んだ騎兵通りのただ中にあった。下町の喧騒の中で、その店はひっそりと佇んでいた。石造りの一軒家で、家自体にはさして特徴がない。左右にも同じような家が並んでいる。ただ入り口の扉の上には小さな看板があり、「ランコントル」と刻まれている。目的の店の様だ。
(割と地味よねぇ。ホントにこんな店に貴族がくるのかしら)
ウズラは疑問に思ったが、ここまで来て帰るのも馬鹿らしい。ウズラは扉に付いていたノッカーで扉をノックし・・・返事がなかったので、バー ランコントルの扉を開けた。
店に入って、扉を閉める。
まだ開店前らしく、中は薄暗かった。
幾つかのテーブル席があるフロアと、右手にバーカウンターが何とか見える。
「何か御用かな?」
不意にバーカウンターの奥から声がした。
ウズラはその声を聞いて、文字通り飛び上がった。人の気配がしなかったから、びっくりしたのだ。
バーカウンターの下から人が立ち上がり、ウズラの方へ近づいてきた。
見ると初老のエルヴァーン族の男性である。手にはモップを持っていた。
開店前の掃除をしていたらしい。
ウズラは胸に手を当てて動悸を抑えながら、頭を下げて挨拶をした。
「あ・・あたしウズラといいます。求人の件でご連絡していました・・・」
ウズラがそこまで言うと、初老の男は笑って頷いた。
「これはいらっしゃい。驚かせて失礼したね。こちらへどうぞ。」
男はモップを脇に置き、テーブルの上に上げてあった椅子を2つ下に降ろし、その内の一つをウズラに指し示した。
ウズラは会釈して、椅子の一つに腰を降ろした。男もテーブルを挟んで椅子に座る。
ここでウズラはようやく落ち着いてきた。薄暗い店内にも目が慣れて、周りの様子も目に入ってくる。
まず目の前のエルヴァーンの初老の男は、白いシャツに蝶ネクタイ、革のベストとズボンといった、如何にもバーのマスターに見える格好をしていた。と言うかそうなのだろう。顔立ちは若い頃はさぞやというような、整った顔立ちで、綺麗に整えられた白い口髭と顎髭が顔を覆っている。
店内も清潔で、重厚感のあるイメージだ。
ウズラが座っている椅子や、目の前のテーブルも、年代物の木材を職人が丁寧に作った代物のようで、しかもぴかぴかに磨き上げられている。ウズラの位置からでははっきり見えないが、バーカウンターに並んでいる酒も、さぞかし高級なものだろう。

バー ランコントルのマスター兼オーナーの名前は、アルベリックといった。ウズラが自己紹介をし、ここで働きたい旨を伝えると、アルベリックは微笑んだ。
「前に勤めていた子が急に辞めてしまってね。困っていたんだ。こんなに早く次の子が来てくれるとは思わなかったな。」
ウズラは違和感を覚えた。
この店の求人の話は、市場で仕入れたのだったが、結構噂になっていたのである。アルベリックが求人を出したのではないのだろうか。
その考えは、アルベリックが接客経験を訊ねてきた為、立ち消えになった。
ウズラは正直に、売り子や店員としての経験はあるが、所謂ホステスやバーテンの経験はないと伝えた。だがこの業界に興味があって、是非働きたい事も、熱意を持って話した。
(・・・だってこの店だったら、確かに貴族とか来そうだもんね)
ウズラのその熱意が通じたのか、経験が無い話を聞いて、ちょっと困った様な顔をしていたアルベリックだったが、最後にはウズラが働く事を、承諾してくれた。
「どうもこの店は、店の女の子が居着かなくてね。困ってたんだ。まあ、貴女は綺麗だしやる気もありそうだ。暫く働いて貰って様子を見よう。」
何か店に問題があるのだろうか・・・ちらりとそんな考えが頭をよぎったが、玉の輿の為である。多少の冒険は必要だ。
アルベリックの返事を聞いて、ウズラはにっこり笑って頭を下げた。
「ありがとうございます。がんばります。」
こうしてウズラは、バー ランコントルで働く事になった。

その日面接が終わった後、ウズラは自分の家に戻り寛いでいた。ドレスを部屋着に着替え、うん・・と伸びをする。
「あぁ〜。終わった終わった。上手くいってよかったわ〜。そうだお祝いしなきゃ、お祝い。モグ〜モグちゃ〜ん?」
ウズラが住んでいるのは、冒険者互助会が提供しているモグハウスと呼ばれる住居だ。家賃は僅かだし、管理人のモーグリが雑事を行ってくれるので、便利な事この上もない。ウズラが互助会に入りたかったのも、モグハウスの存在が大きい。強いていえば、管理人のモーグリが口煩いのが難点か。
「ご主人様、どうしたクポ〜。」
2階からふわふわと漂ってきたのは、小さくて白く丸っこい身体。飾りのような翼。大きな鼻と耳、頭にポンポンがついたぬいぐるみのような生き物だった。
「モグちゃん。あたし面接通ったのよ!だからお祝いしなきゃ。チリちゃんに連絡とって〜。」
「それはおめでとうクポ!じゃあ早速チリさんのモーグリに連絡を取ってみるクポ。」
チリはウズラの親友だ。とあることで知り合ったのだが、気が合い、よく飲み歩いたりしている。身の上は複雑だが明くて素直な所が気に入っている。
「チリさんから、少ししたら伺うって返事があったクポ〜。」
モーグリの返事に、ウズラは手を打って喜んだ。
「やった〜!じゃあ、お酒とおつまみの準備をしなくちゃ〜!」
ウズラはキッチンに立って、準備を始めた。

しばらくすると、チリがモグハウスに来て、2人は就職祝いという名の、酒盛りを始めた。エールやワインを飲みながら、ウズラの用意した軽食を食べる。時間がなかったので、軽く焼いた肉や、ハムやチーズ。サラダ等だ。
クァールの肉のソテーを頬張りながら、ウズラはエールで肉を流し込んだ。
「ぷはぁ〜。生き返るわ〜。やっぱりお酒って美味しいわよね。」
ウズラは酒量はそれほどでもない。ただ楽しい酒なので、飲み仲間にはこと欠かない。
「そうですわね。ウズラちゃん。おめでとう!」赤髪のエルヴァーン女性のチリは、そう言ってワインのグラスを、ウズラのジョッキにチンッと合わせた。
「チリちゃん、ありがとう。そう言えば、チリちゃん新しい勤め先って、決まった?」ウズラはぐびぐびとエールを飲みながら訊ねた。
チリは若干顔を曇らせながら、首を振った。
「まだ決まってないですわ。」
「そう。でもせっかく告白されたのに、勿体なかったわね〜。」
「私には兄様という人がいますもの。」
「い〜い、チリちゃん?魅力あるオンナはね、2股くらいかけても良いの。覚えときなさ〜い。」
「そんな訳にはいかないですよ」
チリは勤め先の同僚からの告白を断った為、気まずくなって退職をしていた。それをウズラはズバッと切った。
楽しい酒かどうかは、微妙なところかもしれない。ただ、チリはそれほど嫌ではなさそうだった。面白そうにウズラと話を合わせている。
「そう言えば、就職した事をクルクさんに報告しないといけませんね」
「クルちゃんも、喜んでくれるかなぁ〜。」ウズラはワインをどぼどぼとグラスに注ぎながら言った。
・・・そもそも、副業に手を出す事を、雇い主に断っておかないのだろうか・・とか、ツッコミ所満載のウズラではあったが、案外雇い主のクルクは、その辺りは寛容なのかもしれない。
そんなこんなで、ささやかなお祝いパーティの夜は空けていった。

ランコントルで働きだしてから、1週間程が経って、少し店の様子が分かってきた。バー ランコントルはオーナー兼マスターのアルベリック、その息子でバーテンのアルベールの2人で切り盛りをしている店である。少し前までは、そこにホステス兼バーテンの女性が居たのだが、辞めて替わりにウズラが入った。
息子のアルベールは、アルベリックを若くした様な、当にイケメンという言葉がピッタリのエルヴァーンの男性で、ウズラは初対面で不覚にも舞い上がってしまった。そこを、
(だめよウズラ。此処へはあたしを幸せにしてくれるオトコを探しにきたの・・・目先のイケメンに釣られてはダメ・・・でもしばらく経って理想のオトコが現れなかったら・・・アルベールでいいかなぁ〜)
と必死に耐えるのだが、こんな考えが外に漏れたら、誰かに頭をパチンとひっぱたかれそうである。
何しに働きに来たんだ・・・と、ツッコミを入れられそうなのだが、存外ウズラの評判は悪くなかった。
前任の女性の様に、バーテンの技術は無いので、おしぼりやバーテンのアルベールが作ったお酒や摘みを出したり、客と談笑するだけである。
だがランコントルの客は、比較的年配の男性客が多かった。エルヴァーンの客が殆どだが、若くても人間で言ったら30後半位が殆どである。馴染みの客はマスターのアルベリックと談笑する事が多く、ウズラの出番は一見の客や、常連の連れの新規客が来た時である。
初めての店で、中々の高級店。勿論来る客はほぼ富裕層なのであるが、初見のちょっと落ち着かない雰囲気の時に、
「いらっしゃいませ。ようこそいらっしゃいました。」と若くて綺麗なウズラがにっこり笑って、おしぼりを差し出すと客の緊張感がほぐれるのである。
常連客にも、「いやー。綺麗なコが入ったねぇ。」等と言われれば、やはりにっこり笑って、
「ありがとうございます。これからもご贔屓にお願いします。」と淀みなく答える。その際、相手の目をばっちり見て、満面の微笑みを浮かべるので、大抵の男性客はウズラに好意を抱く。
ウズラにして見れば、バー ランコントルにはオトコを探しに来ているのである。客がウズラを見る様に、ウズラも客を見ていた。
(このオジさん、お金持ってるけど、歳ね)
(この人若いけど、肥ってるな)
ウズラはお酒にも目が無いので、ひどい時になると、
(そ、そのブルーウィスキー・・・20年物じゃないのよ!の、飲みたい〜。一口、一口でいいからぁ〜)
・・・口に出して喋ったら一発でクビになりそうである。
だが、前述の通りランコントルは高級なバーであった。仕入れた噂は嘘ではなかったのである。ウズラもここが良質な狩場である事は了解していた。だから真面目に(?)働いていた。

そんなある日の事、バーテンのアルベールから話があると言われた。店の営業時間は17:00〜25:00で、ウズラは閉店してから30分程軽く片づけをして帰宅する。この日はマスターのアルベリックが、翌日ジュノに酒の仕入れに行くとかで、24:00で閉店した。アルベリックは翌日の準備の為に帰宅している。そんな訳で、バー ランコントルの中は、アルベールとウズラの2人きりだった。
音楽演奏機械のオーケストリオンから軽やかな音楽が流れている。
ウズラは客の相伴で飲んだお酒の所為で、少し酔っ払っていた。
そんな中で、ウズラはアルベールから話があると言われて、ドギマギした。
(こっ告白!?)
雰囲気的にはそんな感じである。
「まあ、座ってよ。ウズラちゃん。」
アルベールはバーカウンターの中から、そう言ってカウンターの椅子を指し示した。
「あ、はい。」ウズラは素直に頷くと、椅子に座った。神木材を削り出して作成された、艶やかなカウンターの上に、タンブラーグラスが置かれた。中にはアイスピックで丸く削られた氷が、ころんと入っている。
アルベールは背面の酒瓶が並んでいる棚から一つの瓶を取って、グラスに注いだ。
「!これはっ」
以前飲みたいと思ったブルーウィスキーだった。思わずアルベールの目を見ると、アルベールはにっこりと微笑んだ。
「ウズラちゃん飲みたがってたもんね。見ていてすぐ分かったよ。親父には内緒だよ。よかったらどうぞ。」
「えぇ〜。いいんですか?」とウズラも笑顔を返しながら言った。
「実は・・・」とアルベールは言いにくそうに・・・
どくっどくっとウズラの心臓が音を立て始める。
(何っ)
(何っっ)
(何っっ!)
ウズラは全神経を耳に集中して、アルベールの目をじっと見つめた。



「頼みがあるんだ。明日出勤してくれないかな。」

(ぇえーー・・・それだけ?)
ウズラのあからさまに落胆した表情を見て、何かを感じ取ったのだろう。
アルベールは申し訳なさそうに、頭をかきながら言った。
「いや〜。親父が酒の仕入れに出かけたから2・3日店が休みで、ウズラちゃんも休みでしょ。そうなんだけど、常連さんから知り合いを連れて来たいから、どうしてもって言われてね。」
「あー。ナルホドー。」
完全に気が抜けた返事をしながら、ウズラはアルベールが注いでくれたタンブラーグラスを手に取った。青みがかった琥珀色の液体がグラスの中を泳いでいる。
一口口に含む。
「!」
なんと言う芳醇な味だろう!そして香料のような芳香を漂わすその濃厚な飲み物を嚥下すると、ウズラの機嫌は直っていた。
「それは大変ですよね。明日アルベリックさんもお出かけですし・・・誰が来るんですか?」
ウズラが質問すると、
「ボードワンさんだよ。」とアルベールは答えた。
「え〜。あのドラギーユ城の官吏だっていう・・・。」
「そう言えば、ボードワンさん城勤めの侍女を探してるって言ってたなあ。なんでも第一王子のトリオン様の好みがヒューム族の金髪の女性なんだって。ウズラちゃん選ばれたりしちゃって。」
「!!!」
咄嗟に、ウズラの頭が高速で回転した。
(待て、待ってウズラ!そんなにうまい話はないわよ。城勤めの侍女なんて、身元のはっきりした人しか勤まらないんだから・・・で、でももしかして侍女に選ばれて、しかもトリオン王子のお目に止まっちゃったりしたら・・・お妾?いやいや王子は結婚してないから、じょ、女王!?)
ウズラはアルベールの目をしっかと見ていった。
「休日出勤させてもらいます!!!」

ウズラは興奮冷めやらぬ様子で、モグハウスに帰り着いた。ランコントルからは獅子の広場を通り抜けて、歩いて15分位である。面接に行った時は、北サンドリアのサンドリア大聖堂に寄っていたので、遠回りをしてしまった。ウズラはたまにサンドリア大聖堂でお祈りをする習慣があるのである。それはともかく、ウズラは明日の事を誰かに話したくてしょうがなかった。
だが時刻は夜中の1時を回っている。普通の人間は昼間活動して、夜間寝るものであるから、大概の人はもう寝ているだろう。
とりあえず、自分のモグハウスのモーグリを叩き起こして、チリに連絡を取ってみる。
眠そうなモーグリが、「ご主人様。チリさんはもう寝ているクポよ〜」と言うのも構わず、強引に連絡を取らせた。
やっぱりチリは寝ているようで、チリのモーグリも通話にでなかった。ただ音声を記録させる魔法的な仕組みがあるので、録音をさせた。
科白はこうだ。
「チリちゃ〜ん。あ・た・し ウズラよぉ〜。未来のサンドリア女王が連絡してあげてるんだから、感謝しなさ〜い!明日であたしの運命が変わるの!見ていなさいよ!」
ここまで言って満足した。ブルーウィスキーで酔っ払っていたので、多少科白がおかしかったかもしれないが、まあ良しとしよう。倉庫番としての雇い主のクルクにも、バーで働き始めた事を、連絡していなかったのを思い出し、同様の科白をクルクのモーグリに送る。
「チリさんはともかく、クルクさんに怒られても知らないクポよ?」
モーグリのそんな小言を無視して、酔っ払ったウズラは、服を脱ぎ捨ててベッドに潜り込んだ。

次に目が覚めた時は、昼を過ぎたぐらいだった。ウズラはうん・・と伸びをしてベッドから起き上がった。鏡を見ると奇跡的に化粧は落として寝たらしい。記憶は全く無かったが、習慣というものだろうか。
シャワールームに入ると、下着を脱ぎ捨てて湯を浴びた。海綿にソープを塗って、身体を丹念に洗う。豊満な肢体が様々に形を変える。髪も専用のソープで丁寧に洗うと、シャワーを止め、大ぶりな海綿で身体を拭いた。温風機で髪を乾かすと、食事を取るか考える。昨日の酔いが若干残っている感じだったので、ミルク粥を少し作って食べる事にした。
もう暫くすると出勤の時間だったので、思い出してモーグリを呼ぶ。
「モグちゃ〜ん。チリちゃんとクルちゃんから返信来た〜?」
ウズラの問いかけに、パタパタと飛んできたモーグリは、
「どちらからも返信は来てないクポ。というか、あんな訳のわからない伝言に返信なんかできないと思うクポ。」
と言った。
「あら。。」ウズラはがっかりした。
クルクの方は、確か互助会の仕事が忙しいと聞いた気がする。なんでも戦士団に加入したような事を言っていた。自分と戦士団で出来た相棒の事を、アルタナの新兵とか言っていたので、きっと訓練が大変なのだ。
「クルちゃんも、もっと女の子らしいことをすればいいのにね。だからバルちゃんと何時までたってもくっつかないのよ。」
ウズラはひとりごちた。
「でも、チリちゃんは何で返事をくれないのかしら。」
そう言えば、チリの方は求職中だった。求職活動にてんてこ舞いなのかもしれない。
「まあ、あたしがサンドリア女王になった暁には、2人共面倒を見てあげるわ。」
ウズラはすっかりサンドリア女王になれる気分だった。
呼ばれたモーグリは、やれやれまたかと言う様なため息をつくと、モグハウスの奥に戻っていった。
ふんふんふ〜んと鼻唄交じりにウズラは、出勤の準備をしていく。髪を結い上げ、念入りに化粧をする。服装は青系統のタイトなドレスだ。
最後に化粧台から、何時も髪に挿している骨製の髪留めを手に取る。これは冒険者互助会に入会して、研修期間に当時の教官から貰ったものだ。研修の卒業祝いにくれた物で、いつも身につけている様にと言われたのでそうしてきたが、今日のこのドレスには合わないような気がする。
(どうしようかしら)
髪留めをくれた教官は、おじいちゃんで、アルベリックのようなナイスミドルでもなんでもなかったが、ただその教練はとても丁寧で親切だったので、ウズラは好感を持っていた。
(まあ、いいか)
ウズラは髪留めを髪に挿すと、化粧台の前から立ち上がった。

ウズラはバー ランコントルに出勤した。勤務開始時間にはまだ少し時間がある。ウズラは少なくとも成人してから働いた職場では遅刻したことはない。どんなに前日お酒を飲んでもだ。と言うのも少女時代に働いた職場で遅刻や早退を繰り返して、何度も仕事をクビになった経験があるので、仕事を続けたければ時間は守らなければならない事は、身に染みていた。
「おはようございます。」ウズラは、厨房で仕込みをしていたアルベールに挨拶をして、店の奥の部屋の自分のロッカーに、ハンドバッグをしまった。それから鏡を見て化粧をチェックすると、店に出た。
「ウズラちゃん悪いね。ボードワンさんは2・3時間で帰ると思うから、そしたら上がっていいよ。」とアルベールが言った。
ウズラは頷いた。心の中では「サンドリアの女王になる」という、幾分勘違いな欲望がメラメラと渦巻いていたが、おくびにも出さない。
店の開店準備はアルベールがあらかた終わらせたようで、ウズラのやる事は特になかったが、何かしていないと落ち着かなかったので、アルベールを手伝ってグラスを磨く事にした。
暫くすると、入口の扉が開いた。今日の客が来たようだ。
「いらっしゃいませ。」とウズラとアルベールは口を合わせて言った。
店に入ってきたのは、中年のエルヴァーンと、ガルカだった。
「やあ、今晩は。今日は悪いねぇ。」
とエルヴァーンが話しかけてきた。
「いえ、ボードワンさんには何時もご贔屓にして貰ってますから、これぐらいなんでもありませんよ。」
とアルベールは返した。
「こちらへどうぞ。」ウズラは2人をカウンターへ案内した。
2人はカウンターの席に腰を掛けた。
ウズラはさりげなく、2人の様子をチェックした。
ボードワンは、何度か店に来ている。ドラキーユ城の官吏という触れ込みで、身なりも上品で高い酒を注文していた。
連れのガルカは、初めての客だった。ボードワンの知り合いと、昨日アルベールが言っていた気がするが、若干身なりが通常の客と異なっている。
鎧を身に付けているのだ。
(これ確か・・・ハーネス系っていう鎧だったかしら)
戦士や騎士が身につける重装鎧とは違って、身体の要所要所を覆う鎧を身につけている。つまりある程度身のこなしが必要とされる職に・・・
(あらいやだ、冒険者とは限らないわよね)
それともサンドリア宮廷が雇った冒険者なのだろうか。
考えても分からなかったので、ウズラは何時ものように、おしぼりを差し出した。
「いらっしゃいませ。これをどうぞ。」
2人は礼をいい、受け取ったおしぼりで、手や顔を拭った。
ウズラは使用済のおしぼりを受け取り、ダストシュートに放り込む。
「ウズラちゃん。これ出してくれる。」アルベールがエールの入ったタンブラーを指した。
ウズラは「はい」と返事をし、タンブラーを取るため、カウンターに背を向けた。
その為、男3人が目線で頷きあったのを見る事ができなかった。

ガルカの客が、ガルカンソーセージという、ガルカの伝統的なソーセージを注文した為、アルベールはソーセージを茹で始めた。
その間にウズラは2人の客と歓談をする。
ガルカの名前はゾルバと言った。ボードワンのお抱えの冒険者らしい。
(やっぱり冒険者だったのね)
ウズラは得心し、「何をなさっているんですか?」と尋ねた。
「うむ。ボードワン殿の為に貿易をしている。」とゾルバは答えた。
ウズラはボードワンの方を向き、感心した様に言った。
「凄いですね!個人貿易商なんですね。手広くやられてるんですか?」
ボードワンは満更でもないように、
「まあ、大した規模ではないがね。だが、それなりに手応えはあるよ。」
と言った。
ウズラは続けて、「何を扱っているんですか?」と尋ねた。
ゾルバがニヤリと笑って、
「一番儲かるのは、なんといっても人・・・」
「ガルカンソーセージ出来ましたよ!」アルベールの声がゾルバの答えを遮った。
2人の客の前に並べられた皿には、ほかほかと湯気の上がる大ぶりのソーセージに、ハッシュドポテト、マスタードとソースが添えられていた。
「これは美味そうだな」
2人はソーセージを食べ始めた。
ウズラはその間に、空いたタンブラーにエールを注ぐ。
アルベールが口を開いた。
「ボードワンさん、そう言えば侍女の話ってどうなったんです?」
(きた!)
ウズラは全身を耳にして、続きを待った。
ボードワンはナプキンで口の脂を拭いてから、幾分わざとらしい様な、勿体ぶった調子で答えた。
「いや、前言った通り、ヒューム族の金髪の女性を探しているんだが、もう一つ条件があってね。実は殿下はかなりの酒好きでね。飲めて、酒の話の分かる女性がいいと言うんだが、これが中々居なくてね。」
(いるわよ!ここに居るわよ!)
ウズラの内心の叫びを知ってか知らずか、
「ウズラちゃん、お酒好きだよね?」アルベールが問いかける。
「そうですわね。」ウズラは虫も殺さぬような笑顔を見せながら言った。
「ほぉ。そう言えば君は金髪のヒューム族の女性だな。ワインは好きかね。」
ボードワンの言葉に、
「はい。」と二つ返事でウズラは答えた。
「ちょっと飲んでみてくれんかね。」
ボードワンの言葉に、ウズラは再び「はい。」と返事をした。
背を向けていたアルベールが、振り返ってワインの入ったグラスをウズラに渡した。
「いただきます。」とウズラは言って、ぐっとグラスを空けた。
(あれ?何かちょっと苦い?)
ウズラは違和感を感じたが、ワインは飲みきった。
「おぉ〜。」
3人の男がぱちぱちと拍手をした。
「いい飲みっぷりだね!」ボードワンが褒める。
「どうですか?ウズラちゃん、いい子でしょう。」アルベールが褒める。
ゾルバは何が可笑しいのか、ニヤニヤと笑っているだけだ。
(あれ・・・?)
ウズラは不意に頭がくらりとした。直ぐに立って居られなくなり、ずるずるとバーカウンターの中に倒れこむ。何かに掴まろうとしと振り回した手が、エールのタンブラーをカウンターから叩き落す。ガシャンというタンブラーが割れる音が響いた。
倒れこんだウズラが意識を失う前に最後に聞いたのは、
「これで20人揃ったな。とっとと売っぱらおうぜ」と言う誰かの言葉と嗤い声だけだった。

チリは困っていた。
ウズラから連絡を貰っていたのだが、午前中はまだウズラは寝ているだろうと思って連絡を控えていたら、仕事の面接が急に入りそのまま夜に入ってしまった。チリは昼間の面接の緊張感から、家に帰ると直ぐに寝入ってしまい、気付いたら連絡を受けてから2晩が経過していた。そして今日の昼にウズラのモグハウスを訪ねたら、ウズラはまだ帰ってないとモーグリが言うのである。
「てっきり、チリさんの所に泊まったと思ってたクボ。」とのんびりとモーグリは言った。全然心配をしていないのは、ウズラはよく無断外泊をするからである。
(ウズラちゃんどこ行ったのかしら・・・)
チリはウズラの交友関係を比較的良く把握していた。
現在、ウズラに付き合っている男は居ないはずである。それとも今の職場で意気投合した男でも急にできたのだろうか。
でもモーグリを通しての伝言だと、明日、つまり今から見たら昨日に、自分の運命が変わると言っていたのである。何かあったのだろうか。
「でも、酔っ払ってましたわね・・・」
ウズラのモグハウスの前で考え込むチリだったが、不意に声をかけられた。
「チリさん、何やってんの?」
振り向くと誰もいなかった・・・いや、下を見るとタルタル族が居た。
「バルファルさん!」チリは思わず叫んでいた。
ウズラの倉庫番としての雇い主のクルクの、冒険者としての相方のバルファルだった。
チリはしゃがみ込んで、総髪のタルタルの手を取る。
「困ってたんですの。相談に乗って・・・あら、そちらはどなたですか?」
バルファルの後ろには女性のタルタル族がいた。金とオレンジの髪を前髪は真ん中で分け、後ろ髪はポニーテールにしたタルタルだ。
「あ、あたしバルの友人のユファファって言います。よろしくお願いします。」
ユファファこと、ユファはぺこりと頭を下げた。
チリは困っていた事を一瞬忘れて言った。
「あら・・・あらあら、バルファルさん良いんですの?クルクさんを差し置いて。」
バルファルは苦虫を噛み潰したような表情で、
「違うって・・・アンタ、ウズラさんの性格が移ってきたんじゃないのか?」
と言った。
ユファも何を言われているか解ったようで、手を身体の前でひらひらと振りながら、
「あ、違います違います。デートとかじゃなくってですね。あたしサンドリアに来た事がなかったから、バルについでに案内して貰ってるだけです。」
と言った。
「あら、そうですの。・・・何のついでですの?」
チリが尋ねる。
バルは頭をかきながら、
「いや、なんか一昨日、クルクの所にウズラさんからよくわからない連絡が入ったんで、見てきてくれって頼まれたんだよ。」
と言った。
チリは問題を思い出して再び叫んだ。
「そう、そうなんですよバルファルさん!ウズラちゃんが行方不明で・・・。」
「行方不明?」
「私の所にも、ウズラちゃんから連絡が入ってて、気になって来てみたら昨日から帰ってないみたいなんです。」
バルファルは少し考えてから言った。
「ちょっと状況を整理してみようぜ。ウズラさんは居ないんだろうけど、上がらせて貰えるかな。モーグリにも話を聞きたいし。」
チリは、「そうですね。」と頷いて、ウズラのモグハウスの入り口に2人を案内した。
ユファは遠慮がちに、「あたしここで待ってようか?」と言ったが、
バルファルは首を横に振り、
「悪いけど、少し付き合ってくれないか。」と言った。

主人が不在のモグハウスに客を上げるのは、ウズラのモーグリが若干難色を示したが、「ウズラが心配」という事で押し切った。
リビングのソファーに3人で座り、モーグリを交えて話をすると次の事が解った。

・ウズラは1週間くらい前から、バーで働き始めた。
・そのバーは働きやすい職場だった。
・一昨日、何かウズラにとって良い事があったらしい。それをチリとクルクに連絡して来た。
・昨日の夜、バーに出勤してから帰ってこない。連絡もない。

「何かこれだけ聞くだけだと、大した事がないような気がするな・・・。というかウズラさんって、よく男の処に転がり込むんだろ?」
とバルファルは言った。
「そうかもしれませんけど・・・。大体ウズラちゃんは、今誰とも付き合ってないはずなんです。それに最近サンドリアで女性が行方不明になる事件が何件かあって、私心配で・・・」
チリは失踪事件に、ウズラが巻き込まれたのではないかと思って不安らしい。
「子供ならともかく、ウズラさんも大人の女だからなあ。」
バルファルは再び首を捻る。
「・・・そう言えば、バルファルさんクルクさんに頼まれたって言いましたけど、クルクさんはどうしてるんですか?」
チリの質問に、バルファルは、
「クルクは、冒険の合間に自分のモグハウスに帰ったとこで、ウズラさんの伝言に気付いたんだ。だけど直ぐに冒険に戻らなくちゃダメみたいで、それでオレに頼んだんだよ。ウズラさんが心配だったみたいだな。」
と説明した。
「・・・そうですか。」とチリは溜め息をついた。
もちろんクルクが居ても、ウズラの居場所について直ぐ何か解るという訳でもないだろう。ただ、居てくれていたら心強いのに・・・とチリは思った。
バルファルは続けて、
「オレもあの伝言は聴かせてもらったけど・・・酔っ払ってなかったか?それに「未来のサンドリア女王」って、意味が分からん。」
と言った。
「・・・そうですね。」
「不甲斐ない主人で申し訳ないクポ」
モーグリも申し訳なさそうだ。
「・・・あの・・。」
それまで黙っていたユファが口を開いた。
モーグリを含めた3人がユファの方を見た。
「とりあえず、ウズラさん・・・ですか?その方の最後にいた場所に行って見ませんか?今分かってる範囲だと、そのバーになると思うんですけど、何か分かるかも。」
ユファのその言葉は説得力があった。
「そう・・・だな。」
「そうですわね。」
バルファルとチリは頷きあった。
こうしてモーグリを除く3人は、バー ランコントルに向かう事になった。

モーグリの情報を頼りに、獅子の広場を抜けて、騎兵通りを西へ進む。モグハウスを出発して15分たらずで目的の場所に着いた。
「あ、あれかなあ。」
ユファが指し示す先には、石造りの一軒家があった。
家に近づいてみると、扉のうえに小さな看板があり、「ランコントル」と描かれている。
バルファルとチリも家に近づいてきた。
周囲にも同様の家があり、家だけ見ると住宅街の一角に見える。
バルファルは扉に付いているノッカーでコンコンと扉をノックした。
しばらく待ったが、返事がない。
バルファルは扉のノブを掴んで、押してみた。動かない。引いてもダメだった。
3人は顔を見合わせた。
「開店時間前ということでしょうか。」とチリは言った。
「モーグリの話だと、確か17:00開店だろ。もうそろそろそれぐらいの時間だぞ。」とバルファルが言う。
「休みなのかなあ。」とユファ。
3人が困惑して佇んでいると、右隣の家の扉が空き、初老のエルヴァーンの男性が出てきた。3人が目に止まると、うろんげに眺めた。
ユファが一歩老人の前に歩み出て、ぺこりと頭を下げた。
「すいません、あたし達ランコントルさんに用があってきたんですが、今日はお休みでしょうか?」
老人はユファの丁寧な物言いに、若干警戒を解いたらしく、口を開いた。
「ああ、アルベリックさんの店に用かね。確かジュノに酒の仕入れに行くと言っていたから、少なくとも今日は休みじゃないかね。」
3人は顔を見合わせた。
チリが口を開いた。
「私達の友人がこちらに勤めてるんですが、昨日から家に戻ってなくて探しにきたんです。何かご存知だったら教えていただけませんか?」
チリの言葉に老人は当惑した様に、
「何かと言われてもな・・・ああ、あんた達の友達というのは、最近店に入った金髪の娘さんか・・・何回か見た事はあるが、昨日は見とらんなあ、店は少し開いとったようじゃが。」
と言った。
「店長が不在でも、店は開いてたんすか。」
バルファルの質問に老人は肩をすくめ、
「アルベリックさんの店の都合は知らんよ。ただ息子さんもいるからね。特別な客でも来たのかもしれん。」
と言った。
「そう言えば・・・、夜半過ぎに裏口にチョコボの荷馬車が来て何か運び出しとった様じゃった。窓越しにチラリと見えたが、あの荷馬車はサンドリア港でよく見るヤツじゃな。」
と老人は言い、友達が見つかるといいのうと言い残して、出かけていった。
・・・振り出しに戻ってしまった。
3人はしばし無言だったが、やがてバルファルが口を開いた。
「オレはついでにサンドリア港まで足を延ばして見るよ。何か分かるかもしれん。」
「あ、じゃああたしもつき合う。」とユファが言った。
「じゃあ私も・・・」チリが言いかけるが、バルファルは首を横に振った。
「チリさんは帰んな。オレとユファは武器も持ってるし、腕に覚えもある。もう暗くなるし、女の人が何人もいなくなってるんだろ。チリさんにまで何かあったら、クルクやウメさんに申し訳が立たない。」
バルファルのその言葉に、チリは申し訳なさそうに頭を下げた。
「・・・ごめんなさい。よろしくお願いします。」
チリのその言葉に、バルファルは笑って答えた。
「ウズラさんの事だから、今頃モグハウスに戻ってて、冷えたエールでも飲んでるんじゃないの?まあ、そうじゃ無くても連絡があるかもしれないから、1人は家にいた方がいい。」
そんな訳で、チリはモグハウスに戻り、バルファルとユファはサンドリア港に向かった。

ピチョン・・ピチョン・・
・・・何か音がする・・・
ウズラは朦朧とした意識で頭を上げた。身体の下に硬いものがある。見ると石の床にうつ伏せに横たわっていた。ウズラはノロノロと身体を起こし座り込んだ。
頭が痛い。頭痛がする。
ぼんやりと座り込んで、どれ位の時間がたっただろうか。頭痛が少し引いてきた。
周りを見渡すと石造りの部屋の様だ。小さい部屋で左手に鉄格子が・・・
(・・・え、ろ牢屋?)
途端に頭がはっきりしてきた。
(・・・確かランコントルで、ボードワンさんにワインを勧められて・・・)
顔面が蒼白になった。
(一服盛られて攫われたんだわ!!!)
ウズラは大声を上げようとして、瞬間思いとどまった。
状況が分からない。下手に騒ぐとどうなるか分かったものではない。音もあまり立てない方がいいだろう。
ウズラは思い当たって、身体の各所を手探りで確認してみた。
(・・・ふぅ。乱暴はされて無いみたいね。)
部屋の中を見ると、酷く狭い部屋で、気付くとおまけに凄い湿気と悪臭がした。悪臭の源は部屋の隅に切られている穴から出ていた。匂いからすると、用足しの穴らしい。
鉄格子に近付いてみる。隙間から手は出せるが、顔は狭くて通らない。
つまり典型的な牢屋だった。鉄格子の隙間から外を見ると、左右に通路が通っていて、どうも同じ様な牢屋が並んでいる様だった。
ウズラは牢の奥の、用足しの穴からなるべく離れて、鉄格子にピッタリくっつきながら、考えを整理し始めた。
そもそもあたしは、どこから騙されてたのかしら・・・
アルベリックが不在の時に、攫われたということはアルベリックは関係ないのか、もしくは気付いてないのかもしれない。でもアルベリックは面接の時に、「女の子が居着かない」と言っていた。とすると以前の従業員も同じように拉致されたのか。
逆にアルベールは絶対にクロだ。薬入りのワインを渡したのは、アルベールなのだから。
ここで、ウズラは最近話題なっていた女性が多数行方不明になっていると言う噂を思い出した。自分はこれに巻き込まれたらしい。
薬入りワインで、意識を失う寸前に聞き取った言葉が頭をよぎった。
「これで20人揃ったから売り払う」と言っていた様な気がする。では、後19人の女性がここに閉じ込められているのだ。そして自分を含めて全員が、もうすぐ何処かに売られてしまう。
薬の後遺症で、ぼんやりしがちな頭を使って、ウズラはここまで考えた。
・・・何とかここから逃げ出さないといけない。
ウズラは鉄格子を観察した。当然鍵がかかっている。内側からでははっきりわからないが、手探りで調べて見ると、構造自体は比較的簡単な鍵の様だ。
ウズラが頭の向きを変えた時、髪に挿してあった骨製の髪留めが鉄格子に当たって、カチリという音を立てた。
その音が存外大きく響き、ウズラはビクッとした。同時に思い出した事がある。そう言えばこの髪留めって・・・
「誰か居るの・・・?」囁きのような声がウズラの所に届いた。
ウズラは再びビクッとした。
・・・拉致された女性の1人だろうか。
ウズラは、返事をしようか迷ったが、好奇心に負けて同様の囁き声で返事をした。
「・・・ここよ。あなたは誰?ここは何処?」
少しの間があって、返事が返ってきた。
「・・・私はコレット。貴女より前に攫われてきたの。ここは・・・はっきりとは分からないけど、多分サンドリア港だと思うわ。」
それからウズラとコレットは、囁き声で話を続けた。
コレットが攫われてきたのは、おそらく10日程前らしい。彼女はバー ランコントルの前の従業員ではなかった。夜道を一人で歩いていたら背後から襲われ、気付いたらここに放り込まれていたようだ。この牢屋は、1日2回食事が差入れられるが、2人組の看守の断片的な会話を繋ぎ合わせると、ウズラが拉致された時にいたボードワンというエルヴァーンの男が親玉らしい。ボードワン一家のボスとの事だ。見た所そんなイメージは抱かなかったが、裏社会ではずいぶん強面で通っているらしい。一家の構成員は20人程、内2人が手練れらしく、あのソルバと言うガルカもその1人だ。
・・・アルベールも、そのボードワン一家の構成員だったのかしら。
ウズラの頭にそんな思いがよぎるが、コレットの悲観的な声で、現実に引き戻された。
「・・・私達はもうダメよ・・・看守達は2・3日の内に、私達を南方へ移送するって言ってたわ。そこで奴隷として売るんだって・・・どうしてこんなことに・・・」
嗚咽交じりのその声を聞いて、ウズラも泣きたくなったが、そんな事をしてもこの状況から抜け出せる訳ではなかったので、気を取り直してコレットに尋ねた。
「コレット、よく聞いて。あたし、ここから逃げ出して助けを呼んでくる。・・・牢からは多分出られるんだけど、出口までの行き方が分からないの。知らないかしら?」
驚いた様に沈黙が続いた。やがてコレットの声が響いた。
「・・・ど、どうやって牢から出るの?」
ウズラはゆっくりと言い聞かせる様に言った。
「あたしは冒険者じゃないけど、冒険者の手ほどきを受けてるわ。それにここに牢屋の合鍵になる物を持ってるの。ただ鍵は一つしかない、だから他に捕まっている人と皆では逃げられないの・・・必ず助けを連れてくるわ。だから何か知ってたら教えて?」
再び沈黙が辺りを包んだ。
「・・・いいわ・・・どうせあたし達は何日も閉じ込められているから、直ぐに走ったり出来ないわ・・・牢から出たら、左に進みなさい。進むと曲がり角が2つあるはずなんだけど、始めは右に、次は左に・・・曲がれば出入り口にたどり着ける・・・はずよ・・・。」
あやふやなコレットの言葉だったが、信じるしかなかった。最もコレットは意識が無い状態で牢に入れられたのだから、仕方ないのだろう。看守達の話を繋げるとそうなるという事なのだ。
ウズラは逃げる準備を始めた。と言ってもヒール付きの靴を脱いで裸足になり、ドレスのスカートの部分を膝丈ぐらいの所で千切る。手で千切ったので力がいったが、何とか短くする事ができた。これで走れるだろう。足は傷つくかもしれないが、我慢するしかない。
コレットの言葉が幽鬼の声のような調子で響いた。
「・・・捕まったら、嬲られて殺されるわよ・・・気を付けて・・・。」
・・・聞いていると、力が抜けて蹲りそうだったが、努めて元気に答えた。
「ありがとう。必ず助けにくるわ。」
ウズラは骨製の髪留めを髪から抜いた。カバーを外すと鍵の様な物が現れた。これはスケルトンキーと言うシーフが使う万能鍵で、鍵穴に鍵を当てると先が魔法的に変形をして鍵穴にフィットし、どんな鍵でも開けられるという代物だった。ウズラも先刻まで失念していたが、互助会の研修所の教官は、万一に備えて何時も身に付けている様にと言ったのだろう。
忠告を聞いていて良かったとウズラは思い、スケルトンキーを逆手に持って、鉄格子の間から手を出し、鍵穴に鍵を当てた。少し待ち右に捻る。
ガチリという音が響き、鍵が開いた。同時にスケルトンキーはボロボロになって崩れ落ちてしまった。
(おじいちゃんありがとう。無事に帰れたらデートしたげるわ)
ウズラは心の中で、名前も忘れてしまった教官に礼を言った。
そして、ウズラは鉄格子を開けて、通路に出た。
中腰になり、音を立てない様にして、言われた通り左に進み始める。
左右に自分が入っていたのと同じ様な牢が並んでいる。人が入っている牢もあったし、空の牢もあった。閉じ込められている人間は、皆一様に蹲ってウズラが通り過ぎても声も出さなかった。誰がコレットかも分からない。
通路の床は石畳だったが、壁は洞窟の壁のようだった。天然の洞窟を改造した施設なのかもしれない。照明は特になかったが、どこからか光が入っているのか、朧げに前が見える。
時折床を横切る何らかの生き物に怯えながら、ウズラはゆっくりと通路を進んでいった。
人の気配は感じなかった。始めの曲がり角を右に曲がり、少し進み次の曲がり角を左に・・・
曲がろうしてウズラは咄嗟にしゃがみ込んだ。曲がり角の先が明るかったからである。そろそろと角から顔出して先を見てみる。
今までが暗すぎた為、眩しくて目が眩んだ。少しづつ目が慣れてくると、2・30メートル先に外の風景が見えた。外は夜らしい。たが月明かりのせいか洞窟の中より余程明るかった。だが外が見えるという事は、扉がないか、有っても開いているという事である。これはチャンスだった。外に出られるかもしれない。
(・・・見張りがいるわ・・)
当然扉言えば当然だった。拉致した女達に逃げられても困るし、外からこの場所に迷い込んで来る人間もいるだろう。
・・・どうやって脱出するか。
見張りを倒してというのは論外だった。武器も持っていないし、大体ウズラに戦闘経験はなかった。
見張りが居なくなる・・・かもしれないが、逆に人が増えるかもしれないので、ぐずくずしていられない。
後は強行突破・・・つまり全力で走って抜けるしかない。
ウズラは冒険者としてのシーフの技能として、2つの物を持っていた。
一つは、走る速度を上げられる技、もう一つは剣のような近接攻撃を確実に躱す技である。どちらも高い集中力が必要なので、数十秒しか効果を出せないが、今ここで見張りを抜くだけなら何とかなるかもしれない。
(・・・やるしかないわ)
ウズラは立ち上がり、深呼吸を何回かした。
意を決して、通路の角を曲がる。そして出口に向かって全速力で走り始めた。
技の効果もあって見る見る内に、出口が近づく。
出口までもう少しという所で、見張りが気付いた。洞窟の外を見張っていた為、ウズラに気付くのが遅れたのだ。ウズラが裸足で、足音があまり立たなかったこともある。
「何だ貴様!」
ウズラは、誰何する見張りの横を凄い速度で走り抜けた。洞窟の出口から出た所でもう一人の見張りと鉢合わす。
2人目の見張りは既に抜刀していた。問答無用で切りつけてくる。
ウズラの限界まで高められた集中力は、見張りの剣の動きを的確に捉えていた。
ウズラから見て左から袈裟懸けに斬りつけてくる剣の一撃を、走りこんできた勢いはそのままに、剣が振り下ろされる直前に軽く屈んでやり過ごした。走り去るウズラの背を凄い勢いで、剣が通り過ぎていった。
見張りをやり過ごしたウズラは、街の光を目指して全力で走り続けた。

バルファルとユファは北サンドリアを、サンドリア港に向かって歩いていた。バー ランコントルの横の家の老人の言葉が根拠となっている訳だが、サンドリア港にウズラがいる確証もない。
バルファルにいたっては、まだ、ウズラは何処かの男の部屋に転がり込んでいるのではないかと考えていた。
なので、何処となく緊迫感のない口調でバルファルはユファに話しかけた。
「ユファはオッサンと、まだ剣の稽古とかしてるのか?」
オッサンと言うのは、ユファの相方の冒険者で、コウというタルタル族の男性だ。
ユファは、バルファルの方を向いて、
「最近は、コウの武者修行みたいのに付き合わされることが多いかな。」
「コウって最近、黒魔法の修行をしてて、範囲魔法をモンスターにかけて倒すようなことばっかりやってるね。あたしはその露払い。」
と言った。
「へぇ〜。オッサンが黒魔法をね。剣は飽きたのかな。」
というバルファルに、
「どうだろ。」とユファは首を傾げた。
バルファルとユファはドラキーユ城を右手に見て、工人通りに入った。日が暮れてからしばらく経っており、人通りは少ない。
「まだそんなに遅くないのに、人少ないね〜。」とユファが言った。
「そうだな。」バルファルが答える。
この辺りは工房が多いので、夕刻が過ぎ仕事が終わると、人が減るのだろう。
大きな階段を降り、サンドリア港の入り口に着いた。
資材が多数置かれており、城壁の改修も行われているようで、見通しが悪く死角が多い。
2人がサンドリア港に入ろうとした時だった。
一つの資材の物陰から、人影がまろび出た。そのまま地面に倒れこむ。
2人は顔を見合わせると、人影の方に走り寄った。
うつ伏せの身体を仰向けにする。女性のようだ。顔にかぶさっていた、長い金髪を顔の横に避けると・・・
「ウズラさん!?」
バルファルが愕然とした表情で叫んだ。
ユファも焦って、
「え?え、この人がウズラさん?」と言った。
ウズラは意識を失っていた。顔色は蒼白で、見た所身体に傷はないものの、足は裸足で血まみれだった。
「ユファ。ケアル。」バルファルに促されると、ユファは頷いた。
ウズラに対して、治癒呪文の詠唱を始める。
ユファが最大魔力で、ウズラに治癒呪文をかけ終わると、ウズラは呻いて意識を取り戻した。
ぼんやりとした眼差しで、バルファルを見つめる。
「・・・あれ?バルちゃん・・・」
ウズラは呟いて、はっと気付いた。慌てて起き上がる。
「なんでここに・・・ってここ何処?あいつらが来るわ!逃げないと・・・」
若干錯乱しているようだ。
「ユファ。呪符持ってるか?」とバルファルはユファに尋ねた?
「転送呪文の?指輪も呪符もあるよ。」とユファは答えた。
「使う準備をしといてくれ。」バルファルはそう言って、大剣を背から抜きながら、振り向いて構えた。
そこには、いつの間にか数人の男達が立っていた。
バルファルは油断なく男達を見渡した。全部で6人いる。
ほとんどが雑魚だったが、一番奥に佇む刀を腰に差した男は別格だった。
(コイツ・・・オレより強いかも・・・)
バルファルも経験を積み、彼我の戦力差を把握出来るようになっていた。
とりあえず声を掛けて様子を見てみる。
「おい。オレ達に何か用か?」
奥の刀の男が口を開く。
「その娘をこちらに渡して貰おう。」
バルファルはまなじりを吊り上げて言った。
「何だと!?この人はウチの大事な人だ。訳の分からんヤツらに渡せるか。大体オマエらは何だ!?」
刀の男は呟くように言った。
「・・・ほう、「ウチの」と来たか・・・同業かな。俺達はボードワン一家だ。お前達は?」
「クルク一家だ!」バルファルが叫ぶ。
バルファルの後ろで、ユファが止めるように手を上げるが、遅かった。
刀の男は再び、
「・・・クルク一家だと?・・・知らんな。だがまあいい。大人しく従わないならば・・・」
男は刀の柄を押さえ、前にでた。残りの5人の男達もバルファル達を半包囲する。
「チッ」バルファルは舌打ちした。自分一人ならともかく、後ろの2人、特にウズラがいる状態では、男達と戦う事は出来ない。
バルファルはチラリと後ろを見た。ユファは軽く頷いた。
バルファルは刀の男に言った。
「決着はまたつけようぜ。ひとまずオレ達は引き上げる。」
バルファルが手で合図すると、バルファル達3人は、ユファが起動した、転移呪文の呪符の力で、その場からかき消えていた。

ウズラ、バルファル、ユファの3人は、ウズラのモグハウスに辿り着いた。驚き慌てるチリが出迎えた。
「ウズラちゃん!大丈夫!」
叫ぶチリに、
「・・・チリちゃん・・・なんとか大丈夫よ・・・」
とウズラは弱弱しく答えた。
チリはウズラを寝室に連れて行き、休ませようとした。
だが、ウズラは首を横に振り言った。
「・・・まだ何人か、女の子が捕まってるはずなの、助けなきゃ。」
ウズラはコレットに約束したのだ、「必ず助けに戻る」と、
幸い、ウズラの傷と体力の殆どは、ユファがかけた回復呪文で回復していた。
ただ、2日近く何も食べずに過ごした為、とてもお腹が空いていると言う。
チリは頷き、何か消化の良いものを作ってくると言って、キッチンに入っていった。3人はリビングに移動して、ソファに腰掛けた。ウズラの着ているドレスは、ズタズタだったので、ユファがウズラに羽織る物を渡す。
「さてと・・・ウズラさん。何があったんだ?」
バルファルがウズラに尋ねた。
ウズラはこれまであった事を、バルファルに説明した。チリも時折キッチンから出て、話を聞いていく。
「・・・で、見張りを躱して、サンドリア港の入り口まで、辿り着いたのよ。バルちゃん達が見つけてくれて、ホントよかったわ〜。」
ウズラは話の途中で、チリから渡された大振りなカップに入れた、コーンスープを少しずつ飲みながらいった。
バルファルはこめかみに指を当てて、困った様に、
「・・・というかウズラさん・・・オレ達が見つけなかったら、どうなってたと思うんだ?」
と言った。
ウズラは、スープを飲むのを止めて、当惑したように、
「・・・それは・・・それはね。」
「前から思ってたんだけど、ウズラさんって考えがなさ過ぎじゃないか?オトコ探しにバーに勤めるとか・・・まあ、そりゃ騙した方が悪いんだろうけど。」
と言う、バルファルの言葉に、
キッチンから出てきた、チリが、
「バルファルさん!ウズラちゃんが、どんな目にあったと思ってるんですか!騙した方が悪いに決まってます!」
目を釣り上げて、叫んだ。
今、このタイミングで、ウズラの行動を糾弾するのは流石に分が悪いと思ったのか、バルファルはぼそぼそと、
「・・・一辺、誰かに説教してもらった方がいいんじゃないか?」
と呟いた。
黙っていたユファが言った。
「それより、これからどうするの?」と言った。
バルファルが答えるより早く、
「あら〜。このコは?」とウズラが言った。
「あたし、バルの友達でユファといいます。よろしくお願いします。」
ユファはぴょこんと立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「あら〜。これはご丁寧に〜。身体を治してくれてどうもありがとうね。」
スープを飲んで、幾分元気が回復したウズラは言った。
そして、ニタリと笑って、
「バルちゃん〜。いいの〜?クルちゃんがいながら?両手に花って事〜?」
と言った。
全員がずっこけた。
「・・・オイ、アンタ拉致られてたんじゃないのか?なんでそんなに元気なんだ?」
「えと、あたし別にバルと付き合ってる訳じゃないです〜。」
「ウズラちゃん・・・いつものウズラちゃんに戻ってよかったですわ。」
3者3様の言葉を聞いて、ウズラはビシ!とバルファルを指差しながら叫んだ。
「ズバリ!このコとの関係は!」
「え、え?・・・いや関係と言っても、友達だよ・・・。」
別に狼狽える必要は全くなかったのだが、ウズラの勢いに何となく引いて、バルファルは言った。
「怪しい!」ウズラは更に嵩にかかって言った。
ユファが冷静につっこんだ。
「ただの兄弟弟子ですよ。」
・・・しばしの沈黙があった。
立ち上がっていたウズラは、ゆっくりソファに座って、スープの残りを飲み始めた。
「つまんないわね。どろっどろの三角関係が見られると思ったのに。」
「オイ。。」
「あたしの相方の冒険者が、バルに剣を教えてるんで、ホントに兄弟弟子ですよ。」とユファが言った。
「あら〜。・・・そう言えばこないだ皆んなで集まった時に、コクトーさんが、バルちゃんの師匠に挨拶に行くとかって言ってたわね。」
とウズラは言った。ちなみにコクトーとは、バルファルの幼い頃からの守役の、初老のガルカである。
「んな事はどうでもいい!これからどうするかって言う話だっただろ!」
バルファルが髪を掻き毟りながら言った。ウズラのペースにはめられて、調子が狂った様だ。
「そんなの決まってるでしょ。」ウズラがカップをテーブルにタンっと置いて言った。
「残りの女の子を助けに行くのよ。」

バルファルはウズラのその言葉を聞いて、自分の意見を言おうとしたが、思い直した。代わりに別の事を言う。
「とりあえず、人を集めないか?」
皆がバルファルを見る。
「何をするにしても、オレ達だけじゃできるかどうかも分からない。ここに来れるだけの人でいい、呼ぼう。」
とバルファルは言った。
ウズラは首を傾げて、
「でも、戦いになるんだったら、戦える人じゃないと・・・」
と言った。
「そうだな。自分で言っといてなんだけど、クルクとウメさんぐらいしか思い浮かばないな。」
とバルファルは言った。
チリがキッチンから顔を出して、
「兄様は実家の問題でサンドリアには・・・。」
と言った。
「・・・クルクだけか、まあ一家のボスなんだから、来てもらわないとな。相変わらず連絡が取れないけど、シグナルパールをエマージェンシーモードにしてみる。気づけば、すぐ来てくれるだろ。」
バルファルは続けて、
「ユファ、オッサンに来てくれる様に、頼んでもらっていいか?」
と言った。
ユファはこくりと頷いて、
「いいよ。コウは多分、相変わらず黒魔法の修行中のはずだから、すぐ来ると思うよ。」
と言った。
「オッサンって、さっき言ってたバルちゃんの剣の師匠?あら〜、ナイスミドルかしら?」
とウズラが冗談めかして言った。
「・・・オレと同じ、タルタル族だぞ?アンタそんなに守備範囲広かったか?」
バルファルが、渋い顔で返事をする。
「あら残念。あたしウメちゃんじゃないから、タルタルを恋愛対象には見れないわ〜。」
とウズラが言った。
「本当は、一家の問題だから、身内で片ずけたいんだけど、ちょっと無理そうだからな。ってもうユファには手伝って貰ったか。」
とバルファルはユファに言った。
「別に気にしてないよ。バルだってあたしが困っている時、助けてくれたじゃない。お互い様よ。それにコウもバルの事は気に入ってるみたいだから、普通に手を貸すと思うよ。」
ユファはにこりと笑って言った。
「悪いな。」バルファルは短く答えた。
「あらあらあら〜。仲が良いわね〜。本当に・・・」
言いかけたウズラをバルファルが遮った。
「ウズラさん、アンタ、シャワー浴びて着替えたほうがいいぞ?泥だらけだし、服がズタズタだ。」
「・・・あら、本当。いい女が台無しね。じゃあ失礼して、そうさせてもらうわ。」
そう答えて、ウズラはシャワールームの方へ歩いて行った。

しばらくして、皆がチリの作ったオムレツと温野菜のサラダ、パンとミルクを食べていると、チャイムが鳴った。
ユファが食べる手を止め、
「出ます。」と言って、席を立った。
やがてリビングに戻ってきたユファは、1人のタルタル族の男を連れていた。
白いローブと、先端が金色に輝く白い杖を持ち、栗色の髪は後ろで短く縛っている。
タルタルは部屋を見渡し、一礼した。
「初めまして、コウと言います。よろしくお願いします。」
バルファルは席から立ち上がって出迎えた。
「おぉ、オッサン悪いな。」
「やあ、バル、来たよ。」とコウは言った。
コウはソファの、バルが指し示す場所に座った。ユファがその横にちょこんと座る。
「後は、クルクか・・・呼んでから、結構時間が経ってるんだけどな。」
とバルファルが言う間も無く、どかんとモグハウスの扉が蹴り開けられた。
どかどかと足音が近づいて来て、リビングに1人のタルタル族の女性が姿を現した。ピンク色のオロール装束と言う装備に身を包み、金色髪はツインにして、肩の処で切り揃えられている。
タルタル族の女性は叫んだ。
「バル来たよ!大丈夫?って、あれ?なんでこんなに人が集まってんの?」
バルファルは慎重に言った。
「クルク・・・緊急の事が起きたんで、パールをエマージェンシーモードにしたんだ、オレは別になんともない。」
クルクと呼ばれたタルタル族の女性は、
「なんだよ〜。クルク心配・・・いや、ちょっと気になったんで、急いで来たのに〜。」
「で、ウズラのモグハウスに、なんでこんなに人がいるの?」
と言った。
バルファルは咳払いをして、
「それをこれから説明するよ。クルクとオッサンはよく聞いてくれ。」
クルクの視線がコウの方を向く、コウは目線で挨拶をした。
バルファルが説明を始めた。
時折ウズラが捕捉しながら話を進める。
クルクとコウ以外は、話は2度目だったが、皆黙って聞いていた。
「・・・という事が起きたんだ。」
バルファルは、サンドリア港でウズラを救出した処まで話すと、話を締めくくった。
しばし皆無言だった。
やがて、パシンパシンという音が響いた。
見るとクルクが、右拳を左手に叩きつけている。
「決まってんじゃん。」とクルクが言った。
「そのボード何とかって奴らをボッコボコにして、女の子達をを助け出すんでしょ。」
ウズラが手を合わせて叫んだ。
「さっすがクルちゃん頼もしぃ〜。そうと決まったら突撃よ〜。」
バルファルは慌てて、
「いや、待て待て。そう言う結論でも良いかもしれないけどな。やり方を相談したいんだよ、やり方を。」
と言った。
クルクは不満そうに、
「やり方〜?そんなのそいつらの所に行って、ボコるだけじゃん。」
と言った。
「じゃあ、ボードワン組のアジトの場所は?」
とバルファルが尋ねる。
「? ウズラの捕まってたって言う洞窟じゃないの?」
クルクは首を傾げる。
「あ・・・多分違うと思うわ。あたしが逃げてきた時、追いかけてけたのは1人だけで、残りはどこから来たのか分からない・・・。」
とウズラが捕捉した。
「ぬぅ〜。じゃあ、どうすんのさ?」
クルクは不満そうだ。
バルファルは溜め息をついて、
「だから、こうやって集まってんだろ。」
と言った。
ここで、バルファルはコウの目線に気が付いた。
「・・・オッサン、頼めるか?」
とバルファルはコウに言った。
コウは頷き、皆に話始めた。
「一応、僕がここに来る前に、ユファからシグナルパールであらかたの経緯は聞いたんで、下調べをしてみました。天晶堂からの情報によると、ボードワン組の構成員は、ボスのボードワンを含めて20人。中くらいの規模の組織かな。幹部が2人いて、1人がゾルバと言う名のガルカ、もう1人がベルナールと言う名のエルヴァーン。それぞれ格闘と両手刀が得物だそうだ。ウズラさんとバルが会った2人が、この幹部でしょう。」
コウは一旦、間を置いて、
「奴らのアジトは、北サンドリアの工人通りにある、「ルフェ建設」という土木会社です。ただこの会社は、土木の仕事の斡旋を多少するだけのダミー会社で、奴らはここを拠点に悪事を働いている訳です。後はボスのボードワンは北サンドリアの住宅街に家を所有している。家族もいるようですね。まあ、周りの住民には、悟られてないんだろうけれども」
「なんで・・・そんなに詳しいの?」
ウズラが呆れた様に言った。
「いや、これは天晶堂に調べて貰ったんで、僕自身が詳しい訳じゃないです。まあ、蛇の道は蛇っていう様な事になるんでしょうか。」
コウは続けて、
「ここにいるメンバーで、ボードワン組と相対するという事については、僕も基本的には賛成です。というか、ウズラさんが拉致された女性に聞いた話だと、2〜3日内に女性達を売り払うという事でしたよね?ウズラさんが逃亡した事によって、時間が早まるかなと・・・つまり今夜になるはずです。今から王都の治安維持を担う神殿騎士団に相談しても間に合いません。」
神殿騎士団が、犯罪の容疑者を逮捕・拘留する為には、ある程度でも客観的な証拠が必要である。疑わしいだけでは逮捕・拘留はできないのだ。騎士団が証拠を集めるのには、時間が足りないと言うことなのである。ちなみに今の時間は、午後を回ったところだ。
「ただ、バルも言った通り、やり方は考えた方が良いかと思います。・・・通常、こう言った裏組織と敵対する場合には、徹底的やらないとダメです。そこでクルクさんに質問ですが、奴らを皆殺しにしますか?」
とコウはクルクに訪ねた。
サラッと言われたので気付かなかったが、意味が分かるとクルクはびっくりして叫んだ。
「ぅ・・・いや、殺さなくてもいいんじゃないの?やった事を後悔する位ボコれば。」
「それだと、時間が経ったら、必ず仕返しに来ますね。裏稼業の人間というのは得てしてそんなもんです。クルクさんやバルは自分の身を守れるかも知れませんが、他の方はどうでしょうか。」
とコウは言った。
「まあ、でも殺さない方で考えると、クルクさんの言う「ボコる」にしても、今度敵対したら殺されると思わせる位に、徹底的にやらないとダメですね。」
「具体的にはどうするんだ?」とバルファルが訪ねた。
「サンドリア港近辺から20人近くの人間を輸送するには、飛空挺か船だろう。飛空挺は犯罪目的には利用できないから、個人所有の船を使ってルフェ湖からサンドリア国境を越えるルートを使うと思う。しかもサンドリア港は飛空挺と同様に使えないから、ウズラさんが捕まっていた洞窟の近辺に船を接舷して、輸送を始める事になると思う。」
とコウはバルファルに説明した。
「段取りとしてはこうだ。今夜早めに洞窟近くに行って、奴らの動向を見張る。女性達を輸送する動きが見え始めたら、こちらから襲撃をかける。なるべく派手に戦って、奴ら全員をおびきだした上で叩きのめす。この際、ボスと幹部2人は徹底的に叩かないとダメだ。後は・・・そうだな、最後に僕が派手な魔法で輸送用の船を破壊するくらいかな。」
「という訳で、幹部2人はクルクさんと、バルで相手をお願いします。ボードワンは、腕っ節は並らしい。ユファが相手で。雑魚は僕が引き受けます。後、ウズラさんは洞窟までの案内をお願いします。」
クルクは肩を竦めて言った。
「ほら、結局洞窟に行って、なんちゃら組の奴らをボコるだけじゃん。」
コウは笑って、
「そうですね。説明が長くなってすいません。」
と言った。
バルファルは、
「いや、クルク、結果的にそうなっただけだろ。過程を全然考えてないだろう?」
と言った。
クルクは横目でバルファルを見て、
「女の直感は、常に正しいんだよ。バルこそカタナの奴に勝てんの?」
と言った。
「む・・・。」
バルファルは微妙な表情である。
ウズラが口を開いた。
「あたしからも提案があるんだけど。」
・・・ウズラの提案を聞いた皆は、口々に言った。
「それ、どんな意味があるんだ!?」とバルファル。
「ウズラがやりたいなら、クルクは別にいいよ?」とクルク。
「あ、あたし今年の衣装持ってます。」とユファ。
コウは少し考えて、
「意味があるかと聞かれたら、あんまり無いような気がしますが、今回の一番の被害者はウズラさんなので、気が済む様にされたらいいかと思います。まあ、相手を驚かすことで、こちらが心理的に優位に立てるかもしれませんね。」
と言った。
「やった!じゃあ決まりね。皆衣装持ってくるのよ〜。」
ウズラは喜んだ。
それから、今晩に向けて、細かい打ち合わせが始まった。

日が暮れた頃、5人は女性達が捕まっている洞窟に向けて出発した。5人とは、クルク、バルファル、ウズラ、コウ、ユファである。チリは、神殿騎士団の本部があるドラキーユ城に出向いている。今晩の事件には間に合わないだろうが、事の次第を
説明しに行ったのだ。つまり告発である。
5人はすっぽりマントとフードに身を包んでいた。それぞれ色違いで、クルクがピンク、バルファルが黒、コウが白、ユファが赤、ウズラに至っては金色である。はっきりいって滅茶苦茶目立ったが、天涼祭の最中ともあって、イベント関係者に見られた様だ。南サンドリアから北サンドリアに入るあたりで、5人は物陰で、姿隠しの呪文をかけた。音消しの呪文もあるが、両方かけるとお互いが分からなくなるので、姿隠しの呪文の方だけかけた。サンドリア港に向かう途中、工人通りで、ボードワン組のアジト、「ルフェ建設」の前を通ったが、人気が無い様だった。
サンドリア港の入り口辺り、資材が固まっている場所で、ウズラが城壁の方へ皆を案内した。ウズラは、自分でもうろ覚えの記憶を元に、資材の山の中を右に曲がり左に曲がる。するとやがて城壁が修理中の場所に辿り着いた。城壁に人が1人通れる位の穴が開いており、外に抜けられる様だ。
5人はウズラを先頭に、城壁の外に出た。木々の中をそのままルフェ湖の方へ向かっていく。月明かりの中を、比較的ゆっくりなペースで湖に進むと、やがて斜面に出た。斜面はなだらかに湖の方へ下っており、湖の横の崖には洞窟の入り口が見えた。月が照っていなかったら見逃したかもしれない。
洞窟の入り口には、見張りが1人立っていた。おそらく入り口の少し中にもう1人見張りがいるのだろう。ウズラが逃亡した時と同じ構成だ。他に動きはなかった。まだ船も見えなかったし、時間に余裕を持って着けたようだ。
5人はその場に座り込んで時間を潰す事にした。サンドリアは北の国とはいえ、夏の只中である。陽が落ちたこの時間でも少し暑い。マントとフードに身を包んでいる5人は尚更だった。姿隠しは解いていないので、姿は見えないがそれぞれ、マントの中に風を送り込んでいる気配を感じる。
ぼそぼそと話し声が響く。
(・・・これ暑っついわね〜。)
(アンタが着るって言ったんだろ。)
(クルク、ジュースが飲みたいなぅ〜。)
(あ、クルクさん、ウィンダスティーだったらありますよ。冷えてます。)
(ユファちゃん、気がきく〜・・・ゴクゴク・・・ぷはぁ)
(クルクうるさい)
(し〜)
なんてことをやってる間に、5人から少し離れた斜面に人影が幾つか現れた。ばらばらに洞窟の入り口に向かって行く。また、ルフェ湖の沖の方からは船が近付いてきた。中程度の大きさの帆船で、岸より少し離れた所に停泊した。人の輸送はボートで行うようで、積載しているボートを、ロープを使って降ろし始めた。サンドリアの方からは、また人が現れていた。
(そろそろだと思います。もう少したったら、襲撃しましょう。)
コウが皆に囁いた。
やがて、洞窟の前に15・6人の男達が集まった。帆船からのボートも岸についている。
ウズラは男達を見て、
(ボードワンとゾルバがいる!)と囁いた、
バルファルも、
(刀の男がいるな・・・ベルナールだったか。)と囁いた。
一通り組の人間が揃った様である。
「じゃあ、行きましょう。」コウは立ち上がった。

ボードワンは洞窟の前で、奴隷商人の男と談笑していた。予想しないトラブルの所為で、取引日時が早まったが、問題なく終わりそうだ。今回の取引では一人頭50万ギルで売買する契約になっている。つまり20人で、1000万ギルだ。
(ボロい商売だぜ)
ボードワンはニヤニヤ笑う。
ボードワンの女達を拉致する方法は様々だが、サンドリア宮廷に出仕していると言うと、女達はころりと自分を信用するので、楽なものだった。もちろんまったくの嘘だったが。ボードワンは外見は端正なエルヴァーンの男で、筋者には見えない。
(・・・ち、そう言えば20人じゃなくて、19人だったか。)
昨夜1人が洞窟から逃亡したのだ。その所為でスケジュールを早めなければならなかった。
(あの女、今度見つけたら生皮剥いでやる。)
物騒な事を考えていたボードワンだったが、見張りの声で現実に引き戻された。
「なんだ、お前ら!」
見張りのドスの聞いた誰何の声も気にする様子もなく、近づいてくる人影があった。
「なんだありゃ?」
組員の1人が素っ頓狂な声を上げた。ボードワンがよく見ると・・・
近付いてくる人影は5つだった。おかしいのは、全員が色とりどりのマントとフードで身を包んでいる事だろう。なので、顔立ちや性別が分からない。
ボードワンから見て、真ん中が金、右がピンクと黒、左が白と赤である。しかも中央の人影以外、全員異常に背が低い。子供かタルタル族だと思われる。
5人の人影はボードワン達から少し離れた所で立ち止まった。
金色マントが口を開いた。
「ボードワン!お前達の悪業もこれまでよ!大人しく女達を解放すればよし。さもなければ、ルフェ湖の藻屑に変えてあげるわ!」
と金色マントはボードワンを指差して言った。
女の声だ。ボードワンは目付きを鋭くしながら前に出た。
「何だお前ら?ふざけた事を抜かすな!殺されたくなければ・・・いや、もう見ちまったな。死んでもらおう。」
その言葉を聞いた、金色マントは、
「後悔しても知らないわよ!いくわよっ!みんな!」
と叫び、5人は一斉にマントとフードを脱ぎ捨てた。
現れたのは・・・
奇抜なコスチュームに身を包んだ5人の戦士だった!!
・・・と言っても、天涼祭のアイドルショーで手に入れた衣装をそのまま使っているので、女性はスターレト装備という、ふりっふりのピンクの衣装。男性はエージェント装備という黒いローブ系の衣装である。顔の上半分をマントと同じ色の仮面で隠しているのが、違いといえば、違いか。
5人はそれぞれ名乗りを上げ始める!!
「赤の勇者!ジャスティスレッド!」ユファが、右手をぐるりと廻し左手を突き出して叫んだ。
「く・・黒の勇者!ジャスティスブラック!」バルファルが鞘ごと持った大剣を地面に突き刺しながら叫んだ!
「白の勇者!ジャスティスホワイト!」コウが空中に風を巻き起こしながら(実際は単なる風魔法エアロ)叫んだ!
「桃の勇者!ジャスティスピンク!」クルクは空中に跳び上がり、拳と蹴りを繰り出しながら叫んだ!
「金の勇者!ジャスティスゴールド!」ウズラはその場でくるりと回転して、両手を空に掲げながら叫んだ!



「「「「「5人の勇者!!サンドリアジャスティス!!」」」」」
5人の声が綺麗にシンクロして、辺りに響きわたった!!



・・・辺りを静寂が支配した。
ボードワン達は、唖然としている。
ウズラは小声で言った。
(キマったわね!)
(あはは。これ面白いですね)
コウは楽しそうである。
(・・・やっぱり、意味わからん)とバルファル。
(バル噛んじゃったじゃん。練習したのに)とクルク。
(あ、リアクションきそうです)とユファ。
ボードワンはわなわなと震えながら叫んだ!
「貴様ら舐めてんのか!真ん中のお前、確かウズラと言う女だな!わざわざ戻って捕まりに来たか!」
ウズラもとい、ジャスティスゴールドは鼻で笑いながら言った。
「ウズラは仮の名前。あたしはクルク一家のクルクこと、ジャスティスゴールドよ!」
ウズラの横のクルクがぼそっと呟く。
(ウズラがクルクなら、クルクは誰なんだよぅ〜)
ボードワンは勝手に勘違いして、喚き散らした。
「そうか、貴様ウチのシノギを内偵してやがったな!人のシマを荒らすたぁ良い度胸だ!生きて帰れると思うなよ!お前らやっちまえ!」
ボードワンのその言葉を合図に、10人程がサンドリアジャスティスに向かってくる。
ウズラことジャスティスゴールドは、ばっと右手を向かってくる10人に指し示しながら叫んだ!
「ホワイト!やっておしまい!」
コウことジャスティスホワイトは叫んだ!
「あいさー!」
コウは手に持った先端が金色の杖をくるりと廻して、呪文を詠唱した。
組員達が数歩走った所で、足元の地面が隆起し、土の槍となって組員達を打った。組員達はばたばたと倒れる。あっと言う間に、10人全員が地面に転がった。
ジャスティスゴールドがさも可笑しそうに笑った。
「オ〜ホッホッホ!口ほどにも無い!さっさと降参しなさい!」
ボードワンは唖然として、
「・・・ば、馬鹿な、一撃の魔法で10人だと・・・」
それからぶるぶると頭を降り、
「ゾルバ!、ベルナール!始末しろ!」
と叫んだ。
幹部の2人、ガルカとヒュームの男達は、「おう」「はい」とそれぞれ返事をして、サンドリアジャスティスに向かってきた。
ジャスティスゴールドは応じて、叫んだ!
「ジャスティスピンク、ブラック!やっておしまいなさい!」
「まかせな〜。」「・・・よし。」ジャスティスピンク、ブラックことクルクとバルファルは返答を返し、それぞれゾルバとベルナールに向かって行った。
コウはそれを見ながら、ボードワン組の人数を数えた。倒れている組員が10人、ボードワンと幹部2人で合わせて3人、ボードワンの周りに更に3人の組員が居て、騒ぎを聞きつけて来たのだろう、洞窟の中から新たに4人の組員が出てきた。これで総数は20人。構成員の全てがこの場所に集まった事になる。ボードワン組にとって、それだけこの取り引きは大きい仕事なのだろう。
コウは杖を構え、睡眠魔法を唱えた。組員達がバタバタと昏睡状態になって倒れる。うまく7人の組員だけにかかった様だ。中央のボードワンがぎょっとした表情になっている。
コウはウズラに言った。
「ウズラさん、船を壊す為の魔法の詠唱に入るので、クルクさん達の戦いが終わったら船員達に逃げる様に言ってください。」
ウズラはパッチリとウィンクをして、
「分かったわ!」と言った。
コウは、精霊の印という複雑な手振りの印を組んだ後、呪文の詠唱に入った。

ジャスティスピンクことクルクは、ボードワン組の幹部、ゾルバと相対していた。クルクはタルタル族、ゾルバはガルカ族である。両者の体格の違いは大人と子供どころか、人間と巨人ぐらいあった。ゾルバはニヤニヤ笑いながら、
「タルタル族の癖に格闘で戦うなんて、何考えてやがる。手前らは魔法でも唱えてりゃ・・・」と言いかけたところで、クルクの姿が瞬間ぶれた。
あっという間にゾルバの頭の位置まで跳び上がると、右足で顔面をしたたかに蹴りつけた。ゾルバは血反吐を吐きながら、後ろに吹き飛ばされた。
「ゲッ・・・げはっ・・・」血を吐くゾルバにクルクは、退屈そうに言った。
「クル・・・ジャスティスピンクのゲンコツは痛いぞぅ〜。・・・あ?今蹴っちゃった。次ゲンコツね〜。」
ゾルバはクルクに突進した。右拳を振り下ろすが、クルクはひょいと躱し、ゾルバの右手を駆け登って、右拳でゾルバを殴りつけた。ゾルバの頭がガクンと右側に傾ぐ、そのまま倒れかかるが、持ち直して立ち上がった。右手に乗っているクルクを身体を揺すって振り落とす。宙に浮くクルクに左の裏拳を叩きつける。クルクは勢いに逆らわずに、羽毛の様にゾルバの左手に取り付いた。左に振り抜く回転を、自分の体重を使って、更に勢いをつける。ゾルバが半回転した所で、下に体重をかける。堪らず後ろにひっくり返るゾルバ。クルクはゾルバの左手の下にいた。そのまま左手の関節を逆に極めていく。腕ひしぎ逆十字だ。みちみちみちとゾルバの関節が破壊されかける。
「ガァ〜!」とゾルバが強引に腕を振り払う。流石にガルカの力は強く、クルクは腕を極め切れなかった。
両者が共に立ち上がる。クルクは顔をしかめて、ピンクのふりふりの衣装の汚れをぱんぱんと払った。
「せっかくの衣装が汚れちゃうじゃん。」
ゾルバはぜいぜいと荒い息を吐いていた。左手はだらりと下に下がっている。
「・・・くそ・・・これでも喰らえ、夢想阿修羅拳!」
ゾルバの身体が高められた気力で発光する。ゾルバが連打の構えを取った!
クルクはニヤリと笑い、
「お?やるじゃ〜ん。・・・そう言えば派手にやるんだっけ?こっちも行くよ〜。ジャスティスピンク・ファイナルアタッ〜ク!」
ゾルバに呼応する様に、クルクの身体が発光する。
同時に発動された2人のウェポンスキルが交差した。
ゾルバは左手を痛めた為、右手のみの連打になる。それを掻い潜って、クルクの手による斬撃、アッパー、飛び回し蹴り、裏拳が、次々と決まる。闘気によって薄っすらと動物の様な姿が現れた。
コウは呪文の詠唱をしながら、ちらりとその姿を見た。
(お。四神演舞。)
格闘のウェポンスキルの内、最も威力の高い物の一つだ。だが前に見た、格闘の達人の放つ四神演舞は、四神の姿がもっとはっきり具現化していた様な気がする。
(もちょっと修行がいるかな・・・まあ、僕も同じか。。)
コウはそんな事を考えながら、呪文の詠唱を続けた。
倒れたゾルバはピクリとも動かなかった。クルク、いやジャスティスピンクの勝利だった。

ジャスティスブラックこと、バルファルはもう1人の幹部ベルナールに苦戦していた。というか戦術が違うので、噛み合っていなかったというのが正しいかもしれない。バルファルの大剣を使ったスタンダードな剣術に対して、ベルナールのそれは居合だった。刀を鞘に収め、腰を落とし向かって来た敵に対して、抜き打ちに斬りつける。始めこの理が分かっていなかったバルファルは、危うく真っ二つにされかけた。大剣を使って辛うじて防いだが、以降ベルナールに対して迂闊に踏み込めなくなった。じりじりと時間だけが過ぎたが、クルクがゾルバを倒すのを横目で見たバルファルは、覚悟を決めた。
(一番強い技で行くしかない・・・)
バルファルは気力を溜めた。持てる最大の技を放つ準備をする。
ベルナールも結着を感じ取って、居合の構えを取った。
「行くぜ!」
バルファルは大剣を振り下ろす。その直前にベルナールの居合がバルファルに迫る。しかし双方の剣は空を斬った。バルファルが1歩間合を外して斬ったのである。その真の狙いは・・・
地を打ったバルファルの大剣は、直後に氷の塊を発生させた。その氷に包まれたベルナールは、次の一撃への繋ぎが遅れた。そこへバルファルの大剣のひらが、ベルナールの頭に叩きつけられる。ベルナールはがくりと膝から崩れ落ちた。
(やれやれ、ウェポンスキルの魔法属性のお陰で勝てたな。剣術の腕だけだったら、向こうの方が上だった。)
そんな考えがバルファルの頭をよぎった。
ジャスティスブラックことバルファルは、ベルナールに勝利した。
大剣を鞘に戻すと、クルクが手を振ってくる。
そこでバルファルは気付いた。大気が振動していた。

ボードワンは愕然としていた。手下の組員の20近くと、ゾルバ、ベルナールの幹部2人があっという間に倒されていた。手下はともかく、ゾルバとベルナールの腕は確かではなかったのか。クルク一家、サンドリアジャスティスとは一体何なのだ。ボードワンは側にいた奴隷商人の男がサンドリアジャスティスに目を奪われているのを見て、そろりと横に一歩動いた。自分に矛先が向かない内に、逃げ出すつもりだった。そこに声がかかった。
「どこに行くの?逃げられないよ。」
見ると、赤い仮面を付けたタルタル族の女が立ち塞がっていた。
「ええぃ、どけ。お前らの様なふざけた奴らを相手にしている時間はない。」
ボードワンは腰の剣を抜いた。
ジャスティスレッドこと、ユファは剣を抜いた。
「愛と正義の使徒、ジャスティスレッドが相手をしてあげる。」
ユファも結構ノリノリだった。
ボードワンが斬りかかってくるが、幹部2人に比べれば、明らかに腕が落ちる。
2、3合でジャスティスレッドがボードワンの剣を叩き落とした。
「ぐっ・・・」ユファの剣のひらで強打された腕を抑えながら、ボードワンは呻いた。そこへジャスティスゴールドことウズラが近づいてきた。
「ホーホッホッホ、ざまぁないわね。悪は必ず滅びるのよ!」
ジャスティスゴールドがボードワンに指先をビシッとと向けていった。
「・・・ふざけやがって・・・貴様さえ居なければ・・・」
ボードワンは、そう言うとユファが止める間もなく、憤怒の表情でジャスティスゴールドに殴りかかってきた。
だが、ジャスティスゴールドはそれを予想していた様だった。
軽くバックステップをして、ボードワンの拳を躱す。たたらを踏むボードワンに、
「あんまり女を甘く見んじゃないわよ!」
と叫んで、右の掌底をボードワンの鼻っ柱に叩き込んだ。ウズラはクルクに護身術として、幾つかの格闘の技を教わったが、その内の一つだった。
捻りが加わったその一撃で、鼻を折られて、ボードワンは仰向けにばったり倒れた。
「ふぅ・・・これでやっと終わった・・・って、え?」
ウズラは空を見た。大気の振動が凄い事になっている。ゴゴゴゴゴという振動音が空から響いていた。
・・・そう言えば、さっきコウが「魔法で船を壊すから、船員に逃げる様に言ってくれ」と言っていた気がする。
ウズラは慌てて奴隷商人に、
「ちょっとアンタ!船の乗組員に逃げる様に言いなさい!コウちゃん・・・じゃない、ジャスティスホワイトが船をぶっ壊すわよ!」
奴隷商人は顔面を蒼白にして、
「は、ハイッ!」と叫んで停泊中の船に身振りを交えて、大声で指示を出し始めた。逆らう気はない様だ。ボードワン組とサンドリアジャスティスとの戦いを見て、勝てないと思ったのだろう。
岸から離れたところに停泊中の奴隷商船は、それでも指示が分かったらしく、船員が次々と湖に飛び込んでいた。必死に岸まで泳ぎ始める。
ウズラ以下4人は、空を見上げた。遥か上空の星の一つがだんだん大きくなる。
「あれ、何かしら?」とウズラ。
「・・・なんか落ちてくるよな?」とバルファル。
「ここ、危ないんじゃ?」とクルク。
「・・・コウ・・・また無茶を・・・」とユファ。
船員達が次々と岸に泳ぎ着いた。船には誰もいなくなった様だ。
ウズラ達から少し離れて、呪文の詠唱をしていたコウが一際大きな身振りをした。

「・・・天より飛来し神の鉄槌、我が敵を撃たん・・・」
呪文の詠唱が完了した様だ。


「メテオ」


天空より飛来した、隕石が奴隷商船に着弾した。
船に隕石が当たる瞬間、一瞬隕石が止まった様な気がしたのは、目の錯覚だろうか。木造の中型の帆船は一瞬でバラバラになった。木ではなく紙でできている様だった。船を突き抜けた隕石は、湖の底に激突した。爆発が起こった様な凄まじい水飛沫と水が蒸発した霧が辺りに撒き散らされる。同時に隕石による地震が起きた。ウズラ達はその場で転倒しそうになる。
上空から船の残骸がばらばらと降る中で、頭を庇いながらウズラは叫んだ。
「凄いわね!船がバラバラよ!」
コウが近寄ってくる。ユファは腰に手をやってコウを睨みつけた。
「コウ!やり過ぎ!こんなに強い魔法を使わなくてもいいでしょ!」
コウは頭を掻きながら、
「いや〜。この呪文って、詠唱長すぎて実戦で使いづらいんだよね。試し撃ちがしたかったと言うか・・・」
バルファルが、
「オッサン・・・試しにこんなでかいの撃つなよ。」
と呆れた様に言った。
クルクはのんびりと、
「見事に船がバラバラになったねぇ〜。」
と言った。
見ると奴隷商人や船員達は呆然とその場にへたり込んでいる。ボードワンに至っては、踞ってガタガタ震えていた。
ウズラは、
「さぁ。これでコレット達を助け出す・・・」
と言いかけた時、どこからか、ピーと笛が鳴る音がした。
更に洞窟に向けて向かってくる多数の人影が見える。
「新手か?」とバルファルが大剣の柄に手を当てる。
「・・・いや、多分神殿騎士団だろう。チリさんの告発が功をなしたか、さっきのメテオを脅威に感じたか・・・」
コウはウズラ達の方へ向き直って言った。
「今日はここまでだね。騎士団には事情を説明しとくから、あなた達は帰った方が良い。」
「あたし達だけ?」とウズラは言った。
「何人も残っていると、組織同士の抗争と見なされるかもしれない。・・・まあ、実際似たようなものだったが。」
「クルク一家が、裏組織に認定されるのはいやでしょう?」
コウは笑っていった。
クルクも笑いながら肩を竦めて、
「箔がつくかもね。・・・頼めるの?」
「神殿騎士団長のクリルラとは面識もあります。まあ、なんとかなるでしょう。」
とコウは言った。
「じゃあコウ、家で待ってるよ。」ユファは特に心配していない様だ。
コウはウズラ達に順番に転移呪文をかけていった。最後の1人、ユファが虚空に消えると同時に、神殿騎士団の団員達が洞窟前に到着した。


【エピローグ】
ボードワン組によって拉致されていた、女性達は神殿騎士団によって救出された。ウズラ達の戦闘が終わったタイミングで騎士団が現れたのは、やはりチリの告発が功をなした所為だった。元より拉致事件の捜査は行われていたが、決め手となる情報がなかったのだ。チリの告発により情報を得た騎士団は緊急出動となった。騎士団長クリルラの英断である。
もしかして、ウズラ達の戦いは必要なくて、告発だけで騎士団が女性達を救出出来たかもしれないが、全て終わった今となっては、誰にも分からない。
ボードワン組の人間や、奴隷商人達は全員拘束された。拉致された女性達の体調や心情を考えれば、厳しい沙汰が待っているだろう。
コウは、神殿騎士団と冒険者互助会にこってり絞られた。拉致者の救出に一役買ったのは評価されたが、やはり使った魔法が危険すぎた為、冒険者資格の一ヶ月停止の処置が下された。
クルク一家については、コウが喋らなかったのと、サンドリアジャスティスの印象が強すぎて、ボードワン達が殆ど覚えていなかった為、良い意味でも悪い意味でも話題にならなかった。
そのサンドリアジャスティスは、口コミで広がって、サンドリアの裏社会で伝説となった。余り悪どい事をすると、金髪の美女がタルタルの軍団を率いて、組織を壊滅させると言う伝説だ。サンドリアの犯罪発生率の減少に一役かっただろうか。


・・・事件から2・3日後、南サンドリア・・・
ウズラはバー ランコントルのノッカーをノックしていた。先日マスターのアルベリックから謝罪したい旨、大変恐縮だが来店頂けないだろうか。との手紙を貰ったのだ。また、何かしら企んでいるのかとも思ったが、組織は壊滅したのと、もともとアルベリックは今回の事件に関係がなかったので行く事にした。関係していたのは、息子のアルベールである。アルベールは既に神殿騎士団の手によって拘束されていた。最も今度は、夜までに帰らなかったら、仲間達に連絡するようモーグリに伝えてはある。

「・・・どうぞ・・」
細い声で返答があった。
店の中に入ると薄暗い。目が慣れると、以前綺麗に整頓されていた店内は、テーブルや椅子は床に転がり、床にはブーツの足跡がつき、酷いありさまだった。騎士団による家宅捜索があったのだろう。
椅子の一つに腰掛けて、テーブルに肘をついているアルベリックも酷い格好だった。綺麗に整えられていた髭は伸び放題になり、髪にも櫛が通っていない。着ているシャツもよれよれだった。何日も酒浸りなのだろう、目も落ちくぼみ、頰もこけている。
アルベリックは震える手で、目の前の椅子を指し示し、ウズラに言った。
「座って頂けますか。」
ウズラは躊躇したが、結局は椅子に座った。
ウズラが椅子に座ると、アルベリックはテーブルに手をついた。
「ウズラさん。この度は大変申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げるアルベリックを見て、ウズラは当惑したように
「・・・アルベリックさんは関係なかったんですもの。謝る必要はありませんわ。」
と言った。
アルベリックは頭を左右に振って、
「いや、アルベールのした事を見抜けなかったのは、私の責任です。聞けばウズラさんの前任の女性も同様の手口で拉致したらしい。どうしようもない奴だ。」
と言った。
「アルベールさんは何故こんな事を・・・」
とウズラが聞くと、アルベリックは苦々しげに、
「手に入ったカネで、この店を拡張したらしかったらしい・・・馬鹿な奴だ。」
と言った。
「そうですか・・・」とウズラは頷いた。アルベールも真っ当な方法で店を大きくすればよかったものを・・・
アルベリックはウズラを見て言った。
「今日、お越しいただいたのは他でもない。今回のお詫びにウズラさんに、この店を譲ろうと思いましてな。」
ウズラは驚いた。
「は?・・・いえ、そんな事をしてもらう訳にはいきません。」
「私は今回の件で、非常にダメージを受けました。・・・いや、実際の被害者のウズラさんに向かってこんな事を言えた義理ではありませんが・・・」
アルベリックは地に沈み込む様な調子で言った。
「田舎に帰って、余生を過ごそうと思います。これが店の権利書と鍵です。また、金庫には当座の回転資金が入っています。」
アルベリックは立ち上がって上着を身につけながら、
「私はもう、サンドリアにいるのがイヤになった・・・」
と言った。
「そのまま経営するもよし。売り払ってお金に変えるもよし。全て貴女に一存します。それでは・・・」
アルベリックは足を引きずりながら、店の外に出て行った。
ウズラはびっくりしていた。
ハンドバッグからタバコを取り出すと、1本火を点ける。滅多に吸わないが、たまに無性に吸いたくなるので、携帯している。
煙を吸い込み、紫煙を吐くと気分が落ち着いてきた。
これはどうするべきか、良く考えなければならない。貰える物はもらっていいのか?それともウズラの前任の女性を探し出して、折半するべきだろうか。
タバコを吸っていると、バーカウンターが目に入った。タバコを灰皿に置くと、ウズラはバーカウンターに入った。
棚から20年物の、ブルーウィスキーの瓶とショットグラスを取ると、テーブルに戻る。瓶からグラスに一杯注ぎ、飲もうとする。

ふと、何かに乾杯したい気分になった。
少し考えて、口に出してウズラは言った。

「あたしの人生に乾杯。」
一気に飲んだブルーウィスキーは、やはり美味しかった。



おしまい。



**:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:***:・:**


♪ コウさんの小説リスト ♪


第1弾 : 「とある出逢い」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第2弾 : 「とある出逢い 2」


第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。


第4弾 : 「ねがい」


第5弾 : 「ああ、ばれんてぃおん」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。





いつも遊びに来てくれてありがちょん(・▽・)
ポチッと押してくれたら嬉しいな♪




【2015/08/19 23:59】 | # コウさんの小説
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戦隊シリーズ!?
らぶりぃ
クルちゃん、おはようございます(*´ω`)ノ

コウさんの小説、読ませて頂きましたので、
コメント欄をお借りして感想を書かせて下さいね♪



コウさん、こんにちはなのです(*´ω`)ノ

今回の主役がうずらちゃんだったのがビックリでした!
クルちゃんやバルちゃんが主役ならわかるのですが、
倉庫番のうずらちゃんにスポットを浴びせるとは(☆ω☆)

だけど読んでてうずらちゃんらしさがイイ感じですね~♪
私もクルちゃんコメントでうずらちゃん&らぶりぃで遊ばせて貰っているので、
普段通りのうずらちゃんが小説の中にいて嬉しかったですヾ(⌒ω⌒)ノ

玉の輿を狙ってるうずらちゃんや、お酒を飲みたがってるトコロに、
酔ってメッセージしちゃうとこなんか想像出来ちゃった(笑)

少し古びたバーで、将来の旦那様が出て来るのかな~って、
ワクワクドキドキしながら読んでると怪しい感じの2人組…
しかも手引きをしてるのが優しい主人のムスコって( ̄ー ̄;

うずらちゃんは普段から美味しいお酒を嗜んでいるからこそ、
ワインのヘンな味に気が付いたのカモ!?
私だったらなーんにも考えずに飲み切ったような( ̄▽ ̄*)ゞ

牢屋に入れられてこのまま売られるって分かっても、
慌てず騒がず冷静に分析しちゃうのはサスガですね!
クルちゃんやコウさん、私みたいな「活動している冒険者」なら、
それも出来るけど冒険者と言う肩書だけだったら、
もっと騒いでもおかしくないのにうずらちゃんってばサスガ…
クルちゃん一家の中で揉まれてるのか、はたまた肝っ玉が据わってるのか(笑)

無事に脱出してさあお礼参りだ!って言うのはわかります。
だけどまさか戦隊モノになってて笑っちゃいました(o_ _)ノ彡☆ぽむぽむ

しかも中央に光り輝くゴールドのうずらちゃん率いる、
他のコたちは全員タルタルってすっごく想像しやすいです(* ̄m ̄)ぷぷっ
警備保障アルゾ○クのCMみたいだぅ!
悪役たちは…まあ相手が悪すぎましたね(  ̄ω ̄)σ
数々の修羅場を潜り抜けて来た戦士たちに敵うはずないですし。
中でもうずらちゃんは違う意味で百戦錬磨の勇者ですものネ!
きっと今回の隊員たちの中では1番強いと思います…ハートが(笑)

いや~、うずらちゃんが主人公でどんな内容なのか、
最後までワクワクしながら読ませて頂きましたヾ(⌒ω⌒)ノ
情景が浮かんできちゃう書き方って本当にスゴイと思います♪

今度はダレが主人公になるのか楽しみにしていますね(*⌒ω⌒)v


ありがとうございます
コウ
クルクさん、コメント欄お借りします。

---------------------------------------------------
らぶりぃさん、こんにちは〜

うずらさんのお話、読んでいただいて、ありがとうございます。コメント頂けると、書いた甲斐があります。
うずらさんはキャラが立ってて書きやすかったです。トラブルメーカーっぽいところも、イベントが盛り込み易いし、良かったですね。
戦隊物の所は、書いてる途中で思い浮かびました。ただ捕まっている女の子達を助けに行くだけじゃつまらないかなあ、と思ってた所に、子供と一緒に見てた戦隊番組でピンと来ました。
後は、うずらさんが、冒険初心者と言うこともあって、途中で死なせないように気を付けました。あの髪飾りのカギとか、結構ご都合主義ですねw

唐突ですが、予告です。


【次回予告!!!】
ウィンダスで暮らす、冒険者チー。地味な役回りの彼女は、一見物静かに見えるが、内面には激しい情動が渦巻いていた。そんなココロにつけ込む悪しき影が!吹き出る暗黒面!変貌するチー!
変貌したチーはらぶりぃ一家は勿論の事、ウィンダスの平和にも影を落とす。
連邦の黒い悪魔も問題の解決に乗り出す中、ウィンダスの平和は守られるのか?はたまた連邦の黒い悪魔と全面衝突する事になった、チーの安否は!?

乞うご期待!!!

・・・

・・

なぁんてお話を、次回書いてみようと思いますので、また読んでいただけますでしょうか。

よろしくお願い致します。
それでは〜。


予告が!!
クルク
こばわんわ、クルクだぬ(・▽・)ノ

コウさん、この度はありがとうございました♪
感想第1弾は小説をいただいたコメに付けさせていただきましたが・・・。
あれからまた、第1弾から順に読み返しちゃいました(≧▽≦)楽しい~♪

うずらのこれからについて・・・。
一家での話し合いが必要になりそうです★
それ考えてるのも楽しくて、妄想の日々が続きそうです(*´▽`*)

そしてそして、なんと予告が!!
チーちゃんに、いったい何が!?(; ̄□ ̄)
デビル・チーになってしまうのでしょうか(>д<)
らぶたんは、何があろうとチーちゃんの味方だよね!?
例え、連邦の黒い悪魔と敵対することになろうとも・・・w

ワクワクドキドキ、楽しみにしてます((o(^▽^)o))


予告!?
らぶりぃ
クルちゃん、またまたこばわんわん(*´ω`)ノ

次回予告にチーちゃんの名前があってビックリ!!

普段は物静かですけれど私が騒いでダレかに迷惑をかけようものなら、
彼女は闇の神よりも世界の終りに来る者よりも恐ろしいモノに…
なぜか私よりも前衛職に精通しててほぼLv99の強者になった彼女の、
怒りの鉄拳制裁は凶器ですヾ( ̄ω ̄;)ノ

そんなチーちゃんがどうなったのか楽しみ過ぎです!!
しかも連邦の悪魔と…ウィンダスが危なくなったら、
星の大樹に全員避難してスイッチを押せばそのまま飛び立てるカモ♪


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2015.01.01 「あけましておめでとうございます」 のコメントにいただいた、コウさんの小説の第4弾です。




アルタナ4国も、年が開け新春の空気が流れていた。
昨夜遅くまで、年が明けた祝いに、ジュノ下層で、花火を打ち上げて大騒ぎをしていた人々もそれぞれの家に戻り、朝になった今では、静けさを取り戻している。
そんな新春の朝、ジュノ下層を歩く人影があった。

バルファルはジュノ下層をぶらぶらと歩いていた。特に目的がある訳ではない。気晴らしにウィンダスから出てきたのだ。
バルファルは先日まで、相方の仕事の手伝いで、ヴァナ・ディール各地を回っていた。
彼の仕事は相方の護衛で、エルシモ島にあるウガレピ寺院では、古代の民の末裔であるというトンベリ族と戦ったりもした。
相方は目当ての品を手に入れ、バルファルに感謝して仕事に戻っていったのだ。
だが、バルファルは不満だった。
相方は仕事の依頼を、ウィンダスの口の院の院長アジドマルジドにされたと言っていたが、その話をした時の彼女の表情が今まで見たこともないようなものだったのだ、それは何と言うか・・・。

バルファルはここまで考えて、ジュノに来たのはいいが、まだ早朝なので店が開いていない事に気づいた。
今いる場所は、商店が並んでいる区画を通りすぎて、競売区画に入った所だ。
しょうがない、引き返すか。と考えて踵を返した時、声をかけられた。
「あ、バルじゃない?」
振り返って相手を見ると、先日ウィンダスで騒ぎを起こしたタルタル族の女だった。名前は確か・・・
「ユファよ。おはようー。」とユファは言った。
「おう、久しぶり。」とバルファルは返した。実際には前に会ってから、まだ一ヶ月も経っていなかったが、各地を冒険をしていると、そんな気分にもなる。
ユファも同様だったようで、「そうねー。」と言った。
「今日は、どうしたの?」そのユファの問いかけに、バルファルは気晴らしにジュノに遊びに来たのだと言った。
そこでバルファルは思いついた。女のユファなら先程考えていた、相方の表情について何か意見が聞けるかもしれない。
タルタル族は成長の早い段階で、身体の大きさが一定になるため、ほんの子供ならともかく若者と大人の区別はつかない。
先日の騒ぎでの言動を見て、ユファは自分より若いかもしれないと思ったが、そこは目をつぶることにした。
「ちょっとお茶でも飲みたいんだが、つきあってくれないか?」とバルファルは言った。

ユファは快く了承し、早朝でもやっている店に案内してくれた、吟遊詩人の酒場と言う店で、朝昼は茶店としても利用できると言う。
店のテーブルについて、飲み物が運ばれてくる前に、既にユファはさまざまな事を話していた。
同居人のコウは昨日の夜から、仲間内での年越しパーティーに出かけたこと、ジュノ下層の年越しカウントダウンは賑やかだったこと、自分も以前バルファルとあってから、鍛錬を行い剣の腕を上げたこと。
店に入ってからまだそんなに時間は経っていなかったが、バルファルは1時間以上話し合っている気分になっていた。
(女は話が長いよな)等と思いながら、ユファの話に適当に相槌を打っていく。
やがて、飲み物が運ばれてきた。バルファルはアルザビコーヒーで、ユファはカモミールティーだ。
飲み物を口にしながら、ユファは尋ねた。
「で、何を悩んでるの?」
バルファルはコーヒーを吹きそうになった。まだ何も言っていないはずだが・・・
「だって、あたしが呼び止めた時、深刻そうな顔してたよ?」とユファは言った。
意外と鋭いなとバルファルは思いながら、先程考えていた事をユファに語った。
聞く内にユファは爛々と目を輝かせ、バルファルに言った。
「それは恋だよ!」
「なに?いやしかし・・・」とバルファルは答える。
「それしかないってー。その彼女って、前にバルが言っていたクルたん・・クルクさんでしょ?そうかークルクさんは口の院の院長に恋をしてるのかー。」とユファは言った。
そうか・・・いや、そうかと思ってはいたのだ、しかし改めて人の口からはっきり言われると、衝撃が走る。
その様子をユファはしげしげと見て言った。
「で、バルはクルクさんが好き・・・と。」
「おい待て!そんなことは言ってないだろ!」とバルファルはムキになって否定をする。
だが、にやにやと笑いながらバルファルを見るユファを見ると、反論しても無駄なような気がしてきた。
バルファルはこの話を打ち切り、ぎこちなく先日ユファが起こしたウィンダスの騒ぎについて、話を切り替えた。

店を出ると、1時間近くが経過していたようだ。ちらほらと通りを歩く人も増えてきた。
「どうする。コウならまだ戻らないだろうし、ジュノなら案内できるよー。」とユファが言った。
バルファルはどうしようかと考えたが、ふと妙な音が聞こえてきた。
見ると、競売の向かいにある装置から聞こえてくるようだ。
「あれは・・ウェイポイントか?」とバルファルが尋ねた。
ウェイポイントとは、神聖アドゥリン都市同盟が開発した魔道器で、クリスタルと同様ヴァナ・ディール各地にワープをすることができる。
外見はジャイロスコープのような複数のリングからなる半球で、下部にはクリスタルが装着されている。
「そうだよ。コウやあたしもよく使うよ・・・でも、あの音なんだろう?」とユファは首をかしげた。
2人が近づくと、ウェイポイントは、ウィーンウィーンと言う音を発しており、下部のクリスタルは明滅している。
「故障かな?」ユファはウェイポイントに手を伸ばした。
「おい!うかつに触ると・・・」
バルファルのその言葉が終わるまもなく、ウェイポイントから青い光が発し、2人を包んだ。
「!」
「!」
声を発する間もなく、2人の姿はジュノ下層から消え失せていた。

コウは二日酔いの頭を抱えながら、家に帰る途中だった。昨夜は懇意にしている冒険者仲間と集まって痛飲したのだ。
ニューイヤーパーティーと銘打っていたが、様は単なる飲み会だ。
ユファも行きたがっていたが、コウが毎年倒れる者が出るほど酒を飲みあうんだぞ。と言うと、しぶしぶ諦めた。
ユファを連れて行ったら、仲間に、なんとからかわれるか分かったものではない。
ジュノ下層の競売の前を通ると、向かいの場所に人が集まっている。無視して帰宅しようと思ったが、
好奇心が頭をもたげ、覗いていくことにした。
人々が集まっている中心を見ると、半壊した機械が転がっていた。あれはウェイポイントだ。
周囲の者に状況を聞いてみると、魔道器は壊れかけていたらしい、異音がして周囲の者も気づいたが、最初に近づいた2人の男女がウェイポイントを触ると、2人は転送され、ウェイポイントは壊れたとのことだ。
やがて、都市同盟の関係者がやってきて魔道器を調べ始める。コウは周囲の人間の話を聞くとはなしに聞いていたが、
2人の男女の女の方の容姿の特徴が、ユファに酷似していることに気づいた。
(まさか・・・)
コウはシグナルパールを取り出した。これでユファの大体の場所が分かる。念じてみると・・・
(ジュノにはいない!?)
ユファは出かける予定はないと言っていた。少なくともジュノ市街にはいなくてはおかしい。
コウは強い懸念を感じた。魔道器を調査している技術者に話を聞いてみる。
エルヴァーンの技術者は、外部からなんらかの強い力が働いたと言った。
2人の男女の転送先を聞いてみると。
「そうだな。ウェイポイントのシステムログを見ると、シルダスか・・?ここのウェイポイントからは直接転送されないはずだが・・」
技術者は続けた。
「しかも閉じた空間に転送された形跡がある。これは・・・アルビオンか?」
コウはそれだけ聞くと自宅へ向かって駆け出していた。

バルファルとユファが目を覚ますと、そこはじめじめとした洞窟だった。
「ここは・・・どこだ?」とバルファルは聞くとはなしに尋ねた。
ユファも分からないらしく、首を振る。そして言った。
「ごめんなさい。あたしが触らなければ・・・」
バルファルはかぶりを振った。
「いや、ウェイポイントを触ったことが直接の原因かは分からないから、ユファのせいとは限らない。」
ユファは少しほっとしたように頷いた。
バルファルは武器は持ってきていたが、ウィンダスへはクリスタルを使って帰るつもりだったので、
デジョン系のアイテムは持ってきていなかった。
ユファも同様だと言う。
「じゃあ、洞窟の出口を探すしかないな。行こうぜ。」とバルファルは言った。
2人は歩きだした。

モンスターの気配は感じられなかった。ただ洞窟のそこかしこに、紫色の大きな蝶が飛んでいる。
2人は蝶に近づかないようにして、先に進んでいく。
やがて大きな空間にたどりついた。
「ここは・・・なんだ?」バルファルは疑問を口に出してみた。もちろん答えを教えてくれるものはいない。
どこからか高い笑い声が聞こえる。
バルファルとユファは抜刀し、背中合わせにお互いをカバーした。
笑い声が近づいてくる。
「だれだ!」バルファルが叫んだ。
洞窟の空間に青い灯りがともる。そこに浮かんだのは・・・
「きゃっ」ユファが叫んだ。
奇妙な服を来た、人間・・・いやモンスターだろうか。
赤と黒を基調とした、たっぷりとした布地の服を着込み、宙に浮かんでいる。
二股に分かれた帽子と全体の印象を見ると、道化師のような格好だ。
だが、上半身と下半身は分離しており、青い光でつながれている。
その上、顔は・・・マスクだろうか?髑髏のような面相だ。
道化師が口を開いた。
「キャハハハ・・・、ようこそいらっしゃいました。あなた方が選ばれたようですね。」
「なんだ、何を言っている。オマエは誰だ!」とバルファルが叫んだ。
道化師は一礼をすると、2人に向かって言った。
「これは失礼をいたしました。私はバラモアと言うものでございます。ハデス神にお仕えし、その望みをかなえる事が我が使命。」
バルファルはハデスと言う神も、バラモアの存在も知らなかった。ユファを見ると、ユファも首を振る。
バラモアは続ける。
「ご不安なのはよく分かります。ですが、私は危害を加える為にあなた方を招いたわけではありません。願いをかなえる為です」
「オマエがオレ達をここに呼んだのか。願いっていうのはなんだ?」とバルファルは言った。
バラモアは言った。
「我がハデス神は、1年に一度、選ばれたものに願いをかなえて差し上げているのです。」
ユファが言った。
「なんでそんなことするのよ!」
「もちろん、神の御心は分かりません。ただ人間は常に願いごとを神に向かってするではありませんか。たまにはそれをかなえてやろうと言うことなのでしょう。」
とバラモアが言った。
「信じられないな。そんな事ができるとは、とうてい思えない。」とバルファルは言った。
バラモアの髑髏の仮面が笑ったように見えた。
「そうでしょうか・・・ではお見せしましょう。」
「あなた達が欲しいのは、お金?」
ふいに空中から、色とりどりの宝石や金貨が湧き出て、洞窟の地面に散らばった。
「それとも愛?」
バルファルの目には、バルファルと相方の彼女が抱き合う姿が見えた。
驚く声が隣から聞こえる。ユファも何かの映像が見えているらしい。
「それとも力?」
バルファルは全身に力がみなぎるのを覚えた。どんな敵でも倒してやる!という感情が浮かんでくる。
バラモアの目が青くひかり、2人を見つめている。
「どんなものでも思いのまま・・・神のご加護です。遠慮することはありませんよ?」
バルファルはバラモアの目を見つめていた。提案を辞退するという考えはなくなっていた。魔法にかけられたのだろうか。
「オレの欲しいのは、力だ!自分に力があれば何でも手に入れられる・・・」
ユファも頷いた。どこか夢見るように呟いた。
「うん。力があれば嫌な事を無理強いされることもない・・・」
「キャハハハ・・・では決まりました!」とバラモアは言って、空中でくるりととんぼを切った。
バラモアは両手を大きく広げた。青い強い光が洞窟に満ちる。
「我が神、冥王ハデスよ・・・このもの達の願いを叶えたまえ!」
青い光はバルファルとユファを包み込んだ。

コウは出発の準備を終えていた。冒険者の装備に身を包み、ユファたちが転送されただろう空間に入る為の、魔法の人形を用意する。
シミューラクラムと呼ばれる魔法の人形で、空間を捻じ曲げるほどの強い魔力を持っている。
コウは懸念をいだいていた。冒険者互助会報によれば、ウルブカ大陸では三魔君と呼ばれる強力なモンスターが暗躍しているらしい。
そしてそこは、ユファ達が転送された大陸なのだ。
(何かにまきこまれたのでなければいいが・・・)
コウは自宅を後にした。
西アドゥリンを経由して、ウェイポイントを使用して、シルダス洞窟へ。
ワープ装置を駆使すれば、目的の場所まで、さして時間はかからなかった。
コウの目の前には、「謎の魔導器」と呼ばれるウェイポイントがあった。シミューラクラムを魔導器に掲げ閉じた空間に転移するように念ずる。
コウの身体は光と共に、シルダス洞窟から、掻き消えていた。

視界がはっきりすると、そこは閉じた空間の中だった。だが・・・
(何かがおかしい)
コウは周囲を見た、モンスターの姿はなく、紫色の大きな蝶がそこかしこに飛んでいる。
(これは・・・)
冒険者互助会が推奨する、アルビオン・スカームというトレジャーハントがある。それは
正にコウが立っている閉じた空間で行われるものなのだが、通常は、各階層にある条件を満たし、強力なモンスターを撃破していくことで、装備や素材、宝石の類を手に入れていくものである。だが・・・今のこの場所は・・・
「最下層?」コウは呟いた。
いきなり最下層に転送されていた。やはりこれは何らかの力が働いているのだろうか。
洞窟内に、モンスターの姿は見えない。だが用心に越した事はない。
コウはステップを踏んだ。ブリリオート舞踏団のライラ・ブリリオート直伝のステップだ。
正確なステップと、高い集中力を持った踊りは、あたかも魔法の如き超常の力を生み出すことができる。
幾つかのステップを踏むと、踊りと共に、コウの姿が消え、音も聞こえなくなった。
(これでよし)
コウは姿を隠し、洞窟の奥へと進んでいった。
やがて、大きな空間にたどりついた。青い光が空間を照らしている。そしてその中央には・・・
(ユファ!)
ユファとあと一人、タルタルの男が洞窟の中央にたたずんでいた。2人共、少し前かがみ気味に立っている。
顔に表情はなく、目はうつろだ。
タルタルの男に見覚えがあった。あれは・・・確かバルファルという名前の男だったように思う。
ユファがウィンダスで騒ぎを起こした時に、助けに入ってくれた男だ。
何故2人が一緒にいるかは定かではないが、コウは姿を隠したまま慎重に周囲を探った。
そして、2人に向かって一歩踏み出した途端、
「キャハハハハ・・・」どこか音程の狂った笑い声が、洞窟内に響き渡った。
「!」
コウは抜刀した。今日コウが持っている武器は2本の短剣である。だが短剣を抜いた事で、踊りの魔力が消えていた。
コウの姿が露わになる。
「誰だ!」コウは叫んだ。
空中からくるくると回りながら姿を現したのは、黒と赤の道化師の服を着た、髑髏の面の男。
「お前は・・・たしかバラモア?」とコウは言った。
「キャハハハハ・・・私の存在を知っていますか。会った事がありましたかね?」
バラモアはどこか揶揄するような口調で言った。
「以前、スカームの踏破で、シルダス洞窟の最下層でお前に会った事がある。お前と戦って撃退はしたが、
僕の所属するパーティは、全滅させられそうになった。」
とコウは答えた。
「キャハハハハ・・・宝物目当ての冒険者の相手は何回もしましたが、あなたのことは記憶にないねえ。それで何をしにきたんですか?」
空中でくるくる回りながら、バラモアは問いかける。
「もちろん、その2人を返してもらいに来た。」とコウは言った。
「・・・その2人は契約を済ませました。我が神ハデスに願いをいったのです。彼らは・・・彼らの魂は我々のものですよ?」
とバラモアは言った。髑髏の仮面で表情は見えないが、笑っているような印象を受ける。
「そんなことはさせない。もうしばらくすると、仲間達が駆けつける。お前の勝ち目はないぞ。」とコウは言った。
はったりだった。
コウの冒険者仲間は各々の目的の為に、ヴァナ・ディール各地で活動をしている。すぐには彼らに連絡は取れなかった。
ジュノにいた少数の仲間は、昨日のパーティーの為に、全員酔いつぶれて動くことができない。
ジュノ親衛隊は、一介の冒険者の為に動くことはないだろう。
ここは、コウ一人で凌ぐしかなかった。
そんなコウの思いを知ってか知らずか、バラモアは笑いながら言った。
「それは大変ですね。・・・それでは一つチャンスを上げましょう。」
「・・・なんだ?」短くコウは尋ねる。
「その2人と戦って勝ったら、2人を返してあげましょう。できますか?」
バラモアはくすくす笑いながら続ける。
「2人の願いはかなっています。簡単にはいきませんよ?」
コウはしばらく考えた後、言葉を選んで言った。
「いいだろう。だが、2人を解放することは、お前の主の存在にかけて誓え。」
選択の余地はなかった。コウはバラモアの提案を了承した。
バラモアは、ぱんぱんぱんと拍手をして言った。
「ビューティフル!いいでしょう。では始めますよ。」
バラモアの手に青い光が浮かび上がり、それは2人の身体に吸い込まれた。
バルファルとユファの頭がコウの方を向き、うつろな目がコウを見つめた。

バルファルは、ふと気づくと青い光を放つ空間の中にいた。
頭がはっきりしない。自分がなぜこのような所にいるか、分からなかった。
視界の隅に人影が見える。振り向くと・・・それは一人のタルタルだった。
(あれは・・・)
ぼんやりとした頭で考える。あれは確か口の院の院長のはずだ。
バルファルが見ていると、口の院の院長はバルファルを口汚く罵りはじめた。
曰く能無しだ、役に立たない等、それを聞いている内に、バルファルの心の中で激しい怒りが沸いてきた。
(こいつは敵だ。倒さなければならない。)
バルファルは、背中の大剣を抜き、口の院の院長に切りかかっていった。

ユファの目には、生家の護衛隊長サモンリタンの姿が映っていた。
サモンリタンは軽蔑したようなまなざしと、揶揄するような口調で、ユファを責め立てた。
・・・お嬢様は、お父上の言うことをなぜ聞けないのですか?あなたにはそれくらいしかできないでしょう・・・
ユファの心に、怒りが沸きあがる。サモンリタンは約束を守らなかったではないか。どの面さげて、私を馬鹿にするんだ?
(こいつを黙らす。)
ユファは腰の剣を抜き、サモンリタンに切りかかっていった。

コウはうつろな目で自分を見つめる2人に、正気に戻る様に説得をしたが、無駄なようだった。
2人はそれぞれ剣を抜き、恐ろしいほど敏捷な動きで、コウに切りかかってきた。
あわてて両手の短剣を構える。バルファルの一撃が頭上から襲ってきた。
コウはそれを半身になってかわす。洞窟の地面に露出した岩を叩いた大剣は、岩を粉砕していた。
コウの背に冷や汗が落ちる。受けていたら短剣ごと真っ二つになっていたかもしれない。
続いて横殴りにユファが切りかかってくる。剣の速度が尋常ではない。いつもユファの剣の稽古に付き合っていたが、
まるで別人だった。こちらは避けきれないと判断して、左手の短剣で受け流す。
刃と刃が接触して、火花を散らした。左手にずしりとした重さを感じたが、どうにか受け流すことができた。
コウは2人の2撃目・3撃目をなんとかかわし、受け流したが、いつまで持つか分からなかった。
(まずい)
2人を傷つける訳にはいかないのである。対して攻撃してくる2人は、何らかの魔法的な強化を受けているらしく、
速度と破壊力が尋常ではない。通常の剣技では、1人ならともかく2人を同時に相手をして、無力化することはできなかった。
むしろ気を抜けば、こちらが殺されてしまうかもしれない。
(何かないか)
コウは必死に考える。勿論考えている途中にも2人は切りかかってくる。それをなんとかあしらいながら、
ふと、以前老練の盗賊から手ほどきを受けたことを思い出す。それと踊りのステップ・・・
(これだ)
コウは意識を集中した。盗賊の言葉が耳に蘇る。
・・・いいか、この技は高い集中力を必要とするんだ。相手の動きを個別に見るんじゃなくて、全体を見ろ・・・
・・・自分に暗示をかけるんだ・・全てを避けられるってな・・・それはある意味魔法と同じなんだぜ・・・・・
コウは全神経を自分の身体の動きに向けた。盗賊の言葉通り、全ての攻撃を避けれると思い込む。
バルファルの大剣が振り下ろされる。
その刃の動きが、不意に遅くなっていた。いや、コウの目には遅く映っていたのだ。
大剣の一撃をかわす。続いてのユファの突きも身体を捻ってかわす。かわした動きでバルファルの左の肩口にぴたりと
身体を寄せる。コウの身体が左手に密着している為に、バルファルは大剣をうまく振ることができない。
振りほどこうと振り回すバルファルの両手をかいくぐって、コウの身体が沈む、その上をユファの剣がもの凄い音を立てて通り過ぎていった。
2人の攻撃を全てかわしながら、コウの両足は複雑なステップを踏み続けていた。

「ほー。」バラモアは空中に浮かびながら、3人の戦いを見ていた。
生贄の2人は、彼らの願いどおり主の魔力を借りて強化してある。生半可な者では太刀打ちできないはずだ。
それを後から来た冒険者は、2人の攻撃を全てかわし、おまけに何やら反撃を試みてみるようだ。
(あの冒険者の魂をいただくのもいいかもしれない)
バラモアはそう思った。主の冥王ハデスの復活には、多くの魂が必要なのだ。

コウの集中力は限界に達していた。これ以上2人の攻撃を避けきれない。だが、踏み続けたステップのおかげで、
最後の踊りの準備は整っていた。
(一瞬でもいい、2人の動きが止まれば・・・)
そのチャンスはやがてやってきた。2人はコウを左右から囲み、同時に切りかかってきたのだ。
バルファルはコウから見て右から、ユファは左から。
2人の横殴りの一撃がコウを襲う。
瞬間コウはしゃがみ込んでいた。コウの頭上でがっきと2人の剣が組み合った。
渾身の力を込めていた所為で、2人はたたらを踏む。
(!)
このタイミングしかなかった。コウは立ち上がりながら、両手の短剣をそれぞれの手の内でくるくると回した。
洞窟の青い照明が、短剣の刃に反射して2人の目を貫く。
思わず目をつぶる2人に、コウは最後のステップを踏みながら、身体を踊る様に旋回させた。
両手の短剣をくるりと回し、柄を二人のみぞおちに叩き込む。その一連の動作は、激しい踊りのようだった。
一撃を受けた2人の身体は、麻痺をした様に硬直し、洞窟の地面に崩れ落ちた。

コウは肩で息をしていた。フラリッシュと呼ばれる舞踏の魔力を2人に叩き込んだ。しばらくは起きないだろう。
ぱむぱむぱむと間延びした拍手が聞こえる。
宙に浮いたバラモアが口を開いた。
「驚きました。まさか無傷で2人を倒すとは思いませんでしたね。」
「約束通り、2人は返してもらうぞ。」とコウは言った。
「・・・そんな約束をしましたっけ?」とバラモアは可笑しくてしようがない様子で答えた。
この展開は予想していた。所詮悪魔と約束をしても、守られる保障はどこにもない。
だから、一つの賭けではあるが、保険をかけてあった。手下に話が通じなくとも、神と呼ばれるほどの主にはどうか。
コウは大声を上げた。
「冥王ハデスよ!お前の僕は、お前の存在をかけて誓ったぞ!神たる身がそれを破るのか!」
しばらくの沈黙があった。バラモアは動揺したように、きょろきょろと周囲を見渡している。
やがて、地の底から重々しい声が聞こえてきた。遠くから話しているように途切れ途切れに聞こえる。
・・・人たる者が賢しいものよ・・だが誓約は我にも届いた・・・
・・・いいだろう・・・そなたの行動に免じて・・・約束は守ってやろう・・・
・・・バラモアよ・・・2人を解放せよ・・・
そう言い残して、声は消えた。
「・・・うまくやりましたね。いいでしょう。主の命です。2人は解放しましょう。」
バラモアは苦々しげに言った。
コウは無表情にそれを聞きながら言った。
「バラモア。僕達は家に帰る。だが最後に餞別が欲しくないか?」
バラモアは懐疑な表情を浮かべる。
「なんですって?」
瞬間、コウはバラモアの方に飛び込んでいった。バラモアはぎょっとして、慌てて呪文の詠唱を始める。
だが、コウの動きの方が早かった。
限界まで身体中に満ちた気力によって、体全体を発光させながら、コウは呟いた。
「・・武神流秘奥義・・」
コウは身体全体を使いながら、右手の短剣を袈裟懸けに叩き込む。次いで左手の短剣も。
真横に短剣を振るった後、バラモアの頭上に飛び上がりながら切り上げる。
最後に空中でくるりと身体を回転させると、バラモアの顔に両の短剣を叩き込んだ。
攻撃を終え、地面に着地すると、バラモアに叩き込んだ短剣の軌跡が、紋章のように輝いていた。
コウはバラモアに向かって言った。
「・・・あまりタルタルを、人間を舐めるなよ?」
バラモアの髑髏の仮面が割れていた。そこから干からびた顔が見える。割れた仮面を抑えながらバラモアは叫んだ。
「・・ぐぅおおー。・・きっ貴様、人間の分際で・・・」
コウは言った。
「まだやるか?」
短剣を構える。
だがバラモアは撤退することにしたようだった。
「・・・覚えていろよ冒険者!貴様の魂は必ずハデス様に捧げてやる!・・・キャハハハ・・・」
捨て台詞と狂った笑い声の残して、バラモアは空中に消えていた。
「・・・ふぅ」コウは息をついて、短剣を鞘に戻した。
バラモアに対して攻撃し、挑発したが勿論一人で勝てる相手ではない。
どうにも腹に据えかねたので、つい手を出してしまったが、バラモアが撤退して行幸だった。
「・・・僕らしくなかったかな?」コウは呟くと、2人の方へ駆け寄っていった。

ユファは何者かと戦っていた。相手の手がユファに伸びる。それを振り払いながら、
(あんたなんか・・・あんたなんか・・・)
「だいっ嫌いよ!」絶叫しながら、渾身の力を込めて右手を突き出した。
「ゴスッ・・!」凄い音がした。
ユファは我に返った。見ると目の前にコウがひっくり返っている。
「あ、あれ?」ユファは周りを見渡した。見慣れた風景が目に入る。
コウの家のリビングだった。ユファはソファに寝かされており、毛布が身体にかかっている。
「ど、どうしたんだろ・・・」と呟いて、ユファがきょろきょろ回りを見渡していると。
「いっ・・・いったいなあ~。」コウがいつもの間延びした声でしゃべりながら、起き上がってきた。
「何をするんだ君は?」コウは痛そうに殴られた頬を押さえながら、ユファに言った。
「コウ・・・、ここは?」とユファはコウに尋ねた。
「ここって・・・僕の家じゃないか。君らは運んでもらったんだ。」とコウは言って、更に続けた。
「君らは、ウェイポイントの事故に巻き込まれたらしいな。魔導器が壊れたときの衝撃で失神したらしい。
さっき医者にも見てもらったんだが、特に問題ないってさ。」とコウは言った。
「え~?」ユファは思い返していた。確か洞窟に飛ばされて道化師みたいな男と会話をしたような・・。
コウにそれを言うと。
「夢でも見たんじゃないか?大体「だいっ嫌い」って僕のことか?」と言い返されてしまった。
夢だと言われれば、そんな気もしてきた。身体に倦怠感があるが、それ以外に怪我もしていない。
ふと後ろを振り返ると、床に寝かされていたバルファルが起き上がっていた。
「バル・・・大丈夫?」とユファが尋ねると、バルファルは曖昧にうなずいた。
続けて「バル・・・あの道・・・」と言おうとすると、ぐぅ~~という音が響いた。ユファのおなかが鳴ったのだ。
赤面するユファを見て、コウは、
「よし、腹が鳴るようなら、身体は大丈夫だな。3人で食事に行くか。」
と言った。

日は高く上り、新春にもかかわらず、ジュノは暖かい空気に包まれていた。
3人はジュノ上層のレストランを目指していた。ユファが先頭を歩き、残る2人は少し遅れて歩いている。
「おい。オッサン。」とバルファルはコウに話しかけた。
バルファルはコウの家で目を覚ましてからずっと無言だった。何か考えていたらしい。
話しかけられたコウは、
「おっさん呼ばわりはひどいな。僕はまだそんな年じゃないぞ。」と言った。
「まさか「夢だった」で全部かたづける気じゃないだろうな。」とバルファルは言った。
「夢じゃないのかい?」コウは尋ねた。
「あれが夢であるもんか!あの道化師は願い事をかなえるって言ったんだ。願ったオレは・・・。」
バルファルは言いよどんだ。
「願いはかなったのかい?」コウは続けて尋ねる
「分からない・・・本物かどうかは分からないけど、アジドマルジドと戦うことになって・・・。」
「それからの記憶がない。」 とバルファルは言った。
「さあ、僕にはそれが夢か現実かは分からない。だが、君の懸念と願望が何らかのヴィジョンを見せたんだろう。」とコウは言った。
「戦った相手は君の敵か、ライバルか?」と続ける。。
「さあ、どっちでもないよ。」とバルファルは苦い口調で答えた。
「ともあれ、君はその相手を超えたいと、ずっと思っていたのに違いない。ただ、相手を負かす事を考えるよりも・・・。」
「考えるよりも?」バルファルは続きを促した。
「自分の力を伸ばしたほうがいい。そうすれば、相手の力を超えて、最終的には戦う必要もなくなるかもしれない。」
「それに、君の努力する姿を見て、君の想う相手も考えを変えるかもしれないぞ?」とコウは言った。
バルファルは苦笑して、「オッサン、説教好きなのは、やっぱり年のせいだろ?」と言った。
だが、バルファルの中で、思い込んでいた一つの考えが、変化を遂げていた。
(オレはオレの道を進んで、努力すればいいってことか・・・。ウィンダスに帰ったら、クルたんをまた手伝うか)
ずっと側にいることで、相手に差し出すことができるものもある。そう、オレはクルたんの側に居たいんだ。
表情が変わるバルファルの顔を見るコウの耳に、
「コウ、バル、早くー。」
と呼ぶ、ユファの声が響いていた。





第1弾 : 「とある出逢い」
らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
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第2弾 : 「とある出逢い 2」

第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
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【2015/01/02 14:38】 | # コウさんの小説
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2014.12.23 「シークレット」 のコメントにいただいた、コウさんの小説です。





今日は朝から快晴だった。ユファは朝食の後片付けを済ますと、リビングのテーブルの椅子に腰掛けて、好みのウィンダスティーをポットからカップに注ぐと、一息ついた。

ここはジュノ下層、冒険者コウの家だった。競売所から南西に少し行った所にある小さな一軒家で、ジュノの街自体がヘヴンズブリッジ上に建設されている事から、コウの家からも東側の窓からは、ジュノ海峡が見える。

ユファは朝食の時にコウから頼まれたことを考えていた。ちなみにコウは朝食後直ぐに、アトルガン皇国に用があるとの事で、旅立っていた。
頼まれ事とは、年末には宝くじを買う事を恒例にしているので、自分の代わりに買ってきて欲しいというものだ。つまりお使いである。この頼み自体には特に問題はない。問題は買う場所である。昨年コウの仲間が1等を当てたらしく、あやかって1等が出た売り場で買ってきて欲しいと頼まれたのである。売り場の場所はウィンダス港になる。

ユファは数ヶ月前に生家を飛び出し、ひょんなことからコウと知り合い、冒険の手伝いをする事になった。そういった訳で、生家のある国には行きたくなかった。つまりウィンダスには。
そんな思いを知ってか知らずか、コウは、「僕はギャンブルはやらないけど、宝くじだけは別だね〜。で、やっぱり買うからには当たって欲しいな〜。まあ当たらなくても、当たったらどうしようって考えるのが楽しいんだけどね。」
などと楽しそうに語り、ユファが断るタイミングを探している内に皇国に旅立ってしまった。ギルは預かっているので、クリスタルを使ってウィンダスに飛び、買って帰ってくるだけである。
ユファはテーブルの上のお菓子入れから、ジンジャークッキーを一つ取り、クッキーを齧りながら考えた。
(売り場は、ウィンダス側のクリスタルから歩いて数分の場所だった筈。買って直ぐ帰ってくれば問題ないよね。)
生家はユファを連れ戻したい筈で、生家の人間に見つかると厄介な事になる。使用人の中には腕の立つ者もいるのだ。
(考えてもしょうがないなー。引き受けた以上やるしかないか。)
ユファは茶器を片ずけ、出掛ける準備をした。

クリスタルを使い、淡い青色の光を抜けると、そこはウィンダスだった。
・・・だが、何かが違う。
「・・・こっ、ここ森の区じゃない!」とユファは叫んだ。行きたいのはウィンダス港なのである。クリスタルの周りにいた何人かの人々が、ユファを振り返る。
ユファは焦って、下を向き足早にクリスタルを後にした。
よく考えれば、1回間違えても、到着したクリスタルからもう一度目的地にワープすれば良かったのだが、焦ったユファは、それを思いつかなかった。
下を向いて、足早に歩き続けていると。不意に広場に出た。
ボミンゴ広場だ。広場の中心には噴水と、今は星芒祭の最中なので、巨大なクリスマスツリーが飾られている。
ウィンダス国内において、身を隠したいユファには、1番居てはいけない場所であるが、ツリーを見ると、自然に足が向いていた。
ツリーの周りには、魔法の雪が降り注いでいる。ユファは去年の星芒祭を思い出していた。ユファの父親は貿易商で、1代で富を築いた人物だ。更に事業を拡大したいと思った彼は、ウィンダスの有力者との結びつきを欲した。そこでユファを有力者の息子と縁組しようとしたのだ。
全くそんな事は望んでいなかったユファは、当時好意を寄せていた、生家の護衛隊長の男に連れて逃げるように頼んだのだった。だが待ち合わせのボミンゴ広場に来たのは、部下の男達だった。
生家に連れ戻されたユファは、数ヶ月軟禁状態になったが、隙をみてウィンダスを脱出して、現在に至る。

(やな事思い出しちゃったな・・・)
ユファはツリーをぼんやり眺めながら、1年前を思い出していた。
(あの時、サモンリタンが来てくれてたらな・・・)
そこまで考えた時、
「お嬢様!?」
と、後ろから大声で呼びかけられた。
ビクゥッ。驚いてユファが振り返ると、そこには見覚えのある、生家の使用人の男が立ち竦んでおり、目をまん丸にしてこちらを見ていた。
(ヤバイ)
ユファは、男と正反対の方へ、全力で走りだした。

どれだけ走っただろう。気がつくと何かにぶつかって、仰向けに倒れていた。
「あいたた・・・」ユファが息を切らしながら立ち上がると、ぶつかったのは初老のガルガだった。
「大丈夫かね。」ガルガはユファに話しかけた。ガルガとタルタルでは体格が違う。
吹き飛ばされたのは、ぶつかったユファの方で、ガルガには怪我はないようだった。
「す、すいません。」ユファは息を切らしながら謝った。
「物凄い勢いで走ってきたが、前を見ないと危ないぞ。どうかしたのかね。」
質問された事に全く気付かず、ユファは性急に尋ねた。
「ここっ。ここはどこですか?」
ガルガは面食らった様に、ユファを見つめ、やがて答えた。
「ウィンダス港じゃよ。」
「やった!」思わず喜びの声を上げるユファに、ガルガは重ねて尋ねた。
「どうかしたのかね?」
ユファは改めて、ガルガを見た。髪は真っ白になっていたが、姿勢はしっかりしている。声はずっしりと重いが、優しげな声色である。
「ごめんなさい。宝くじを買いに来たんですけど、道に迷っちゃって。」
ユファが答えると、ガルガは、
「それなら直ぐそこじゃよ。よければ案内してやろう。」と言った。
ユファはそれを聞いて躊躇した。落ち着いて周りを見れば、確かにウィンダス港である。売り場までの道も分かりそうだ。だが1人で行くより、連れがいた方が生家の人間に見つかりにくい気がする。
若干の罪悪感を覚えながら、ユファは答えた。
「お願いします。あ、あたしユファと言います。」
ガルガはにこりと笑って答えた。
「私はコクトーと言う。」

道すがら、コクトーは色々話しかけてきた。
自分は以前、冒険者をしていたが、引退してウィンダスへ戻って来た事。今は知り合いの倉庫番をしている事。優しげな声色と、ゆっくりとした話し方に安心感を覚え、ユファも自分の事を話した。今は冒険者見習いをしている事、相方がゲンを担いだので、ウィンダスまで宝くじを買いに来たこと。
ウィンダス出身である事と、生家に追われている事は伏せておいた。

やがて売り場へたどり着いた。売り子のモグにボナンザマーブルを5個売って貰う。
「当たるといいクポ〜」という声に見送られ、ユファ達は売り場を後にした。
「コクトーさん、どうもありがとう。ここからは1人で帰ります。」とユファは言った。
「そうか。無事に買えて何よりじゃ・・・」
コクトーが言い終わる前に横合いから声がかかった。
「お嬢様。ようやく見つけましたよ。」
見ると、生家の護衛団の男が3人立っていた。
(ここまで来て・・・)
ユファはじりじりと後ずさる。それを見越して、男達が2人を取り囲む。
「お探ししました。さあご実家へ戻りましょう。」
男の1人が口を開いた。間髪入れずにユファは叫んだ。
「お断りよっ!」
そして腰に手をやったが・・・剣は持って来ていなかった。
それを見た先程の男は、薄く笑いを浮かべて、「さあ」と促した。
黙って様子を見ていたコクトーだったが、ここで口を開いた。
「女と老人を脅すとは、男の風上にも置けぬな。見れば私兵の様子。お前達にこの様なこの様な事をする権利はないはずだが。」
巨躯のガルガに言われ、タルタルの男達はたじろいだが、コクトーが老齢である事と、丸腰である事から、無視をする事にしたようだ。無論男達は帯刀している。
膠着状態に陥った所に、ユファの後ろから声がした。
「爺や、なにしてるんだ?」
その場の全員が、護衛の主を見た。声の主は髪を後ろに束ねた、どことなく幼い感じがするタルタルだった。
コクトーが慌てた様に、叫んだ。
「ぼっ、坊っちゃま!危ないですから下がっていて下さい!」
コクトーの知り合いらしい。
男達もこれ以上、加勢が増えると厄介だと思ったらしい。揶揄する様な口調で、
「おい坊っちゃま。下がってろよ。」と言って、すらりと剣を抜いた。
坊っちゃまと呼ばれたタルタルは、
「オレにはバルファルという名前がある!バカにするな!」とまなじりを吊り上げて叫んだ。
「ナメんなよ!」再度言い、バルファルは、するすると剣を持った男に近づくと手刀で、男の手を打った。男が剣を取り落とすと、バルファルは叫んだ。
「爺や!早く!」
コクトーは正面のタルタルに体当たりをかますと、タルタルは堪らず吹き飛んだ。
「さあ、ユファさん急いで!」
コクトーに急かされたユファは、「はい!」と返事をし、3人は走りだしていた。

しばらく走った後、3人は足を止めた。コクトーとユファは肩で息をしている。コクトーは年齢の為、ユファは先程も全力で走ったせいだ。1人平気なバルファルが口を開いた。「なんだよ爺や、なにやってんだ?」
コクトーは息を整えると、言った。
「いや、爺にもよく分かりません。このお嬢さんが追われているようですが。」
「ふーん。」バルファルはユファをじっと見た。
ユファは慌てて、「ご、ごめんなさい。」と言い。かいつまんで事情を説明した。
「なるほど。政略結婚をさせられそうになったので、逃げたのだが、見つかってしまったと。」とコクトー。
「でも、そのコウってヤツ、バカじゃないの?アンタがウィンダスへ戻ってきたら、見つかるにきまってんじゃん。」
とバルファルが言った。
「いえ・・・コウには家を出ることになった、詳しい事情は話してないので・・・。」
とユファが答えた。
「ふーん。」バルファルは不満そうだ。
「まあ、とにかく。クリスタルはすぐそこですので、ジュノに帰れば取り敢えずは、追っ手は巻けますな。」
とコクトーは言った。
「御二人にはご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません。」とユファは心から謝った。
「まあいいや。剣さえあれば、さっきの奴らなんてオレがちょちょいと・・・」
「坊っちゃま。」コクトーがバルファルを遮って言った。
「ユファさん。気を付けていきなされ。今度ウィンダスへ来る時は、気を付けて来るんですぞ。」
ユファが再度礼を言おうとした時、逃げてきた方向から、複数の足音が響いた。
「!」ユファは一瞬後ろにあるクリスタルに飛び込もうかと思った。だが自分だけ逃げては、残った2人に迷惑をかけてしまう。
その躊躇が命とりになった。迷っている間に再び3人は取り囲まれてしまった。そしてユファの正面に立ったのは・・・
「サモン!?」ユファが呟く様に言った。1年前にユファとの約束を違えた男だった。
サモンリタンは口を開いた。
「お嬢様、お久しぶりでございます。さあ、お父上がお待ちでございます。お屋敷にお戻りになられますよう。」
サモンリタンは銀色の髪を持つタルタルで、僅かに細い青い色の眼が、どことなく冷たい印象を与える。帯刀をし、刺繍入りの上着を着ていた。
他に帯刀した男達が5人いる。内2人がクリスタルの前に立ち塞がっており、クリスタルを使用する事はできない。おまけにユファ達3人は丸腰だ。
(ここまでかなー)
ユファは観念した。だが1つだけ確かめたかった。
「サモン。貴方は1年前に私をウィンダスから連れ出してくれると約束してくれました。何故破ったの?」ユファの口調が昔の口調に戻っていた。
サモンリタンは答えた。
「元々私は約束を守るつもりはありませんでした。お父上に「家から連れ出す約束をして、それが破られれば気落ちしていう事を聞くだろう」と命令されて、それに従ったまでです。」
「何てこと・・・」父親もグルだったのだ。
がっくりとしたユファに向かって、サモンは言った。
「さあ、お嬢様も世間と言うものが分かったでしょう。大人しくお屋敷に帰りなさい。」
「おい!そんな事が通るか!オレが相手をしてやる!」バルファルが叫んで、サモンと睨み合いになる。
2人に迷惑はかけられない。とユファは思った。宝くじを買いに来ただけだったのに、とんだことになったものだ。
「分かったわ。2人には・・・」
ユファが言いかけた時、クリスタルが淡く光った、同時に立ち塞がっていた、2人の男達が崩れ落ちる。現れたのは・・・
「コウ!」ユファは叫んだ。安堵で身体の力が抜ける。
「ごめんごめん。シグナルパールで様子は聞いてたんだけど、来るのが遅くなった。」
とコウは言った。
「遅いよ!」とユファは言った。金切声に近かった。
「いや〜。皇国でサラヒム・センチネルっていう会社に入る事になったんだけど、ここの社長が無茶苦茶で・・・」
「コウ・・・」ユファは静かに言った。
コウは何かを察したらしく、手短に言った。
「悪い。え〜とサモンさんだっけ。ユファは1月前にウィンダスで成人と認められる年齢に達している。実の父親の命令とはいえ、強制的に連れ帰る事はできんよ。」
「なんだと・・・」とサモンが唸った。
「なるほど。連邦評議会に訴えても言い訳だな。」
コクトーが納得したように頷いた。
サモンは歯を噛み、叫んだ。
「大体、貴様はなんだ!何の関係がある!」
ユファはじっとコウを見た。
「現在のパートナーだ。関係はあるさ。」
とコウは言った。
サモンは、怒髪天をつく程の怒りを込めて、「手ぶらでは帰れん。それでは貴様、お嬢様を賭けて勝負をしろ!私が負けたら引き上げてやる!」
と言った。
コウはにやりと笑い。
「いや、ユファ自身に自分を賭けて勝負してもらおう。いいかな?」
と言った。
「ぇえ〜!そこはコウがやってくれるんじゃ・・・。」
叫ぶユファを尻目に、サモンは頷いた。
「いいだろう。二言はないな?」
「ただ・・」とコウが言った。
「何だ」
「ユファは剣を持ってない。僕の剣を貸してやってもいいか?」
「そんな事か、いいだろう。」サモンは自信たっぷりに頷いた。
横ではバルファルが何か言いたげに、コウの剣を見ていた。

勝負は呆気なくついた。自信なさげに剣を構えるユファに対して、サモンは無造作に剣を打ち込んだ。だがユファはそれに軽々と躱すと、サモンの剣に自分の剣を叩きつけたのである。
サモンの剣は彼方に吹っ飛び、そこで勝負は終了だった。
サモン達が罵詈雑言を吐きながら引き上げた後、コウ達4人が残された。
ユファが「夢みたい。サモンはあたしの剣の師匠だったのよ。今まで剣がかすったこともなかったのに・・・」
と言った。
「その剣だろ。」とバルファルが言った。
「うむ。何かのオーラを感じますな。」とコクトー。
「こいつは、アレンドシフルーレと言って、ヴェルク族という蛮族の王が持っていた剣さ。現存する名剣の内の1本だな。」
とコウが答えた。
バルファルが尋ねた。
「そういう剣っていうのは、使い手を選ぶんじゃないのか?少なくとも、オレやこの子じゃ無理だ。」
「そうだね。まあ、魔法で調整してあるんだよ。」とコウが答える。
「じゃあ、剣のお陰か・・・。」とユファが言った。
「いや。」コウはユファの方を見て言った。
「確かに1撃で勝てたのは、剣の所為かも知れない。だが普通の剣でも恐らく、あの男に勝てただろう。この剣は保険さ。君はもうちょっと自分に自信を持っていい。」
「うん。ありがとう。御二人もありがとうございました。」
とユファは全員に礼を言った。
「あ〜あ、オレもクルたんに勝てるようになりたいなー。」
とバルファルが呟いた。
「クルたんって誰ですか?」
話し込み始める2人を尻目に、コクトーはコウに小声で尋ねた。
「コウ殿、剣の事だが・・・調整と言っても非常に手間がかかるはず。今回の件、貴殿はユファさんに経験を積ませる為に?」
コウは話し込んでいる2人を横目で見て、やはり小声で答えた。
「そうですね。御二人を巻き込んだのは、大変申し訳ありませんでしたが、ユファをウィンダスに行かせたら、大体こんな感じになるかなあとは思ってました。まあ、ウィンダスの土を一生踏まない訳にもいかないので・・・。」
コクトーは、はっはっはと笑った。それは何処か晴れ晴れとした笑いだった。
その笑い声で、話し込んでいた2人は顔を上げた。
「じゃあ、ユファ、そろそろ帰るよ。」
コウがユファに言った。
「うん。」
「ユファ、またウィンダスへ来いよ。オレが剣を教えてやるよ。」
「ありがとう。バルファルさん。」
「バルでいいぜ。」
「ありがとう。バル。」

4人は最後の挨拶を交わすと、家路についた。





第1弾は、らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。




【2014/12/26 01:01】 | # コウさんの小説
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やっぴ~★クルクです(・▽・)ノ

このカテゴリは、コウさんがコメントにくださった小説をまとめてあります♪
ミスラのらぶたん日記 「ひとりで出来るかな?」 さんにも、カテゴリとしてありますので、順に読んでくださいね★

熟練冒険者コウ と、新米冒険者ユファファ の物語です(・▽・)ノ
らぶたんとこのチーちゃんやザヤグさん、うちのバルや黒糖さんも出ています♪
バルって、こんなカッコよかったの?と、目をこすっちゃった(*´▽`*)





第1弾 : 「とある出逢い」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。

第2弾 : 「とある出逢い 2」

第3弾 : 「遅くなったプレゼント」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。

第4弾 : 「ねがい」

第5弾 : 「ああ、ばれんてぃおん」
 らぶりぃさんのブログ 「ひとりで出来るかな?」
 TOPにあるカテゴリ 「コウさんの小説」 に掲載されています。

第6弾 : 「とりははばたけるか」






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